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シナプスの可塑性
ちょうど良い変化のタイミングを見つける

Synaptic Plasticity
Finding the Right Time for a Change

Editor's Choice

Sci. Signal., 19 July 2011
Vol. 4, Issue 182, p. ec195
[DOI: 10.1126/scisignal.4182ec195]

Elizabeth M. Adler

Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA

海馬のシャファー側枝(SC)とCA1錘体ニューロンの間におけるグルタミン酸作動性シナプスの伝達効率の長期的変化は、学習と記憶の細胞モデルとして広く研究されてきた。CA1ニューロンは、アセチルコリン(ACh)を用いる内側中隔ニューロンからの入力も受け取る。コリン作動性シグナル伝達の機能不全は、認知機能に影響を与えるアルツハイマー病(AD)のような疾患と関連付けられており、外因性AChは、高頻度刺激によって誘導されるCA1のシナプス可塑性を調節する(Berg参照)。GuとYakelは、個々のSCへの刺激と多形細胞層(SO)への刺激(中隔のコリン作動性入力を活性化させるため)を組み合わせて、ラット海馬スライスのCA1ニューロンにおける興奮性シナプス後電流(EPSC)について解析した。その結果、コリン作動性入力のタイミングが、応答にとってきわめて重要であることが明らかになった。0.033 Hzでの組み合わせ刺激を10回の繰り返す実験では、SC刺激100 ms前のSOへの電気刺激がEPSC振幅の長期増強(LTP)を誘発したのに対して、SC刺激10 ms前のSOへの刺激は短期抑圧(STD)を誘発した。同時刺激は、EPSCの大きさに影響を与えなかった。SC刺激10 ms後のSOへの刺激はLTPを誘導した。同様の結果がマウス由来スライスを用いた実験でも得られた。このマウスは、光活性化チャネルであるチャネルロドプシンを内側中隔核のコリン作動性ニューロンに選択的に発現させてあり、それによって、CA1へのコリン作動性入力をレーザー光照射で刺激することができるようにしてあった。薬理学的解析によって、SC刺激前のコリン作動性入力の活性化により誘発されるLTPやSTDは、α7ニコチン性ACh受容体(α7 nAChR)が媒介するのに対して、SC刺激後のコリン作動性活性化により誘発されるLTPは、ムスカリン性AChR(mAChR)に依存することが示唆された。この結論は、α7 nAChRを欠損するマウスの解析によって実証された。興味深いことに、低濃度(10 nM)のβ-アミロイドペプチド(Aβ;ADにおける認知機能障害と関連がある)への事前曝露は、α7 nAChRを介する可塑的変化を遮断し、はるかに高い濃度(1 μMで完全阻害)ではmAChRを介するLTPを遮断した。このように、著者らは、調節性コリン作動性シグナルの正確なタイミングが、シナプス可塑性への影響にとってきわめて重要であり、可塑性のコリン作動性調節が障害されると、Aβが認知機能を損なう機構がもたらされる可能性があると結論付ける。

Z. Gu, J. L. Yakel, Timing-dependent septal cholinergic induction of dynamic hippocampal synaptic plasticity. Neuron 71, 155-165 (2011). [PubMed]

D. K. Berg, Timing is everything, even for cholinergic control. Neuron 71, 6-8 (2011). [PubMed]

E. M. Adler, Finding the Right Time for a Change. Sci. Signal. 4, ec195 (2011).

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2011年7月19日号

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