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知覚
吸血鬼の感覚器
Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA
Sci. Signal., 9 August 2011
Vol. 4, Issue 185, p. ec219
[DOI: 10.1126/scisignal.4185ec219]
Nancy R. Gough
Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA
吸血コウモリは、熱感知能力のあるヘビと同様、赤外線(熱)の検出を可能にする専門器官をもっている(Fenton参照)。吸血コウモリの場合、それらの器官は鼻の周辺にある。また、ヘビとコウモリのどちらの場合も、同種の中で熱感知するものとしないものを比べると、それらの器官からの入力を受信する感覚神経節(三叉神経節)に解剖的な違いがみられる。Grachevaらは、吸血コウモリとフルーツコウモリ(オオコウモリ)の間にみられるもうひとつの重要な違いを報告している。大規模シークエンシングによって、吸血コウモリの一過性受容器電位V1(transient receptor potential V1:TRPV1)チャネルのバリアントが明らかにされ、このバリアントではC末端の62アミノ酸が欠失していた。トランスフェクト細胞とmRNAを注入した卵母細胞におけるこのチャネルの熱活性化特性の解析からは、TRPV1-S(短いバリアント)のほうがTRPV1-L(長いバリアント)よりも低い温度閾値を示すことが示唆された。すなわち、TRPV1-Sの活性化閾値は〜30℃、TRPV1-Lの活性化閾値は〜40℃であった。短いバリアントが産生される原因は、包含されている短いエクソン(14a)に停止コドンが含まれているからであった。著者らは、この領域のゲノム比較を用いることにより、ウシ、モグラ、イヌでは吸血コウモリと同様に14aのエクソンがみられるが、げっ歯類、ヒトではみられないことを示している。しかし、このスプライスバリアントの産生は、モグラまたはウシの三叉神経節で検出可能なTRPV1転写物の6%未満であったことから、このエクソンを含むようなスプライシングには、吸血コウモリでみられる特殊な細胞環境が必要であることが示唆されている。また、この解析は、霊長類、げっ歯類よりもウシ、ウマ、イヌ、イルカ、モグラとより近い関係にあるとする系統樹に沿ったコウモリの分類を支持している。熱感知能力のあるヘビは、TRPファミリーの別のメンバーであるTRPA1チャネルを使用しており、Grachevaらの指摘どおり、ゼブラフィッシュでもTRPV1チャネルのC末端に相違がみられ、〜32℃で活性化されるチャネルが産生される。しかし、このバリアントはコウモリのものとは異なり、配列解析からは、エクソン15の遺伝子多型によって生じたものであることが示された。このように、温度受容性の適応は、さまざまな分子機構を通じて起きている。
E. O. Gracheva, J. F. Cordero-Morales, J. A. Gonzalez-Carcacia, N. T. Ingolia, C. Manno, C. I. Aranguren, J. S. Weissman, D. Julius, Ganglion-specific splicing of TRPV1 underlies infrared sensation in vampire bats. Nature 476, 88-91 (2011).[PubMed]
M. B. Fenton, Heat-thirsty bats. Nature 476, 40-41 (2011). [PubMed]
N. R. Gough, Vampire Senses. Sci. Signal. 4, ec219 (2011).