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神経科学
ヘッジホッグは痛い経路を旅する

Neuroscience
Hedgehog Travels a Painful Pathway

Editor's Choice

Sci. Signal., 4 October 2011
Vol. 4, Issue 193, p. ec272
[DOI: 10.1126/scisignal.4193ec272]

Elizabeth M. Adler

Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA

D. T. Babcock, S. Shi, J. Jo, M. Shaw, H. B. Gutstein, M. J. Galko, Hedgehog signaling regulates nociceptive sensitization. Curr. Biol. 21, 1525-1533 (2011). [PubMed]

組織損傷は、潜在的な障害性刺激に対する過度の応答と関連することがしばしばある。たとえば、通常は非侵害刺激が疼痛を誘導し、それによって嫌悪回避(アロディニア、異痛)すなわち疼痛に対する感受性が高まり、侵害刺激が過度の応答(痛覚過敏)を誘発することがある。そのような侵害受容感作は、きっかけとなった損傷が治癒した後も持続し、慢性疼痛をもたらす可能性がある。ヘッジホッグ(Hh)などのモルフォゲンが損傷組織から放出されることがあることに注目し、Babcockらは、紫外線(UV)照射後の侵害受容感作のショウジョウバエ(Drosophila)モデルにおいて、アロディニアと痛覚過敏の媒介にHhが果たす役割について検討した。UV曝露の24時間後に、通常は非侵害性である38°Cの刺激は、幼虫が許容温度(18°C)で維持された場合には、対照の幼虫と温度感受性Hh対立遺伝子(hhts2)を有する幼虫のどちらにおいても回避応答を誘導した。しかし、幼虫が制限温度(29°C)で維持された場合には、対照群の幼虫のみがこの温熱性アロディニアを示した。同様の解析によって、Hhは45°Cの侵害刺激に対する痛覚過敏と関連付けられた。侵害受容ニューロンにおけるPatched(Hhが結合して抑制する)の過剰発現は、アロディニアと痛覚過敏を抑制し、RNA干渉またはHhエフェクターのドミナントネガティブ型の発現によるHhシグナル伝達の組織特異的な抑制も同様であった。対照的に、Hhシグナル伝達の恒常的活性化は、組織損傷が無くても過度の侵害受容応答をもたらした。腫瘍壊死因子(TNF)のショウジョウバエのオルソログは、これまでにUV誘発性の温熱性アロディニアと関連付けられている。また、一方の経路を活性化して他方を抑制する実験から、TNFとHhは並行に作用して、ショウジョウバエの温熱性アロディニアを媒介することが示された。ノックダウン解析によって、UV誘発性の温熱性侵害受容にTRP(一過性受容器電位)ファミリーの2つのイオンチャネル、すなわちPainlessとdTRPA1が関連付けられた。HhまたはTNFのシグナル伝達の遺伝的活性化の後での応答を解析したところ、PainlessはTNFまたはHhが誘発する温熱性アロディニアを媒介するのに対して、dTRPA1はHhが誘導する温熱性痛覚過敏を媒介するモデルが得られた。ラットのモデルにおいてHhの役割を薬理学的に解析すると、Smoothened阻害薬であるシクロパミンは、独立した鎮痛効果は示さないが、炎症性疼痛においてモルヒネに対する鎮痛耐性を遮断し、神経障害性疼痛においてモルヒネに対する鎮痛応答を増強することが明らかになった。したがって、著者らは、Hhシグナル伝達は侵害受容の調整において予想外の役割を果たし、Hh経路の構成要素が疼痛治療の標的になる可能性があると結論している。

E. M. Adler, Hedgehog Travels a Painful Pathway. Sci. Signal. 4, ec272 (2011).

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2011年10月4日号

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