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神経科学
核内PTENはニューロンの生存を促進する
Neuroscience
Nuclear PTEN Promotes Neuronal Survival
Sci. Signal., 17 January 2012
Vol. 5, Issue 207, p. ec17
[DOI: 10.1126/scisignal.2002856]
Nancy R. Gough
Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA
J. Howitt, J. Lackovic, L.-H. Low, A. Naguib, A. Macintyre, C.-P. Goh, J. K. Callaway, V. Hammond, T. Thomas, M. Dixon, U. Putz, J. Silke, P. Bartlett, B. Yang, S. Kumar, L. C. Trotman, S.-S. Tan, Ndfip1 regulates nuclear Pten import in vivo to promote neuronal survival following cerebral ischemia. J. Cell Biol. 196, 29-36 (2012). [Abstract] [Full Text]
PTENは、脂質およびタンパク質のホスファターゼであり、ホスホイノシチド3-キナーゼ(PI3K)の活性に拮抗し、キナーゼAktのリン酸化および活性化を低下させる能力を介して、腫瘍抑制因子として機能することがよく知られている。PTENのユビキチン化と核内移行は、その腫瘍抑制活性に寄与すると報告されている。PTENは脳の発達と関連付けられており、PTEN活性の低下はニューロンの生存の亢進と関連している。Howittらは、虚血後のマウス脳におけるPTENの輸送について検討した。梗塞に近い領域では、PTENは主に核内への局在を示したのに対して、梗塞から遠い領域や非梗塞領域では、PTENは主に細胞質に存在した。生存しているニューロンでは、Nedd4ユビキチンリガーゼNdfip1の存在量が増大しているので、著者らはこのタンパク質がPTENの輸送に寄与しているのかどうかについて検討した。実際に、ニューロンでNdfip1が欠損するように操作されたマウスでは、PTENは梗塞周辺領域で細胞質に存在したままであり、梗塞領域は野生型マウスの場合よりも大きかった。しかし、PTENの存在量に差はないようであったことから、この相違は、ユビキチンが媒介する分解よりもPTENの輸送と関連があることが示唆された。遺伝子導入細胞における実験、あるいは脳のライセートを用いた実験によって、Ndfip1、PTENおよびNedd4-2の間の相互作用が確認され、Nedd4-1かNedd4-2のいずれかがNdfip1の存在下でPTENのユビキチン化を媒介する可能性がが示唆された。PTENとNdfip1の相互作用はリン酸化によって調節されるようであった。これは、C末端リン酸化部位にアラニン置換を有するPTEN変異体が相互作用を亢進させ、リン酸化模倣変異体が相互作用を低下させたことによる。光退色アッセイでは、Ndfip1の過剰発現によってPTENの核内移行が亢進し、Ndfip1ノックアウトマウス胎仔線維芽細胞では、PTENの核内移行は検出不可能であった。PTENの核内移行と関連がある虚血後の生存の亢進が、核脂質シグナル伝達の調節によるものか、細胞質におけるPI3Kシグナル伝達の増強によるものか、あるいは両者の組み合わせによるものかは、まだ確立されていない。
N. R. Gough, Nuclear PTEN Promotes Neuronal Survival. Sci. Signal. 5, ec17 (2012).