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生理学
脂肪に割り込む
Physiology
Muscling In on Fat
Sci. Signal., 31 January 2012
Vol. 5, Issue 209, p. ec33
[DOI: 10.1126/scisignal.2002899]
Wei Wong
Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA
P. Boström, J. Wu, M. P. Jedrychowski, A. Korde, L. Ye, J. C. Lo, K. A. Rasbach, E. A. Boström, J. H. Choi, J. Z. Long, S. Kajimura, M. C. Zingaretti, B. F. Vind, H. Tu, S. Cinti, K. Højlund, S. P. Gygi, B. M. Spiegelman, A PGC1-α-dependent myokine that drives brown-fat-like development of white fat and thermogenesis. Nature 481, 463-468 (2012). [PubMed]
転写コアクチベーターのPGC-1α[ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体γ(peroxisome proliferator-activated receptor-γ、PPARγ)コアクチベーター1α]は、エネルギー代謝とミトコンドリアのバイオジェネシスに関与する遺伝子の発現を促進する。さらに、PGC-1αは褐色脂肪組織の分化に関与しており、褐色脂肪組織は、熱産生と呼ばれる過程においてエネルギーを熱として消散させる。主要な白色脂肪の蓄積部位である皮下層は、褐色脂肪の特徴(ミトコンドリア数の増加や褐色脂肪に特異的な遺伝子や熱産生性の遺伝子の発現など)の獲得("褐色化")の誘導がもっとも容易である。筋肉でPGC-1αを過剰発現するマウスは、糖尿病抵抗性などの全身性の生理学的変化を示すことから、Boströmらは、筋肉のPGC-1αが白色脂肪組織と褐色脂肪組織をどのようにして調節するのかについて検討した。筋肉でPGC-1αを過剰発現しているマウスでは、皮下の白色脂肪組織(褐色脂肪組織や内臓の白色脂肪組織はそうではなかったが)における熱産生に関与する脱共役タンパク質(UCP1)のmRNAおよびタンパク質の存在量が増大していた。PGC-1αを過剰発現している筋細胞の培養上清に曝露した初代培養皮下脂肪細胞では、褐色脂肪特異的な遺伝子の発現量が増大していた。筋肉における5つのPGC-1α標的遺伝子は、FNDC5(fibronectin type III domain containing 5)などの分泌される可能性のあるタンパク質をコードしていた。運動によって筋肉におけるPGC-1αをコードする遺伝子の発現が上昇し、PGC-1α標的遺伝子のmRNA量は、運動マウスおよび持久性運動後のヒト対象者から採取された筋生検において、が増大していた。FNDC5で処理した初代培養皮下白色脂肪細胞では、Ucp1の発現亢進、ミトコンドリア密度の増加、酸素消費量の増大が認められた。FNDC5はグリコシル化されており、C末端で切断されて生成する32-kDの分泌フラグメントをirisinと名付けた。irisinの血漿濃度は、筋特異的にPGC-1αを除去したマウスで低下しており、マウスおよびヒトにおいて運動によって上昇した。アデノウイルスによるFndc5過剰発現によって、標準餌または高脂肪餌を与えたマウスにおいて、皮下脂肪でのUcp1 mRNAの発現が亢進した。高脂肪餌を摂取したマウスではまた、酸素消費量が増大し、耐糖能および空腹時インスリンが改善し、体重がわずかに減少した。このように、運動が引き金となって筋肉がirisinを放出することで、皮下白色脂肪組織は褐色脂肪細胞に典型的な特徴を獲得するようになる。このことは、食餌誘発性肥満の影響に歯止めをかける治療として開発される可能性がある。
W. Wong, Muscling In on Fat. Sci. Signal. 5, ec33 (2012)