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ウイルス学
ストレスをウイルス再活性化につなげる
Virology
Connecting Stress to Viral Reactivation
Sci. Signal., 24 July 2012
Vol. 5, Issue 234, p. ec194
[DOI: 10.1126/scisignal.2003414]
Annalisa M. VanHook
Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA
M. Kobayashi, A. C. Wilson, M. V. Chao, I. Mohr, Control of viral latency in neurons by axonal mTOR signaling and the 4E-BP translation repressor. Genes Dev. 26, 1527-1532 (2012). [Abstract] [Full Text]
単純ヘルペスウイルス1型(HSV1)は、神経への潜伏感染を確立し、あまりよくわかっていない免疫系機能あるいは生理的因子の変化によって再活性化されることがある。神経成長因子(NGF)が媒介するホスホイノシチド3-キナーゼ(PI3K)とAktを介するシグナル伝達は、HSV1潜伏感染の維持と溶解性増殖の抑制に必要である。Kobayashiらは、これらのキナーゼが哺乳類のラパマイシン標的タンパク質複合体1(mTORC1)を介して作用して、潜伏感染を維持することを報告している。HSV1が潜伏感染した培養ラット交感神経ニューロンにおいて、薬理学的阻害薬のPP242またはラパマイシンを用いた細胞の処理によって、あるいは、RNA干渉(RNAi)を用いたmTORC1サブユニットraptorの欠乏によって、mTORC1を介するシグナル伝達を撹乱すると、自然再活性化の頻度と感染性ウイルスの産生が増大した。mTORC1シグナル伝達を抑制すると、翻訳抑制因子4E-BPのmTORC1を介するリン酸化と阻害が妨げられ、溶解活性化に必要なウイルス転写物(ICP27)が蓄積した。mTORC1活性化因子PI3KおよびAktに対する薬理学的阻害薬(それぞれLY294002、AKT VIII)も、ICP27の蓄積を引き起こした。Rhebは、PI3KとAktの下流でmTORC1を活性化させるグアノシントリホスファターゼ(GTPase)であり、mTORC1を構成的に活性化させるRheb変異体(レンチウイルスにコードされたもの)の発現によって、LY294002とAKT VIIIに誘導されるウイルス再活性化が抑制された。ラパマイシンはRhebの下流でmTORC1に作用するので、このRheb変異体はラパマイシン誘導性のウイルス再活性化を抑制しなかった。潜伏感染の維持には持続的なタンパク質合成が必要であり、低酸素状態はmTORC1を介する4E-BP抑制を妨げることによってタンパク質合成を抑制する。潜伏感染したニューロンを低酸素状態下で培養すると、HSV1再活性化が促進されたことから、mTORC1シグナル伝達に作用する環境因子がウイルス潜伏感染に影響を及ぼす可能性が示唆された。mTORC1によって不活性化されない型の4E-BPは、全般的なタンパク質翻訳を抑制し、ウイルス再活性化を誘導した。著者らは、軸索と細胞体を別個に操作できる区画化された培養系を用いて、mTORC1阻害薬PP242を軸索に与えると、細胞体における4E-BPのリン酸化状態には影響がないが、軸索において4E-BPのリン酸化が抑制され、ウイルス再活性化が促進されることを示した。これらの結果は、mTORC1活性が、軸索における4E-BP依存性翻訳を抑制することによって、HSV1潜伏感染を維持するために重要であることを示すとともに、mTORC1シグナル伝達を低下させる環境因子が、ストレス状態下での再活性化の誘導に関与する可能性を示唆している。この機構がHSV1に特異的であるのか、潜伏感染から再活性化することができる他のウイルスにも当てはまるのかは今のところ不明である。
A. M. VanHook, Connecting Stress to Viral Reactivation. Sci. Signal. 5, ec194 (2012).