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寄生虫学
寄生虫の生活環におけるTORC4
Parasitology
TORC4 in a Parasite’s Life Cycle
Sci. Signal., 11 September 2012
Vol. 5, Issue 241, p. ec236
[DOI: 10.1126/scisignal.2003592]
Nancy R. Gough
Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA
A. Barquilla, M. Saldivia, R. Diaz, J.-M. Bart, I. Vidal, E. Calvo, M. N. Hall, M. Navarro, Third target of rapamycin complex negatively regulates development of quiescence in Trypanosoma brucei. Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 109, 14399-14404 (2012). [Abstract] [Full Text]
ほとんどの真核生物には、キナーゼであるラパマイシン標的タンパク質(TOR)をコードする1つまたは2つの遺伝子しかないが、トリパノソーマ(Trypanosoma)とその近縁のヒト病原寄生虫リーシュマニア(Leishmania)には4つのTOR遺伝子がある。TORは、TORC1とTORC2という機能的に異なる2つの複合体を形成する。Barquillaらは、3つ目のTOR複合体となるTbTORC4を同定した。TbTORC4は、TbTOR4キナーゼとTbLST8(既知のTOR複合体すべてに共通する構成要素)、およびこのTOR複合体に特有のアルマジロドメインを有するタンパク質であるTbArmtor(T. brucei アルマジロドメイン含有TOR相互作用タンパク質)を含む。トリパノソーマは、その生活環において哺乳類宿主からツェツェバエへと転移するするので、異なる寄生虫の形態をとる必要がある。血液媒介トリパノソーマは、哺乳類宿主の体内で、増殖性の細長い形態から細胞周期の停止した「太短い」形態へと分化する。この太短い形態のトリパノソーマは生存可能であり、その後に昆虫の体内で増殖性の形態へと分化することができる。感染マウスの血流から単離されたトリパノソーマで、TbTOR4またはTbArmtorをノックダウンすると、細胞周期が停止し、ノックダウンから回復させた後も容易には復活しなかった。これは、G0期で停止した静止状態にある太短い形態の誘導と似ている。TbTOR4を欠失させたトリパノソーマは、形態学的、代謝的、分子的に太短い静止型の特徴を呈したことから、TbTORC4が生活環のこの段階への移行を抑制していることが示唆される。加水分解性のサイクリックアデノシン一リン酸(AMP)アナログまたはAMPアナログのいずれかの存在下で増殖された細胞では、TbTOR4の量が減少したことから、細胞のエネルギーが低下する(AMP:ATP比が高まる)と、TbTOR4量が減少することによってTbTORC4活性が抑制されるため、太短い静止型への分化が促進される可能性が示唆される。この複合体はトリパノソーマに特有のようであり、哺乳類宿主には存在しないので、この複合体はTORC4を有する寄生中に感染することによって生じる疾患の治療において、実行可能な治療介入の標的となるかもしれない。
N. R. Gough, TORC4 in a Parasite's Life Cycle. Sci. Signal. 5, ec236 (2012).