がん
TLR2の非炎症性の側面

Cancer
The Noninflammatory Side of TLR2

Editor's Choice

Sci. Signal., 13 November 2012
Vol. 5, Issue 250, p. ec289
[DOI: 10.1126/scisignal.2003772]

Wei Wong

Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA

H. Tye, C. L. Kennedy, M. Najdovska, L. McLeod, W. McCormack, N. Hughes, A. Dev, W. Sievert, C. H. Ooi, T.-o. Ishikawa, H. Oshima, P. S. Bhathal, A. E. Parker, M. Oshima, P. Tan, B. J. Jenkins, STAT3-driven upregulation of TLR2 promotes gastric tumorigenesis independent of tumor inflammation. Cancer Cell 22, 466-478 (2012). [PubMed]

微生物はToll様受容体(TLR)によって検出され、微生物感染に起因する炎症は胃がん発症の危険因子である。TLR2およびTLR4の多型は、胃がん発症リスクの上昇と関連がある。Tyeらは、gp130F/Fマウスを用いて、胃がんにおけるTLR2の役割について検討した。gp130F/Fマウスは胃の腫瘍を自然発症し、転写因子STAT3の活性化亢進やインターロイキン(IL)-11の産生などの、いくつかの表現型の特徴が共通しているので、ヒト胃がんのモデルとなる。ヒトの胃の腫瘍においては、STAT3の活性化亢進がTLR2の発現上昇と正の相関を示し、STAT3活性化亢進とTLR2発現上昇の組合せが全生存率の低下と関連があった。IL-11で処理された胃上皮細胞またはgp130F/F腫瘍組織を用いたクロマチン免疫沈降アッセイによって、チロシンリン酸化を受けた活性型STAT3が、TLR2プロモーターに動員されることが明らかになり、TLR2がSTAT3の標的遺伝子であることが示唆された。TLR2を欠損するgp130F/Fマウス(gp130F/F:Tlr2-/-)では、対照マウス(gp130F/F)やTLR4を欠損するgp130F/Fマウス(gp130F/F:Tlr4-/-)と比べて、胃が小さく、胃の腫瘍も小さく、胃の病変が少なかった。gp130F/Fマウスの転写プロファイリングによって、炎症促進因子をコードするTLR2調節性遺伝子の発現上昇が明らかになったが、組織学的な検査では、gp130F/Fマウスとgp130F/F:Tlr2-/-マウスの間で、胃上皮における免疫細胞の浸潤および活性化に差は認められなかった。そのかわりに、gp130F/F:Tlr2-/-マウスでは、gp130F/Fマウスと比べて、胃上皮における増殖の低下とアポトーシスの増大が認められた。この表現型には、核因子κB(NF-κB)経路、ホスホイノシチド3-キナーゼ(PI3K)−Akt経路、ERK1、ERK2、JNKによって媒介されるマイトジェン活性化プロテインキナーゼ経路を介するシグナル伝達が必要であったが、p38によって媒介されるシグナル伝達は必要なかった。TLR2を遮断する抗体をgp130F/Fマウスに注射すると、胃のサイズと腫瘍量が減少した。これらの結果から、TLR2が胃がんに対する治療の標的となる可能性が示唆される。

W. Wong, The Noninflammatory Side of TLR2. Sci. Signal. 5, ec289 (2012).

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2012年11月13日号

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TLR2の非炎症性の側面

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