過去を固定する

PINing for Things Past

Perspectives

Sci. Signal., 9 March 2010
Vol. 3, Issue 112, p. pe9
[DOI: 10.1126/scisignal.3112pe9]

Todd Charlton Sacktor*

Departments of Physiology, Pharmacology, and Neurology, Robert F. Furchgott Center for Neural and Behavioral Science, State University of New York, Downstate Medical Center, 450 Clarkson Avenue, Brooklyn, NY 11203, USA.

* Corresponding author. E-mail, tsacktor@downstate.edu

要約:長期記憶は、ニューロン間のシナプス結合の強度の持続的変化によって維持されると考えられるが、どのよう にしてそのような変化が数日間から数年間持続しされるのかは、神経科学の根本的な謎のひとつであった。しかし、最近、ある酵素の持続的な活性亢進に依存す る機構が、長期記憶の持続に必要であることが示された。プロテインキナーゼCの脳特異的恒常的活性化型アイソフォームのPKMζを一過性に阻害すると、 何ヵ月も前の記憶が消失する。この発見は数多くの問題を提起する。なかでも最も重要なのは、PKMζは、自身の半減期がおそらくはるかに短いにもかかわら ず、どのようにして何ヵ月間も記憶を維持するのかという疑問である。新たなデータから、PKMζの高い存在量が長期間維持される機構が示唆された。 PKMζの合成は、樹状突起における翻訳を抑制するペプチジルプロリルイソメラーゼPin1(protein interacting with NIMA 1)によって抑制される。興奮性神経伝達物質のグルタミン酸は、長期増強(LTP)および記憶形成を誘導するが、グルタミン酸が媒介するシグナルは Pin1を抑制し、PKMζの合成を可能にする。PKMζは、ひとたび翻訳されると、次々にPin1を抑制して持続的なPKMζの合成を可能にする。この ようにして、PKMζは、LTPを維持し、過去に関するわれわれの心的表象を永続化するのに適切な量にまでアップレギュレートされるのかもしれない。

T. C. Sacktor, PINing for Things Past. Sci. Signal. 3, pe9 (2010).

英文原文をご覧になりたい方はScience Signaling オリジナルサイトをご覧下さい

英語原文を見る

2010年3月9日号

Editor's Choice

分子生物学
一人二役のマイクロRNA:破壊とおとり

Research Article

Pin1とPKMζは樹状突起タンパク質の合成を順次調節する

Perspectives

過去を固定する

Reviews

老化およびヒトの疾患におけるストレス活性化Cap'n'collar転写因子

最新のPerspectives記事

2017年7月4日号

発見から25年強が過ぎたAKTに関する展望

2016年10月18日号

WNKキナーゼに固有の構造的特徴を活用して治療的阻害を達成する

2016年4月26日号

Ca2+透過性AMPA受容体、キナーゼPKAおよびホスファターゼPP2BはシナプスのLTPおよびLTDにおいてどのような結び付きがあるか

2016年4月5日号

IP3受容体:4つのIP3でチャネルを開く

2015年11月3日号

発がん性PI3Kαが乳房上皮細胞の多能性を促進する