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ゆらぎから表現型まで:ノイズの生理学

From Fluctuations to Phenotypes: The Physiology of Noise

Reviews

Sci. STKE, 19 December 2006 Vol. 2006, Issue 366, p. re17
[DOI: 10.1126/stke.3662006re17]

Michael S. Samoilov1*, Gavin Price2*, and Adam P. Arkin1,2*

1Howard Hughes Medical Institute, Berkeley, CA 94720, USA.
2Howard Hughes Medical Institute, Department of Bioengineering, University of California at Berkeley, Center for Synthetic Biology, Virtual Institute of Microbial Stress and Survival, Physical Biosciences Division, Lawrence Berkeley National Laboratory, Berkeley, CA 94720, USA. *Corresponding author. E-mail, mssamoilov@lbl.gov, gaprice@lbl.gov, aparkin@lbl.gov

要約 : 生化学的過程がノイズと確率変動の影響を受ける可能性があることについては、基本的な物理的根拠がある。実際、遺伝子変異を引き起こす機構のような、ランダムな分子スケールの機構は、集団スケールの進化力学の核心にあると長く理解されてきた。我々が今日理解できるのは、生化学的過程に内在する確率論的変動が細胞および生体の表現型にどのように寄与するかということである。単一の細胞を実験的に測定する技術と対応する理論的方法が進歩したことにより、個々の生物体のスケールで生物学的過程を引き起こす確率性の重要な内在性の要因が存在することを示す明白な証拠をもたらす研究を的確に考案して解釈することができるようになった。最近、複数の研究によって、生物系におけるノイズの存在を単に確認することから前進し、ノイズが生体分子経路(ランダムな生体分子相互作用における確率論的変動の基礎をなす起源から、特徴的な種の表現型における最終発現まで)を通過し、生体分子経路によって処理されることから、細胞生理学におけるその役割が突き止められた。このように新たに得られた結果から、生物系の構造、機能、適合性の規定においてノイズが果たす建設的な役割を説明する新たな生物学的ネットワークの設計原理が示唆される。さらに、このような結果により、確率論的機構は、より複雑であまり頑強ではない、さもなければまったく決定論的な系ではその対応が最適条件には少し及ばないような問題に対する効率的かつ有効な生物学的解決法として役立つことができる、調節性、シグナル伝達、組織化の選択肢に新たなクラスを開くことができることが示唆される。キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)の目の色覚発達ならびに枯草菌(Bacillus subtilis)における形質転換能の誘導に関する研究は、ゆらぎから表現型にいたる重要な生理学的過程におけるノイズの役割を明快に突き止めた。本稿では、このような研究について強調して述べる。

M. S. Samoilov, G. Price, A. P. Arkin, From Fluctuations to Phenotypes: The Physiology of Noise. Sci. STKE 2006, re17 (2006).

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