ページの本文へ移動

記事ID : 11963
研究用

神経変性:Rhes、SUMO化、ハンチントン病 CYTOSKELETON NEWS 2013年10月号

このエントリーをはてなブックマークに追加

CYTOSKELETON NEWS 2013年10月号 神経変性:Rhes、SUMO化、ハンチントン病

神経変性:Rhes、SUMO化、ハンチントン病

低分子量Gタンパク質のRhes(Ras Homolog Enriched in Striatum)は、266アミノ酸のタンパク質で、主に線条体と大脳皮質の一部で見られます(Falk et al., 1999)。脳及び身体全体で、多くの細胞種が野生型及び変異型のハンチンチンタンパク質(mHTT)を発現している一方で、線条体ニューロン(及び皮質ニューロンの一部)がハンチントン病(HD)では選択的に傷つきやすくなっているという、逆説的な発見を理解するのに、Rhesが重要であることが、最近の研究により明らかになってきました(Harrison, 2012; Harrison and LaHoste, 2013)。

HDは、ハンチンチン遺伝子中にCAGリピートを35回以上含むという特徴を持つ、常染色体優性神経変性障害で、複数のグルタミン残基(別名 ポリグルタミン又はポリQリピート)を含むmHTTの発現を引き起こします。HDは、不治で治療不能の病気であり、運動、認知力、感情のコントロールに障害が起こります。変異タンパク質(mHTT)は、脳や抹消組織全体の細胞に遍在的に発現しているにも関わらず、線条体及び皮質においてmHTTを発現する神経細胞だけが選択的に欠損します。(Harrison, 2012; Harrison and LaHoste, 2013)。mHTTは、神経細胞中で2種類の形で存在しています。1つは、可溶性の毒性モノマー、もう1つはタンパク質を隔離する凝集体又は封入体です。この不溶性の凝集体は、神経保護性と考えられています(Saudou et al., 1998; Gong et al., 2008; Lu and Palacino, 2013)(図1)。mHTTは、SUMO化を含む複数の翻訳後修飾(PTM)を受けます。このPTMが封入体の脱凝集を引き起こし、可溶性のmHTTモノマーを放出させ、神経毒性を増加させます(Steffan et al., 2004)(図1)。

重要なことに、mHTTの発現は、単独ではHDの病理を引き起こすことはありません(Zeron et al., 2002; Okamoto et al., 2009)。mHTTが誘導する神経変性の媒介に関わっているその他のタンパク質又はシグナル経路が存在するのです。Rhesが野生型のHTTよりも変異型HTTに優先的に結合し、in vitroにおいて、SUMO E3 リガーゼとして機能してmHHTをSUMO化させることが発見されたことにより、HDの研究は大きく進展しました(Subramaniam et al., 2009)(図1)。RhesによるmHTTのSUMO化は、封入体の脱凝集及び/又は封入体の減少により、可溶性mHTTを増加させ、mHTTが媒介する神経毒性を増強します(Subramaniam et al., 2009)。Rhesもまたそれ自身がSUMO化を受けます(Subramaniam et al., 2009)。

神経細胞におけるmHTTタンパク質のプロセシングと、Rhesによる修飾で、神経毒性及び神経変性が引き起こされる
図1 
神経細胞におけるmHTTタンパク質のプロセシングと、Rhesによる修飾で、神経毒性及び神経変性が引き起こされる

 

予想されるように、Rhes及びmHTTタンパク質の共発現がニューロンの生存活性を下げる一方、HDのin vitroニューロンモデルにおいて、Rhes遺伝子をサイレンシングすることにより、mHTTが媒介する神経毒性から細胞は保護されました(Seredenina et al., 2011)。興味深いことに、mHTTは、RhesによるSUMO化の唯一のターゲットタンパク質ではなく、RhesはSUMO化酵素E1及びUbc9との間のクロスSUMO化を増強しており、Rhesノックアウトマウスでは、線条体におけるSUMO化のレベルが全体的に低下しました(Subramaniam et al., 2010)。

HDトランスジェニックマウスモデルにRhesのノックアウトをクロスさせることで、HDにおけるRhesの役割はin vivoでも確認されています。このダブルトランスジェニックマウスは、HDに関連する症状の発病が著しく遅く、程度も低いという結果でした(Baiamonte et al., 2013)。同様に、線条体特異的なin vivo HDモデルは、Rhesノックアウトマウスでは再現しませんでした(Mealer et al., 2013)。この発見により、Rhesの欠損が、正常マウスではHDを引き起こす処置で誘発される細胞死及び運動障害から、ニューロンを保護していることが実証されました(Mealer et al., 2013)。

線条体ニューロンの選択的な神経変性を媒介するメカニズムの研究は、シナプス外NMDAレセプターに対するシナプスの差別的な活性化に集中しています(Okamoto et al., 2009)。この研究でも、NMDAレセプター媒介mHTT神経毒性におけるRhesの役割に光が当たりました。シナプスNMDAレセプターの活性が、mHTTの封入体の形成に必要で、実際に促進していることが発見されました(Okamoto et al., 2009)。mHTTの存在は、野生型のHTTに比べて、興奮毒性障害に対するニューロンの脆弱性を増加させました(Zeron et al., 2002; Okamoto et al., 2009)。シナプス外NMDAレセプターの妨害は、mHTT発現ニューロンを、興奮毒性から保護します(Okamoto et al., 2009)。この神経保護効果は、シナプス外NMDAレセプターのブロックによるRhesタンパク質レベルの低下としてRhesに関連しており、シナプス外NMDAレセプターが刺激を受けているときには、mHTT媒介神経毒性におけるRhesレベルが上昇することと関係しています(Okamoto et al., 2009)。これらの発見により、HDの影響を受けやすいニューロンを保護するために、シナプス外NMDAレセプターの選択的なブロックを、有益な治療法として用いることが提案されています。

GTPaseを含むタンパク質のPTMを研究するためのツールが更に利用できるようになり、細胞の生理学的及び病理学的プロセスは更に理解されるようになるでしょう。PTMを研究するツールは、神経科学、心臓学、腫瘍学において、前臨床及び臨床研究の両方に有用です。

参考文献

1. Falk J.D., Vargiu P., Foye P.E., Usui H., Perez J. et al. 1999. Rhes: A striatalspecific Ras homolog related to dexras1. J. Neurosci. Res. 57, 782-788.
2. Harrison L.M. 2012. Rhes: A GTP-binding protein integral to striatal physiology and pathology. Cell Mol. Neurobiol. 32, 907-918.
3. Harrison L.M. and LaHoste G.J. 2013. The role of Rhes, Ras homolog enriched in striatum, in neurodegenerative processes. Exp. Cell Res. 319, 2310-2315.
4. Saudou F., Finkbeiner S., Devys D., and Greenberg M.E. 1998. Huntingtin acts in the nucleus to induce apoptosis but death does not correlate with the formation of intranuclear inclusions. Cell. 95, 55-66.
5. Gong B., Lim M.C., Wanderer J., Wyttenbach A., and Morton A.J. 2008. Time-lapse analysis of aggregate formation in an inducible PC12 cell model of Huntington’s disease reveals time-dependent aggregate formation that transiently delays cell death. Brain Res. Bull. 75, 146-157.
6. Lu B. and Palacino J. 2013. A novel human embryonic stem cell-derived Huntington’s disease neuronal model exhibits mutant huntingtin (mHTT) aggregates and soluble mHTT-dependent neurodegeneration. FASEB J. 27, 1820-1829.
7. Steffan J.S., Agrawal N., Pallos J., Rockabrand E., Trotman L.C. et al. 2004. SUMO modification of huntingtin and Huntington’s disease pathology. Science. 304, 100-104.
8. Zeron M.M., Hansson O., Chen N., Wellington C.L., Leavitt B.R., et al. 2002. Increased sensitivity to N-Methyl-D-Aspartate receptor-mediated excitotoxicity in a mouse model of Huntington’s disease. Neuron. 33, 849-860.
9. Okamoto S., Pouladi M.A., Talantova M., Yao D., Xia P. et al. 2009. Balance between synaptic versus extrasynaptic NMDA receptor activity influences inclusions and neurotoxicity of mutant huntingtin. Nat. Med. 15, 1407-1413.
10. Subramaniam S., Sixt K.M., Barrow R., and Snyder S.H. 2009. Rhes, a striatal specific protein, mediates mutant huntingtin cytotoxicity. Science. 324, 1327-1330.
11. Seredenina T., Gokce O., and Luthi-Carter R. 2011. Decreased striatal RGS2 expression is neuroprotective in Huntington’s disease (HD) and exemplifies a compensatory aspect of HD-induced gene regulation. PLoS ONE. 6:e22231.
12. Subramaniam S., Mealer R.G., Sixt K.M., Barrow R.K., Usiello A., et al. 2010. Rhes, a physiologic regulator of sumoylation, enhances cross-sumoylation between the basic sumoylation enzymes E1 and Ubc9. J. Biol. Chem. 285, 20428-20432.
13. Baiamonte B.A., Lee F.A., Brewer S.T., Spano D., and LaHoste G.J. 2013. Attenuation of Rhes activity significantly delays the appearance of behavioral symptoms in a mouse model of Huntington’s disease. PLoS ONE. 8:e53606.
14. Mealer R.G., Subramaniam S., and Snyder S.H. 2013. Rhes deletion is neuroprotective in the 3-nitropropionic acid model of Huntington’s disease. J. Neurosci. 33, 4206-4210.

関連研究ツール キット

品名 メーカー 品番 包装 希望販売価格
Ras G-LISA(R) Activation Assay Kit詳細データ CYT BK131 1 KIT
[96 assays]
¥280,000
Ras Activation Assay Biochem Kit詳細データ CYT BK008 1 KIT
[50 assays]
¥225,000
Rho GAP Assay Kit (non-radioactive)詳細データ CYT BK105 1 KIT
[80-160 assays]
¥208,000
RhoGEF Exchange Assay詳細データ CYT BK100 1 KIT
[60-300 assays]
¥209,000
Raf protein ras binding domain on GST beads, Mouse詳細データ CYT RF02-A 1*2 MG
¥149,000
Raf protein ras binding domain on GST beads, Mouse詳細データ CYT RF02-B 4*2 MG
お問い合わせ

Gタンパク質モジュレーター及びビーズ

品名 メーカー 品番 包装 希望販売価格
Rac and Cdc42 Activator詳細データ CYT CN02-A 5*10 UNIT
¥65,000
Rac and Cdc42 Activator詳細データ CYT CN02-B 20*10 UNIT
¥234,000
Cell Permeable Rho Inhibitor (C3 Trans based) Clostridium botulinum , Unlabeled詳細データ CYT CT04-A 1*20 UG
¥63,000
Cell Permeable Rho Inhibitor (C3 Trans based) Clostridium botulinum , Unlabeled詳細データ CYT CT04-B 5*20 UG
¥205,000
Cell Permeable Rho Inhibitor (C3 Trans based) Clostridium botulinum , Unlabeled詳細データ CYT CT04-C 20*20 UG
お問い合わせ

■ CYTOSKELETON NEWS バックナンバー

2018年
2017年
2016年
2015年
2014年
2013年
2012年

商品は「研究用試薬」です。人や動物の医療用・臨床診断用・食品用としては使用しないように、十分ご注意ください。

お問い合わせ

「CYTOSKELETON NEWS 2013年10月号」は、下記のカテゴリーに属しています。

メーカー・代理店一覧

サポート情報

SNSアカウント

オウンドメディア

※当社のWEBサイトはユーザーの利便性を最適にし、それを保証するためにクッキーを使用しています。
 このWEBサイトの利用を継続することで、クッキーの使用に同意することになります。

© COSMO BIO