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研究用

アクチン細胞骨格のライブセルイメージング CYTOSKELETON NEWS 2015年7月号

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CYTOSKELETON NEWS 2015年7月号 アクチン細胞骨格のライブセルイメージング

アクチン細胞骨格のライブセルイメージング

近年の有機合成化学の進歩により、アクチン細胞骨格を効率的に標識して、その動的な特徴の追跡に使用できる、細胞膜透過性の低分子化合物の製造が可能になりつつあります1-3。従来は、細胞や組織においてF-アクチンを可視化するには、あらかじめ標識したアクチンタンパク質4,5 または 蛍光標識したファロイジン様分子6,7 をマイクロインジェクションするか(図1)、GFP-アクチン8,9 または GFP-アクチン結合タンパク質(ペプチド)10-12 のいずれかをコードする遺伝子コンストラクトを用いる方法が一般的でした。

蛍光色素(例: ローダミン)によるアクチンの標識や、マイクロインジェクション装置の設定は、非常に時間のかかる作業です。しかし、研究室でマイクロインジェクションシステムを利用可能で、市販の標識アクチンを使用する場合は、効率的に行うことができます。マイクロインジェクション法は、比較的簡単にインジェクションできるアフリカツメガエル卵母細胞(直径 1mm)などの大きな細胞や、トランスフェクション試薬に感受性が高い細胞、Spirochrome™ 試薬が取り込まれにくい細胞などに、特に適しています1-3(図2)。マイクロインジェクション法の主な利点として、次の3点が挙げられます。

  • a) 標識アクチンがアクチン細胞骨格に完全に統合される(分子量の大きいGFPの標識による立体障害や、ファロイジンのようにF-アクチンを安定化させる特性による影響がない)。
  • b) インジェクション後、迅速に(通常は数分以内に)観察を開始することができる。
  • c) 光退色後蛍光回復(FRAP: fluorescence recovery after photobleaching)を用いて、動的なターンオーバーを測定できる13

 

また、市販の標識済み筋細胞/非筋細胞アクチン(品番: AR05 / APHR)を利用すると、目的の細胞の種類に合ったアクチンアイソフォームの作製が可能となり、標識物の取り込みが向上することから、より鮮明に可視化することができます。

 

COS 細胞にマイクロインジェクションしたローダミン標識非筋細胞アクチン(品番: APHR)

図1 COS 細胞にマイクロインジェクションしたローダミン標識非筋細胞アクチン(品番: APHR)
(ノースウェスタン大学 R. Goldman 博士ら)

近年は、DNA/RNAトランスフェクションにより、GFP-アクチンの遺伝子コンストラクトを導入する方法が広く用いられてきました8,9。オリゴヌクレオチドをトランスフェクション混合物に加え、24-48 時間インキュベートするだけで可視化することができます。注意が必要となるのは次の3点です。

  • a) シグナルを検出するまでに時間がかかる
  • b) トランスフェクション効率にばらつきがあり、細胞集団が不均一になる
  • c) 比較的分子量の大きいGFPの立体障害により、GFPのバックグラウンドが上昇したり、ターンオーバーが非常に活発な細胞周辺部に近い領域で発現が低下したりする場合がある

 

また、GFP標識したアクチン結合ペプチドも広く使用されており、上述のGFP-アクチンと同様の利点があります。ABP140(Saccharomyces cerervisiae)、ABP120(Dictyostelium discoideum)、タリン(ヒト)などのアクチン結合タンパク質に由来するペプチドを用いた結果が、これまでに報告されています10-12。これらのコンストラクトは、F-アクチンへの結合親和性が高く、バックグラウンドが低いことが特長で、製品として市販されているもの(例: ABP140、ABP120)の他、様々な大学の研究室から入手することができます。

 

(左図)SiR-actin で染色した3D基質内の MCF10A 細胞 (右図)SiR-actin で染色した軸索。

図2
(左図)SiR-actin で染色した3D基質内の MCF10A 細胞(画像のご提供: Christian Conrad and Katharina Jechow, Heidelberg)。
(右図)SiR-actin で染色した軸索。アクチンが 180 nm 間隔のバンドパターンを示す (画像のご提供: Elisa D'Este, MPI Biophysical Chemistry, Göttingen; 参考文献 3)。

 

GFP標識したアクチン結合ペプチドにも、GFP-アクチンと同様の注意点がありますが、細胞の種類によって程度が異なります。細胞膜透過性の蛍光標識ペプチドを用いることが可能になれば、より簡単に標識できますが、まだ成功例がありません。近年開発された Spirochrome™ 試薬(例: SiR-アクチン)(図2)は、上述した方法で起こる問題点の多くを解決できる試薬です。この低分子シリコンローダミン(SiR)蛍光分子は、2014年に Johnsson、Hell、Arndt 博士の研究室で Lukinavicius ら3 によって開発されました。細胞膜透過性を有し、F-アクチンに結合すると蛍光強度が最大 100 倍に増加することから、バイオセンサーとして使用できます。また、このプローブは近赤外(遠赤)に励起/蛍光波長を持つことから、サンプルの自家蛍光が低減され、励起光による光毒性が抑えられます。これは非常に画期的な特性で、非結合状態での細胞質におけるバックグラウンドが大幅に低減されるため、F-アクチンへの結合親和性がそれほど高い必要がなく、標識していない元の分子(例: ファロイジンやジャスプラキノリド)と比較して、結合してもダイナミクスの阻害が起こりません。開発の際に、数種類の分子について試験を行ったところ、ジャスプラキノリド誘導体が、細胞透過性とF-アクチンの染色において最も良好な結果を示しました3。このシステムを用いて、様々な種類の細胞を標識した実績がありますが(「Spirochrome プローブ」商品記事参照)、標識が困難な細胞では、細胞膜の透過性を向上させる試薬6(例: サポニン)や、排出ポンプ/Ca2+ チャネル阻害剤(例: ベラパミル)が必要となる場合があります。Spirochrome™ 試薬を用いた標識は簡単で、培養細胞に蛍光試薬を添加して、短時間(通常は 1-4 時間)インキュベートするだけです。

まとめ

生細胞内で F-アクチンを可視化する技術は、アクチンを調製・標識してマイクロインジェクションを行うという専門性が高く労力を要する「一部の人だけができる」方法から、より簡単なDNAトランスフェクションを経て、ついに、細胞培養培地に試薬を添加するだけという、最も簡単で広く利用可能な方法に進化してきました。この技術をすべての細胞で利用できるようにすることと、蛍光色素の種類を増やすことが、今後の課題となります。

Spirochrome™ は、Spirochrome AG(スイス)の登録商標です。

参考文献
  1. Lukinavicius G. et al. 2013. A near-infrared fluorophore for live cell super-resolution microscopy of cellular proteins.Nature Chem. 5, 132-139.
  2. Lukinavicius G. et al. 2014. Fluorogenic probes for live-cell imaging of the cytoskeleton. Nat. Methods. 11, 731-3.
  3. D’Este E. et al. 2015. STED nanoscopy reveals the ubiquity of subcortical cytoskeleton periodicity in living neurons.Cell Rep. 10, 1246-1251.
  4. Wang Y.L. et al. 1982. Mobility of cytoplasmic and membrane-associated actin in living cells. Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 79, 4660–4664.
  5. Wang Y.L. and Taylor DL. 1979. Distribution of fluorescently labeled actin in living sea urchin eggs during early development.  J. Cell Biol. 81, 672-9.
  6. Barak L. et al. 1980. Fluorescence staining of the actin cytoskeleton in living cells with 7-nitrobenz-2-oxa-1,3-diazole-phallacidin. 1980. Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 77, 980-984.
  7. Huang Z.J. et al. 1992. Phallotoxin and actin binding assay by fluorescence enhancement.  Anal. Biochem. 200, 199-204.
  8. Doyle T. and Botstein D. 1996. Movement of yeast cortical actin cytoskeleton visualized in vivo. Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 93, 3886-91.
  9. Westphal M. 1997. Microfilament dynamics during cell movement and chemotaxis monitored using a GFP-actin fusion protein. Curr. Biol. 7, 176-83.
  10. Riedl J. et al. 2008. Lifeact: a versatile marker to visualize F-actin. Nat. Methods. 5, 605.
  11. Pang K.M. et al. 1998. Use of a fusion protein between GFP and an actin-binding domain to visualize transient filamentous-actin structures. Curr. Biol. 8, 405-408.
  12. Kost B. et al. 1998. A GFP-mouse talin fusion protein labels plant actin filaments in vivo and visualizes the actin cytoskeleton in growing pollen tubes. Plant J. 16, 393-401.
  13. Wang Y.L. et al. 1985. Exchange of actin subunits at the leading edge of living fibroblasts: Possible role of treadmilling. J. Cell Biol. 101, 597-602.

ライブセルイメージングプローブ

品名 メーカー 品番 包装 希望販売価格
Cytoskeleton Kit (SiR-Actin + SiR-Tubulin)詳細データ CYT CY-SC006 1 KIT
[50-300 slides]
販売終了
SiR-Actin Kit詳細データ CYT CY-SC001 1 KIT
[50-300 slides]
¥170,000
SiR-Tubulin Kit詳細データ CYT CY-SC002 1 KIT
[50-300 slides]
¥170,000

PTMtrue™ 抗体

品名 メーカー 品番 包装 希望販売価格
Anti Acetyl Lysine,  (Mouse) , 3C6.08.20詳細データ CYT AAC01 200 UL
[2 x 100 μl]
¥114,000
Anti Acetyl Lysine (Trial size),  (Mouse) , 3C6.08.20詳細データ CYT AAC01-S 25 UL
[1 x 25 μl]
¥32,000
Anti Phosphotyrosine,  (Mouse) , 27B10.4詳細データ CYT APY03 2*100 UL
¥114,000
Anti Phosphotyrosine (Trial Size),  (Mouse) , 27B10.4詳細データ CYT APY03-S 1*25 UL
¥32,000
Anti Phosphotyrosine,  (Mouse) Horseradish Peroxidase, 27B10.4詳細データ CYT APY03-HRP 1*100 UL
¥130,000
Anti Phosphotyrosine (Trial Size),  (Mouse) Horseradish Peroxidase, 27B10.4詳細データ CYT APY03-HRP-S 1*25 UL
¥41,000
Anti SUMO-2/3,  (Mouse) , 12F3詳細データ CYT ASM23 200 UL
[2 x 100 μl]
¥114,000
Anti SUMO 2/3 (Trial Size),  (Mouse) , 12F3詳細データ CYT ASM23-S 25 UL
[1 x 25 μl]
¥32,000
Anti SUMO-2/3,  (Mouse) , 11G2詳細データ CYT ASM24 2*200 UL
¥116,000
Anti SUMO-2/3 (Trial Size),  (Mouse) , 11G2詳細データ CYT ASM24-S 1*150 UL
¥41,000
Anti Ubiquitin,  (Mouse) , P4D2詳細データ CYT AUB01 2*100 UL
¥114,000
Anti Ubiquitin (Trial size),  (Mouse) , P4D2詳細データ CYT AUB01-S 1*25 UL
¥32,000

標識タンパク質

品名 メーカー 品番 包装 希望販売価格
Actin Protein (rhodamine, platelet non-muscle), Human, Rhodamine Isothiocyanate詳細データ CYT APHR-A 4*10 UG
¥92,000
Actin Protein (rhodamine, platelet non-muscle), Human, Rhodamine Isothiocyanate詳細データ CYT APHR-C 20*10 UG
¥286,000
Actin Protein (rhodamine, skeletal muscle), Rabbit, Rhodamine Isothiocyanate詳細データ CYT AR05-B 10*20 UG
¥89,000
Actin Protein (rhodamine, skeletal muscle), Rabbit, Rhodamine Isothiocyanate詳細データ CYT AR05-C 20*20 UG
¥173,000
Tubulin, Porcine, 7-amino-4-methylcoumarin-3-acetic acid詳細データ CYT TL440M-A 5*20 UG
¥105,000
Tubulin, Porcine, 7-amino-4-methylcoumarin-3-acetic acid詳細データ CYT TL440M-B 20*20 UG
¥266,000
Tubulin, Porcine, Tetramethylrhodamine詳細データ CYT TL590M-A 5*20 UG
¥105,000
Tubulin, Porcine, Tetramethylrhodamine詳細データ CYT TL590M-B 20*20 UG
¥266,000
Tubulin, Porcine, HiLyte FluorTM 647詳細データ CYT TL670M-A 5*20 UG
¥105,000
Tubulin, Porcine, HiLyte FluorTM 647詳細データ CYT TL670M-B 20*20 UG
¥266,000

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