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研究用

樹状細胞の移動におけるアクチン結合タンパク質とF-アクチン CYTOSKELETON NEWS 2017年2月号

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樹状細胞の移動におけるアクチン結合タンパク質とF-アクチン

樹状細胞(DC: Dendritic cell)は、哺乳類の免疫系で抗原提示細胞として機能し、不活性な未成熟状態、または、活性化された成熟状態のいずれかで存在します。未熟樹状細胞(iDC: Immature DC)は、末梢組織において、炎症部位に局在する外来抗原または病原性抗原をパトロールします(すなわち、抗原サンプリング)。未熟樹状細胞は、食作用、マクロピノサイトーシス、細胞表面受容体を介したエンドサイトーシスなどにより抗原を見つけ、内在化させます1。未熟樹状細胞は、このような活動の間、おそらく抗原サンプリングと補足にそれぞれ最適な速度になるように、運動性の高い状態と低い状態とを行き来します2。未熟樹状細胞は、抗原の補足とプロセシングに伴い成熟し、F-アクチンおよびミオシン II の局在の変化により運動性の高い状態に移行します。分解された抗原は、主要組織適合複合体(MHC)-IIとペプチドの複合体として、成熟樹状細胞表面上に提示されます。活性化された樹状細胞は、リンパ器官(例: リンパ節)において、リンパ管を介してナイーブT細胞に走化性により移動します。補足された抗原がT細胞に提示され(すなわち、免疫シナプス)、T細胞および適応免疫系を活性化します1(図1)。

本稿では、樹状細胞の移動に関わる動的なアクチンの変化と、アクチン結合タンパク質および低分子量 GTPase の Ras スーパーファミリーによる調節に注目します。

 

ミオシン II

樹状細胞は、in vivo(すなわち、組織間質腔)または in vitro の三次元環境において、F-アクチンに富むリーディングエッジが突出することで移動します。これは、「アメーバ様」運動に関与する、ミオシン II の駆動するアクトミオシンの収縮(インテグリンを介した接着に依存しない)とは無関係です。制限された環境(例: 細胞間の狭い間隙)を通って(in vivo または in vitro で)三次元移動する場合は、この方法に加えて、細胞の後端でのミオシン II が駆動するアクトミオシンの収縮も関与します2-4。ミオシン II は、樹状細胞において、機能と関係する勾配を形成しています5,6。抗原の補足やプロセシングの際には、ミオシン II が未熟樹状細胞の前部で濃縮され、抗原の取り込みや分解を調節し、運動性の低下を引き起こします6。反対に、運動性が高い時は、ミオシン II が細胞の後部に濃縮されます。高速を維持して移動する未熟樹状細胞において、ミオシン II が勾配を形成して機能するためには、IP3受容体1(IP3R1)を介した小胞体からのカルシウム放出が必要です。ミオシン II は、ミオシン II 調節軽鎖(MLC)がカルシウムを介してリン酸化されることで活性化されます5。ミオシン II と同様に、F-アクチンも樹状細胞の運動性と相関する勾配を形成します。未熟樹状細胞と成熟樹状細胞が高速で移動する際には、それぞれの後端に、F-アクチンの濃縮されたプールが存在します。反対に、どちらの状態の樹状細胞であっても、低速で移動する際にはF-アクチンが細胞の前部に濃縮されますが、通常は、未熟樹状細胞のみが低速で移動します7

CD74

CD74(または li)は、MHCクラス II に会合するインバリアント鎖で、ミオシン II と相互作用します。また、in vivo および in vitro の制限された環境において、ミオシン II の局在を調節し、リン酸化 MLC2 を減少させることで、樹状細胞の速度を一時的に低下させます。実際に、低速で移動する未熟樹状細胞の前部にミオシン II が局在化するためには、CD74 が必要になります6

 

Eps8

シグナル伝達に関与するアダプタータンパク質である Eps8 は、アクチンキャッピングタンパク質でもあり、樹状細胞の極性化や、樹状細胞において細長く高密度なF-アクチンを含む突起を形成するために必須です。Eps8 を欠損した樹状細胞は、in vitro では走化性が欠損し、in vivo では炎症に応答したリンパ節への運動性が低下します。Eps8 の影響は遊走に特異的です8

 

Arp2/3

Arp2/3 を介したアクチンの核形成および分枝状のフィラメント形成は、未熟樹状細胞の移動速度、および細胞の前部に局在するF-アクチンの分布を調節します。一方、成熟樹状細胞の後部に局在するF-アクチンの分布は、mDia1(Mammalian Diaphanous-related formin isoform 1)活性に依存します。Arp2/3 が調節するF-アクチンの濃縮は、移動速度の低下や、抗原のサンプリングおよび取り込みの増加と相関します7。また、樹状細胞が狭い空間を通って移動する際には、Arp2/3 を介したアクチンの核形成も必須となります。核の周囲に動的なアクチンネットワークを形成して核ラミナを破壊し、通常は硬い核を変形させて空間に適合させます9

 

Ras スーパーファミリー GTPase: Rho と Rap1

アクチンの重合は Rho GTPase エフェクターによって調節され、Rho の活性自体も調節されます。Rho エフェクターである mDia1 は、mDia1 が成熟樹状細胞および未熟樹状細胞の両方の後部でアクチンの核形成と重合を調節することから、高速での移動と速度の維持に重要です。しかし、mDia1 は、主に成熟樹状細胞で機能し、樹状細胞の細胞外マトリックス(ECM)への接着や侵入、およびリンパ節への走化性に重要です10。Rho は、ミオシン IXb(Myo9b)などの GTPase 活性化タンパク質(GAP)によって不活性化されます。RhoGAP である Myo9b は、F-アクチン細胞骨格の再構成に必須であるコフィリンの活性化を調節します。また、in vivo および in vitro において、走化性の障害と相関する、ミオシン II が駆動するアクトミオシンの収縮やシグナル伝達経路の変更を調節します11

また、Ras スーパーファミリーに属する低分子量 GTPase である Rap1 は、アクチン細胞骨格の再構成を介して樹状細胞の運動性を調節します。樹状細胞が移動する際に、制御性T細胞中で構成的に活性化された CD39 および CD73 エクトヌクレオチダーゼによってATPが分解され、アデノシンが放出されます。アデノシンは、cAMP を介する経路を活性化し、Epac1 および Rap1 を順次活性化します。Rap1 は、細胞皮質のアクチン細胞骨格に局在して、アクチン細胞骨格の再構築を仲介し、樹状細胞の制御性T細胞への移動を促進します12

 

臨床的な重要性

樹状細胞の移動におけるアクチンおよびアクチン結合タンパク質の役割を理解することは、臨床的に重要です。Wiskott-Aldrich 症候群タンパク質(WASP)の欠損は、X 染色体連鎖性原発性免疫不全症である Wiskott-Aldrich 症候群を引き起こします。WASP は、Arp2/3 と協同してアクチン核形成を調節します。WASP の欠損は、in vitro におけるケモカインを介した樹状細胞の移動の抑制に相関します。WASP欠損マウスでは、リンパ節内で樹状細胞の運動性が低下し、誤った局在を示します13-15

 

まとめ

樹状細胞は、哺乳動物の免疫系において抗原提示細胞として機能し、適応免疫応答の活性化に必須です(図1)。未熟樹状細胞および成熟樹状細胞の機能と局在には全て、様々なアクチン結合タンパク質やシグナル伝達経路によって調節される、アクチン細胞骨格の動的な再構成が関与しています。この調節について完全に理解することは、基礎科学と臨床のどちらの観点からも重要となります。Cytoskeleton社では、様々な生細胞アクチンイメージング試薬、精製アクチン、アクチン結合タンパク質、抗体、ファロイジン染色、アッセイキットを販売しております。

参考文献
  1. Worbs T. et al. 2017. Dendritic cell migration in health and disease. Nat. Rev. Immunol. 17, 30-48.
  2. Faure-Andre G. et al. 2008. Regulation of dendritic cell migration by CD74, the MHC class II-associated invariant chain. Science. 322, 1705-1710.
  3. Renkawitz J. et al. 2009. Adaptive force transmission in amoeboid cell migration. Nat. Cell Biol. 11, 1438-1443.
  4. Lammermann T. et al. 2008. Rapid leukocyte migration by integrin-independent flowing and squeezing. Nature.453, 51-55.
  5. Solanes P. et al. 2015. Space exploration by dendritic cells requires maintenance of myosin II activity by IP3 receptor 1. EMBO J. 34, 798-810.
  6. Chabaud M. et al. 2015. Cell migration and antigen capture are antagonistic processes coupled by myosin II in dendritic cells. Nat. Commun. 6, 7526.
  7. Vargas P. et al. 2016. Innate control of actin nucleation determines two distinct migration behaviours in dendritic cells. Nat. Cell Biol. 18, 43-53.
  8. Frittoli E. et al. 2011. The signaling adaptor Eps8 is an essential actin capping protein for dendritic cell migration.Immunity. 35, 388-399.
  9. Thiam H.-R. et al. 2016. Perinuclear Arp2/3-driven actin polymerization enables nuclear deformation to facilitate cell migration through complex environments. Nat. Commun. 7, 10997.
  10. Tanizaki H. et al. 2010. Rho-mDia1 pathway is required for adhesion, migration, and T-cell stimulation in dendritic cells. Blood. 116, 5875-5884.
  11. Xu Y. et al. 2014. Dendritic cell motility and T cell activation requires regulation of Rho-cofilin signaling by the Rho-GTPase activating protein myosin IXb. J. Immunol. 192, 3559-3568.
  12. Ring S. et al. 2015. Regulatory T cell-derived adenosine induces dendritic cell migration through the Epac-Rap1 pathway. J. Immunol. 194, 3735-3744.
  13. De Noronha S. et al. 2005. Impaired dendritic-cell homing in vivo in the absence of Wiskott-Aldrich syndrome protein. Blood. 105, 1590-1597.
  14. Snapper S.B. et al. 2005. WASP deficiency leads to global defects of directed leukocyte migration in vitro and in vivo. J. Leukoc. Biol. 77, 993-998.
  15. Thrasher A.J. and Burns S.O. 2010. WASP: a key immunological multitasker. Nat. Rev. Immunol. 10, 182-192.

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