セリン/スレオニン (Ser/Thr) 残基のリン酸化は、p53を安定化し、活性化するもので、遺伝毒性によるダメージ、発がん遺伝子の活性化、過剰増殖シグナル、低酸素症、栄養不良などの細胞内ストレスによって引き起こされるものです17, 18。活性化されると、四量体p53は、目標となる遺伝子のプロモーターのところで活性型転写複合体を形作り、遺伝子の発現を制御し、細胞周期を停止させたり、細胞死に導いたりします。おそらく、p53の活性を司っている一番重要なリン酸エピトープはSer15です。Ser15のリン酸化は、続いて起こる他のp53の残基(Thr18やSer20)のリン酸化に必要だからです9, 19。実際、Thr18のリン酸化はMDM2が結合するのを阻害するのに必要な触媒です。TAD1においてまとまって存在しているセリン残基 (Ser20、Ser33、Ser37、Ser46、Ser55)のリン酸化によって、MDM2のp53への結合力がさらに低下します9, 19-26(図1)。MDM2の結合力が低下するのに伴い、共転写活性化因子のp300/CBPが代わりにp53に結合します9, 19。この結合は、Ser15とThr18のリン酸化に依存しています21, 22。p300/CBPは構造的に類似した4個のドメイン(TAZ1、 KIX、TAZ2、NCBD)を持っており、p53のTADにそれぞれ違う強さで結合します24-26。p53の二箇所のリン酸化により、MDM2はp53から離れ、近傍のセリン残基のリン酸化が連続して起きることで(Thr18と比較して最大80倍)、KIXとTAZ1の両ドメインに対するp53の結合力が緩やかに上昇します9, 24-26。p300/CBPはp53に結合して、p53の複数個所のリン酸化を緩やかに増加させます。22, 24, 26
リン酸化に加えて、p300/CBPが媒介するアセチル化が、細胞内ストレスに応答したときのp53の安定化と活性化に不可欠です27-29。p53のREGドメインにおける6個のリジン残基(Lys370、Kys372、Lys373、Lys381、Lys382、Lys386) は、p300/CBPによるアセチル化の標的となります。このアセチル化により、MDM2が媒介するこれらのリジン残基のユビキチン化が阻害され、p53のトランス活性化能を保ちます9, 28。しかも、p53のアセチル化は、リン酸化の状態に関係なく、p53とMDM2の相互作用を不安定化させるのに不可欠なものです。p53のDBDの2つのリジン(Lys120、Lys164)とREGドメインの6個のリジンのアセチル化は、MDM2がp53複合体結合プロモーターに結合するのを阻害し、p53が媒介するストレス応答を可能にします29(図1)。MDM2はHDAC1複合体を通じてp53の脱アセチル化を促進します28。これによりp53がポリユビキチン化され、最終的にプロテアソームにより分解されます。
四量体p53がん抑制タンパク質は、細胞周期の停止、細胞死、それに関する経路について何千もの遺伝子の発現を制御しています。それゆえ、MDM2とp300/CBPが媒介するポリユビキチン化により強固に負の制御を受けています。細胞ストレスによりp53はリン酸化・アセチル化されることで、安定化・活性化されます。HDAC1が媒介する脱アセチル化によって、次の細胞ストレスを受けるまでp53は静止状態になっています。p53や他のがん関連タンパク質が翻訳後修飾によってどのように制御されているのかを理解するために、Cytoskeleton社では、Signal-Seeker Enrichment Kitsをご用意しております。この商品で、細胞や組織ライセートにおけるチロシンリン酸化、ユビキチン化、アセチル化、SUMO化の細胞内濃度を研究することができます。また、多くの実験に利用できるPTM抗体もご用意しております。