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研究用

翻訳後修飾としてのユビキチン化を解説【概要】

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合成後のタンパク質の分解はエネルギーの浪費であり、「細胞内タンパク質分解は生理的に意味がある」という考え方は長い間軽視されていました。さらに、「特定のタンパク質の分解は、シグナル伝達経路の生理的調節における重要な段階であるかもしれない」という考え方も論破されてきました。細胞内タンパク質分解は、リソソーム及び非リソソーム性成分を有しており、非リソソーム性成分は、主としてユビキチン/ 26S プロテアソームシステム(UPS)により仲介されています。しかし現在、このシステム間における相互関連性が推測され、明らかにされつつあります。

Ubiquitinylation as a post-translational modifi cation A contribution made in 2000 by Professor R John Mayer, Professor of Molecular Cell Biology, University of Nottingham, United Kingdom, amended and edited by Dr Paul W Sheppard, Scientific Development Director, AFFINITI Research Products Ltd, Exeter, United Kingdom. R John Mayer

Cosmo Bio would like to acknowledge and thank Dr.R John Mayer and Enzo Life Sciences, Inc. for providing Ubiquitin-Proteasome pathway information presented here.

細胞内タンパク質分解

● 細胞周期:不思議な遠回り?

G1/S、G2/M 及び有糸分裂は、サイクリン依存性キナーゼ、キナーゼインヒビター、ホスファターゼ及びUPS依存性タンパク質分解の作用により制御されています。リン酸化は、26Sプロテアソームによる分解の準備中に、サイクリン及びキナーゼインヒビターをユビキチン化するユビキチン‐タンパク質リガーゼ(E3)を誘引します。このSCF ファミリーがG1/Sのタンパク質ユビキチン化の原因である可能性があり、関連のあるAPC/サイクロソーム複合体がG2/Mで同様に機能しています。細胞周期及び細胞質分裂中に分解の標的となる基質に対して、探求はさらに続きます(23)。26Sプロテアソームへのタンパク質輸送が、基質タンパク質ポリユビキチン化以上のものを要求しているかもしれないという証拠が増えはじめています。アクセサリーやアダプター分子が、26Sプロテアソームの19Sレギュレーターへのタンパク質結合に関与している可能性もあります(15)

● 転写:複合体と複合性

遺伝子発現に対する制御物質が多すぎても少なすぎても細胞の壊滅的結果を招きます(転写因子は致死分子)。ヒポキシア誘発転写因子(HIF)は、UPS により分解され、HIF 制御遺伝子の中には、血管新生の原因となっているものがあります。von Hippel-LIndau(VHL)病では、腎臓腫瘍が血管新生と関連しており、VHL 腫瘍抑制タンパク質の突然変異によりこの腫瘍を引き起こすことが知られています(22)。結腸癌では、腺腫様多発結腸ポリープ(APC)タンパク質が生成します。APC タンパク質は、ユビキチン化前にタンパク質をリン酸化するキナーゼ複合体の一部です(2)

● 抗原処理:瓦礫の山

プロテアソームはMHCクラスI抗原処理の一部としてタンパク質の断片化を制御しています。タンパク質は小胞体(ER)へ移動する9 〜 13 アミノ酸のペプチドに分解され、ERでMHC分子に結合して細胞表面へのペプチド-MHC複合体輸送を導いて、細胞障害性リンパ球を活性化します。さらにIFNγは、細胞に対して新しい20Sプロテアソームへ触媒サブユニットを取り込ませることができます。このプロテアソームは優れたクラスI応答のきっかけとなるタンパク質断片を作る能力が高く、MHCクラスI分子に結合し、細胞障害性リンパ球応答を促進するタンパク質断片の生成を促す20Sプロテアソームの11S レギュレーターのサブユニット発現を引き起こします(13)

● 破壊の代替案:廃棄?貯蔵?

慢性ヒト神経変性疾患は、ニューロン内の核周囲タンパク質凝集体(封入体)の生成と関連しています (31) 。同様に幾つかの潜在性ウイルス、例えばEBV感染の場合、潜在性膜タンパク質(LMP)が中心小体周辺の封入体のEBV形質転換リンパ芽球細胞中に蓄積します(25)

最近、突然変異嚢胞性腺維性膜貫通調節因子(CFTR)及び突然変異プレセニリン-1の両方が中心小体周辺領域中の"アグレソーム"に蓄積することが示されました (21, 40)。このアグレソームは、UPS経路及び細胞ストレスタンパク質成分中で濃縮されています。さらに、SCF-E3は、中心体複製で役割を果たします(9)。恐らく、UPS装置は細胞分裂を促進するだけでなく、ER品質管理システムによりERで除去された突然変異タンパク質(及び過剰の野生型タンパク質)をユビキチン化する中心小体周辺領域に焦点を置いています(16)。しかし、分解される代わりにユビキチン化タンパク質の毒性獲得を防止するため、もしくはその後の26Sプロテアソームシステムあるいはリソソームシステムによる分解のために、切除されたユビキチン化タンパク質は中心小体周辺領域に堆積されています(7, 8)

ユビキチン化とプロテアーゼ

● ユビキトン:スーパーフォールドにおける変異

ユビキチンに関連する一次配列と三次元構造で異なる細胞タンパク質" ユビキトン" は、遊離や結合、またはタンパク質中に遺伝子的に組み込まれたもの、例えばRAD23 及びParkin のいずれかです。これら分子の重要要素は、タンパク質相互作用における様々な目的のための、ユビキチン‐スーパーフォールドとその利用です(30)。付着性SUMO/Smt3p/Sentrin/Pic1/Gmp1及びNEDD8/Rub1ユビキトンは、核へのタンパク質輸送(29)及びE3 活性の調節(26)にそれぞれ機能します。RAD23は核切除修復に機能し26Sプロテアソームの19Sレギュレーター、いわゆるユビキチン結合サブユニット(S5a)に結合しますが、組み込まれたユビキトンの機能はまだ明らかではありません(17)

マルチステップで基質に結合するユビキトン
マルチステップで基質に結合するユビキトン

● 自食作用

ユビキチン(及び付着性ユビキチン)の基本的活用は、ユビキチンC末端グリシン残基のカルボン酸部分と標的タンパク質内のリジン残基のアミノ基間におけるイソペプチド結合形成です。タンパク質同士を結合するイソペプチド結合を形成する酵素化学の進展は、細胞内タンパク質分解における"共通性"かもしれません。

最近、オートファゴリソソーム生成機構の一部としてタンパク質を一緒に結合させるイソペプチドシステムが発見されました (32, 33, 36)。また、ユビキチン活性化酵素(E1)やユビキチン結合酵素(E2)に類似した機能を持つ酵素をコードする遺伝子が、酵母やヒトの自食作用の初期段階を制御していることが発見されています。

● ユビキチン‐タンパク質リガーゼ(E3):最終決定者

現在、E3には2つのファミリー、(ユビキチンとチオエステルを作る)HECTドメイン酵素と、RING フィンガーリガーゼがあります。E6タンパク質はパピローマウイルスの悪性形態でコードされており、細胞性E6-APの補充により、E3はp53の分解を引き起こします。RING フィンガーリガーゼは、活性に不可欠な他のタンパク質と複合体(SCF及びAPC/サイクロソーム複合体)を形成するか、基質タンパク質候補と結合しています。RINGフィンガーE3は、標的タンパク質のユビキチン化を促進するE1に結合します。後者のRINGフィンガーリガーゼは、受容体タンパク質チロシンキナーゼのアダプター、c-Cblを含みます。c-CblはSH2ドメインを通じて活性化受容体中のリン酸化チロシン残基に結合し、関連するE1 を通じてユビキチン化を導きます(20)。一方、分子内にRING フィンガーを有する乳癌遺伝子1(BRCA1)産物のように、他のRINGフィンガータンパク質がE3として作用する場合もあります(27)。これまで少なくとも7つのRING フィンガータンパク質が、このリガーゼ活性を示しています。
データベース内には、E3の骨組みを作ると考えられる400以上のRING フィンガーを有するタンパク質があり、タンパク質をコードする70,000 〜 100,000 のヒト遺伝子産物の中には十分に基質があると考えられます(34)

● リジン48結合以外のユビキチン鎖:どれを?何故?

分解シグナルとしてタンパク質に鎖状に結合しているユビキチン分子はイソペプチド結合を通じて共有結合し、当初は各ユビキチンのリジン48(K48)を利用していると考えられていましたが、他の6つのリジンのうち4つ(K6、K11,K29 及びK63)を利用していることも示されました。K63結合ポリユビキチン鎖は、DNA修復で役割を持つようです。K63結合鎖は、ユビキチン結合酵素変異体(UEV)及び特異性ユビキチン結合酵素、ubp13pから成るヘテロダイマーの中を通っています(18)。UE タンパク質はユビキチン結合酵素と同族ですが、重要な触媒性システイン残基を欠いており、細胞形質転換や癌抑制と関係するとされてきました。

● プロテアソーム相互作用パートナー:味方と敵

多くの細胞及びウイルスタンパク質は、20Sと19Sプロテアソームサブユニットの両方と相互作用することが示されています。19Sレギュレーターの6つの重複したATPaseは、これらの多くのタンパク質と相互作用していることが示されています。これらは恐らく、自身に結合するタンパク質か、他の細胞やウイルスタンパク質の認識/分解を調節しています。例えば、HECタンパク質はS7 ATPaseと特異的に相互作用して有糸分裂サイクリンの分解を調節していますが(6)、パピローマウイルスE7はS4ATPaseと特異的に相互作用して網膜芽腫タンパク質の分解を制御しています(3, 4)。最近、S6ATPaseと相互作用する細胞タンパク質のガンクリンが、網膜芽腫タンパク質の分解を増加させる腫瘍タンパク質であることが発見されました(15)

● プロテアソームの集合

20Sと26Sプロテアソームの集合は、Thermoplasma(28)や他の生物(35)の研究で一部は解明されましたが、20S粒子形成における7量体αリング構築の詳細や7量体βリングの役割は、十分に解明されていません。例えばα7(C8)のようなαサブユニットは、7量体αリング構築に対して配位する役割があるかもしれません(10)。19Sレギュレーターの構築様式の理解はまだ不十分ですが、6つのATPaseと他の2つのタンパク質を含む"基部"と、集合プロセスの詳細を築き上げる上で19S複合体構造の基本的特徴を明確にするのを助ける"蓋"に存在する調節タンパク質から成ることが、実証されています(12)

20Sプロテアソームと6つの活性部位(●印)の断面
20Sプロテアソームと6つの活性部位(●印)の断面

20S プロテアソームのサブユニット成分
20S プロテアソームのサブユニット成分

様々なプロテアソーム活性化/調節複合体
様々なプロテアソーム活性化/調節複合体

● 脱ユビキチン化酵素

ユビキチン結合酵素に比べて脱ユビキチン化酵素をコードする遺伝子が多いことが、酵母のゲノム配列決定で明らかとなりました。脱ユビキチン化酵素はユビキチン鎖の分解(1)や26Sプロテアソームによる再編(24)を含む細胞のタンパク質分解に重要です。また細胞周期調節で重要な役割があり (42, 43)、恐らくDNA修復及びタンパク質ユビキチン化/脱ユビキチン化を含む幾つかの大きな複合体において、RINGフィンガーE3の1つ(27)であるBRCA1(19)と相互作用しています。

● トリペプチジルペプチダーゼ

UPS は、タンパク質を小さなペプチドに分解しますが、さらにそれらからアミノ酸を作り出すシステムがあるはずです。その有力な候補が、様々なペプチドをトリペプチドに開裂する、メガタンパク質複合体のトリペプチジルペプチダーゼと、これをさらにアミノ酸までに切断するエクソペプチダーゼです(39)。他の酵素もこれらのシステムを支えている可能性があり、その完全な特徴付けが期待されています。

● 代替:ゲーム中のキープレーヤー

進化は代替により起こります。例えばラクタシスチンにより20Sプロテアソーム活性を欠いた細胞は、タンパク質分解や抗原処理に他のプロテアーゼを用いることで生存します(11)。この代替プロテアーゼは、区切られた巨大なトリコーン・プロテアーゼかもしれません(37)が、その真の重要性は不明です。

様々な形態のプロテアソームの生合成と成分
様々な形態のプロテアソームの生合成と成分

参考文献

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