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記事ID : 18353
研究用

膜タンパク質の単離、精製、構造研究、機能解析に有用 ナノディスク

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多くの膜タンパク質は、界面活性剤を含むバッファーを使用することでその安定性と活性を維持することができます。しかし、界面活性剤に感受性な膜タンパク質も存在し、これらには界面活性剤を含むバッファーは適さず、精製できない(精度や収量が低い)、安定性が低い(崩壊しやすい、または沈殿が激しい)、あるいは活性がない(おそらく膜タンパク質が界面活性剤に感受性であるか、その活性にはリン脂質二重層構造が必要)といった複数の問題があります。
この種の膜タンパク質には、ナノディスク技術が有用で、膜タンパク質の単離、精製、構造研究、および機能解析において役に立ちます。ここ稿では、ナノディスクの組成と構造、ナノディスクとリポソームの比較、および膜タンパク質へのナノディスクの適用について記載します。

Cosmo Bio would like to acknowledge and thank the WUHAN HUAMEI BIOTECH Co., Ltd for providing Nanodiscs information presented here.

ナノディスクの組成と構造

ナノディスクの主な成分は合成リン脂質と膜足場タンパク質(MSPs)としても知られる両親媒性らせん状タンパク質です。膜足場タンパク質は血清アポリポタンパク質に付随する一方で、血清アポリポタンパク質は高密度リポタンパク質の主要成分です。2つの膜足場タンパク質は、リボン形状をとってリン脂質を囲んでいます(図1参照)。すなわち、円盤状のリン脂質二重層ナノディスクです。

円盤状HDLの分子ベルトモデルを基にしたナノディスク構造
図.1 円盤状HDLの分子ベルトモデルを基にしたナノディスク構造の (a) 二重層に対して垂直、(b) 二重層平面からみたモデル図
膜足場タンパク質の2つの単量体(青とシアン)はリン脂質二重層(白色)-直径10nm- の区域周辺に両親媒性螺旋ベルトを形成する。

* The model is courtesy of S. C. Harvey[1].

モデル膜

◆ リポソーム

リポソームは、両親媒性の脂質二重層小胞です。リポソームの調製方法は多数ありますが、最もよく知られている簡単な方法は、Bangham法[2]です。標的脂質を揮発性の有機溶剤に溶解し、不活性ガスで乾燥させます。得られた薄層脂質を水溶性緩衝液とともにボルテックスした後、最後に、超音波処理、均質化、およびサイズ既知のフィルター(通常孔径100〜200nm)を通して放出する、などといった様々な手法で単層気泡へと変換します。ただし、これによって不安定性、不均質性、および再現性の低さといったリポソームの明らな欠点が生じます。
リポソームは簡単に凝集や融合を生じ、長期におよぶ操作や流れを止める、激しく混合する、といった特定の物理的処理において不安定になることがあります。押し出し機で成形したリポソームの大きさは均質ではなく、ロットごとの差が大きくなることもあります[3]。リポソーム内に会合された膜タンパク質は、しばしば濁った粘稠性のものになり、特定の生物学的分析技術が使用できない可能性もあります。

◆ ナノディスク

ナノディスクの調製には、リン脂質、膜足場タンパク質、および界面活性剤を含むマスターミックスの調製があり、界面活性剤除去後、残りの成分は直径8〜16nmのナノディスクとよばれる円盤状リン脂質二重層として会合します[4]。ナノディスクの直径はMSPバンドの長さで決まり、リン脂質がMSPと最適なモル比率にある場合は均質なナノディスクが形成されます。
ナノディスクは、リポソームに比べてより均質(1回の調製ごとに)かつ一貫性(異なる調製バッチにおいて)があります。正確な粒子サイズであること、MSP配列長を調整して大きさを変えられること、そして安定であることがリポソームと比較した場合のナノディスクの利点です。

膜タンパク質におけるナノディスクのアプリケーション

ナノディスク技術は、構造研究をはじめ、構造生物学、電子顕微鏡、NMR、EPR、および分光測定検出といった様々な技術分野に適用することができます。

特色とアプリケーション 実験手法 膜タンパク質
可溶化と安定化 X線結晶解析
NMR
共鳴ラマンスペクトル法
光学吸収
EPR
無細胞発現
GPCR
さまざまな膜タンパク質
チトクロムP450
チトクロムP450とロドプシン
トランスポータとロドプシン
多様
足場タンパク質や脂質上の親和性タグを用いた表面固定化 単分子研究、SPR、LSPRおよび感知と検出 チトクロムP450、GPCR、および血液凝固第VII因子
単量体単離、多量体、および複数タンパク質の機能的複合体 構造および機能研究 受容体とロドプシン
CPRとATPaseを含むチトクロムP450
構造的に均質な調製 SAXSとSANS
EM
チトクロムP450と還元酵素
受容体とチャネル
大きさ、電荷、または密度による分画 クロマトグラフィ、電気泳動、および超遠心 多様
タンパク質-膜間結合 SPR K-Rasタンパク質、TF-VIIaおよびPgPトランスポータ
タンパク質の性質への膜効果 酸化還元電位
動態学
チトクロムP450還元酵素
血液凝固第VIII因子
呼吸器複合体

表.1 ナノディスクに抱合された膜タンパク質に使用された手法やツール
SPR: 表面プラズモン共鳴; LSPR: 局在化SPR; CPR: NADPH-チトクロムP450還元酵素[5].

In Vitro E.coliタンパク質発現とナノディスク技術を用いたアクアポリン発現

WUHAN HUAMEI BIOTECH社では、in vitro E.coli タンパク質発現とナノディスク技術を組み合わせ、あらかじめ合させたナノディスクをin vitro E.coli タンパク質発現システムに取り入れました。膜タンパク質の翻訳ステップでにこれをナノディスクに会合させ、膜タンパク質 - ナノディスク複合体を形成させました(図2)。この疑似的人工脂質環境は、膜タンパク質に対するさまざまな脂質の影響を分析する新規の手段となり、膜タンパク質の研究に役立ちます。

MSPナノディスクの模式図
図.2 7つの膜貫通タンパク質が包埋されたMSPナノディスクの模式図
直径:およそ10.6 nm。

* Picture from Sligar.

SDS-PAGE結果
図.3 ナノディスクとE.coli アクアポリンZ(aqpZ)を良好に会合した後のSDS-PAGE結果
図2に示したように、MSPと標的タンパク質である膜タンパク質aqpZの2つのバンドが確認できる。

参考文献

  1. Applications of Phospholipid Bilayer Nanodiscs in the Study of Membranes and Membrane Proteins. Abhinav Nath, William M. Atkins, and Stephen G. Sligar. Biochemistry, 2007, 46 (8), 2059-2069
  2. Large volume liposomes by an ether vaporization method. D Deamer, AD Bangham. Biochimica et Biophysica Acta, 443 (1976) 629-~34
  3. Applications of Phospholipid Bilayer Nanodiscs in the Study of Membranes and Membrane Proteins. Abhinav Nath, William M. Atkins, and Stephen G. Sligar. Biochemistry, 2007, 46 (8), 2059-2069
  4. Self-assembly of discoidal phospholipid bilayer nanoparticles with membrane scaffold proteins. Timothy H. Bayburt,Yelena V. Grinkova, and Stephen G. Sligar. Nano Letters, 2002, 2 (8), pp 853-856
  5. Nanodiscs for structural and functional studies of membrane proteins.Ilia G Denisov & Stephen G Sligar. Nature Structural & Molecular Biology 23, 481-486 (2016)

ナノディスク

品名 メーカー 品番 包装 希望販売価格
Aquaporin Z(aqpZ),Nanodisc Escherichia coli 詳細データ CSB CSB-CF352724ENV-(N) 20 UG
¥273,000
Aquaporin Z(aqpZ),Nanodisc Escherichia coli 詳細データ CSB CSB-CF352724ENV-(N) 100 UG
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Androgen-dependent TFPI-regulating protein(ADTRP),Nanodisc, Human詳細データ CSB CSB-CF846640HUB1-(N) 20 UG
¥273,000
Androgen-dependent TFPI-regulating protein(ADTRP),Nanodisc, Human詳細データ CSB CSB-CF846640HUB1-(N) 100 UG
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C-C chemokine receptor type 4(CCR4),Nanodisc, Human詳細データ CSB CSB-CF004843HU-(N) 20 UG
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C-C chemokine receptor type 4(CCR4),Nanodisc, Human詳細データ CSB CSB-CF004843HU-(N) 100 UG
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Prolipoprotein diacylglyceryl transferase(lgt),Nanodisc詳細データ CSB CSB-CF875009LNG-(N) 20 UG
¥273,000
Prolipoprotein diacylglyceryl transferase(lgt),Nanodisc詳細データ CSB CSB-CF875009LNG-(N) 100 UG
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Lipoprotein signal peptidase(lspA),Nanodisc詳細データ CSB CSB-CF2619BA-(N) 20 UG
¥271,000
Lipoprotein signal peptidase(lspA),Nanodisc詳細データ CSB CSB-CF2619BA-(N) 100 UG
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