加藤 洋平 先生
Yohei Katoh
京都大学大学院 薬学研究科 生体情報制御学分野
加藤 洋平 先生
Yohei Katoh
京都大学大学院 薬学研究科 生体情報制御学分野
メーカー:Proteintech 社 メーカー略号:PGI
メーカー:Abnova 社 メーカー略号:ABV
一次繊毛は、ヒトのほとんどの細胞が有する小さなオルガネラである。そこには様々な受容体やイオンチャネルが存在し、化学シグナル、機械的刺激、光刺激などを感知したり、発生・分化にかかわるヘッジホッグなどの多様なシグナルを受容したりする「細胞のアンテナ」として機能する。一次繊毛に関わる遺伝子に異常が生じると、多岐にわたる重篤な症状(嚢胞腎、網膜色素変性、脳や骨格の形成異常、多指症、内臓逆位、病的肥満、不妊など)を示す「繊毛病」が引き起こされる。私たちは繊毛内タンパク質輸送と、その異常によって発症する繊毛病の分子メカニズムの解明を目指して研究を行っている。
一次繊毛の研究には、不死化ヒト網膜色素上皮(hTERT-RPE1)細胞が頻用される。この細胞は血清飢餓によって細胞周期のG0期へと移行し、一次繊毛の形成が誘導される。hTERT-RPE1 細胞の一次繊毛は長さが約 3 µm、太さが約 0.3 µm と非常に小さいので、そこに存在するタンパク質も極めて微量である。したがって、一次繊毛に局在するタンパク質を抗体で染色しようとする場合には、質の高い抗体が要求される。私たちは一次繊毛のマーカーとして Proteintech社の抗 ARL13B 抗体と Abnova社の抗 FOP 抗体を愛用している。これらの抗体を使って免疫染色を行うと、図1のように一次繊毛と中心小体(基底小体)を鮮明に染めることができる。また、これらの抗体は PFA 固定とメタノール固定のどちらの固定法でも使えるので、共染色したい他の抗体がどちらかの固定法でしかうまく染まらないときにでも柔軟に対応できる。しかも、抗 ARL13B 抗体は 1,000 倍希釈で、抗 FOP 抗体は 10,000 倍希釈で用いても十分に染色可能である。
市販の抗体の多くは、細胞に過剰発現させた抗原タンパク質を検出できることは保証されているが、内在性のタンパク質を検出できるところまでは保証されていない。抗体を購入して実際に試してみると、過剰発現させたタンパク質は免疫染色やウェスタンブロッティングで確かに検出可能であるが、内在性のタンパク質は検出できないことがしばしば起こる。その点において、Proteintech社の抗体は内在性タンパク質を検出できるかどうかまで検証したデータが添付されていることから、信頼性が非常に高いメーカーだと感じている。私たちは今回紹介した抗体以外にも以下に挙げた Proteintech社の抗体を利用して良好な結果を得ているので、今後も利用していきたいと考えている。
図1 抗 ARL13B 抗体と抗 FOP 抗体で二重染色した hTERT-RPE1 細胞
血清飢餓条件で培養した hTERT-RPE1 細胞を抗 ARL13B 抗体と抗 FOP 抗体で二重染色し、核を Hoechest 染色した。ARL13B は繊毛膜局在タンパク質であり、FOP は中心小体局在タンパク質である。左は PFA 固定した細胞、右はメタノール固定した細胞の染色画像である。
カバースリップ上で hTERT-RPE1 細胞を培養し、100% コンフルエントの状態にした。
培地を 0.2% BSA/Opti-MEM に置換し、血清飢餓状態で24時間培養して繊毛形成を誘導した。
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