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NutriStem® hPSC XF medium を用いたヒト人工多能性幹細胞の培養

ユーザーレポート

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竹原 俊幸 先生
Toshiyuki Takehara

近畿大学医学部附属病院 高度先端総合医療センター
再生医療部 助教

Product

メーカー:Biological Industries Ltd.  メーカー略号:BLG

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NutriStem® hPSC XF ゼノフリー培地(ヒト ES 細胞/ヒトiPS 細胞用)

フィーダーフリーでシングルセルクローニングが可能なゼノフリー培地

米国FDAドラッグマスターファイルに登録
NutriStem® hPSC XF が2016年12月に米国FDAのドラッグマスターファイル(DMF)に登録されました !! NutriStem? hPSC XF ヒトES/ iPS 細胞用ゼノフリー培地
  • Ready-to-use: ワンボトルタイプで、用時調製する必要なし
    (アラニルグルタミンやサプリメントを含有済み)
  • ヒト由来の精製もしくはリコンビナントタンパク質を含みます
    - ヒト組換えタンパク質:bFGF(低濃度)、TGF β、insulin
    - ヒト由来タンパク質:アルブミン、トランスフェリン
  • フィーダーフリー培養(Matrigel® 、iMatrix、ラミニン521、ビトロネクチン等)、フィーダー培養条件(HFF、MEF)の両方で培養可能
  • ES/iPS 細胞の優れた増殖が可能(例:H9.2、I6、I3.2、H1)
  • ES 細胞にて長期間培養(50 継代以上)を確認済
  • ES 細胞にて細胞の多能性を維持を確認済(胚様体形成およびテラトーマ形成)
  • ES 細胞の正常な表現型および核型を維持
  • 使用文献100 報以上!!
  • シングルセルでの継代が可能
 

実験内容

再生医療の実現化に向けて多くの研究者が日々研究を進めており、その中でも特に多能性幹細胞を利用した再生医療技術に注目が集まっている。多能性幹細胞は、神経細胞や肝細胞、筋肉細胞など多種多様な機能細胞へ分化できる多分化能を維持しつつ、半永久的に増殖することができる細胞である。現在では、ヒトを含む様々な動物種から作られた多能性幹細胞をいろいろな細胞へ分化誘導し、ヒトの体がどのように作られるのかを研究するモデルとしても使用されている。もちろん、この技術を応用し、再生医療の移植材料としても期待が大きい。2007 年に山中教授によって発見された人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cell: iPS 細胞)の出現により、オーダーメイド医療、すなわち患者ごとの病気の診断、予期、治療法の開発など新しい分野においても研究が加速している。

一方、ヒト iPS 細胞をはじめとする多能性幹細胞の培養においては、いくつかの問題を有していることが示されている。例えば、細胞株差による品質の不均一性、目的の細胞への誘導効率の低さとばらつき、および長期間培養によるゲノムの不安定さなどが報告されている。これらを解決するため、様々な研究者や企業がヒト iPS 細胞の汎用性の高い培養技術の開発を行っており、培養液も重要な課題のひとつと考えられている。

ヒトiPS 細胞を維持する細胞内シグナル経路において、bFGF/MAPK および Activin/Nodal シグナルカスケードが中心的な役割を担っており、主にそれらを活性化することで未分化維持を行うことが可能である。しかし、細胞株間での性質のばらつきが成長因子、サイトカインへの感受性にも及んでいるのか、株間での応答性、安定性に違いがあることが経験されていた。一方で、強制的に未分化を維持するために成長因子やサイトカインを過剰に投与してしまうと、未分化は維持されるが、今度は分化させることが難しくなる。ヒト多能性幹細胞をマウス多能性幹細胞のような均一な集団にすること、また、成長因子あるいはサイトカインに対する反応に再現性が得られることは重要な課題であった。

Biological Industries 社 Nutristem® hPSC XF medium(以降、Nutristem 培養液)は、フィーダーフリーの環境下でヒト iPS 細胞など多能性幹細胞の培養を容易に行うことができる。具体的な利点としては、(1) 足場(細胞外マトリクス)依存性が低いこと、(2) 細胞増殖が良く、単一細胞からの培養が可能である、(3) 分化を阻害しない、といったことが挙げられる。

(1) について、通常フィーダーフリーで培養する際には、細胞の足場であるコーティング剤と培養液の相性が悪いと、細胞接着が不適となりすぐに分化が始まるといったことがあった。しかし、少なくとも我々の使用経験上、Nutristem 培養液ではコーティング剤との相性による問題は生じておらず、例えば iMatrix511 以外にも、Matrigel でも問題なく未分化状態を維持することが可能であった(図1 および 2)。また、フィーダー細胞上でも培養液を改変することなく培養することができ、フィーダーあり、なしの環境を容易に行き来させることができる。

Nutristem 培養液を用いたヒトiPS 細胞の培養

図1 Nutristem 培養液を用いたヒトiPS 細胞の培養
異なる matrix 上においてもヒト iPS 細胞として維持することができる。
また、複雑な構造を持つ胚様体を誘導することが可能であった。

(2) については、株差は多少あるものの、従来の培養液に比べて死滅細胞が少なく非常に増殖が良い。そのため、多量の細胞数を必要とする実験にも対応できる。また、単一細胞からの高い増殖能力を期待できることから、電気穿孔法を用いた遺伝子導入を容易にしている。我々は CRISPR/Cas9 システムを用いて、数多くのノックアウトヒト iPS 細胞株を作成することに成功している。

さらに Nutristem 培養液の最大の特徴である (3)「分化を阻害しない」という点では、分化誘導を行う実験において、フィーダー細胞上で維持された場合と同等とまではいかないまでも、胚様体の作成(図1)、神経系や間葉系細胞への分化誘導方法にもプロトコルを改変することなく供することが可能で、簡便に目的の分化細胞が得られている。Nutristem 培養液は ready to use となっており、別途何らかの試薬を添加する必要がない。手元に届けばすぐに実験に用いることができるという点では、新規に参入する研究者、技術者の大きな助けになるであろう。

Nutristem 培養液を用いたヒトiPS 細胞の未分化性状態

図2 Nutristem 培養液を用いたヒトiPS 細胞の未分化性状態
未分化細胞の指標のひとつである OCT4 タンパク質がコロニー全体に均一に発現していることが観察された。さらに、FACS 解析にて同様に未分化細胞の表面マーカーとして使用されている rBC2LCN をほぼすべての細胞で発現していることが示された。

これまでに、ヒト iPS 細胞など多能性幹細胞に対する様々な培養方法が考案されているが、Nutristem 培養液は xeno-free 培養液の中でも遺伝子改変、分化誘導といった多能性幹細胞の長所を最大限発揮させられることから、重要な選択肢の一つになりうると考えられる。