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記事ID : 13471

SV40, hTERT, HPV E6/E7, EBV, MycT58A, RasV12, p53

Applied Biological Materials(APB)社 細胞不死化ガイドライン


Applied Biological Materials(APB)社の細胞不死化用製品をご利用いただく場合の一般的なガイドラインを以下に示します。実験を行う際には、それぞれの実験系に合わせて条件の最適化を行い、ご利用ください。

細胞不死化システム

初代培養細胞は培養液中において予定された有限数の細胞分裂を生ずるのみであることが明確に実証されている( Stewart SA. 2002)。限定数の集団倍加(種、細胞種、および培養条件により数値は異なる)を経た後、初代培養細胞は分裂できない状態となる。この状態は複製老化と呼ばれる( Stewart SA. 2002, 2006)。複製老化は細胞形態、遺伝子発現および代謝といった明確な変化で特徴付けられる。形態変化はしばしば細胞の大きさや複数の核発生を付随する。遺伝子発現変化として、p53, RBおよびp16といった腫瘍抑制タンパク質の活性化がしばしばみられる。代謝変化として、外来性βガラクトシダーゼ(Ben-Porath I. 2004, 2005)の過剰発現から明らかなように、リソソームの生合成増加を伴うことが一般的である。

 

細胞不死化の必要性

初代培養細胞は限定数の集団倍加後に老化に達することから、研究者は外植片より新鮮な培養環境を再構築する必要があるが、この行程は単調であるばかりでなく、調製ごとに顕著なばらつきを与える可能性がある。研究プロジェクトを通じて一貫性のある材料を保持するために、複製能力が延びた初代培養細胞か、不死化細胞が必要となる。理想的な不死化細胞とは、増殖の延長が可能であるだけでなくその親組織と類似または同一の遺伝子型と表現型を保有する細胞である。

 

不死化細胞構築方略

哺乳動物細胞を培養条件下で不死化する手法はいくつか知られている。まず、猿ウイルス40(SV40)T抗原といったウイルス遺伝子を利用して不死化を誘発する方法がある(Jha KK, 1998, Kirchhoff C 2004)。SV40 T抗原は、数々の異なる細胞種において最もシンプルかつ信頼性の高い媒介物であることが示されており、また細胞不死化におけるSV40T抗原の機序が比較的よく理解されている(Lundberg AS, 2000)。近年の研究より、SV40 T抗原は感染細胞におけるテロメア活性を誘導できることが示唆されている。
最近開発された細胞不死化手法にテロメア逆転写タンパク質(TERT)の発現を介するものがあり、ヒト細胞を始めとする特にテロメア鎖長に影響がみられる細胞を主に対象としている(Lundberg AS. 2005; Fridman AL, 2008)。本タンパク質はほとんどの体細胞においては不活性化されているものの、外因的にhTERTを発現させると、細胞は 複製老化が回避できるよう十分なテロメア鎖長を維持する。複数のテロメラーゼ不死化細胞株を分析した結果、hTERTの過剰発現により不死化された細胞は、安定的な遺伝子型を維持し決定的な表現型のマーカーを保持することが確認されている。

 

細胞不死化システム

しかしながら、いくつかの細胞種(特に上皮細胞)では、hTERTの過剰発現による細胞不死化誘導が生じず、逆に細胞死を誘導することがある。近年の研究により、hTERT触媒サブユニットとp53またはRB siRNAを同時発現させることでヒト初代卵巣上皮がん細胞を不死化できることが示唆されており、遺伝的背景が明確にされたことにより標準的な正常細胞モデルが提示された(Yang G. Carcinogenesis 2007; Yang G., Oncogene 2007)。同様に、RasやMyc T58A変異体を過剰発現することで、いくつかの初代培養細胞種を不死化できることが報告されている(Sears R. 2000)。多くの場合、ウイルス遺伝子は細胞に複製老化状態を誘導できる腫瘍抑制遺伝子(p53, Rbなど)を不活性化することで不死化を達成している (Lundberg AS. 2000)。Applied Biological Materials(APB)社では、何年にもわたり細胞不死化を経験するなかで、hTERT, p53, RB, siRNAおよびSV40 T抗原用のレトロウイルス、レンチウイルス、およびアデノウイルスベクターから構成された包括的な細胞不死化商品の開発に至った。これらのツールをご利用いただくことで、細胞不死化プロジェクトをこれまで以上に簡便化することが可能となる。

 

細胞不死化の一般的なガイドライン

細胞不死化は非常に複雑な細胞内プロセスであり、現時点で正確な生物学的機序はあまりよくわかっていない。しかし、長年に渉る多様な初代培養細胞への細胞不死化より、数々の研究者により下記のことが認められている。

1)in vitro培養における増殖様式により主に"老化に至るまで20〜50継代培養できる群"と、"10継代培養未満で老化に至る群"の2群に大別できる。

2)in vitro培養条件下で20〜50継代培養の寿命をもつ初代培養細胞は、繊維芽細胞や網膜芽細胞といった主に芽細胞である。in vitro培養条件下で10継代未満の寿命をもつ細胞は、乳房や卵巣の上皮細胞といった主に上皮細胞である。

3)研究対象の初代培養細胞を不死化する場合、10継代以上培養可能な細胞にはhTERTまたはSV40 T抗原が利用可能である。SV40 T抗原は上皮細胞などの不死化困難な初代培養細胞に使用することが推奨される。また、限定された遺伝的背景をもつ不死化細胞が必要な場合は、Rbまたはp53 siRNAとhTERTを同時に発現させる手法も考えられる。

4)寿命が10継代未満の初代上皮細胞やその他細胞では、hTERTの導入によりのアポトーシスを誘導することが示されている。これらの細胞にはSV40 T抗原を使用することが推奨されている。多くの上皮細胞では、上皮成長因子(EGF)により老化までの寿命を10〜20継代に増加できることが報告されている(Ahmed N. 2006)。したがって、hTERT遺伝子導入を行う前に組み替え型EGF(10ng/mL)を添加することを考慮するのもひとつの方法である。

5)いくつかの初代培養細胞種では、SV40 T抗原またはhTERTを単独で過剰発現するだけでは完全に不死化できないことが知られている。しかし、これらの細胞へのSV40 T抗原とhTERTや他の遺伝子との組み合わせ発現の有効性が報告されている(Matsumura T. 2004)。

6)不死化プロセスは不確定な成長を行うクローンを選択するため、10集団倍加以下の初代培養細胞にはトランスダクション後の薬物選択は通常必要ない。

 

ウイルスベクターに関する一般的なガイドライン

初代培養細胞は形質転換に抵抗性であることが知られているが、組み替え型ウイルスベクター、 特にアデノウイルスやレンチウイルスベクターのトランスダクションには受容性である。細胞不死化を促進するため、APB社は包括的な領域ですぐに使用することができる細胞不死化用ウイルスベクターを開発した。

● 組替え型アデノウイルスベクター

組替え型アデノウイルスベクターは、組替え遺伝子送達を目的とする上で現在開発されている最も効果的なウイルスベクターであることが実証されている。全種類のヒト細胞(アデノウイルス受容体を欠く血液細胞を除く)に対して100%の効率でアデノウイルスベクターを導入することが可能である。しかし、アデノウイルスベクターは標的細胞ゲノムに組み込まれないため、一過性の導入遺伝子発現となる。ベクターDNAはやがて宿主細胞内で崩壊するか引き続き生ずる細胞分裂ごとに希釈される。したがって、Adeno-SV40またはAdeno-hTERTを導入した初代培養細胞はSV40 T抗原またはhTERTを細胞分裂速度によっては1〜2週間のみ発現すると考えられる。

 

● 組替え型レトロウイルスベクター

レトロウイルスベクターは核膜を能動的に通過させる輸送ができないため、活発に分裂している細胞にのみ導入可能である。細胞分裂中に核膜が崩壊し、これに伴いウイルスDNAがゲノムに接近できる。核に侵入するとレトロウイルスは宿主ゲノムに効率的に組み込まれ、永久的かつ定常的な遺伝子発現が生ずる。しかし、レトロウイルスベクターを使った標的細胞の導入効率は低く、特に分裂速度の低い初代培養細胞では導入効率が低い。

 

● 組替え型レンチウイルスベクター

新たに開発されたレンチウイルスベクターは核膜を能動的に通過できるため、分裂細胞と非分裂細胞の何れにも導入可能である。さらに、レトロウイルスベクターと同様、レンチウイルスベクターは核内に侵入すると宿主細胞ゲノムに組み込まれる。そのため、レンチウイルスベクターはin vitroin vivoにおける遺伝子導入アプリケーションにおいて注目されている。
レンチウイルスベクターの不利な点は、挿入サイズに制限があることである。開発されているほとんどのレンチウイルスベクターにおける最大挿入サイズは5.0 kbである。挿入サイズが3.0 kb未満の場合は293T細胞により効率よく高タイターでパッケージング可能である。挿入サイズが3.0 kbを超えるとウイルスタイターは顕著に低下する。SV40ゲノムは5.0 kb以上あるため、期待されるLenti-SV40タイターは比較的低いものとなる。

 

● レンチウイルスとレトロウイルスプロトコール

細胞不死化遺伝子と共にレトロウイルスとレンチウイルスベクターを標的細胞に感染させる方法の概要を以下に示す。

1)組替えウイルス上清を37℃のウォーターバス内で溶解し、溶解後、直ちに取り出す。凍結溶解ごとにウイルスタイターは顕著に低下するため、最初に溶解した後、残りの上清は分注して保管することを推奨する。

2)0.8mg/mL濃度のポリブレンストックを調製する。
3)午前中に、6ウェルプレートへ播種した標的細胞に2-10 μg/ml ポリブレン存在下で1ウェルあたり2mLの上清を感染させる。午後に行う2回目の感染に使用する残りのウイルス上清は冷蔵庫に保管する。
注:ポリブレンは電化の相互作用を中和して偽ウイルスキャプシドと細胞膜との結合を増大させるポリカチオンである。ポリブレンの至適濃度は細胞種により異なり、経験的に決定する必要がある(2〜10 μg/mLが一般的)。ポリブレンへの過剰曝露(12時間以上)は細胞によって毒性を示す場合がある。

4)6〜8時間後、第1回目の感染に使用したウイルス上清を各ウェルから除去し、1ウェルあたり2mLの新しい上清(ポリブレンを含む)を使用して標的細胞を再度感染させる。

5)レンチウイルスベクターの場合、ほとんどの標的細胞に対して1回の感染(一晩培養)で十分である。細胞傷害性が問題となる場合、レンチウイルスベクターを新しい完全培地(1:1)で希釈する。

6)翌日、ウイルス上清を除去し、適切な完全生長培地を細胞に添加して37℃で培養する。

7)72時間培養後、細胞を2つの100mmディッシュにわけて継代培養し、定常細胞株構築用に適切な選択マーカーを添加する(必要な場合のみ)。

8)セレクションから10〜15日後、クローンを拾って増殖させ、導入遺伝子発現が行われているかスクリーニングを行う(例:ウェスタンブロット、RT-PCRなど)。

 

● アデノウイルスプロトコール

細胞不死化遺伝子と共にアデノウイルスベクターを標的細胞に感染させる方法の概要を以下に示す。APB社のアデノウイルスをご利用頂く場合は、最低250 μl(106 pfu/ml)のアデノウイルスベクターの播種用ストックが提供される。播種用ストックを用いて、下記のプロトコールの実施に必要なアデノウイルスを増幅して使用する。

1)組替え型アデノウイルスを入手した際、2〜3に分注し、その1つを293細胞での増幅に利用する。他の分注品は今後の播種用ストックとして-70℃で凍結する。

2)HEK293でアデノウイルスを増幅し、60〜70%の培養密度で撒く。60mmディッシュの場合、70μLのアデノウイルスを感染させ、100mmディッシュの場合、200μLのウイルスを感染させる。

3)95%以上の293細胞がディッシュから剥離した際(4〜5日後)、大きなコニカルチューブに細胞と培地の両方を回収する。

4)回収したものに対して凍結(-70℃の冷凍庫またはドライアイス/エタノール)と解凍(37℃のウォーターバス)を3回繰り返す。

5)細胞の壊死組織片を室温で3,000rpmにて10分間遠心して沈渣する。

6)上清を新しいチューブに移す。すぐに使用する場合は4℃で保管するか(2〜3週間)、グリセロールを最終濃度10%となるように加え、-70℃で冷凍保存する(1〜2年間安定)。

7)上清を標的細胞への感染に使用する。その後、導入遺伝子発現をウェスタンブロットまたはRT-PCRで確認する。
ウイルス上清または精製したアデノウイルスを用いて、標的細胞に組み替え型アデノウイルスベクターを導入できる。ほとんどのin vitro実験では、ウイルス上清を濃縮することなく使用して100%の効率で標的細胞に導入できる。しかし、in vivo実験では精製した高タイターのアデノウイルス調製が必要であり、FBSや他の汚染物の混入がないウイルス調製が要求される。大容量アデノウイルスベクター調製を要する場合には、APB社のAdd-N-Pure™ アデノウイルス精製キット(品番:A902)の情報をご参照ください。

 

● アデノウイルストランスダクションプロトコール

a)  6ウェルプレートまたは100mmディッシュに標的細胞を播種し、トランスダクションの際に70%の培養密度となるよう調整する。

b) 培養溶液を吸引し、ウイルス培養上清(6ウェルプレートには1mL、100mmディッシュには4〜5mL)を加えて細胞を覆い、37℃の培養器で6〜8時間培養する。

c) 6〜8時間後、ウイルスを含む培地を除去して新しい完全培地と交換する。

d) トランスダクションから48〜72時間後より、ウェスタンブロット、qPCR解析または蛍光レポータ遺伝子をもつ場合は顕微鏡観察などいくつかの手法により遺伝子導入を評価することができる。

参考文献

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