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記事ID : 15301

ゲノム編集の標的特異性を改善するニッカーゼCRISPR-Cas オフターゲット作用をコントロールする


ゲノム編集技術は、複雑な生命体において標的ゲノム部位に特異的な変異・変化を導入できるため、生物学および医学において非常に重要です(Bogdanove & Voytas, 2011; van der Oost, et al., 2013)。

近年、CRISPR-Casシステムは、遺伝子ノックアウトや正確かつ明確な塩基変更、遺伝子組換えを始めとする数々のアプリケーションに繁用されています。CRISPR-Casは、そのデザインの容易さ、効率の高さ、および比較的安価であることから、遺伝子疾患の原因となる変異修正への利用や、期待しない結果の要因となってしまう場合もある従来の無作為導入遺伝子組込みの代替法として期待されています。

しかし、CRISPR-Cas 自身にはオフターゲット(作用)変異誘発性を生ずる傾向があることもわかってきました。ただし、本技術においては、近年の改良によりオフターゲット作用を低減する方略もあります。それにも関わらず、CRISPR-Casの特異性は比較的低いと信ずる研究者も多く、本稿では、ゲノム編集アプリケーションにおけるCRISPR-Casの機序、どのように特異性に影響を及ぼすか、CRISPR-Casのオフターゲット(作用)変異誘発性の可能性に関する論文報告、およびCRISPR-Casによる標的特異性の改善に関して討論します。

Cosmo Bio would like to acknowledge and thank the GeneCopoeia, Inc. for providing CRISPR Off-target Mutagenesis information presented here.

ダブルニッキング法によるオフターゲット作用を低減したゲノム編集ツール

CRISPR-Cas 標的認識

CRISPR-Casシステムを利用してゲノム編集を行う場合には、通常、1)化膿性連鎖球菌(S.pyogenes)由来Cas9ヌクレアーゼ、2)単鎖ガイドRNA(sgRNA、gRNA)の2種の構成要素を利用します。sgRNA(ガイドRNA、gRNA)は、CRISPR-Casにおける標的認識に利用される2つのRNA分子(The CRISPR RNA (crRNA) and the transactivating CRISPR RNA (tracrRNA))のキメラであり、2012年にJinekらによって紹介されました(図.1)。sgRNA(ガイドRNA、 gRNA)は標的部位特異性を担う20塩基の可変領域をもちます。さらに、S.pyogenes Cas9(野生型Cas9)では、DNA結合用に"PAM"(プロトスペーサー隣接モチーフ)として知られる3塩基のN-G-G配列が特異的配列の直後に必要です。PAMはsgRNA(ガイドRNA、gRNA)配列と同一の側鎖に存在する必要があり、またsgRNA(ガイドRNA、 gRNA)の一部であってはなりません。

化膿性連鎖球菌(S.pyogenes)由来Cas9ヌクレアーゼは、標的部位への結合および標的DNAの切断のために、標的特異的なcrRNA(CRISPR RNA)とtracrRNA(transactivating CRISPR RNA)を要する

図.1 化膿性連鎖球菌(S.pyogenes)由来Cas9ヌクレアーゼは、標的部位への結合および標的DNAの切断のために、標的特異的なcrRNA(CRISPR RNA)とtracrRNA(transactivating CRISPR RNA)を要する。PAM配列(灰色)は、Cas9/sgRNA複合体が切断部位を探索するときの目印であり、赤矢印は頻出する切断部位を示す。2つのRNAは融合して1つのsgRNA(ガイドRNA、gRNA)としてゲノム編集を行う。

sgRNA(ガイドRNA, gRNA)がCas9と複合体を形成すると、複合体は標的とPAM配列を見つけて接岸し、DNAニ本鎖を巻き戻し、20塩基のsgRNA(ガイドRNA、gRNA)が反対鎖の相補配列にアニールします。これによりCas9ヌクレアーゼが二本鎖切断(DSB; 図.2)を導入します。二本鎖切断(DSBs)を速やかに修復することができなければ、細胞は死滅してしまいます。細胞にとって好ましい二本鎖切断(DSBs)修復経路は、比較的誤りの少ない相同組換え(HR)ですが、染色体が複製され姉妹染色分体が対形成を行った後の分裂後期で生ずる必要があるため、有糸分裂細胞で生ずることはほとんどありません。HR(HDR、相同組換え)は通常、非分裂細胞でも生じません。相同性がない場合、二本鎖切断(DSBs)は、代わりに、非相同性末端結合(NHEJ)によって修復されます。NHEJは、その修復機構において元来エラーを起こしやすく、破壊された染色体末端を繋ぎ合わせる際に短鎖の挿入や欠損(indels)を導入します。数々の研究者は、CRISPR-Casによるゲノム編集アプリケーションにおいて、この挿入欠損形成傾向を簡便かつ効率的な遺伝子ノックアウト手法として活用しているのです。

ゲノム編集ツールにより誘導されるDNA二本鎖切断(DSBs)修復経路

図.2 ゲノム編集ツールにより誘導されるDNA二本鎖切断(DSBs)修復経路
左図:非相同性末端結合
右図:ドナー用鋳型存在下での相同組換え

sgRNA結合の特異性

CRISPR-Cas に与えられた標的配列鎖長は20塩基であることから、もしも染色体上の標的部位へのRNA結合が、厳格に配列依存性である場合、これらの標的は真核生物ゲノムにおいて特有のものである必要があります。PAM配列との組み合わせにより、CRISPR-Casが他の部位を切断することは非常に考え難いケースです。しかしながら、CRISPR-Casの特異性には配列構成だけが関与するわけではありません。Yanfang Fuらの研究グループは、染色体に組込まれたGFPレポーター遺伝子の3種の部位が、1つまたはそれ以上のミスマッチを持つにもかかわらず、sgRNAがCas9ヌクレアーゼをこの標的部位へと導いたことを報告しています (Fu、 et al., 2013)。隣接しつつ分散した複数のミスマッチが、sgRNA(ガイドRNA、gRNA)とレポーター標的間に存在する場合にも許容性が見られています。sgRNA(ガイドRNA、gRNA)配列のうちPAM配列に最も隣接した10塩基以内に存在するミスマッチは、「毎回」という頻度ではないものの、通常、PAM配列より離れた10塩基に存在するミスマッチより許容性を示し、ミスマッチの分配耐性は標的によってバラツキが見られました。

さらに、Fuらは3種の内在性ヒト遺伝子に対するsgRNA(ガイドRNA、gRNA)を作製し、レポーターアッセイ結果をもとに各sgRNA(ガイドRNA、gRNA)がオフターゲット作用を示すであろう、他の部位を予測しました。ほぼ全てのオフターゲット部位には標的RNAとの間に複数のミスマッチが存在しました。さらにFuらは、T7エンドヌクレアーゼI アッセイにより挿入欠損の存在を検出し、これらの予測されたオフターゲット部位は、しばしば挿入欠損を保持し、さらにこの数は元来の標的部位に比べて同等またはそれ以上あることを見つけました。sgRNA(ガイドRNA、gRNA)と染色体配列間で、最大5つのミスマッチが存在する場合であっても、検出可能な挿入欠損を形成する場合がありました。分析した染色体の標的や使用した細胞において、ミスマッチ寛容性の程度がsgRNA(ガイドRNA、gRNA)によって変わることが示されました。

CRISPR-Cas オフターゲット変異誘発性に関する近年の解析

Fuら(2013)を始めとするCRISPR-Casシステムの特異性に関する初期の研究では、本技術を遺伝子治療のような高い特異性を要するアプリケーションに利用できるのか懐疑的でした。近年の研究では、CRISPR-Casの特異性は高い、ということが報告されています。例えば、MITのEric Landerの研究室では、レンチウイルスに組込んだsgRNAのプールを用いてヒト細胞における大規模な変異誘発性スクリーニングを行っています。DNA損傷薬剤への耐性スクリーニングにおいて、間違った標的をしたsgRNA(ガイドRNA, gRNA)に比べ、正確に標的したsgRNA(ガイドRNA, gRNA)のほうが、遥かに高い頻度でDSB導入によるミスマッチ修復経路における遺伝子変異を引き起こすことが示されています(Wang, et al., 2014)。

マウスの白内障治療に成功したsgRNA(ガイドRNA, gRNA)は、12検体中10検体の形質転換動物において10種の予測されたオフターゲット部位に対して何ら影響を及ぼさず、残り2検体においてわずか1ヶ所のオフターゲット部位に変異を生じたのみでした(Wu, et al., 2013)。これらの報告やその他の研究報告 (Li, et al., 2013; Yang, et al., 2013)、および高い特異性を示すようより改善されたsgRNAs予測ソフトウェアツール(Ran, et al., 2013a; Xiao, et al., 2014)の利用を併せて考慮すると、CRISPR-Cas9によるオフターゲット変異誘発性は高い傾向にあると長い間心配されてきたことが過剰反応である可能性も大いにあります。

 

特異性を高めるCas9変異体(ニッカーゼ型)

sgRNA(ガイドRNA, gRNA)デザインの改善だけではなく、Cas9変異体の使用によりCRISPR-Casによるオフターゲット(作用)変異誘発をさらに低減できることが示されています。野生型Cas9は2つのヌクレアーゼドメインをもち、それぞれが片方のDNA鎖を切断します。何れかのドメインを変異させることでCas9を「ニッカーゼ」へと転換することができ、一本鎖のみを切断するようにできます。ニッカーゼ変異体によって、sgRNA(ガイドRNA, gRNA)の結合特異性に変わりはないので、オフターゲット部位に送達される可能性はあるものの、単一のニックでは変異原性のNHEJを生ずることはありません。染色体上の各鎖を標的とする2種のsgRNA(ガイドRNA, gRNA)をデザインすることでねじれ型の二本鎖切断(DSBs)を作製することができ、NHEJまたはHRによる修復を受けることができます(図.3)。HarvardのGeorge Churchらの研究グループやMITのFeng Zhangらの研究グループはこの「一対のニッカーゼ」を利用する方策によりNHEJやHRの何れのDNA修復も効率よく誘導できることを報告しています(Ran, et al., 2013b; Mali, et al., 2013)。さらにZhangらは、3種の異なる部位を標的するsgRNA(ガイドRNA, gRNA)を用いた実験で、一対のニッカーゼを利用することでオフターゲット(作用)変異誘発の頻度を50倍から1500倍へと劇的に低減できることを示しました。

Cas9ダブルニッカーゼ手法の一般的な概略。Ran, et al.(2013b)より引用

図.3 Cas9ダブルニッカーゼ手法の一般的な概略。Ran, et al.(2013b)より引用

一方で、ダブルニッカーゼのデザインは容易ではありません。お互いのPAM配列が近位に位置するsgRNA(ガイドRNA, gRNA)対("head-to-head"方向)に比べ、お互いのPAM配列が最も遠位に配置されたガイドRNA対("tail-to-tail"方向)では、より高い頻度で挿入欠損が形成されます(Ran, et al., 2013b; Mali, et al., 2013)。さらに、各sgRNA(ガイドRNA, gRNA)の末端同士の間隔(オフセット距離)も重要となります。最も効果の高いニッカーゼペアは、通常オフセット距離が0から20塩基です。ダブルニッカーゼ手法は、オフターゲット作用による期待しない二本鎖切断(DSBs)をほとんど生ずることなく、効率よく二本鎖切断(DSBs)を作製できる一方で、デザインの制約によりアプリケーションによっては適切な部位として使用可能な範囲が限定されます。 最後に、近年の報告では、最短17塩基のsgRNA(ガイドRNA, gRNA)配列は、標準型の20塩基のものと比較して、その挿入欠損形成効果が同程度であることが示されました(Fu, et al., 2014)。さらに、著者らは、これらの「切り詰め型sgRNA」を用いて4種の遺伝子を標的したところ、オフターゲット(作用)変異誘発性が最大5000倍まで低減できたと報告しています。しかし、この切り詰め型sgRNAが一般に効果的であるかどうかは、さらなる検討が必要でしょう。

以上より、sgRNA(ガイドRNA, gRNA)デザインと方策の改良、改変型Cas9ヌクレアーゼ(ニッカーゼ型)との併用などにより、当初考えられていたほどオフターゲット(作用)変異誘発性を過剰に憂慮することなく、遺伝子治療をはじめとする数々のアプリケーションにCRISPR-Cas9を活用できることは明白といえます。

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参考文献

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Fu, et al. (2013). High-frequency off-target mutagenesis induced by CRISPR-Cas nucleases in human cells. Nature Biotechnology 31, 822.

Fu, et al. (2014). Improving CRISPR-Cas nuclease specificity using truncated guide RNAs. Nat. Biotechnology 32, 279.

Jinek, et al. (2012). A programmable dual-RNA–guided DNA endonuclease in adaptive bacterial immunity. Science 337, 816.

Li, et al. (2013). Heritable gene targeting in the mouse and rat using a CRISPR-Cas system. Nat. Biotechnol. 31, 681.

Mali, et al. (2013). Cas9 transcriptional activators for target specificity screening and paired nickases for cooperative genome engineering. Nat. Biotechnology 31, 833.

Ran, et al. (2013a). Genome engineering using the CRISPR-Cas9 system. Nat. Protocols 8, 2281.

Ran, et al. (2013b). Double Nicking by RNA-Guided CRISPR Cas9 for Enhanced Genome Editing Specificity. Cell 154, 1380.

Shalem, et al. (2014). Genome-scale CRISPR-Cas9 knockout screening in human cells. Science 343, 84.

Shen, et al. (2014). Efficient genome modification by CRISCRISCRISCRISPR-Cas9 nickase with minimal off target effects. Nature Methods 11, 399.

Tsai, et al. (2014). Dimeric CRISPR RNA-guided FokI nucleases for highly specific genome editing. Nature Biotechnology Apr 25. doi: 10.1038/nbt.2908. [Epub ahead of print]. 

Wang, et al. (2014). Genetic screens in human cells using the CRISPR-Cas9 system. Science 343, 80. 

Wu, et al. (2013). Correction of a Genetic Disease in Mouse via Use of CRISPR-Cas9. Cell Stem Cell 13, 659.

Xiao, et al. (2014). CasOT: a genome-wide Cas9/gRNA off-target searching tool. Bioinformatics 30, 1180.

Yang, et al. (2013). One-step generation of mice carrying reporter and conditional alleles by CRISPR/Cas- mediated genome engineering. Cell 154, 1370.

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