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ゲノム編集ツールを入手したあとの実験作業をくわしく解説CRISPR-Cas9 ノックアウト実験と機能検証の手順


ゲノム編集は標的ゲノム部位に特異的変化を導入できるため、生物学および医学において非常に重要です(総論として、Bogdanove & Voytas, 2011; van der Oost, et al., 2013 をご参照ください)。近年、植物病変形成を基盤とするTALENや適応免疫に対する細菌のシステムを利用するCRISPR-Cas9の2種類のゲノム編集技術が登場しました。TALENとCRISPR-Cas9のいずれも、実質的にゲノム上のいかなる標的配列に対してもDNA二本鎖切断(DSB)を産生可能なエンドヌクレアーゼを利用し、遺伝子ノックアウト、トランス遺伝子ノックイン、遺伝子タグ付けおよび遺伝的欠陥矯正といった数々のアプリケーションに利用することができます。

しかし、使用した細胞株における期待した修正を同定するために必要な、いくつかの作業に気が付かないこともしばしばあります。本稿では、ゲノム編集ツールを入手したあと、実際に哺乳動物培養細胞を用いたゲノム編集を行う際に何をする必要があるのか、いわゆる「下流の作業」について討論します。

Cosmo Bio would like to acknowledge and thank the GeneCopoeia, Inc. for providing experimental methodology information using CRISPR technology presented here

CRISPR-Cas9のプラスミドを受け取ったら

GeneCopoeia(GCP)社では、同社のCRISPR-Cas9 ゲノム編集プラスミドの利用に際し、特定のワークフローをお奨めしています(図.1)。まず、E.coli に形質転換して凍結保存し、新しいDNAストックといつでも交換できるようにしておきます。 GeneCopoeia(GCP)社のプラスミドはアンピシリン耐性をもつため、一般的なプロトコールを用いてE.coli に形質転換できます。次に、市販のキットなどを用いてエンドトキシンフリーDNAを大量に調製します。

哺乳動物細胞を用いたゲノム編集のGeneCopoeia(GCP)社推奨ワークフロー

図.1 哺乳動物細胞を用いたゲノム編集のGeneCopoeia(GCP)社推奨ワークフロー

機能検証

GeneCopoeia(GCP)社では、実験をはじめる前に機能検証を行うことをお奨めしています。任意ではあるものの、これを実施することで入手したCRISPR-Cas9ゲノム編集ツールがどれくらい良好に機能するか、予測が立てやすくなりますので、目的細胞株を用いてご自身で機能検証することも大切です。

機能検証にはT7エンドヌクレアーゼIを使用するミスマッチ切断アッセイを推奨しています(Qiu, et al., 2004)。本アッセイでは、標的部位におけるDSB(DNA二本鎖切断)の非相同性末端結合(NHEJ)による挿入や欠損("indel")変異の存在を探します。本アッセイの基本的ステップ概要を図.2Aに示しました。一般的な手法を用いて細胞に一過性でトランスフェクションするか、あるいはレンチウイルス粒子をトランスダクションします。細胞回収後、ゲノムDNAを抽出し、DSB(DNA二本鎖切断)部位を挟む位置に設計されたプライマーを用いてPCRを行います。最後に、PCR産物を変性後、ミスマッチを含んだ二本鎖DNAを切断するT7エンドヌクレアーゼIを用いて処理します。この処理溶液をアガロースゲルに流すと、もし切断が生じた場合には3本のバンドがみられます。全長の分解されていないホモ二本鎖バンドとミスマッチ切断産物である2本のより短鎖なバンドです(図.2B)。

ミスマッチ切断アッセイ

図.2 ミスマッチ切断アッセイ

A: DSB形成から始まりミスマッチを含むPCR産物のT7エンドヌクレアーゼI処理までの一般的な流れ。
B: T7エンドヌクレアーゼI処理産物のアガロースゲル画像。レーン1はスクランブル型陰性コントロールsgRNAをトランスフェクションしたサンプルを示す。レーン2は未分解と分解産物(赤色*で表記)がみられ、切断が生じたことが示唆される。M: DNAラダーマーカー

GeneCopoeia(GCP)社では、CRISPR-Cas9またはTALEN実験を迅速かつ簡便に評価できるようT7エンドヌクレアーゼIを用いたミスマッチ切断アッセイキットをご提供しています。商品は、部位特異的プライマーを含まないキットと、特異的遺伝子の挿入欠損検出用にデザインされたプライマーを含むキットがあります。詳細は以下の商品紹介記事をご参照ください。

トランスフェクション or トランスダクション

GeneCopoeia(GCP)社のCRISPR-Cas9用非ウイルス性プラスミドは一般的な手法でトランスフェクションできますが、特定の細胞タイプに最適化および検証済のEndoFectin™ トランスフェクション試薬もご提供しています。使用細胞に適した手法・試薬をご選択ください。GeneCopoeia(GCP)社のCRISPR-Cas9レンチウイルスプラスミドは、第3世代のレンチウイルスパッケージング試薬に対応しており、Lentifect™ レンチウイルスパッケージング試薬やレンチウイルスパッケージングサービスもご提供しています。非ウイルスプラスミドとレンチウイルスプラスミドのいずれも、トランスフェクションやトランスダクションの作業工程が簡単になるよう、薬物選択マーカーと蛍光レポーター遺伝子を保有しています(図.3)。

GeneCopoeia(GCP)社ゲノム編集プラスミドの一例

図.3 GeneCopoeia(GCP)社ゲノム編集プラスミドの一例

A. CRISPR Cas9ヌクレアーゼ、1種類のsgRNA、G418選択用neo遺伝子、および蛍光レポーターとしてmCherryをコードした非ウイルス性のall-in-oneプラスミド
B.上部:neo遺伝子とeGFPをコードしたCRISPR Cas9ヌクレアーゼベクター(レンチウイルスプラスミド)
   下部:ピューロマイシン選択用puro遺伝子とmCherryをコードしたCRISPR sgRNAプラスミド(レンチウイルスプラスミド)

 

クローン単離

遺伝学では、「クローン単離」として知られるように、集団から離れた変異体を精製することが重要です。クローン単離を行うことで、結果の解釈を混乱させかねない細胞分裂やオフターゲット作用により生ずる期待しない修正による影響を最低限に抑えることができます。スクリーニングを始める際は、まず、単一コロニーを形成できるよう細胞を播種してディッシュから取り出すか、96穴プレートで段階希釈をとります。

 

スクリーニング

実施するスクリーニングのタイプは、どのようなゲノム編集を行うかによって異なります。ここでは、3種類の一般的な状況を論議します。

■ NHEJ(非相同末端結合)によるノックアウト

NHEJ(非相同末端結合)介在性ノックアウトを迅速にスクリーニングする方法として、機能検証の項に記載のあるミスマッチ切断アッセイがあります。修正されたクローンが同定できた後は、PCR産物を用いてサンガーシークエンス法による配列決定を行い、変異状態を同定する必要があります。GeneCopoeia(GCP)社では、クローンスクリーニングに利用できるミスマッチ切断アッセイキットをご提供しています。

■ ドナープラスミドを用いたHR(HDR)アプリケーション

一般に、TALENやCRISPR-Cas9を介する相同性組換え頻度は、NHEJ(非相同末端結合)と比べてかなり低いため、ドナープラスミドにより修正されたコロニーを同定するにはより多くのコロニーをスクリーニングする必要があるように思われるかもしれません。しかし、ドナープラスミドにより薬剤選択や、蛍光レポーターを導入することができます。GeneCopoeia(GCP)社のドナープラスミドは、薬剤選択や蛍光レポーター遺伝子をもっています(図.4)。トランスフェクション後、ピューロマイシン等の薬剤存在下において細胞を低密度で播種し、単一コロニー形成を促します。あるいは、96ウェルプレートを用いて段階希釈をとる方法もあります。薬剤存在下で生長するコロニーが、修正部分を保持する安定細胞株構築候補です。

薬剤耐性や蛍光レポーター発現クローンが同定できると、その後の手順はNHEJ(非相同末端結合)を利用する場合と劇的に異なります。ノックアウトの場合、通常、セレクション/レポーターカセットがタンパク質コード領域に組込まれ、CRISPR-Cas9により切断された部分に短鎖欠損をもつことも時々あります。その他、DNAの特定染色体領域が削除されカセットと置換される場合や遺伝子がインフレームの融合タグを保有する場合もあります。スクリーニングを行う場合、未修正の染色体配列と挿入配列との境界部分にまたがるプライマーを利用してPCRを行います。挿入配列の左と右側の両方において、マーカーと同方向に合成するよう相同腕用に1つのプライマーを設計し、反対側のプライマーは相同腕に向かって合成するよう挿入配列に設計します。もし組込みが良好に行われた場合には、アガロースゲル上で期待される大きさのバンドを確認することができます。

HR(HDR)アプリケーション用GeneCopoeia(GCP)社ドナープラスミドの一例

図.4 HR(HDR)アプリケーション用GeneCopoeia(GCP)社ドナープラスミドの一例

薬剤選択を行うとドナープラスミドのランダム組込みを招く恐れがあり、除外する必要があります。GeneCopoeia(GCP)社のドナーベクターは組換え領域の外側に単純ヘルペスウイルス(HSV)チミジンキナーゼ(TK)遺伝子をもっています(図.4)。ガンシクロビルを添加した選択培地を使用すると、ドナープラスミドがランダムに組込まれた細胞は通常死滅するため、正常なドナー組込みが生じた細胞群を濃縮することができます。それほど頻繁ではありませんが、ランダム組込みによりTK遺伝子が排除されることもあるため、PCRやサザンブロットを行ってこれらを除去するほうがよいでしょう。

最後に、HR(HDR)により修正された遺伝子は、修正部位周辺の染色体構造を確認し、導入した変異が存在することを検出するため、該当する場合には配列決定する必要があります。 哺乳動物細胞システムにおけるCRISPR-Cas9のデザイン、構築およびその利用に関する専門知識や経験に富むGeneCopoeia(GCP)社では、sgRNAやHDRドナーデザインから作業を開始し、配列検証済みプラスミドをご提供しています。また、CRISPR-Cas9構築や機能検証などのカスタムサービスもご提供しています。

 

CRISPR-Cas9実験の注意点

トランスフェクションやスクリーニング計画を考える前に、スクリーニングするコロニー数に影響を及ぼす可能性がある複数の要因や、必要な場合には繰返し実施するトランスフェクションの回数に関して熟考する必要があります。

■ トランスフェクション効率

CRISPR-Cas9 ゲノム編集ツールを受け取るであろう細胞の割合は、スクリーニングを行うコロニー数を決定する上で非常に重要です。もし使用細胞株におけるトランスフェクション効率が40%の場合、トランスフェクション効率が80%の細胞に比べて2倍もの数のコロニーをスクリーニングすることが予想されます。もし使用細胞株のトランスフェクション効率が低い場合、プラスミドにコードされた蛍光マーカーを使ってソーティングしてトランスフェクションされた細胞を濃縮したり、短期的には薬剤選択を利用することもできます。GFPを始めとする蛍光レポーターを定常発現するプラスミドを利用して使用細胞株のトランスフェクション効率を推定することを推奨します。

■ コピー数

完全なノックアウトや変異誘発性を得るためには、標的遺伝子の全ての対立遺伝子を修正する必要があるかもしれません。二倍体細胞株を使用する場合、2つの対立遺伝子を修正する必要性があると想定する研究者が多くいます。しかし、HeLaを始めとする一般的な不死化細胞株の多くは、異数体または倍数体であるため、対象遺伝子を2コピー以上保有している可能性があります。1つの細胞内では、複数の対立遺伝子修正に比べて単一対立遺伝子修正効率の方が高くなります。したがって、もし2つ以上の対立遺伝子を修正する必要がある場合には、2対立遺伝子修正に比べてより多くのコロニーをスクリーニングする必要があると考えられますので、複数回にわたってトランスフェクションを行う必要があるかもしれません。

■ 切断効率

CRISPR-Cas9による挿入欠損形成効率は、通常、約5%〜70%です。トランスフェクション効率の場合と同様に、切断効率が40%の場合に比べ、それが20%の場合は2倍ほどの数のコロニースクリーニングが予測されます。

修正クローンを同定するためのスクリーニングに使用するべきコロニー数は、使用する細胞由来の要因や、要因の組合せに依存します。単純計算すると、もし50%の切断効率をもつCRISPR-Cas9 ゲノム編集ツールを用いてトランスフェクション効率が60%の二倍体細胞株の2対立遺伝子ノックアウトを得たい場合、単一対立遺伝子が修正されたコロニーの割合は0.5 × 0.6 = 30%となります。2対立遺伝子修正の場合、陽性コロニーの割合は15%となります。以上を考慮すると、2対立遺伝子修正をもつクローンを1つ同定するためには少なくとも20のコロニースクリーニングが必要となります。もし、トランスフェクションと切断効率がより低い場合で、使用細胞株に標的遺伝子が2コピー以上存在する場合、わずか1つの完全なノックアウト細胞を単離するために、より多くのコロニースクリーニングが必要となります。

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参考文献

Bogdanove & Voytas (2011). TAL Effectors: Customizable proteins for DNA targeting. Science 333, 1843.

Qiu, et al. (2004). Mutation detection using Surveyor™ nuclease. Biotechniques 36, 702.

van der Oost, et al. (2013). New Tool for Genome Surgery. Science 339, 768.

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