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技術情報

定量的shRNAスクリーニングによる新規幹細胞機能制御遺伝子の同定

記事ID : 11670

定量的shRNAスクリーニングによる新規幹細胞機能制御遺伝子の同定
佐賀大学医学部 特別講師 西岡 憲一 先生 ご寄稿

2. スクリーニング方法の構築と実施


(1) 使用する細胞株とレポーター遺伝子の選択

一般的にスクリーニングは系ができるだけ単純な方が望ましく、細胞の播種性も重要な因子になってくる。筆者の場合、ES細胞を用いることは理想的であったが、前述のようにこの細胞は細胞周期や生存に影響が出現しやすい特性を持ち、無フィ−ダー細胞培養系における播種性は条件にもよるが必ずしも良くない。これらを踏まえ、今回はマウスF9幹細胞を用い、その表現型を解析することによってスクリーニングを行うこととした(図1)。F9細胞は播種性がとても良く、分化誘導実験において比較的良くモデル細胞として用いられたマウス胎仔性癌細胞株であり、レチノイン酸によって内胚葉系細胞へすみやかに分化する。ここでは代表的分化マーカーである4型コラーゲンを検出し、これをレポーターとした。4型コラーゲンを構成するタンパク質の1つをコードするCol4a1遺伝子クロマチンはヒストンH3-Lys4及びLys27が両方ともトリメチル化されており、発現には一定の抑制がかかっている。ここでは示さないが、実際にレチノイン酸添加やポリコーム群遺伝子産物であるRnf2のノックダウンでCol4a1遺伝子が脱抑制されることを確認した。

(2) ライブラリーレンチウイルス感染細胞の樹立

今回用いたレンチウイルスshRNAライブラリーは2つのモジュールに分かれており、それぞれおよそ4,500種類の標的遺伝子に対する27,000種類のshRNAコンストラクトを含む。セレクタ社における分析によると、各コンストラクト間の存在比は100倍未満である。したがって、1モジュールあたり3×106種類の独立クローンを得れば理論上全てのコンストラクトが解析できると予想される。実際の実験では7×106種類のクローンを樹立し、増幅して最終的にはおよそ2×108個の細胞をアッセイへ投入した。一般に分化実験における細胞の表現型はある種の集団密度効果の影響を受けやすく、全く同一のshRNAコンストラクトを用いても表現型が一様ではないので、ここでは十分な数を準備する必要がある。

(3) アッセイ条件の設定

今回は内在性タンパク質を発現誘導し、これを蛍光染色して検出するという比較的シンプルな方法である。ライブラリー感染後のF9細胞を100mm-dishに1枚あたり2×106個ずつ65〜70枚に播種し、エンハンサーであるBt2-cAMP(ジブチリルサイクリックAMP)存在下(1mM)で24時間培養した。細胞を0.05%のトリプシン溶液で剥離・分散させ、その後は10%血清含PBSで洗浄・回収した。血清は操作中の細胞喪失を抑制するためには不可欠である(後の染色操作においても同様である)。細胞を90%冷メタノールで固定し、4型コラーゲンを蛍光染色後、FACSにかけて蛍光強度にしたがって細胞を分離した。今回の場合、残念ながら分化・未分化の細胞群がクリアに分離することはなかった(図1・FACS)。そこで、感染細胞群から投入群として2×107個(10%)の細胞をあらかじめ回収し、高発現の2×107個(上位10%)の細胞を選抜群として回収した。

回収した細胞を溶解し、RNaseA及び超音波処理を行い、その後ProteinaseKを用いた一般的な方法で断片化ゲノムDNAを抽出した。これを鋳型に、ウイルスに組み込まれたバーコード配列をPCR法で増幅した(大量の核酸の存在がPCRを阻害することに気をつける)。増幅したバーコード断片を次世代シーケンサーで解析した(セレクタ社、コスモ・バイオ社)。実験はウイルス感染から3回繰り返した。

実験の概要

図1 実験の概要
マウスF9胎仔性癌細胞株は未分化幹細胞的な性質を持ち、レチノイン酸とエンハンサー存在下で分化誘導すると壁側内胚葉系細胞へと変化する。この時、分化マーカーである4型コラーゲン遺伝子はポリコーム群・トリソラックス群遺伝子産物の制御下にあると考えられ、誘導に伴ってその発現が増加する。スクリーニングでは、shRNA発現レンチウイルス感染によって軽度の分化を誘導し、4型コラーゲンの発現レベルによってFACSで選抜・分離する。分離した細胞よりゲノムDNAを抽出し、次世代シーケンサーでウイルスバーコードを解析してshRNAコンストラクトの定量を行う。投入群と比較した各コンストラクトの濃縮率を算出することによって標的遺伝子を同定・ランキング化する。

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