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技術情報

定量的shRNAスクリーニングによる新規幹細胞機能制御遺伝子の同定

記事ID : 11671

定量的shRNAスクリーニングによる新規幹細胞機能制御遺伝子の同定
佐賀大学医学部 特別講師 西岡 憲一 先生 ご寄稿

3. 解析結果


(1) 基本データ

専用デコンボリューションソフトウェアを使って、投入群と選抜群それぞれについての次世代シーケンサーの配列情報から各shRNAコンストラクトを同定し、それぞれのリード数の情報を得た。その結果、得られた各2千万リードのうち、最大/最小リード数は各モジュールでそれぞれ12,314/14及び2,806/8であった(表2)。このことから、ライブラリーウイルス感染後に各コンストラクト間の存在比率の差は拡大したものの、全てのshRNAコンストラクトについて評価できていることがわかる。各データの正規化を行った後、投入群と選抜群との比率をLog2変換(ΔLog2)し、3回の実験について平均値と標準偏差を算出した(表2)。平均値によってshRNAコンストラクトのID及び標的遺伝子を並べ直してランキング化した。標準偏差のおよそ95%が0.2以下(平均はそれぞれ0.0913及び0.0880)だったので、ざっくりと分けるとすれば、平均値が0.4以上のshRNAコンストラクトは投入群と比較して高発現の選抜群で有意に濃縮されていることが期待される(図2及び表2)。この範囲には全コンストラクトのおよそ2.5%が相当していた。また、それらの10〜20%が同一の遺伝子を標的としたものだった。

■ 表2:スクリーニングの基本データ
  最小リード数
(/ 2x107)
最大リード数
(/ 2x107)
平均標準偏差
(Δlog2)
ΔLog2 > 0.4
(1.32倍以上濃縮)
1.5倍以上濃縮
Module 1 14 12,314 0.0913 632(498 genes) 158(124 genes)
Module 2 8 2,806 0.0880 692(604 genes) 170(157 genes)
全shRNAコンストラクトの濃縮率
図2 全shRNAコンストラクトの濃縮率
全shRNAコンストラクトの濃縮率の分布。X軸は投入群において検出された各shRNAコンストラクトの正規化リード数の平均値(N=3)で、Y軸は選抜群と投入群の平均値の比をLog2変換したものである(ΔLog2)。Y軸値のΔLog2>0 は投入群よりも選抜群でリードが多く検出され、濃縮傾向にあることを示す(Increase)。ΔLog2>0.4を示すshRNAコンストラクトは有意に濃縮されている可能性がある。

(2) 既知ポリコーム群遺伝子産物のノックダウン

ライブラリーには一定数の既知ポリコーム群遺伝子産物を標的とするshRNAコンストラクトが含まれているので、これらをデータから抽出してみた。ライブラリーには1遺伝子あたり5〜6種類のshRNAコンストラクトが含まれている。当然のことながら、同一遺伝子に対するそれぞれの効果は一様ではない。今回は最も濃縮されたshRNAコンストラクトで該当する標的遺伝子を代表させた。すると、抽出した14種類全てのshRNAコンストラクトのΔLog2値が0より大きく、6種類が0.4以上であった(図3)。したがってこの結果から、スクリーニングの系がうまく動いており、目標とするポリコーム群遺伝子機能に影響を及ぼす新規遺伝子が採れていることが期待される。またこのように、全ての解析した遺伝子についての情報が得られるのもこの次世代型スクリーニング法の利点であろう。ちなみに図2のModule1において、最も希釈されたshRNAコンストラクトはCol4a1遺伝子に対するものだった。

図3 ポリコーム群遺伝子産物に対するshRNAコンストラクトの濃縮率
図3 ポリコーム群遺伝子産物に対するshRNAコンストラクトの濃縮率
ポリコーム群遺伝子産物に対するshRNAコンストラクトの濃縮率 の分布。ここでは各遺伝子に対応する数種類のshRNAコンストラ クトのうち、最も濃縮されているもののみを示した。図2と同様、 ΔLog2>0.4を示すshRNAコンストラクトは有意に濃縮されている 可能性がある。

(3) 新規遺伝子の機能解析

ここでは示さないが、上位ランクに含まれる遺伝子のうち、いくつかのshRNAコンストラクトについてF9細胞でCol4a1遺伝子及び代表的なポリコーム群標的遺伝子であるHoxd4遺伝子の脱抑制を確認した。意外性のあるおもしろい新規遺伝子がいくつか採れているが、今回はそのうち2つの遺伝子(X及びY)を選択してさらに解析を進めた。これら遺伝子はいずれも、ES細胞において比較的高発現しており、これまでに既知ポリコーム群遺伝子産物との関連が報告されていない。さらに、転写抑制因子としての報告もない。

遺伝子Xについては、CRISPRテクノロジーを利用してES細胞で標的組換えを行い、ホモ・ノックアウト細胞を樹立したので、これを一部紹介する。このノックアウト細胞は増殖能が低く、無フィーダー細胞培養系に移すとほどなく分化し始める(図4)。したがって、遺伝子Xの翻訳産物はES細胞の未分化性を維持するのに一定の役割を担っていると考えられる。

遺伝子Yについては、ショウジョウバエホモローグ(遺伝子y)が存在しており、よりシンプルに既知ポリコーム群遺伝子との関連が解析可能であったので、これを紹介する。なお、この解析結果は国立遺伝学研究所・名誉教授の広瀬進氏のご好意で提供していただいた。実験はショウジョウバエのオス成体の第1肢の特徴である性櫛(sexcomb)が第2肢にも異所性に出現する表現型を観察した(表3)。まず、ある既知ポリコーム群遺伝子zのヘテロ変異体(z[mut])では、10%程度のオスの第2肢に異所性の性櫛が観察された。遺伝子yのヘテロ変異体(y[mut])ではそのような表現型は認められなかった。ところがこれら変異遺伝子の二重ヘテロ変異体を調べると、異所性の性櫛の出現頻度は既知ポリコーム群遺伝子zのヘテロ変異体の場合の2倍以上にも増加した。そしてこの表現型は遺伝子yを発現するトランスジーン(y[transgene])で抑圧されることを確認した。このことから、遺伝子yと既知ポリコーム群遺伝子zとは遺伝学的相互作用が存在すると考えられる。遺伝子yの翻訳産物が何らかのメカニズムでポリコーム群遺伝子産物と協調してホメオチック遺伝子の発現を抑制しているのだろう。

ES細胞を用いた遺伝子Xの機能解析
図4 ES細胞を用いた遺伝子Xの機能解析
左:野生型
右:ホモ・ノックアウト
ES細胞を用いた遺伝子Xの機能解析。CRISPRテクノロジーを用いてホモ・ノックアウトES細胞を樹立した。この細胞はコロニーの成長が比較的ゆっくりで、無フィーダー培養系に移行すると分化傾向を示す。

■ 表3:ショウジョウバエを用いた遺伝学的相互作用の解析
遺伝子型 解析オス個体
総数
第2肢での
性櫛観察個体数
浸透率
(%)
+ / + 521 0 0
y[ mut] / + 454 0 0
z[ mut] / + 471 44 9.3
z[ mut] / +; y[ mut] / + 448 116 23.8
z[ mut]+ / + y[ transgene]; y[ mut] / + 477 47 9.9
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