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技術情報

Cytodiagnostics社 金ナノ粒子・金コロイドの基礎と応用

記事ID : 14356
研究用

金ナノ粒子の表面修飾・表面デザイン2. 金ナノ粒子の表面修飾・デザイン


金ナノ粒子は、生物学や医学の分野で広く応用され、バイオセンサーや細胞内プローブ、薬物送達物質、光学造影物質としても使用されます[1]。金ナノ粒子を特定のアプリケーションで利用するにあたり、金ナノ粒子表面の設計・修飾がきわめて重要になります。

本項では、金ナノ粒子の修飾ストラテジーと共に、生物学・医学への新たな応用展開について説明します。

背景

金ナノ粒子を特定のアプリケーションで利用するにあたり、金ナノ粒子表面の設計・修飾がきわめて重要です。
ポリエチレングリコール(PEG;polyethylene glycol)やポリエチレンオキシド(PEO;polyethylene oxides)などのポリマーによる表面修飾は非特異的な結合を減少させます。ビオチンやペプチド、タンパク質のような低分子物質による表面修飾は、in vitroin vivo における細胞内標的に対する特異性を向上させます。また、DNAによる表面修飾は遺伝子検出に使用されます。

金ナノ粒子表面の修飾ストラテジーの鍵は、金原子に対して高い結合親和性を持つ硫黄、窒素、または酸素原子を含有する分子です。例えば、チオール(-SH)化したDNAやタンパク質は、比較的容易に金ナノ粒子の表面に吸着します。Cytodiagnostics(サイトダイアグノスティクス/CTD)社の金ナノ粒子は、共有結合または生物学的相互作用(例:ストレプトアビジン-ビオチン)を利用して金ナノ粒子表面の被覆ポリマーや生体認識分子に結合させるため、金ナノ粒子を使用する系に応じて高い融通性と汎用性を提供します。

金ナノ粒子の表面修飾

PEG修飾金ナノ粒子

PEG(ポリエチレングリコール/polyethylene glycol)はポリエーテル分子で、一般的に分子量と構造(直鎖状、分枝状、星型、クシ型/linear, branched, star, or combed)と共に記載されます。PEG 分子は、チオール、アミン、カルボン酸、またはアルコールで官能化することができ、硫黄-金原子の結合によってPEG分子を金ナノ粒子表面に被覆することができます。興味深いことに、金ナノ粒子表面にPEGを修飾することによって、非特異的なタンパク質結合の減少が示されています[2]。近年、0.96 PEG/nm2以上の金ナノ粒子は、非特異的結合を減少させ、マクロファージ取り込みの阻害に必要であると示されています。これらの既存研究から、Cytodiagnostics社では、非特異的な細胞取り込みを最小限にする PEG 修飾金ナノ粒子を設計しました。非特異的タンパク質への結合は、言い換えると特異性に影響する要素です。したがって、金ナノ粒子を利用して特定の分子や細胞受容体を標的とする生物学の分野では、非特異的結合の抑制が非常に重要になってきます。さらに、Cytodiagnostics社のPEG修飾金ナノ粒子はカルボン酸またはアミン基突出を含むため、カップリング剤であるEDC(1-Ethyl-3-(3-dimethylaminopropyl)carbodiimide)を使用することによって他の分子を表面に結合(コンジュゲート)させることが可能です。結合反応では、金ナノ粒子をEDCおよび標識分子と2時間インキュベートします。インキュベート後、遠心によって余剰の標識分子を除去・精製します(Note 105 - Covalent conjugation to Cytodiagnostics Carboxylated Gold Nanoparticles for detailed procedure を参照)。これらの標識操作を施すことで、バイオアッセイに使用するための金ナノ粒子標識体を調製します。

生体認識分子修飾金ナノ粒子(Coated with Bio-Recognition Molecules)

生体内の特定分子を標的化するためには、金ナノ粒子の表面修飾が不可欠です。例えば、一本鎖DNA(オリゴヌクレオチド)は相補的な配列を認識し、抗体は抗原を認識します。金ナノ粒子表面を様々な分子(オリゴヌクレオチド、抗体、ペプチドやその他の生体認識分子)で被覆することにより、ウェスタンブロット(図1)や溶液中、細胞内/細胞表面、動物組織中の特定分子を認識させることができます。つまり、粒子表面の標識によって金ナノ粒子に生物学的機能を持たせることが可能です。一般的に、金ナノ粒子を被覆する生体認識分子は、受動吸着または共有結合(カルボン酸またはアミン基を含む金ナノ粒子を利用する)によって金ナノ粒子表面を標識されます。

イムノドットブロットアッセイによるヒト IgG 抗体検出
図1.イムノドットブロットアッセイによるヒト IgG 抗体検出。
検出にはIgG抗体 を標識した金ナノ粒子、銀ナノ粒子、金ナノアーチン(スパイク状金粒子)を使用した。
標識粒子の金属の種類(金または銀)や形状(球状ナノ粒子またはナノアーチン)によって検出される ドットの色に違いが生じます。

 

ヘテロジニアスな表面デザイン

PEGと生体認識分子の両方を表面に持つ金ナノ粒子は、以下のアプリケーションに有用です。生体認識分子は、金ナノ粒子に生物学的な特異性を与え、PEG分子は非特異的結合を抑制します。Cytodiagnostics 社の金ナノ粒子は、アプリケーション毎に最適な表面デザインを設計可能な豊富な製品をラインアップしています。

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応用・アプリケーション

PEGと生体認識分子(BRM:bio-recognition molecules)の両方またはいづれかで被覆した金ナノ粒子は、多くの用途にご使用いただけます。(例:バイオセンサー、細胞内プローブ、薬物送達物質、光学的造影物質)
金ナノ粒子標識体を使用した具体例について、そのいくつかを以下に紹介します。

DNAセンサー(DNA Sensors)

一本鎖DNAで表面修飾した金ナノ粒子は、遺伝子の検出に使用されます[3]。本用途では、一本鎖オリゴヌクレオチドで被覆した金ナノ粒子を目的のDNA断片とインキュベートします。フラグメントが金ナノ粒子上のオリゴヌクレオチド配列と相補的である場合、金ナノ粒子とフラグメントの複合体が形成されます。複合体を形成し「凝集(aggregation)」状態にある粒子では表面プラズモンがカップリングするため、溶液の色調は赤色から青色に変化します。したがって、色の変化でポジティブ検出が可能です。また、サンプル中の変異はサンプルを熱変性することで検出します。DNA配列中に変異が存在すると、DNAを熱変性したときに、解離する融解温度(Tm値)が低下します。変異のある配列と完全相補の配列の融解温度をそれぞれ測定・比較することによって、塩基の置換・変異の存在有無を検出します。より複雑なスキームでは分析DNA断片内の変異の位置を識別するようにも設計することができます。

Cytodiagnostics社では、長年の開発経験で得られた高度な技術を通じて、オリゴヌクレオチドを金ナノ粒子へ結合するために最適化したプロトコールと共に「OligoREADY™ 標識キット」を提供しています。チオール化オリゴヌクレオチドと金ナノ粒子(粒径:5-100nm)を用いて簡便な標識が可能となります。

In vivo がん研究への応用

金ナノ粒子のPEG/BRMシステム(BRM:bio-recognition molecules)は、腫瘍を選択的に標的化してがん細胞に結合させるために応用されます。興味深いことに、PEG修飾金ナノ粒子は受動的メカニズム(passive mechanism)のみを利用して腫瘍を標的化します。金ナノ粒子表面をPEG層で保護する利点は、PEG修飾を施すことでマクロファージへの取り込みの減少です。マクロファージは、細網内皮系(reticuloendothelial system)の一部で、血液中の異物除去に働きます。PEG修飾層は、血液中タンパク質と金ナノ粒子表面との相互作用を減少させ、、非特異的なマクロファージへの取り込みを最小限に抑制します。結果として、ナノ粒子は血液内に長期間存在することができ、腫瘍に対する薬剤溢出(tumor extravasation)を可能にします。金ナノ粒子に薬剤や造影物質を塗布することで、腫瘍の視覚化ツール、ならびに送達物質としても使用することができます。腫瘍を標的化する別の方法として、いわゆる「アクティブターゲティング」があり、金ナノ粒子を腫瘍細胞や細胞外基質、血管上の受容体を認識させる生体認識分子で被覆します。金ナノ粒子を使用する利点としては、サイズや形状、表面の化学修飾によって送達効率を制御できる点です。[4

ナノ毒性学(Nanotoxicology)

研究者の直面する重要な課題の一つは、ナノ粒子のサイズ、形状、表面の化学的修飾といった物理化学的特性が生体内や細胞中での分布にどのように影響するのかということや、ナノ材料の特定の設計が毒性を引き起こすのかということについて知見を得ることです。金ナノ粒子は粒径の分布を狭い範囲で調整することができるため、薬物動態・毒性研究を実施するには理想的なプラットフォームです。さらに、異なる形状や表面の化学修飾のデザインが容易です。したがって、金ナノ粒子を利用することで体系的に生体内での挙動を評価することが可能です。ナノ毒性学研究は、最も低い毒性の粒子デザインを特定し、最終的なアプリケーション選択に応用することです。

細胞内プローブ(Cellular Probes)

金ナノ粒子は光を散乱し、暗視野顕イメージングを行う場合、蛍光に類似した明るいスポットとして検出されます。暗視野シグナルは、蛍光色素のように光退色しないことが大きな利点です。細胞表面の受容体に対する抗体などで金ナノ粒子を標識することによって、細胞内の特定分子の標的化とイメージングを行うことができます。加えて、標的分子検出レベルが低い場合、銀増感法を用いることで検出感度を改善することも可能です。

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まとめ

表面(surface)は、ナノ粒子と周囲の環境との「境界」であり、粒子表面の操作は金ナノ粒子の使用において不可欠な要素です。Cytodiagnostics 社では、金ナノ粒子表面への非特異的結合を低減するPEG修飾製品、および生体認識分子でさらに機能化した製品によって、細胞内特定分子のターゲティングや細胞内プロセスの可視化のためのストラテジーを提供します。

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参考文献

  1. Sperling, R. A.; Gil, P. R.;Zhang, F.; Zanella, M.; Parak, W. J.. Biological Applications of Gold Nanoparticles, Chemical Society Reviews, 2008, 37, 1896-1908.[PMID:18762838]
  2. Walkey, C. D.; Olsen, J. B.; Guo, H.; Emili, A.; Chan, W. C. W. Nanoparticle Size and Surface Chemistry Determine Serum Protein Adsorption and Macrophage Uptake, Journal of the American Chemical Society, 2012, 134, 2139.[PMID:22191645]
  3. Elghanian, R; Storhoff, J. J.; Mucic, R. C.; Letsinger, R. L.,; Mirkin, C. A. Selective Colorimetric Detection of Polynucleotides Based on the Distance Dependent Optical Properties of Gold Nanoparticles, Science, 1997, 277, 1078. [PMID:9262471]
  4. Chou, L; Chan, W. C.W. Fluorescence-Tagged Gold Nanoparticles for Rapidly Characterizing the Size-Dependent Biodistribution in Tumor Models, Advanced Healthcare Materials, 2012, DOI: 10.1002/adhm.201200084. [PMID:23184822]

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