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コロナウイルスと細胞骨格 CYTOSKELETON NEWS 2020年03月号

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CYTOSKELETON NEWS 2020年2月号

コロナウイルスと細胞骨格

コロナウイルススーパーファミリー(コロナウイルス科)には、一般的な風邪、ウイルス性脳炎といった大きなRNAゲノムをもった複数のヒト病原体が属しています。これらは、α-、β-、γ-コロナウイルスファミリーに分類され、さらにA、B、Cの系統に分類されます。COVID-19はβコロナウイルスのB系統に分類され、SARS-CoVと高い類似性を示します。このことから、最近SARS-CoV-2と名称変更されました1)。βコロナウイルスファミリーの最初のメンバーは1960年代に記録されていますが、新たな毒性をもつヒト病原体の出現速度はこの20年間で急激に加速しており、現時点では全6種を数えます。特に最近のものは、SARS(重症急性呼吸器症候群、2002)、HKU(香港、2005)、MERS(中東呼吸器症候群、2012)と聞き覚えのある呼び名が付いており、最新のものはCOVID-19 / SARS-CoV-2です。このウイルスの出現はヒトや動物の人口密度の増加と関連しており、人獣共通感染症の伝播率が増加しています2)

本報では、ウイルスの4段階からなる“生活”環について、その細胞骨格との相互作用に焦点を当てながら説明します。

コロナウイルス科の感染の第1段階は、スパイク(S)タンパク質を介した細胞表面へのノイラミド酸部分(9個の炭素原子をもつ酸性糖)またはヘパラン硫酸へのスパイク(S)タンパク質の接着です3)。全ての哺乳動物細胞表面上にはこれらドッキング分子が多種類あり、細胞膜接着のための高い重複性があるため、この感染戦略は非常に効率がよいのです。細胞膜に結合後、ウイルス粒子はFAK/コフィリン/Rac/Cdc42経路を制御することで活発に細胞骨格を再編成します4)。Lvらは、in vitroで、コロナウイルスPHEVをマウス脳神経芽細胞株(N2a)に投与すると、糸状仮足、葉状仮足、およびストレス繊維の比率が時間で変動することを示しました。興味深いことに、5分以内にストレス繊維の大部分が劣化し、糸状仮足に検出可能なF-アクチンが集まり、全蛍光ファロイジンシグナルの80%を産生しました4)。20-40分の間に、葉状仮足が同等の共同プレーヤーとして現れ、60分後には正常レベルである60%のシグナルがストレス繊維である状態へと戻りました。これは巨視的な観察による知見ですが、ビリオンが自身の細胞侵入を制御する局所環境を作成することがナノメータスケールで示されています。Owczarekらは、コロナウイルスOC43をヒト大腸腺癌細胞(HCT-8)に投与して、陥入(invagination)、小胞切断(vesicle excision)、およびF-アクチン機能について研究を行いました5)。クラスリン依存性エンドサイトーシス、カベオラ依存性陥入、および飲作用は全て、ウイルス粒子の侵入機構に関与しています。大型のGTPaseであるダイナミンは、小胞切断(vesicle excision)と侵入に必須です5)。Milewskaらによるウイルス侵入に関する同様の研究は、活動的なエンドサイトーシスまたはカベオラ依存性陥入や飲作用といった他の機序を介したビリオンの集団侵入について報告しており、感染率は細胞表面へのウイルス接着に依存することを示しました6)。細胞内侵入ではビリオンを核付近に輸送する小胞に詰め込みます5)

2段階目では、アクチンとチューブリンの両方の構成成分が細胞内輸送の補完的な細胞骨格構成成分である、ということが複数の研究により示唆されています。Owczarekらは、細胞内局在化におけるF-アクチンの機能を調べました。興味深いことに、細胞透過性F-アクチン安定化化合物であるジャスプラキノリド(jasplakinolide)が細胞膜に結合したビリオンの侵入を阻害する一方で、F-アクチン脱重合化化合物であるサイトカラシンD(cytochalsin D)は、ウイルス侵入は阻害しないものの、核周辺から細胞質領域におけるビリオンの正常な局在化を阻害することを示しました5)。これに対し、Rüdiger らは、スピンダウンを使ってビリオン結合に優先的なチューブリンのアイソフォームを明らかにしました。コロナウイルススパイク(S)タンパク質のC-末端ペプチドは、コロナウイルス系統特異的な様式で複数のβ-チューブリンアイソフォームに結合します7)。スクランブルペプチドを用いた実験から、この結合が無作為なイオン電荷の結合によるものではないことが示されました。したがって、ビリオンの細胞内輸送は、特異的領域の通過、局在化に多数の細胞骨格構造タンパク質を利用しています(図2-A参照)。

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図1. コロナウイルスの侵入、複製、会合、宿主細胞からの放出のに関する現在のわかっていること(Simpson & Yamauchi, 2020より引用)。

cytoskeleton_news_202003_02.png

図2. HCT-8細胞をPHEVコロナウイルスで5分間処理または非処理し、細胞を固定化後、Acti-stain 488(緑色, Cytoskeleton)、抗-PHEV被覆タンパク質(赤色)およびDNA(青色、ヘキスト)で染色した。
(A)コロナウイルスに感染 (B)未感染
感染サンプルでは細胞の端に高レベルの染色が見られ、葉状仮足と糸状仮足(細い棘)を示す点に注目。これに対し、非感染細胞では細胞質で染色レベルが高くストレス繊維を示す(Prof. Wenqi Heよりご提供頂いた。Lv ら, 2019より引用)。

3段階目は会合と成熟です。核周辺領域に輸送された後、コロナウイルスRNAが小胞やビリオンカプセルより滲出し、核に侵入して逆転写や複製が行われます。その後、DNAレプリコンが再びRNAへと転写され、これが核からゴルジ/ER/微小管形成センターへと出て行きます8)。はじめ、ヌクレオカプシド(N)タンパク質がRNAコピーに結合して小胞膜に結合し、さらに基本的なウイルス様粒子(VLP)の会合に必須なNとEタンパク質とともに成熟します。スパイク(S)タンパク質が共発現している場合はこれもウイルス粒子に取り込まれます8)。いくつかの細胞骨格やHDAC6、ユビキチン、およびRab GTPasesといった膜調節タンパク質と強調して、パッケージング成分を濃縮することで会合を助けます10)。これらのうちのどれがCOVID-19 / SARS-CoV-2において優勢なのかはまだわかっていません。

4段階目は放出です。コロナウイルスヌクレオカプシドまたはスパイクタンパク質をGFPと遺伝子融合させることで未感染ウイルス粒子を蛍光顕微鏡で追跡することが可能になります。この技術を用いて、SiuらはSARS-CoV放出を観察し、融合して多粒子集合体となった小胞を見出しました8)。この輸送はブレフェルジンA(Brefeldin A)に感受性であることから分泌経路が利用されていることが示唆されます。その他の研究により、ビリオンの細胞膜への輸送阻害にノコダゾール(nocodazole)が効果的であることが示されており10, 11)、微小管が放出の必須成分であることが示唆されています。Rab11は微小管輸送のためキネシン重鎖への結合に関与し、その後ミオシンに結合して末梢性アクチンマトリックスの横断と細胞からの放出を手助けします。

要約すると、コロナウイルスは細胞侵入のための細胞膜接着や細胞への陥入において高度に重複したメカニズムを持っています。また、複製に向けた的確な部位への細胞内輸送には、アクチンとチューブリン、またその化学-力学的モータータンパク質であるダイニン、キネシン、およびミオシン細胞骨格構成成分が必須です。逆転写および転写の後、プラス鎖のRNAがゴルジ/ER/微小管複合体の足場上でパッケージされます。小胞に包み込まれたビリオンは細胞膜と融合し、細胞から離れるまで微小管に沿って進みます。

コロナウイルス研究に用いられる多くの手法では、蛍光ファロイジン、微小管やアクチンスピンダウンキット、ダイニンやキネシンタンパク質、およびRacやCdc42活性化アッセイなどの試薬が使われ、これらはCytoskeleton社のカタログでご紹介しているとともに以下にも記載しています。コロナウイルス研究では多くの未解決の疑問が存在します。例えば、ビリオンは細胞に侵入するために、どのように細胞膜との相互作用を介して細胞骨格を制御しているのか。単一ビリオンがそれ自身のみで細胞に侵入できるのか。異なる機能のためにアクチンや微小管細胞骨格を使う意義は何か。インフルエンザや一般的な風邪と異なり、このウイルスはどのようにしてそれほど長期にわたり免疫系を逃れているのか。これらの質問に答えることで、確実により深く知識を得ることができ、将来的に薬理学的ブレークスルーにつながることでしょう。

参考文献
  1. Gorbalenya, A.E., Baker, S.C., Baric, R.S. et al. The species Severe acute respiratory syndrome-related coronavirus: classifying 2019-nCoV and naming it SARS-CoV-2. Nat Microbiol (2020). https://doi.org/10.1038/s41564-020-0695-z .
  2. Vijgen, L. et al. 2005. Complete genomic sequence of human coronavirus OC43: molecular clock analysis suggests a relatively recent zoonotic coronavirus transmission event. J Virol i79, i1595-1604, https://doi.org/10.1128/JVI.79.3.1595-1604 .
  3. Ren et al. 2015. Genetic drift of human coronavirusOC43 spike gene during adaptive evolution. Scientific Reports, 5, 11451.
  4. Lv et al. 2019. Porcine hemagglutinating encephalomyelitis virus activation of the integrin a5b1-FAK-cofilin pathway causes cytoskeletal rearrangement to promote its invasion of N2a cells. J. Virol. 93 (5), 1-19. doi: org/10.1128/JVI.01736-18.
  5. Owczarek et al. 2018. Early events during human coronavirus entry to the cell. Scientific Reports, 8, 7124, 1-11. doi: 10-1038/s41598-018-25640-0.
  6. Milewska,A.et al. 2014. Human coronavirus NL63 utilizes heparan sulfate proteoglycans for attachment to target cells. J Virol 88, 13221-13230, https://doi.org/10.1128/JVI.02078-14 .
  7. Rüdiger et al 2016. Tubulins interact with porcine and human S proteins of the genus Alphacoronavirus and support successful assembly and release of infectious viral particles. Virology 497 (2016) 185-197. http://dx.doi.org/10.1016/j.virol.2016.07.022 .
  8. Siu et al., 2008. The M, E, and N Structural Proteins of the Severe Acute Respiratory Syndrome Coronavirus Are Required for Efficient Assembly, Trafficking, and Release of Virus-Like Particles. J. Virol. p. 11318-11330. doi:10.1128/JVI.01052-08.
  9. Hsin et al. 2018. Nucleocapsid protein-dependent assembly of the RNA packaging signal of Middle Eastern respiratory syndrome coronavirus. J. Biomed. Sci. 25(47), 1-12. doi.org/10.1186/s12929-018-0449-x.
  10. Caitlin and Yamauchi, 2020. Microtubules in influenza virus entry and egress. Viruses, 12 (117), 1-20. doi.10.3390/v12010117.
  11. Ward, 2011. The taking of the cytoskeleton one two three: How viruses utilize the cytoskeleton during egress. Virology, 411 (2), 244-250. doi:10.1016/j.virol.2010.12.024.

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