水チャネルを担う膜貫通タンパク質 特集：アクアポリン(AQP)

1. 界面活性剤の構造

界面活性剤はどちらかといえば表面活性物質であり、ポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)、封入体の溶解、リポソームの調製、膜タンパク質の可溶化、および活性構造研究をはじめ、in vitro研究の膜モデルとしての利用など、広範に適用されています。

界面活性剤の機能はその構造に関係しています。界面活性剤分子の極性の親水性部分は親水性頭部として使用され、非極性の疎水性部分は尾部として使用されます（図.1A）。界面活性剤によってはレンズ状の形（図.1B）をとっており、CHAPSやCHAPSOなどのように胆汁酸誘導体をはじめとする極性と非極性の面を持つものもあります。

図.1　界面活性剤単量体

2. 界面活性剤の分類

界面活性剤は、それぞれの親水性基によってイオン性(陽イオン性または陰イオン性）、非イオン性、および双性イオンに分類できます。イオン性界面活性剤には、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS）、N-ラウリルサルコシン、CTABなどがあり、膜からタンパク質を抽出するのに効果的です。これらの界面活性剤は、分子内かつ分子間タンパク質の相互作用を効率よく破壊しますが、その作用が強力であるためタンパク質を変性してしまうこともしばしばあります。胆汁酸塩はコール酸ナトリウムやデオキシコール酸と同様にイオン性界面活性剤であるものの、強固なステロイド骨格をもつため他の直鎖状イオン性界面活性剤に比べて作用が穏やかです。

非イオン系界面活性剤には、マルトシド、グルコシド、およびポリオキシエチレングリコールなどがあります。この種類の界面活性剤の特徴は、親水性の頭部が電荷されていないことです。これらは、作用が穏やかで非変性なうえ、タンパク質・脂質間あるいは、脂質・脂質間の相互作用を破壊することができます。

双性イオン界面活性剤には、Zwittergents、Fos-Cholines、およびCHAPS/CHAPSOなどがあります。これらの親水性頭部には正電荷と負電荷の両方が含まれています。これらの界面活性剤は、非イオン性界面活性剤のように電気的に中性であるものの、イオン性界面活性剤のようにタンパク質間の相互作用を破壊することができ、中間的な作用の強さをもちます。NMR膜タンパク研究で成功したものの多くでは、Fos-Cholines 12といった双性イオン界面活性剤が使用されています。

3. 界面活性剤のミセル形成

◆ 臨界ミセル濃度(CMC)

ミセル化は界面活性剤のアプリケーションを考慮する上で重要な現象です。各種の界面活性剤はCMC値をもち、界面活性剤濃度CMCより高い場合、単量体がミセルとよばれる非共有結合性の凝集物へと自己組織化します。ミセル化は単一濃度で生ずるわけではなく、狭い濃度域において生じます。

界面活性剤を膜タンパク質に適用する場合、大まかな界面活性剤の作業濃度は最低2x CMCであり、界面活性剤とタンパク質の重量比最低4:1です。膜タンパク質が、元来の膜から融解されると、界面活性剤の作業濃度はCMCのものに比べてより高くなり、界面活性剤と脂質のモル比は10:1になります。したがって、CMCにより種々のタンパク質や膜産物に添加する界面活性剤が決定できます ^[2]。

界面活性剤のCMC値は固定されておらず、溶液のpH、イオン強度、および温度により変化します^[3]。例えば、イオン性界面活性剤のCMC値はイオン強度が増大すると低下します。

◆ ミセル化

ミセルは、溶液中における界面活性剤単量体の凝集物であり、ミセル形成プロセスはミセル化とよばれます^[4]。界面活性剤は膜タンパク質やミセル形態の膜と相互作用し、タンパク質の溶解は溶液中のミセル形成に依存します。ミセルは、通常、動的構造である“粗い”表面をもつと考えられています。ミセル内の界面活性剤単量体が急速に溶液中の遊離界面活性剤単量体と置換します。一旦膜タンパク質が溶解すると、界面活性剤分子が疎水性膜関数ドメイン周辺に円環を形成するものと考えられています。

4. 膜タンパク質における界面活性剤のアプリケーション

◆ 界面活性剤の置換または除去

膜タンパク質を効率よく溶解する界面活性剤はその後の生化学的研究に適さない可能性があり、膜タンパク質をより適切な界面活性剤溶液に移行させる必要があります。リポソームやナノディスクを構築する場合には、界面活性剤を除去する必要があります。CMCを用いて、不要な界面活性剤を置換したり除去したりするために利用可能な手法を決定することもできます。高いCMCをもつ界面活性剤は、透析により簡単に除去でき、透析を通じてCMC以下の値に界面活性剤溶液を希釈することができます。その後、ミセルが単量体に分解され、その単量体は透析膜を容易に通過できます。一般的に、界面活性剤溶液は200倍容量以上の界面活性剤不含バッファーを用いて透析します。例えばFos-Choline 12の場合、透析途中で複数回バッファーを交換します。CMCの低い界面活性剤の場合、通常、DDMのような疎水性ビーズへ吸着させて除去したり、ニッケルカラムを用いて精製することもできます。膜タンパク質がカラム物質に結合した後、バッファーを他の界面活性剤溶液と交換します。

◆ 膜タンパク質の同定

膜タンパク質をSDS-PAGEにより同定する場合、煮沸処理により膜タンパク質が凝集することに注意が必要です。凝集を避けるため、膜タンパク質を室温で10分間培養し、ゲル電気泳動を行います。通常、膜タンパク質はSDS-PAGEで予想される分子量に分離されません。一般に、より早く分離するため、分子量を小さく見積もってしまいます。これはおそらく折り畳みが完全でないか、分子量ユニットあたり水溶性タンパク質に比べてより多くのSDSを結合するためであると考えられます。

5. 膜タンパク質の発現

界面活性剤の基本的な特性を前述しましたが、実際に膜タンパク質を調製することは非常に困難です。ほとんどの膜タンパク質は天然環境から十分量を入手することが困難であるため、過剰発現させる必要があります。残念ながら、E.coliや他の発現システムでは、機能的かつ安定した膜タンパク質を十分量入手することが困難です。アクアポリンは6つの膜貫通ドメインをもっていますが、通常、膜貫通ドメインが多いほど膜タンパク質を発現させることがより困難になります。

◆ アクアポリン

細胞膜に存在するアクアポリンは、６つの膜貫通ドメインをもつ膜貫通タンパク質です。これらは、細胞膜状で“チャネル”を形成して細胞内外に流れる水を制御します。水分子は、アクアポリンを通過する際に単一カラムを形成し、その湾曲した狭いチャネルへと侵入する際に内部の双極子の力と極性により水分子が適切な角度で回転し狭いチャネルを通過します。アクアポリンは主に哺乳動物の腎臓に存在します。さらに植物にも存在し、腎臓の尿濃度、消化生理学、神経生理学、呼吸生理学、眼生理学、および皮膚生理学において重要な役割を担います。

◆ 活性型アクアポリン

WUHAN HUAMEI BIOTECH(CSB)社では、独自のE.coli cell free発現技術を利用しています。本技術は細胞構造による制限を受けず、膜タンパク質や細胞に毒性を示す毒性タンパク質の発現に適している上、mg/mLレベルでの収量が期待できます。従来型の細胞を利用した発現では、膜タンパク質の慣習的な処理により細胞膜を破壊する必要があり、これにより膜挿入物の立体構造変化や変性を起こしがちです。これに対し、E.coli cell free発現技術では発現収量をin vitroにおいて複数の方法で最適化することができます。さらに、翻訳後の発現中に、直ちに発現させた膜タンパク質を界面活性剤で被覆することができるため、水溶性溶液への曝露を最小限に抑えることができます。同社では、以下の活性型アクアポリンを開発し、上市しています。

◆ Recombinant Escherichia coli Aquaporin Z (aqpZ)

水が両方向に浸透圧で駆動され移動できるチャネル。本タンパク質は、浸透圧制御や急激に成長している細胞における体積増加中の細胞膨圧に関与します。モル浸透圧濃度の急激な変化に応答した水分の急速な流入や流出を媒介します。

図.2　界面活性剤ミセル中のaqpZ

図.3　zqpZとytfEの結合活性
活性：機能性ELISAにより結合能を測定。5µg/mLで固定化したaqpZはヒトytfEに結合できる。ヒトytfEタンパク質のEC50は、197.90-259.70 µg/mlである