ヒト制御性T細胞(Treg 細胞)とは、T細胞、B細胞、NK細胞、およびマクロファージの活性を抑制するCD4+リンパ球細胞です。この細胞はリンパ系組織や非リンパ系組織において免疫反応を抑制する機能をもち、炎症反応における自己免疫や過剰な活性化を防ぐ寛容性の樹立と維持に役立ちます。数々の研究より自己免疫疾患の発生におけるTreg細胞の役割が示されており、これらの疾患の治療を目指して様々な研究が行われています。
近年の研究では、Tregは浸潤することができ腫瘍環境へと発達することが示されました。卵巣、腎臓、および結腸がんは、がんの中でもTregの増大と関連することが示されています。このような知見より、残されたリンパ球が活性化され腫瘍細胞を標的できるよう、Tregを特異的に標的して腫瘍環境から排除する治療法の研究も行われています。
Treg細胞には様々な亜型があり、胸腺で成長するTregは、内在性Treg(nTregs)とよばれ、末梢や腫瘍で成長するTregは誘導性Treg(iTregs)とよばれます。nTregsとiTregsは、同様のマーカーを用いて同定されたものの、健康や疾患において異なった役割を担うと考えられています。nTregsは、自己免疫や免疫系応答性亢進を防ぐために末梢性免疫寛容を維持すると考えられています。これに対し、iTregsは抑制性腫瘍環境において通常のT細胞より発生すると考えられています。既に抑制性のサイトカイン環境である場合、さらにiTregsが存在すると、腫瘍環境はリンパ球による腫瘍攻撃をより強力に阻止するようになります。さらに、iTregsはnTregsに比べてより高い抑制能力をもつことから、より頑強なリンパ球機能制御因子となります。nTregとiTregはいずれも表面タンパク質であるCD4とCD25や転写因子FOXP3を発現します。この両方の型のTregを同定する基準として、IL-7受容体であるCD127の発現が低いことも挙げられます。Tregは複数の機構を介してリンパ球機能を抑制し、IL-10やTGF-bといった免疫抑制因子を分泌することで、リンパ球の活性化の抑制や下方制御します。さらに、IL-2がリンパ球に結合して炎症反応を促進するのを阻止するために、Treg上において高発現したIL-2受容体が局所的に濃縮されたIL-2と結合し、“IL-2シンク”としても作用している可能性があります。Tregは細胞間接着を介して作用するためにCTLA-4やPD-L1といったチェックポイントタンパク質を発現する可能性も示唆されています。また、iTregsは複数の機構を利用してリンパ球機能を抑制している可能性がいくつかのデータにより示されており、nTregsに比べてより強力であることが示唆されています。