HypoxiTRAK™ は、個々の細胞の低酸素状態を観察可能な新規の遠赤色蛍光色素です。正常な酸素状態の細胞への毒性はありません。
特長
- フローサイトメトリーや蛍光イメージングに適用
- FITCやR-PEのスペクトルと互換性あり
- 低酸素条件に数日間に渡る観察に有用
- 低酸素マイクロニッチの自動生成はありません
- 細胞の前処理、固定化不要(抗体染色不要)によるコストダウンが可能
- 2 次元培養、スフェロイド培養で使用可能
原理
HypoxiTRAK™ は、生細胞に容易に取り込まれる遠赤色蛍光分子です。低酸素条件下で代謝物へと変換され、細胞内で数日間保持されます。抗体染色を行わずに低酸素度合いを検出することが可能です。毒性がなく、継続的な低酸素依存性の変化を観察できます。また、HypoxiTRAK™ は細胞周期の進行を停止し、低酸素状態の細胞の絶対数を維持*します。
* サイクル停止に敏感な細胞は細胞死を起こす可能性があります。
プロトコール例
図1 典型的なプロトコール例
データ例
図2 細胞内に蓄積したHypoxiTRAK™ 代謝物の共焦点像
低酸素状態のA549細胞の細胞質画分中で生成されたHypoxiTRAK™ 代謝物の蓄積を共焦点イメージングした(励起波長 : 633 nm、蛍光波長 : 680/20 nm)。A549細胞は事前に1%酸素条件下で100 nM HypoxiTRAK™ と共に4日間曝露され、上記画像では9個の細胞が確認された。
図3 HypoxiTRAK™プローブを用いたフローサイトメトリーによる検出例
HypoxiTRAK™プローブをヒト肺がん細胞(A549細胞)に取り込ませ、複数の低酸素条件(通常、酸素3%、酸素1%)に4日間置いて、プローブの代謝物をフローサイトメトリーで検出した。
スフェロイド培養下での使用例
図4
多細胞腫瘍スフェロイド (MCT) を、Cal33、 FADU、 UM22B の 3 種の異なる
頭頸部がん(HNC)細胞株から作製した。 ULA プレートでこれらの細胞を正常酸
素状態で 3 日間培養した後、50 nM の HypoxiTRAK™(図では「HPTK」と表記)を
添加してさらに 3 日間培養した。下段の 3 つの画像は、3 種の頭頸部がん細胞株
由来のスフェロイドの低酸素状態を違いを示す。ネガティブコントロールの結果
から、HypoxiTRAK™ はスフェロイドの成長に影響を与えずに、微小環境の事象の
みを検出していることが示唆された。
図5
作製された Cal33 の多細胞腫瘍スフェロイド
を図4 と同条件で 3 日間培養した後、100 nM のHypoxiTRAK™ を添加してさらに 3 日間培養した。 データでは Cal33 のスフェロイドの成長に対してHypoxiTRAK™ が影響を与えていないことを示しており、HypoxiTRAK™
の存在下(典型的な濃度範囲の上限)でさらに 3 日間培養を行った後、
低酸素コア/マイクロニッチのみを標識した。添加から 24 時間後にHypoxiTRAK™ は検出されず、3 日後にも低酸素状態の
マイクロニッチが多細胞腫瘍スフェロイドにはなかったことを示唆している。
画像提供:ピッツバーグ大学薬学部 David A Close & Paul A Johnston 氏
HypoxiTRAK™ 低酸素検出用プローブ
品名 | メーカー | 品番 | 包装 | 希望販売価格 |
---|---|---|---|---|
HypoxiTRAKTM | BSU | HT10500 | 500 UL [10 μM] |
¥41,000 |
【参考情報】
アプリケーションノート:三次元腫瘍スフェロイドにおける低酸素微小環境
ピッツバーグ大学医学部Paul A Johnston准教授らは、二次元から三次元 細胞培養に移行するための重要性に注目し、HNSCC細胞株の低酸素性状態、領域パターン、微小環境について検討しました。
低酸素症は、頭頸部がん(HNC)における予後不良と関連していることが知られており、薬剤開発など で注目されています。多細胞腫瘍スフェロイド(MCTS)のような三次元微小組織は、無血管性の腫瘍領域のより良い生理学的表現を再現し、それらの低酸素状態は二次元細胞培養代替物よりも有益となります。
経時的にMCTSの低酸素状態を調べるために、遠赤色の低酸素症レポーターHypoxiTRAK™を数日間にわたって連続的に使用したところ、Hif-1αとピモニダゾールの両方に優れた相関が示されましたが、HypoxiTRAK™は時間やコストのかかる固定化や透過処理、抗体染色を必要とするエンドポイントのリードアウトではなく、レポーターの蛍光の直接的なリードアウトです。
例えば、HypoxiTRAK™を凝集期やスフェロイド形成の数日後などに、培地に添加した場合、その後の実験期間を通して存在し、低酸素ストレスに代謝応答した細胞に蓄積させます。重要なのは、HypoxiTRAK™はコントロールと比較して明らかな毒性または成長制限を引き起こさずに、最深部の低酸素状態まで観察できるほど、完全にMCTに浸透したことです。ただし、後者は、低酸素症のリファレンスとしてのピモニダゾールの場合と言う事では無く、薬剤の浸透性の低さ(まだ報告されていない)もしく抗体が浸透せず付加物を標識できない(Hif-1αは影響を受けなかったため、その可能性は低い)ことに要因である可能性もありますが、無益な酸化還元サイクルの結果としてニトロイミダゾール系化学物質が低酸素症を引き起こし、その結果、付加体生成が表層付近の細胞層に限定される可能性が高いことに留意すべきです。
HypoxiTRAK™は使用が簡単で、最適化の必要がほとんど無く、培地中で長日にわたり安定して持続します。赤色波長の励起は光毒性を制限し、Hoechst33342または可視波長の発色団によるエンドポイントでの多色検査を可能にします。直接的な蛍光リードアウトは、数日間にわたる培養のMCTSの低酸素性状態の経時的捕捉を可能にし、ハイコンテントイメージングおよびハイスループットでご使用いただけます。
Reference
Close, David A., and Paul A. Johnston. "Detection and impact of hypoxic regions in multicellular tumor spheroid cultures formed by head and neck squamous cell carcinoma cells lines." SLAS Discovery (2021).
商品は「研究用試薬」です。人や動物の医療用・臨床診断用・食品用としては使用しないように、十分ご注意ください。
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