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渡邊 孝明 先生 東海大学医学部基礎医学系 分子生命科学 |
中枢神経研究に貢献するミクログリア6-3細胞の特性とその大きな可能性
ユーザーレポート
Products
- 株化microglia 6-3細胞 (品番:COS-NMG-6-3C)
メーカー:コスモ・バイオ株式会社 メーカー略号:PMC

■ 株化ミクログリア細胞(Microglia Cell Clone)
生体の脳内でみられるミクログリアを in vitro でも再現
本株化ミクログリア細胞は、これまで知られている株化細胞とは異なり、増殖因子依存的に細胞増殖し、増殖因子非存在下 では増殖能を失い分岐したミクログリア(ramified form)へと誘導するなど、生体内の脳内で見られるミクログリアを in vitro でも再現できる新規な株化細胞です。
実験内容
脳の健康を守る小さな細胞、ミクログリアは、中枢神経系における常在免疫細胞として、神経細胞の間を縫うように巡回し「脳の清掃員かつ警備員」のような役割を担っています。例えば、ウイルスや細菌、損傷した細胞などを速やかに貪食し、各種サイトカインを分泌することで、免疫反応を制御しています。一方、ミクログリアの活動が過剰になると、正常な神経細胞まで攻撃対象と見なしてしまうことがあり、これがアルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患に関与していることも明らかになりつつあります。
近年、ミクログリアは単なる中枢神経系の免疫担当細胞としての枠を超え、神経発達・恒常性維持・シナプス可塑性の制御など、多様な生理機能に関与することが明らかとなり、神経科学研究において大きな注目を集めています。特に、Single-cell RNA-seqの発展により、脳領域や発達段階、加齢や病態の進行に応じて、ミクログリアが異なる遺伝子発現プロファイルを持ち、多様な機能特化型サブタイプが存在することが明らかになってきました。また、二光子励起顕微鏡などにより、生体マウス脳内でのミクログリアや神経細胞の動態観察も行われています。
このように、神経系の健康状態を左右するミクログリアは、脳の恒常性維持に欠かせない動的なプレイヤーとして、神経科学、免疫学、さらには精神医学領域においても研究の最前線に位置しています。
このミクログリアに興味を持った私達は、高額な機器や解析に依存せず、医学部生や大学院生と共に、限られた研究時間でも継続可能な細胞学的アプローチの構築を目指してきました。従来、広く用いられてきた代表的なミクログリア細胞株であるBV-2は、v-myc/v-rafによって不死化されており、しばしば過剰な炎症応答やサイトカイン発現を示すことから、生理的表現系との乖離が問題視されています。これに対し、microglia 6-3細胞は、マウス脳由来の初代ミクログリアから選抜されたものであり、Mac-1やF4/80などのミクログリアマーカーを安定して発現することに加え、LPS刺激に対する炎症性サイトカインの誘導や貪食作用が生理的な挙動に近いこと、継代培養や凍結保存が可能であること等、モデル細胞として多くの優れた特徴を備えています。
これらの利点を活かし、私達の環境での6-3細胞の継代培養や凍結保存の手順を最適化し、ミクログリアマーカーの発現を独自に確認しました(図1)。また、ミクログリアは免疫応答性が高いため遺伝子導入が困難とされており、siRNA導入方法の確立にも取り組みました(図2)。その結果、特定遺伝子のノックダウンが、酸化ストレスなどの細胞障害指標や炎症性・抗炎症性サイトカインの発現(図3)に影響を及ぼすことを見出しました。
さらに、コスモ・バイオ社が提供するリソースにより、研究の発展が支えられています。例えば、神経保護作用を示すmicroglia Ra2細胞を用いることで、同じ由来を持ちながら、対照的な性質を持つmicrogliaの比較が可能になります。また1464R神経幹細胞株と組み合わせることで、中枢神経系の主要な細胞群を包括的に解析すること可能です。
このように、生理的な性質を維持しながら、増殖因子依存的に増殖し、継代培養や凍結保存・再融解が可能であるため、時間的・経済的コストを抑えながらも再現性の高い研究を実施できる優れたモデルです。中枢神経系の細胞レベルでの解析に関心をお持ちの方には、ぜひ使用をお勧めしたい細胞株です。