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記事ID : 35940

激しい持久性運動による好中球活性化マーカーの変動と栄養・水分補給による炎症・臓器傷害の予防

ユーザーレポート

鈴木 克彦 先生

鈴木 克彦 先生
Katsuhiko Suzuki

早稲田大学スポーツ科学学術院 教授

Products

メーカー:Hycult Biotech (Former Hycult biotechnology) メーカー略号:HCB

Hycult Biotech. こちらをつかってみました!

ヒト ミエロペルオキシダーゼ(MPO)測定 ELISA キット

短時間で高感度に検出が可能

  • 測定時間は3時間30分
  • 高感度検出(0.4 ng/ml)
  • 血漿、喀痰、細胞培養上清サンプルに使用可能
  • マウス、ラット、ウサギ、ウシ、ヒツジ、ブタ、ウマに非交差

実験内容

 マラソンやトライアスロンのような過酷な持久性運動は、筋損傷をはじめ急性腎不全、腸管透過性亢進などの内臓傷害、さらには熱中症による多臓器不全を引き起こすこともある。その病態機序として、全身性炎症反応の関与が注目されており、臓器傷害のメカニズムとして酸化ストレスや炎症の関与、特に好中球由来の活性酸素種やミエロペルオキシダーゼ(myeloperoxidase: MPO)などの脱顆粒物質の組織傷害作用が重要視されている1)

 実際に、血中好中球の活性化は運動の強度や持続時間に依存して顕在化するが、それを促進するメディエーターとしての各種サイトカインやエンドトキシンなどの血中濃度も上昇する1)。一方、生体には酸化ストレスや炎症反応に対する防御機構も存在しており、運動時にも好中球機能を抑制する抗酸化・抗炎症作用が血中に誘導されてくる2)。このような防御機構はトレーニングにより強化されるが、栄養や休養の不足、あるいは感染症や脱水症などで体調不良があると運動時に全身性炎症反応が誘導されて臓器傷害や熱中症(多臓器不全)が生じやすい状態となる3)

 近年では、機能性食品やスポーツドリンクなどの栄養・水分補給によって、そのような臓器傷害や疲労を予防し、パフォーマンスを向上させようとする取り組みも検討されている。このような対策は、2020 年の東京オリンピック・パラリンピックが暑熱・炎天下での開催となるため、特に熱中症や脱水症の予防のために重要であり、臓器傷害や疲労に対しても栄養・水分補給をはじめ種々の体調管理の抗酸化・抗炎症作用の検証が進められている3)

 好中球の機能は、好中球の寿命が短いため細胞培養ができず、従来より、採血してから数時間以内に血中より好中球を比重勾配遠心法で分離して、細胞数を一定に調整した上で機能を測定する必要があるが、好中球は粘着性や凝集能が高いこともあり、その扱いは実験室以外では困難であった1)。しかし、採血後にすみやかに血液を遠心分離して血漿を冷凍保存できれば、血漿中の好中球由来の脱顆粒物質の濃度を測定することによって好中球の生体内活性化状態を評価できるようになり、酵素免疫測定法(enzyme-linked immunosorbent assay: ELISA)により比較的簡便に測定できることから、 MPO などの脱顆粒物質が好中球活性化マーカーとして活用されるようになった2)

 そこで当研究室では、北京オリンピックの代表選考会前に、沖縄県の離島で行われていた強化合宿において長距離競技選手を対象としレース前後の血中 MPO 濃度の変動を指標としてスペシャルドリンクの影響を検討した。残念ながら、エネルギー供給や水分補給自体の持久力向上効果や抗炎症作用は認められなかったものの、図1 のように MPO は持久性競技のレース後に顕著に上昇し、炎症性サイトカインの IL-6 や筋損傷マーカーのミオグロビンとの関連もみられた4)。また、暑熱環境下での 90 分間の自転車運動中に真水、糖質ベースの低張飲料(hypotonic drink)および等張飲料(isotonic drink)の効果を比較検討したところ、低張飲料の摂取によって脱水の予防効果とともに運動による血中 MPO 濃度の上昇を抑制できることも証明された(図2)5)。 MPO は運動負荷で比較的早期に上昇したが(図2A)、もうひとつの白血球活性化マーカーであるカルプロテクチンはやや遅れて上昇した(図2B)5)。この違いは、MPO は好中球に特異性が高く、運動負荷の影響としてまず好中球の動員・活性化が早期に生じる現象を反映したものと考えられる1)。一方、カルプロテクチンは好中球のみならず単球にも含まれており、運動負荷による単球の反応は比較的遅く小さいことを反映したものと考えられるが、いずれにしても運動負荷による白血球活性化(全身性炎症反応)の予防には低張飲料水の補給と脱水改善が有効であることが示された。

激しい持久性運動による血中炎症指標の変動
図1. 激しい持久性運動による血中炎症指標の変動4)
暑熱環境下の持久性運動時の各種飲料摂取が血中 MPO 濃度に及ぼす影響
図2. 暑熱環境下の持久性運動時の各種飲料摂取が血中 MPO 濃度に及ぼす影響5)

 しかし、血中 MPO 濃度は検討しやすい反面、個人差が大きい等の問題もある。そこで、まず採血時の注意点として、好中球の活性化を阻止するために抗凝固剤としては EDTA を用いる必要がある。ヘパリン血漿や血清では採血管内で好中球の活性化が起きてしまい脱顆粒が生じるため、MPO は高めの値となり生体内の活性化状態を反映しないことにもなる。よって、EDTA 採血管で採血後に可及的速やかに遠心しサンプルとしての血漿を分離することが必要である。また採血後は振動等が加わらないように採血管の持ち運び等にも十分注意することが必要と考えられる。

 以上をまとめると、MPO は通常好中球の顆粒内に内包されているが、好中球の活性化に伴い細胞外に放出されるため、その血漿中濃度を測定することにより体内の好中球活性化状態を評価することができるため、血液サンプルを用いた「好中球活性化マーカー」と位置づけることができる。また、MPO は過酸化水素をより毒性の高い次亜塩素酸に変換する酵素であり、より強力な活性酸素種の生成に寄与することから「酸化ストレスマーカー」として好中球(急性炎症)の関与を示すことができ、運動に限らず生体侵襲や炎症のバイオマーカーとして有用ということができる。

参考文献

  1. Suzuki, K. Involvement of neutrophils in exercise-induced muscle damage. Gen. Intern. Med. Clin. Innov. 2018, 3, 1-8.
  2. Suzuki, K, Nakaji, S, Yamada, M, et al. Impact of a competitive marathon race on systemic cytokine and neutrophil responses. Med. Sci. Sports Exerc. 2003, 35, 348-355.
  3. Special Issue “Anti-Inflammatory and Antioxidant Effects of Dietary Supplementation and Lifestyle Factors” in Antioxidants: https://www.mdpi.com/journal/antioxidants/special_issues/anti-inflammatory_antioxidant_effects
  4. Sugama, K, Suzuki, K, Yoshitani, K, et al. IL-17, neutrophil activation and muscle damage following endurance exercise. Exerc. Immunol. Rev. 2012, 18, 116-127.
  5. Suzuki, K, Hashimoto, H, Oh, T, et al. The effects of sports drink osmolality on fluid intake and immunoendocrine responses to cycling in hot conditions. J. Nutr. Sci. Vitaminol. 2013, 59, 206-212.

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