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記事ID : 34559

陸棲藍藻の休眠細胞に蓄積される低分子化合物のタンパク質熱凝集抑制活性

ユーザーレポート

木村 駿太 先生
Kimura Shunta

東京大学大学院 農学生命科学研究科 / 日本学術振興会 特別研究員(PD)/ 博士(農学)

Products

メーカー:Enzo Life Sciences,Inc. メーカー略号:ENZ

Enzo Life Sciences,Inc. appnote_title_use.jpg

PROTEOSTAT® Protein aggregation assay

タンパク質製剤製造におけるペプチドやタンパク質の凝集を測定する、簡単な分析評価キットです。このキットを活用することで、タンパク質の加工を合理化し、製剤方法の最適化を可能にします。本アッセイの凝集検出試薬は、分子は分子ローター色素で、タンパク質凝集がない場合、プロペラのように回転して蛍光を発しません。色素が凝集に結合して固定され、回転運動が遅くなると、蛍光を発します。タンパク質の疎水性部位を露出してアンフォールディングを測定する他の環境感受性色素とは異なり、疎水性化合物や界面活性剤の干渉がわずかです。

ProteoStat タンパク質凝集検出試薬の使用原理

実験内容

世界中の陸地に生息している陸棲藍藻(Terrestrial Cyanobacteria)は、乾燥状態で熱に曝されても蘇生できることが知られていますが、その熱耐性のしくみは明らかにされていません。陸棲藍藻の一種、Nostoc sp. HK-01 の休眠細胞(Akinete)は、休眠細胞以外の細胞形態である栄養細胞、異型細胞および連鎖体と比較して熱耐性に優れていることが示されています(1)。しかし、休眠細胞が熱耐性に優れた理由を示す直接的な証拠は示されていませんでした。私は、UV 耐性や塩耐性への関与が複数報告されている細胞外多糖(Extracellular Polysaccharides)を除去しても休眠細胞の熱耐性に変化が認められなかった結果から(2)、熱耐性に関わる機能性物質が休眠細胞の内部に蓄積されているはずであると仮説を立てました。

休眠細胞内に蓄積されている機能性物質の候補として、適合溶質(Compatible Solute)と呼ばれる低分子化合物(群)が考えられます。適合溶質とは、乾燥時に細胞内に蓄積し、水分子の代わりにタンパク質、DNA や脂質膜を保護する物質を指します。Nostoc sp. HK-01 のコロニーには複数の細胞形態が混在しています。休眠細胞含有率の異なるコロニーを用いて水溶性の細胞内物質を網羅的に分析しました。休眠細胞含有率と蓄積量の関係から、Sucrose、Glycine、Betaine およびGlucosylglycerol が、Nostoc sp. HK-01 の休眠細胞に特異に蓄積していることを示しました(図1)。適合溶質としてよく知られるTrehalose は、検出されましたが、休眠細胞への特異な蓄積は認められませんでした(2)(3)

陸棲藍藻Nostoc sp. HK-01 の休眠細胞に蓄積している水溶性の細胞内低分子化合物
図.1 陸棲藍藻Nostoc sp. HK-01 の休眠細胞に蓄積している水溶性の細胞内低分子化合物

休眠細胞に特異に蓄積されていた低分子化合物のうち、生体分子を保護する活性を備えている物質のスクリーニングに、PROTEOSTAT® Protein aggregation assay(品番:ENZ-51023-KP050)をコスモ・バイオ社から購入して用いました(3)。モデル酵素として用いたLactate Dehydrogenase(LDH, Roche, Berlin, Germany)に各試料(0~500 mM)を加え、LDH の最終濃度は200 µg/mL に調整しました。Thermo Block(ND-M01, Nissin, Tokyo, Japan)を用いて50℃、0~90 min 加熱後、Detection Reagent(Enzo LifeSciences, Inc., New York, USA)を加えました。本キット中のDetection Reagent は、Thioflavin T の誘導体であり、凝集タンパク質非存在下では回転して蛍光を発しないが、凝集タンパク質存在下では回転運動が遅くなり、蛍光を発する分子ローター色素です。室温、暗所で15 min 静置後、マイクロプレートリーダー(Varioskan, Thermo FisherScientific, Massachusetts, USA)を用いて蛍光(Ex: 500 nm, Em: 603 nm)を測定しました。その結果、Sucrose およびGlycine を50 mM 以上、Betaine を100 mM 以上、Trehalose を250 mM 以上加えた場合、タンパク質の熱凝集が抑制されることが示されました(図2)。

低分子化合物を加えた際の乳酸脱水素酵素(LDH)の熱凝集量の変化
図.2 低分子化合物を加えた際の乳酸脱水素酵素(LDH)の熱凝集量の変化

本実験では、Glucosylglycerolの活性は見出されませんでした。なぜ凝集が抑制されるかはまだ十分に解明されていませんが、タンパク質の表面張力に作用することや、タンパク質の流動性を低下させることが関与していると考えられています。

休眠細胞に特異に蓄積されており、かつ活性を示したのはSucrose、Glycine および Betaine でした。蓄積されてい た絶対量との関係から、Nostoc sp. HK-01 の細胞内物質の水溶性画分のうち、Sucrose およびGlycine が、熱耐性に関わる主な機能性物質として蘇生に必要な酵素等の高分子を保護している可能性を強く示しました。本キットは、細胞内に蓄積されている化合物から目的の物質を見出すための簡便なスクリーニングを可能にしました。100 µL 程度の試料で検定が行えるのも利点です。ただし、加えるDetectionReagent が微量(1 µL 程度)であるため、十分に均一に懸濁されていないと、熱未曝露の対照区における値がばらつきやすい点に注意が必要です。また低分子化合物の生体分子保護活性はいくつか報告されていましたが、Sucrose およびGlycineがタンパク質を熱から保護する活性の報告は、私の知る限り新規の報告であり、その活性の具体的濃度を本キットにより示すことができました。現在は、当初活性が想定されていなかった画分から活性物質の存在が見出されており、原因物質の探索を進めています。今後行う活性物質のスクリーニングにも、本キットを用いる予定です。

参考文献

  1. Kimura, S., Tomita-Yokotani, K., Igarashi, Y., Sato, S., Katoh, H., Abe, T., Sonoike, K. and Ohmori, M. The heat tolerance of dry colonies of a terrestrial cyanobacterium, Nostoc sp. HK-01. Biological Sciences in Space, 29, 12-18, 2015.
  2. Kimura, S., Tomita-Yokotani, K., Katoh, H.,Sato, S. and Ohmori, M. Complete life cycle and heat tolerance of dry colonies of a terrestrial cyanobacterium, Nostoc sp. HK-01., Biological Sciences in Space, 31, 1-8, 2017.
  3. Kimura, S., Ong, M., Ichikawa, S. and Tomita-Yokotani, K. Compatible solutes in the akinetes of the terrestrial cyanobacterium Nostoc sp. HK-01 contribute to its heat tolerance. American Journal of Plant Sciences, 8, 2695-2711, 2017.

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