目次
1. バキュロウイルスに関するFAQ
- 【1-01】 バキュロウイルスとは何ですか?
- 【1-02】 AcMNPV はどのように細胞に感染しますか?
- 【1-03】 タンパク質発現において、バキュロウイルスの利点は何ですか?
- 【1-04】 組換えバキュロウイルスはどのように作製することができますか?
- 【1-05】 flashBAC™ と互換性のあるバキュロウイルストランスファーベクターは何ですか?
- 【1-06】 高力価なウイルスストックはどのように作製することができますか?
- 【1-07】 ウイルスストックを増幅する上で、どのような問題が発生する可能性がありますか?
- 【1-08】 ウイルスストックの感染力価を正確に決定することはなぜ重要ですか?
- 【1-09】 プラークアッセイ法を用いて組換えバキュロウイルスを滴定する際のポイントは何ですか?
- 【1-10】 プラークアッセイ法以外に組換えバキュロウイルスを滴定する方法はありますか?
2. 昆虫細胞に関するFAQ
- 【2-01】 昆虫細胞の培養は難しいですか?
- 【2-02】 昆虫細胞が健全かどうかはどのように確認しますか?
- 【2-03】 ウイルスに感染した細胞培養に細菌や真菌がコンタミネーションした場合はどうすればよいですか?
- 【2-04】 細胞がウイルスに感染しているかどうかをどのように見分けますか?
- 【2-05】 Sf9細胞を単層培養から懸濁培養へ移行する際の注意事項は何ですか?
- 【2-06】 昆虫細胞を-80°Cで保存できますか?
3. 組換えタンパク質に関するFAQ
4. トラブルシューティング
1. バキュロウイルスに関するFAQ
バキュロウイルスは、棒状の二本鎖 DNA ウイルスのファミリーメンバーです。主にチョウ目 (蝶と蛾) の昆虫の幼虫に感染します。バキュロウイルス発現ベクターは目的の遺伝子を含むように改変された組換えバキュロウイルスであり、目的の遺伝子はバキュロウイルスの遺伝子プロモーターの制御下で昆虫細胞にて発現することができます。最も一般的に使用されるバキュロウイルスは、核多角体病ウイルス(Autographa californica nucleopolyhedrovirus、AcMNPV)です。AcMNPV は、環状の二本鎖スーパーコイル DNA ゲノム (133894 bp、Accession: NC_001623) を持ち、すべてが棒状のヌクレオカプシドにパッケージングされています。このヌクレオカプシドは伸長して外来DNAを大量に挿入することができるという特性を持つため、より大きなタンパク質を発現させる際に非常に有用です。
AcMNPV は二相性のライフサイクルを持ち、出芽型ウイルス (budded virus、BV) と包埋体由来ウイルス (occlusion-derived virus、ODV) の2種類のウイルスが生成されます。ODV は宿主昆虫への一次感染の原因となり、BV は宿主細胞から放出され細胞間感染を引き起こします。BV には、膜融合タンパク質 GP64 を含むエンベロープに囲まれた棒状のヌクレオカプシドが1つ含まれています。この GP64 は、ヌクレオカプシドが宿主細胞の細胞膜を突き抜けるときにエンベロープに追加されます。BV は ODV に比べて培養細胞に対し1000倍の感染力があり、細胞間感染の原因となります。外来遺伝子を宿主である昆虫細胞に送達するのは、BV です。バキュロウイルスの感染は、初期 (感染後 0〜6 時間)、後期 (感染後 6〜24 時間)、および後後期 (感染後 18〜72 時間) の3つの段階に分けられます。感染後期には、多数の包埋体 (OB) または多角体が形成されます。これらは、核から新たに獲得したエンベロープに囲まれた複数の棒状のヌクレオカプシドで構成されています。ヌクレオカプシドは、多角体の安定した結晶マトリックスに埋め込まれます。これらの多角体は主にポリヘドリンからできています。ポリヘドリンは、ポリヘドリン遺伝子 (polh) プロモーターの非常に強力な転写活性によって生成されるタンパク質です。生成された包埋体はウイルスを保護し、宿主間での生存を可能にします。flashBAC™ などのほとんどのバキュロウイルス発現ベクターは多角体ではなく、BV のみを生成することに留意してください。作製された組換えウイルスは、多角体なしでは自然環境で生存することができないので、これは有用な安全機能として働きます。
自然環境における感染の例をご説明します。通常、感染は宿主である昆虫が包埋体/多角体に汚染された植物を食べることで発生します。食べられた多角体マトリックスは、昆虫の中腸、つまり胃の中のアルカリ性環境で溶解します。これによりODV が放出され、これが中腸の上皮細胞に結合してヌクレオカプシドを細胞質に放出します。中に入ると、ヌクレオカプシドは核に運ばれ、そこで複製されて BV を形成します。BV は細胞を通じて系統的に広がる二次感染を開始します。感染後期では、ODV が生成されます。包埋体は細胞が溶解すると放出されます。感染によって引き起こされる溶解は広範囲に及び、宿主である昆虫を事実上溶かしてしまいます。恐ろしいことに、バキュロウイルス感染の一般的な特徴の1つとして、宿主である昆虫に「ゾンビ効果」を引き起こすことが挙げられます。このため、昆虫は溶解前に植物の上を歩き回り、ウイルスを最大限に拡散させ、無防備な別の昆虫に食べられるような状態になります。
図1. バキュロウイルスの二相性の模式図
バキュロウイルスは出芽型ウイルス (BV)、包埋体由来ウイルス (ODV)、包埋体 (OB) を生じる。L. Graves 氏より提供。
- 安全性:バキュロウイルスは、哺乳類や植物に対して非病原性です。
- サイズ:大きな遺伝子や複数の遺伝子に対応することができます。
- スケールアップの容易さ:ウイルスを増幅してタンパク質を発現するために使用される細胞株は、懸濁培養でよく増殖し、バイオリアクターで大規模なタンパク質の生産を可能にします。
- タンパク質の発現レベルが高い:本システムでは、初期および後期の遺伝子発現においてさまざまな効率的な遺伝子プロモーターを使用しています。
- 翻訳後修飾:適切なタンパク質のフォールディング、グリコシル化、リン酸化、アセチル化、アシル化を可能にします。
組換えバキュロウイルスを効率よく作製する主な方法は2つあります。1つは、flashBAC™ や BacPAK6 などの相同組換えに基づくシステムを使用することです。また、bac-to-bac などの部位特異的転位システムを使用してウイルスを作製することも可能です。
BacPAK6 システム
この方法ではまず、ウイルスゲノム中のポリヘドリン遺伝子 (polh) に隣接する配列を含むトランスファーベクターに目的の遺伝子をクローニングします。その後、このトランスファーベクターと線状化 BacPAK6 DNA を昆虫細胞にコトランスフェクションすると、相同組換えが発生し、目的の遺伝子が親ウイルスゲノムに挿入されます。次に、ゲノムが複製されて組換えOV が生成され、培養培地から採取することができます。BacPAK6 システムの特徴としては、polh をコードしている配列を置き換えるために親ウイルスゲノムに LacZ を導入し、ポリヘドリン遺伝子 (polh) 座に独自の制限酵素部位 (Bsu36I) を追加している点です。このウイルスゲノムを Bsu36I で酵素処理すると、lacZ をコードするウイルスDNAの一部と必須遺伝子 ORF 1629 の一部が欠損し、昆虫細胞で複製できない線状ウイルス DNA (BacPAK6) になります。結果、親ウイルス DNA の感染性が低下し、組換えウイルスゲノムのみが環状になり複製できるようになるため、組換えウイルスの回収効率が向上します。
図2. 制限酵素部位と遺伝子の方向を示す BacPAK6 のベクターマップ
flashBAC™ システム
flashBAC™ は必須遺伝子 ORF 1629 の一部が欠損しており、ポリヘドリン遺伝子 (polh) 座に細菌人工染色体 (BAC) が含まれ polh をコードしている配列が置き換えられた AcMNPV ゲノムです。必須遺伝子の一部が欠損しているため、昆虫細胞内でのウイルスの複製が妨げられ、BAC によりウイルスゲノムがバクミドとして細菌細胞内に維持されます。細菌細胞内で維持された環状ウイルス DNAを細菌細胞から分離及び精製することで、flashBAC™ キットや組換えウイルスを作製するためのコトランスフェクションに使用することができます。
図3. flashBAC™ を使用した組換えバキュロウイルスの作製
ORF1629 が欠失した非感染性の flashBAC™ DNA を、目的の遺伝子 (遺伝子X) を含むトランスファープラスミドと混合する。昆虫細胞内では、相同組換えにより flashBAC™ の BAC 要素が遺伝子X に置き換えられ、ORF1629 の欠失が修復されて、組換え型の感染性 flashBAC™ DNA が生成される。
bac-to-bac システム (部位特異的転位)
このアプローチでは、目的の遺伝子を pFastBAC ベクターにクローニングし、その後 DH10Bac コンピテントセルを形質転換します。この特定の大腸菌株には、mini-attTn7 ターゲットサイトを持つバクミドが含まれています。pFastBAC 上の mini-attTn7 要素は、バクミド上の mini-attTn7 のターゲットサイトに転位し、インサート遺伝子を挿入すると同時に LacZ 遺伝子を破壊します。その後、組換えコロニーをセレクション、採取、増幅します。セレクションされたクローンから得られた DNA は、昆虫細胞へのトランスフェクションに使用します。
flashBAC™ または BacPAK6 と互換性のあるトランスファーベクターにつきましては、以下をご参照ください。
また、リストに載っていないベクターにおける互換性につきましては、BLAST などの配列比較プログラムおよび以下の情報を用いて確認してください。これを説明するために、pOET1 トランスファーベクターを使用します
図4. ポリヘドリン遺伝子プロモーターの上流と下流の領域
1-1300 の配列
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1628-2160 の配列
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これら2つの配列をお手持ちのトランスファーベクターの配列と照合すると、昆虫細胞での組換えバキュロウイルス作製と互換性があるかどうか、特に flashBACTM DNA で機能するかどうかをすぐに確認することができます。
トランスフェクションは通常、培養ディッシュでかなり小規模(2〜5ml)で行われます。したがって、P0ウイルスストックは量が少なく、感染力価もおそらくそこまで高くありません(1mlあたり10e7 pfu [plaque forming unit] 以下)。感染力価が高い、大容量のウイルスストックを作製するには、昆虫細胞(通常はSf9細胞)をより大規模で培養し、増幅する必要があります。Sf9細胞の単層培養または懸濁培養のいずれかにP0ウイルスストックを接種することで、P1 ストックを作製します。増幅の規模は、必要なウイルスの量によって異なります。ほとんどの場合、25〜200 ml 容量の懸濁培養したSf9細胞を使用します。これらの培養の最適な細胞密度は、1〜2 x 10e6 cell/ml です。(これらの細胞を作製する方法については、OET社の細胞培養マニュアルを参照してください。) これらの培養を準備したら、P0 ウイルスストックの一部を添加し、28°C で 5 日間振とうしながら培養を続けます。昔は、プラークアッセイを使用して P0 ストックの感染力価を決定し、0.1 pfu/細胞 の感染多重度 (MOI) を得るために細胞培養にどのくらいのウイルスを加えるかを計算する必要がありましたが、現在はqPCR (baculoQUANT all-in-one) を使用し、P0 ウイルスストックの力価を決定した後、細胞培養に P0 ウイルスストックをどのくらい添加するかを決めることができます。この手順は1日もかからずに完了することができます。qPCRを行えない場合、50mlのSf9細胞培養懸濁液あたり0.5mlのP0ウイルスストックを加えるのが目安となります。これにより、貴重な P0 ストックを節約しながら、低いMOIでウイルスを導入することができます。基本的に、このように Sf9細胞にウイルスを接種させた場合、培養中の細胞の約 10% を感染させることになります。残りの 90% の細胞は分裂を続け、ウイルス複製の最初のラウンドで作製される仔ウイルス(virus progeny)のリソースを提供します。合計5日間の培養時間により、すべての細胞に感染し、可能な限り高い感染力価を持つウイルスストックを作製することができます。
なお、Trichoplusia ni細胞は組換えタンパク質の作製によく使用されますが、ウイルスストックの作製には決して使用しません。これは、このストックの感染力価が常に非常に低いためです(10e6〜10e7 pfu/ml)。この細胞で増殖したウイルスは、高レベルのタンパク質発現に必要な主要なウイルス遺伝子 (FP-25) において変異が起こりやすい傾向があります。
ウイルスストックを増幅する際の最も一般的な問題は、P0ストックの感染力価が非常に低いため、懸濁細胞培養でウイルス感染が開始されないことです。これは、元のトランスフェクションで使用した細胞の品質が悪かったり、細胞層が厚すぎたり薄すぎたり、使用したトランスフェクション試薬が期待どおりに機能しなかったことが原因である可能性があります。ここで、P0ウイルスストックの滴定が役立ちます。この情報により、培養している細胞に接種するウイルスの量を適正にすることができます。P0ウイルスストックの添加量が少なすぎると、ウイルスの感染が追いつく前に培養中の細胞が最大密度に達してしまい、その結果、感染力価が非常に低いウイルスストックになってしまいます。ただし、P0ウイルスストックの感染力価が非常に低く、P1ストックを作製するにあたり細胞に接種するのに十分なウイルスが無い場合でも、あきらめないでください。25cm2 フラスコに適切な培地 (ESF 921 など) を入れ、Sf9細胞の単層培養をセットアップし、細胞が接着した後 (約1時間かかります)、P0 ストックを 100〜300µl 添加します。最初に培地を除去する必要はありません。これを数日間培養し、ウイルス感染の兆候を探します。何を探せばよいかわからない場合は、P0 ウイルスストックを接種していない細胞(コントロールフラスコ)をセットアップします。接種したウイルスの力価が特に低かった場合は、ウイルス感染を確認するために、ウイルスを感染させたフラスコを1週間放置する必要があるかもしれません。その後、フラスコから採取したウイルスをより大規模な細胞培養懸濁液に接種するために使用することができます。
感染力価の値を把握することが、効率的な組換えタンパク質の作製を実現するために細胞培養に適切な量のウイルスを添加する上で不可欠だからです。例えば、添加したウイルスが少なすぎると、タンパク質の収量が非常に低くなる可能性があります。これは、ウイルスを添加する際、すべての細胞を同時に感染させてタンパク質発現を同期させる必要があるためです。ウイルスを培養物に添加した直後にすべての細胞が感染しない場合は、感染を免れた細胞が増殖し続けます。感染していない細胞の密度が増加し、培養物はウイルスの複製が抑制される静止期に近づきます。その結果、タンパク質を作製する細胞はごく一部になります。これにより、タンパク質の合成プロセスが二相性になってしまい、特に不安定なタンパク質の場合は、タンパク質の品質に影響を与える可能性があります。細胞に添加するウイルスの量について、厳格なガイドラインはありません。この値は感染多重度 (MOI) と呼ばれることが多く、細胞あたりに添加されたプラーク形成単位 (pfu) を表し、範囲は 0.1〜10 pfu/cell になります。ただし、接種量の差を一定に保つことが推奨されます。例えば、1、5、10 pfu/cellを使用するのは一見論理的に思えるかもしれませんが、よく考えると、各接種量間の倍率は5倍および2倍と異なっています。1、3、9 pfu/cell を使用する場合、各接種量間の倍率は3倍と3倍です。より細かく最適化するには、1、2、4、8 pfu/cell を使用できます。MOI が 10 pfu/cell を超えると、ウイルスに感染する細胞の数が増えることは通常ありません。さらに複雑なのは、最適なタンパク質の生産を実現するために細胞培養に加えるウイルスの量が、遺伝子および細胞株によって異なる場合があります。したがって、プロジェクトの適切な時点で、特定の遺伝子/ウイルス/細胞株に使用する最適な MOI を決定するために時間をかけることが不可欠です。必要以上にウイルスを加えることは問題ではないように思えるかもしれませんが、懸濁細胞培養の増殖に悪影響を与える可能性があります。また、ウイルスストックを精製しない限り、指数関数的に増殖する細胞に古い/使用済みの培地を追加することになります。これは些細な問題に思えるかもしれませんが、ウイルスストックの感染力価が低い場合は、かなり大量のウイルスを添加することになり、培養の増殖にわずかに悪影響を及ぼす可能性があります。
プラークアッセイを良好に行う上で最も重要な要素は、宿主である昆虫細胞の性質と品質です。AcMNPV(Autographa californica nucleopolyhedrovirus)に基づくバキュロウイルス発現ベクターにおいて、これらのアッセイではほとんどの場合Spodoptera frugiperda(Sf)細胞、つまり5-10%のウシ血清を含むTC100で増殖させたSf21細胞か、無血清培地(例えばESF921)で増殖させたSf9細胞を用いて行われます。Sf9細胞は元々Sf21細胞から派生させたクローン株であり、より均一なプラークを形成することが示唆されていますが、この方法ではSf21細胞の方が優れていると考えられます。OET社の実験では、Sf21細胞はSf9細胞よりも早くプラークを形成しました。これは、Sf9細胞がSf21細胞よりも組換えタンパク質の作製に優れていることの結果である可能性があります。Sf9細胞は、クローン化されていない Sf21 細胞よりも長い間、完全性を維持しているようです。これはタンパク質の作製には有利ですが、細胞死によって引き起こされる透明なプラークの形成を遅らせる可能性があります。しかしながら、Sf21細胞はウイルス滴定にのみ必要なため、両方の細胞株を研究室で維持するのは現実的ではないかもしれません。そのため、OET社ではSf9細胞を使用したウイルス滴定の手順を最適化し、次のことを提案しています。
- どちらの細胞株を使用する場合でも、スピナー (Sf21) またはシェイク (Sf9) 懸濁培養から回収した細胞は、増殖の中間対数期にあり、生存率がほぼ100%である必要があります。
- 細胞を選択したサイズの培養ディッシュに播種すると、1時間以内に沈降してサブコンフルエントな単層を形成するはずです。また、細胞は使用前日にディッシュに播種することも可能です。
- 個別の培養ディッシュを使用することもできますが、プラークアッセイには 6、12、または24ウェルプレートを使用する方が便利です。
- Sf9細胞は通常、無血清培地で増殖させますが、プラークアッセイ(滴定)では血清含有培地、できれば10% FBSを含む TC100 で行うことをお勧めします。Sf9細胞は、新しい培地への急激な移行に非常によく耐えるようです。
- タンパク質の含有量が多いと、ウイルスがプラスチックチューブに結合して感染力価が人工的に低下します。これを防ぐために、滴定前に TC100/10%FBS を使用してウイルスストックを希釈することをお勧めします。
- 複数のウイルスストックを同時に滴定する場合は、ウイルスを迅速に希釈するために 48ウェルプレートの使用を検討してください。ただし、マルチチャンネルピペットはチップが外れやすいので、お勧めしません。
- 常に低融点タイプのアガロースを含むオーバーレイを使用してください。昆虫細胞は、哺乳類細胞に使用される通常のアガロースに耐えられません。
- プラークアッセイ手順のどの時点でも細胞単層の乾燥を避けてください。乾燥すると細胞が死滅し、単層に穴が開きます。これは、強い下降気流を備えたクラス IIの安全キャビネット内で作業する場合に特に問題となります。
- 細胞単層の染色には顕微鏡グレードのニュートラルレッドを使用してください。
- ウイルス滴定に無血清培地を使用する必要がある場合は、細胞単層をニュートラルレッドで染色した後、発生するプラークが急速に消える傾向があることに注意してください。
- 最初は成功しなくても、何度も繰り返し試してください。通常、良好なプラークアッセイの結果を得るには複数回の試行が必要です。良好なプラークアッセイの例を以下に示します(図5)。
図5. Sf21 細胞における野生型バキュロウイルスの滴定
A-C は、ウイルスを接種しており、それぞれ希釈率が異なる。プラークが隣のプラークと融合しているように見えることがあることに注意。
さらに詳しい方法については、OET社のウェブサイトのウイルスマニュアルを参照してください。
図6. プラークアッセイの概略図
ウイルスの感染力を測定するにあたりプラークアッセイ法はゴールドスタンダードですが、時間がかかります。一方、より短時間でバキュロウイルスの感染性を判断する方法として、定量PCR(qPCR)があります。OET社では3 時間以内にウイルス滴定を行うために必要なすべての試薬が含まれている baculoQUANT™ all-in-one kit を販売しており、必要な作業時間は1時間未満です。少量 (80µl) のウイルスをマイクロ遠心機でペレット化し、通常のサーマルサイクラーを使用して短時間溶解バッファーで処理した後、qPCR アッセイに直接導入して、OET社が提供するスタンダード(ウイルスサンプル)と比較します。精度は、従来のプラークアッセイ法に匹敵します。baculoQUANT™ all-in-one kit を使用すると、ウイルスの回収、滴定、および細胞にウイルスを接種してタンパク質の発現テストを開始するまで、すべて同じ日に行うことができます。このキットは、qPCR 値をウイルス感染力の一般的な単位である pfu/ml に変換します。
qPCR による組換えウイルスストックの感染力価の測定は、基本的にサンプル内のウイルスDNAの量を評価していることに他ならない点に注意することが非常に重要です。新しく調製されたウイルスストックでは、これはウイルス粒子の感染力に直接関係します。しなしながらほとんどの組換えウイルスストックは4°Cで保存されるため、時間の経過とともに感染力が徐々に低下する可能性があります。したがって、3か月以上経過したウイルスストックは qPCR 法で滴定できず、常にプラークアッセイを利用するようにしてください。ウイルスによって発現される組換えタンパク質の性質が、ウイルスストックの安定性に影響するのではないかという疑念がございます。たとえば、細胞から出芽するウイルスに、細胞膜結合タンパク質が組み込まれることがあります。これはウイルスの安定性に影響を与える可能性があります。
baculoQUANT™ all-in-one kit の詳細なプロトコルは以下をご参照ください。
2. 昆虫細胞に関するFAQ
複雑さ/難しさの尺度で言えば、昆虫細胞の培養は酵母と哺乳類のシステムの中間に位置します。昆虫細胞は懸濁または単層で培養することができます。また、後者では、回収および継代前にトリプシン酵素処理は必要ありません。さらに、多くの哺乳類細胞における単層培養のように、増殖培地において pH を調節するために二酸化炭素を使用する必要はありません。酵母とは異なり、昆虫細胞は新しい培養を開始する際、過剰希釈に敏感であり、また高密度に増殖すると急速に衰退する可能性があります。これらの理由から、昆虫細胞を回収した後は、実験に使用したり次の継代に移行したりする前に、その数と生存率を測定するのが普通です。両方のパラメータを素早く測定する自動セルカウンターシステムがありますが、無い場合は、信頼性の高い Neubauer 計数チャンバーを使用して手動で細胞をカウントできます。これには、計数しながら細胞の品質を評価できるという利点があります。自動セルカウンターを持っている場合にも、いくつかの細胞を小さな培養ディッシュに入れて顕微鏡で観察することをお勧めします。健康な細胞がどのように見えるかを言葉で表現するのは難しいですが、少し練習すればすぐに明らかになります。昆虫細胞を初めて扱う場合は、予備の培養物を細胞が死滅するまで培養し、細胞がどう変化するかを毎日観察してください。懸濁培養した昆虫細胞が1時間以内に培養ディッシュに接着しない場合は、それ以上の使用には適さない可能性があります。
バキュロウイルスベースの発現ベクターに使用される主な昆虫細胞をご紹介します。
Spodoptera frugiperda (Sf) 21
この細胞は 1970 年代に卵巣組織から確立されました (Vaughn et al, 1977)。クローン化されていない細胞株であるため、さまざまな形やサイズの細胞が含まれています。この細胞はバキュロウイルス発現に使用された最初の細胞株でした (Smith et al. 1983)。
S. frugiperda Sf9
この細胞は、Sf21 細胞からのサブクローニングによって確立されました (Smith et al, 1985)。この細胞は、組換えウイルスの作製とそれに続くタンパク質生産の目的で、親株をほぼ完全に凌駕しています。この細胞は非常に均一な外観をしており、Sf21 細胞よりも高密度に増殖できます。
Trichoplusia ni BTI-TN-5B1-4
より一般的には High Five™ 細胞 (Hi5) として知られており、卵巣組織由来の親細胞株から分離したクローンです (Wickham et al, 1992)。特に分泌タンパク質の生産に役立ち、一般的に Sf21細胞や Sf9細胞と比較してほとんどの組換えタンパク質を高レベルで合成します。しかし、元となる組換えウイルスを作製する用途にはあまり適していません。
以下の写真をご参照ください。
図7. ESF921培地で培養されているさまざまな健康状態のSf9細胞 (明視野での観察)
A-C: 過剰に増殖させた培養物から生じた低品質な細胞。D: 良質な細胞
健康状態の悪い細胞は使用せず、液体窒素のストックから新鮮な細胞を復活させることをお勧めします。なぜなら、わずかな劣化に過ぎないかもしれませんが、もしこれらをタンパク質の精製に使用する場合は大きな違いが出る可能性があるためです。しかしながらそのようなストックが無く、細胞があまり劣化していない場合は、次の手順を試すことができます。
現在の懸濁培養で細胞を計数し、約 3〜4x10e6 個の細胞(死んでいる細胞と生きている細胞)を 25cm2 フラスコに分注して単層培養します。生きた細胞がプラスチックに接着するのを待ち(28°Cで1〜2時間)、培地と「浮遊物」を取り除き、安全に廃棄します。接着した細胞を新鮮な培地で洗浄し、さらに5mlの培地を加えてから28°Cで培養します。細胞が厚い単層を形成するまで培養を続けます。その後、フラスコを実験台で強く叩いて細胞を剥がし、新しい懸濁培養を開始してください。
この手順が細胞を浮遊培養のままにしておくよりも良い点は、細胞を復活させる前に死んだ細胞と使い古した培地を取り除けることです。元の懸濁培養にいくらかの生存細胞が残っていれば、通常、その培養を復活させることが可能です。復活には時間がかかる場合がありますので、辛抱強く待ってください。低品質な細胞を復活させるには、ESF 921 培地が特に効果的です。
ウイルスを感染させてから数日以内にコンタミネーションが発生した場合は、培養物を廃棄してやり直す必要があります。しかしながら、最初にコンタミネーションした微生物が非常に少なければ、ウイルスに感染した細胞は5日間の培養をなんとか生き残り、妥当なウイルス収量を産出する可能性があります。この場合、細胞と培地を回収し、低速遠心分離を使用して細胞とその他の不要な微生物を沈殿させ、次に 0.2 または 0.45µM の使い捨てカセットで培地を濾過します。これにより、微生物のコンタミネーションのないウイルスストックが得られます。
トランスフェクションの実験で、ウイルスDNAを含まずプラスミドトランスファーベクターを含むネガティブコントロールを使用することが有用です。これは、複製しないDNAとトランスフェクション試薬の添加することによる影響を確認するためのコントロールとして機能します。また、トランスフェクションプロセスによって妨げられることなく分裂プロセスを観察できるように、1つの細胞培養を未処理のままにしておくことも大切です。
昆虫細胞におけるウイルス感染の初期症状は非常に微妙です。核が拡大し、外側の細胞膜がわずかにはっきり見えるようになります。これらの影響を見つける最も良い方法の 1つは、トランスフェクトした細胞をコントロールプレートと比較することです。さらに注目すべき点は、細胞がウイルスに感染すると分裂が停止することです。したがって、サブコンフルエントな細胞単層はコンフルエントになりません。トランスフェクション後5日で、ウイルス感染の兆候がより明らかになるはずです。細胞は顆粒状になります。以下に、ウイルス DNA を導入した細胞の例をいくつか示します。

図8. flashBAC™ とプラスミドトランスファーベクターでコトランスフェクションしてから5日後の Sf9細胞
コンフルエントでないエリアで核が拡大した細胞に注目してください。
通常は5日後にコトランスフェクションしたものを回収することをお勧めしますが、もう少し長く放置するとウイルス感染が進行し続け、細胞変性効果がより顕著になります。(図9)

図9. flashBAC™とプラスミドトランスファーベクターでコトランスフェクションしてから7日後のSf9細胞
これらの細胞の外観をプラスミドトランスファーベクターのみを使用したmockトランスフェクションの細胞と比較してください。 (図10)

図10. プラスミドトランスファーベクターのみを使用したmockトランスフェクションの Sf9細胞
最後に、トランスフェクションが成功したかどうかまだ不明な場合は、P0 ストックを100µl 使用して、小さな細胞培養ディッシュの Sf9細胞に添加します。48〜72 時間後、これらの細胞は、紛れもないウイルス感染の非常に明白な兆候を示すはずです。または、qPCR (baculoQUANT all-in-one) を使用して、ウイルスストックの感染力価を決定することもできます。この手順は数時間で完了します。以前の実験で組換えウイルスをすでに作製している場合は、これを使用して別のディッシュの細胞に感染させ、ウイルス感染のポジティブコントロールとして使用することもできます。ただし、トランスフェクションプロセスを模倣するには、非常に低い感染多重度 (MOI) で細胞に添加するのが最善です。トランスフェクションプロセスでは、最初のウイルス複製のラウンドから少量のウイルスが最初に生成されます。flashBAC™ を使用する場合は、ウイルスDNAと pAcRP23.lacZ トランスファーベクターを含む別のポジティブコントロールを設けることもできます。その後、少量の X-gal を添加することで、β-ガラクトシダーゼの生成をモニタリングすることが可能となります。
Sf9細胞を単層培養から懸濁培養へ移行するのは、難しい場合があります。バキュロウイルスを介した発現によく使用される昆虫細胞は、通常、懸濁培養で増殖し続けます。しかしながら、需要の少ない期間に単層培養を使用して増殖を続けることもあります。これらの培養液は、メインの懸濁培養液の予備やバックアップとしても有用です。残念ながら、Sf9細胞はプラスチックの表面にカサガイのようにくっつく習性があり、取り除くのは非常に困難です。さらに、プラスチックからこすり落とすと、生存率が大幅に低下します。トリプシン/versene の使用も、生存率に影響するようなので、よくありません。細胞を剥がす最善の方法は、Sf9細胞を非常に高密度になるまで増殖させ、プラスチック上で互いに覆いかぶさるような状態になるまで培養することです。細胞層は非常に厚く見えますが、まだ生存可能です。次に、実験台の上でプラスチックの培養容器を非常に強く叩くと、通常、ほとんどの細胞が剥がれます。「強く叩く」というのは、培養容器が割れる直前まで叩くことを意味します。細胞が密集している必要があるというのは、下の画像 (図11) のような状態である必要があることを意味します。
上記のアドバイスに従うと、全てではないですがほとんどのSf9細胞が単層培養容器から剥がれ、懸濁培養でさらに増殖する準備が整います。回収したばかりのプラスチックフラスコに付着したままの細胞に新鮮な培地を追加することで、Sf9細胞の予備培養として増殖を続けることができます。昆虫細胞の培養に関する詳細は、ユーザーガイドに記載されています。
OET社にて2本の細胞バイアルを -80°C で 2か月間保存し、その後、解凍して生存率を確認し、細胞培養フラスコに移したところ、生存率が5-10% に低下していることがわかりました。(通常、液体窒素で保存された細胞の生存率は、解凍後 80-90% です。)バイアル内の細胞の生存率が低く、7日経ってもまだ細胞層が非常に薄いままではあるものの、単層培養を確立することができました。この限定的なテストが示すのは、昆虫細胞を-80℃で1ヶ月以上保存するのは、おそらく良い考えではないということです。しかしながら、OET社などのベンダーから細胞を購入した場合、到着後すぐに復活させる必要はなく、-80°Cの冷凍庫に少なくとも1週間は安全に保存でき、生存率が大幅に低下することはありません。このテストでは Sf21 細胞を使用しましたが、他の種類の細胞をこの温度で保存しても同じ結果が得られると予想されます。昆虫細胞のストックの多くは、極低温保存から直接振とう/懸濁培養としてセットアップするのに適した濃度で提供されていますが、これらの細胞の一部を単層培養として取っておくのも良い方法です。今回生存率をテストした Sf21細胞は、スピナー培養/懸濁培養として復活させることを意図していました。細胞をこの形式で培養した場合、生存率が低いため、増殖する可能性は低いです。細胞を単層培養として播種し接着させることで、低密度な細胞は常に懸濁培養よりも回復が良好になるようです。
3. 組換えタンパク質に関するFAQ
最初にすべきことは、組換えタンパク質を何に使うか決めることです。ターゲットが翻訳後修飾(グリコシル化、アルキル化、リン酸化、特定のタンパク質分解処理など)をあまり必要としない「単純な」タンパク質である場合は、大腸菌ベースのベクターを使用する選択肢があります。これは非常に安価に使用できるという利点がありますが、一部の特殊な宿主株の場合は、特定のベンダーから購入する必要がある場合があります。細菌から調製されたタンパク質は、一般的に構造決定、酵素学、創薬に適しています。 次に選択肢となるタンパク質発現システムとしては、Pichia pastoris などの酵母宿主を使用する方法があります。このシステムも低コストです。 発現レベルは一般に高くなります。酵母細胞には、広範な翻訳後修飾、タンパク質のフォールディング、ターゲットの組換えタンパク質を分泌することができるという利点があります。タンパク質の精製は一般に簡単ですが、酵母細胞は溶解が難しい場合があります。これによりタンパク質が変性する可能性があり、その後 in vitro で再度フォールディングする必要があります。
複雑な哺乳類タンパク質を扱う場合は、HEK293 や CHO 細胞などの哺乳類システムで生産するのが理にかなっています。タンパク質のフォールディングは効率的で、分泌は概して良好です。翻訳後修飾は優れており、その結果、すべての特性においてネイティブなタンパク質に可能な限り近い産物が得られます。欠点は、培養培地のコストと、細胞に適切な pH を維持するために二酸化炭素ガスを放出するインキュベーターが必要なことです。多くの場合、最初はタンパク質の発現を、プラスミドを用いた一過性のトランスフェクションで評価します。これはある程度スケールアップすることが可能ですが、より長期的な生産のためには、遺伝子が細胞の染色体に安定的に組み込まれた細胞株を作製します。このプロセスは比較的簡単ですが、完了するまでに数週間/数か月かかる場合があります。哺乳類細胞の培養はマイコプラズマによるコンタミネーションも受けやすく、これは絶対に避けなければなりません。しかし、CHO細胞は抗体などのタンパク質治療薬を製造する企業にとって選択されるシステムであることが多く、現在ではそれ自体が主要な産業となっています。 昆虫細胞ベースの発現システムも非常に人気があります。これらは主に、一過性または安定的なタンパク質発現用のショウジョウバエ S2細胞、またはバッチタンパク質生産用のバキュロウイルス/チョウ目細胞に基づいています。OET社では後者のシステムを専門としていますが、細菌細胞や哺乳類細胞でのタンパク質生産も行っています。バキュロウイルスシステムは30年以上前から存在しており、多くの利点があります。組換え遺伝子の発現では、非常に強力なポリヘドリンプロモーターを使用します。ターゲットの翻訳後修飾は、一般にネイティブなタンパク質に忠実であり、実際の生物学的活性をもたらします。このシステムは非常にシンプルな装置を使用してリットル容量に簡単に拡張でき、細胞の培養に二酸化炭素ガスを必要としません。細胞はマイコプラズマによるコンタミネーションも受けにくくなっています。ただし哺乳類システムと同様に、培地のコストは細菌や酵母に比べて高くなります。バキュロウイルスに感染した昆虫細胞から精製されたタンパク質は、構造/機能研究や結晶構造解析から候補ワクチンの試験研究に至るまで、事実上あらゆる目的に使用することができます。
初期テスト後、タンパク質を大規模で生産する前に、バキュロウイルスベクターを使用して組換えタンパク質を中規模で生産する際についてご説明します。複数のコンストラクトを扱う場合、25〜30 ml のウイルスに感染した細胞を増殖できる細胞培養容器(どこにでもある 125 ml の円錐フラスコなど)のコストがかさむことがあります。また、一部の研究室ではシェーカーのスペースが貴重になることもあります。コストとスペースの両方の問題に対処するために、通気孔付きスクリューキャップの50ml 遠心チューブをご提案します。また、通気孔が無くてもキャップを緩めてテープで外れないようにすれば、同様に機能します。
これらの50ml遠心チューブは250rpmで回転させることで、最大25mlのウイルスに感染した昆虫細胞を増殖させることができます。
この高速回転により、ウイルス複製プロセスを最適に保つのに十分な通気が可能になります。表面積/容積 の比率は気体の交換に不利にみえますが、うまく機能するようです。
これらのチューブで中規模の組換えタンパク質を生産するもう1つの利点は、同じ容器を使用して細胞を回収できることです。細胞を沈殿させる前に新しいチューブに移す必要がないため、プロセスが合理化されます。
4. トラブルシューティング
細胞がうまく増殖しない最も一般的な原因は、継代を行う前に細胞が静止期(stationary phase)に達してしまった場合です。このような「ストレス」が2〜3回培養に加わると、細胞はもはや正常に増殖しなくなります。細胞を常に定期的にチェックし、過剰に増殖しないようにしてください。もしこのようなことが発生した場合は、液体窒素で保存しているストックを使用して新しい培養を立ち上げることをお勧めします。細胞の継代回数よりもはるかに重要なのは、培養物がストレスを受けた回数です。うまく増殖していない細胞は、組換えウイルスの作製、ウイルスの増幅、またはタンパク質の生成テストに使用しないでください。なぜならこれらの各技術では、ウイルスが細胞内に感染して複製する必要があり、これは細胞が活発に複製している場合、つまり対数増殖期にある場合にのみ可能です。
最も一般的な原因は、細胞密度が高すぎることや、細胞が対数増殖期にないことが挙げられます。低いMOI(0.1 pfu/細胞)で細胞にウイルスを感染させたかどうかご確認ください。高いMOIでは力価が低くなる傾向があります。一方、非常に低いMOIで感染させた場合、高力価を達成することができますが、達成までに時間がかかることがあります。細胞が感染しているかどうかについて、顕微鏡で以下の特徴が観察できるかご確認ください。
- 核が粒状で膨張している
- 細胞がソーセージのような形態を示している
- 細胞の生存率が65%未満(Sf9細胞の場合)
もう一つ考えられる問題としては、外来遺伝子産物が出芽ウイルス (BV) の生成に影響を及ぼしている可能性です。
- テストに使用した細胞は良好な状態だったかどうか、また、プラークアッセイやqPCRで測定した力価が既知のウイルスを使用したかどうかご確認ください。
- ウイルスを使用前に保存していた場合、力価を維持するために血清やグリセロールを加えましたか?もし加えていない場合は、ウイルスを再滴定して、もう一度試してください。
- 実験のコントロールとしてコントロールウイルスを使用しましたか?もし使用した場合、そのウイルスは正常に機能しましたか?
- 発現条件を最適化しましたか?特に、時折T. ni細胞ではタンパク質が発現するのに対し、Sf9細胞では発現しない場合があります。
- ごくまれに、遺伝子が不安定な場合があります。PCRで遺伝子が実際にウイルスゲノム内にあるかどうかを確認してください。この際、細胞/ウイルス DNA を回収してPCR分析を行ってください。
- 遺伝子がポリヘドリン遺伝子プロモーターによって適切に制御されているか(最初の ATG が目的遺伝子の ATG であるか)を確認してください。
- タグを使用して遺伝子を検出している場合、そのタグが正しいフレームに配置されているか確認してください。
すべての可能性を試した結果、それでも発現しない場合、非常にまれですが、一部の遺伝子は未知の理由で発現しないことがあります。ほとんどの場合、これらの遺伝子は細胞に毒性を持つことが原因とされています。
この現象はSf9細胞や Hi5細胞、およびさまざまな無血清培地で発生し、液体窒素から復活させセットアップされた新しい細胞培養でよく見られます。通常、1〜2回の継代で消えます。問題の原因は以下が挙げられます。
- 細胞がストレスを受けているか、細胞が環境に合っていないことを示している可能性があります。
- 特に Sf9細胞の場合、単層培養から懸濁培養への移行が要因となる可能性があります。
- 細胞の播種密度が影響している可能性があります。細胞密度が低すぎると、細胞がリング状に凝集する可能性があります。
- 使用する培地の種類は、細胞の健康と動作に影響を与える可能性があります。
解決策は以下が挙げられます。
- 長期継代の影響を軽減するために、液体窒素から新鮮な細胞を復活させます。
- 単層培養から頻繁に移行せず、可能な限り懸濁培養を維持します。
- 適切な播種密度を確保します。(例えば、Sf9細胞の場合は0.7×10e6細胞/ml。)
- 日常的な細胞増殖には、Expression Systems 921 などの信頼性の高い培地の使用を検討します。
- 変動を最小限に抑えるために、一貫したフラスコタイプ (例: Corning フラスコ) を使用します。
継代数は Sf9細胞にとって厳密には意味がないかもしれませんが、バッチを復活させた後の継代数は50回以内に制限してください。また、細胞の健康状態と増殖率を定期的にモニタリングしてください。一貫した培養条件を維持し、培地やフラスコの種類の頻繁な変更を避けてください。 これらの対策を講じても問題が解決しない場合は、インキュベーターの状態、シェーカーの速度、コンタミネーションの可能性など、他の要因のトラブルシューティングが必要になる場合があります。Sf9細胞では、理由もなく「スローダウン」期間が発生する場合があり、これがリング形成の一因となる可能性があることに注意してください。


































