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Ludger社のCEO、Dr. Daryl Fernandesによる糖タンパク質医薬品の糖プロファイリングのための蛍光標識法を紹介します。糖タンパク質糖鎖の蛍光標識法


バイオ医薬品のグリコシル化は、糖タンパク質医薬品の安全性および有効性プロファイルに著しい影響を及ぼす可能性があるため、糖鎖の詳細かつ正確なモニタリングは、医薬品のライフサイクルを通して不可欠な課題です。一般的に、その特定の薬物に対して指定された一連のグリコシル化の重要品質特性(GCQA)を測定するように設計された糖プロファイリングモジュールの統合されたセットの使用を含みます。これらの糖プロファイリングの多くは、蛍光タグによる糖鎖の標識を必要とします。蛍光標識は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)またはキャピラリー電気泳動(CE)による分離および定量を助け、質量分析による分析を改善することができます。本稿では、Quality by Design(QbD)に関する、信頼性のあるバイオ医薬品糖プロファイリングのための糖鎖蛍光標識アプローチ方法について述べています。

グリコシル化は、バイオ医薬品の安全性および有効性プロファイルにおいて重要な役割を担っています(1)。安全性の懸念として、非ヒト糖鎖によって引き起こされる可能性のある有害な事象が含まれます。例えば、IgE媒介性アナフィラキシーは、セツキシマブ(Erbitux®の名称で市販され、転移性大腸がんおよび頭頸部がんの治療に使用される抗体医薬品)で治療された特定の疾患において見出されています。この有害事象は現在、薬剤のFab領域に結合した免疫原性非ヒト型糖鎖に起因するとされています。免疫原性エピトープは、ある種のセツキシマブ糖鎖の非還元末端に見られるガラクトース-α-1,3-ガラクトースです(2)。このエピトープは、哺乳動物発現系で産生される他の生物製剤においても発見されています。

多くの生物製剤は非ヒト型シアル酸、N-グリコリルノイラミン酸(NeuGc)を含んでいます。このことが薬剤の安全性と有効性の両方に与える影響は未だ解明されていません。ヒト細胞によって天然に合成されるシアル酸は、N-アセチルノイラミン酸(NeuAc)であり、ほとんどの製薬企業が想定する、バイオ医薬品のためのシアル酸化の理想的な型であると考えています。NeuGcは非ヒト糖タンパク質中に見出され、生合成を介して、または培養液中の非ヒト血清からNeuGcをスカベンジすることにより、発現系の細胞によって生物製剤に導入され得ます。また、生体異物(xenobioticな)NeuGcエピトープが関与する生体内での有害な反応が起こる可能性、および血中の抗NeuGc抗体による中和を介した薬効の低下等のリスクが挙げられます。そのような影響が起こる可能性は、活性化ヒトT細胞がNeuGcを取り込み、ヒト血清中の抗NeuGc IgGがこれらのT細胞に結合し、補体による制御を開始したことを示すNguenらの研究(3)の他、様々な研究によって示されています。

多くのタイプの生物製剤の最適な有効性のためには特異的なグリコシル化パターンを必要とします(1)。例えばいくつかの抗体について、Fc糖鎖のコアフコシル化の割合は、抗体依存性細胞傷害(ADCC)活性レベルと逆相関します。また末端のガラクトース残基のレベルは、抗体のCDC(補体依存性細胞傷害)活性に有意に影響を与えます。エリスロポエチン(EPO)などの糖タンパク質ホルモン/サイトカインでは、糖鎖の種類(例えば、N-結合型 vs O-結合型)、それらのアンテナ構造およびシアル化度は、in vivo生物活性に大きな影響を及ぼす可能性があります。

このため、糖タンパク質医薬品については、医薬品のライフサイクル全体にわたる比較可能性試験のために、グリコシル化の正確、詳細、定量的な構造的特徴付けが必要です。これは、異なるグリコシル化パラメータを測定するための多数の糖プロファイリングモジュールの使用によって達成されます。糖鎖の蛍光標識は、このような糖プロファイリングの重要な要素です(4)。現在、多くの糖鎖標識方法があり、特定の生物製剤に使用するものの選択は慎重に行う必要があります。適切な標識方法および分析プラットフォームの使用は、複雑な糖鎖混合物中の個々の種類の良好な分離およびそれらの種の信頼できる定量を可能にします。特定の用途に対する標識の選択が不十分であると、重要な糖鎖種の定量が不正確になり、良好なグリコシル化を有する薬物バッチが不合格となるリスクが高くなります。より深刻なケースでは、規格外のグリコシル化パターンを有するバッチが通過してしまうこともあります。

本稿の後半では、「哺乳動物発現系で産生されるバイオ医薬品のグリコシル化の効果的なモニタリングのための蛍光標識の使用」に焦点を当てます。糖プロファイリングモジュールは、糖鎖、シアル酸、中性単糖の分析に用います。製品管理のためのQbDにおけるそれらのサービスについても説明します。

QbDにおける糖鎖標識

薬剤のグリコシル化のモニタリングには、通常それぞれが数十の異なる糖鎖構造を含む異なる薬物バッチの比較が必要です。グリコシル化の複雑さと、それが医薬品に与える構造的不均一性を考慮すると、何を、どのように比較するかという疑問が生じます。これに対する簡潔な解答は、「生物学的に重要なグリコシル化の特徴を定量的に比較する」です。これは、バイオ医薬品の糖鎖(1)の複雑さに対処するために修正されたQbDアプローチを用いて行うことができます。本質的に、これは糖プロファイルの比較(各糖鎖成分がその相対モル存在量と、薬物のin vivo安全性および有効性に及ぼす影響によって重み付けされる)を含みます。糖プロファイルは、特定の薬剤のグリコシル化の重要品質特性(GCQA)を正確に測定するために選択されます。

糖鎖プロファイルの場合、個々の糖鎖の相対モル量の測定は、通常タンパク質からそれらを遊離させ、還元末端を蛍光標識で標識し、HPLCまたはCEで標識糖鎖を分離、次いで、蛍光シグナルのピーク面積を測定することによって達成されます。標識反応は還元的アミノ化反応です(図1)。中性単糖類も同様の方法でプロファイリングすることができます(天然の糖タンパク質から遊離される、または強酸加水分解を用いてグリコシド結合を切断することによって遊離される場合を除く)。シアル酸は弱酸加水分解によって遊離されますが、還元末端を持たないため、別の方法で標識されます(5)。Ludger社の糖プロファイリング研究室で使用される蛍光標識を表1にまとめました。糖プロファイリング中の糖鎖の蛍光標識は、HPLC/CEによる糖鎖の定量、分離において有効です。

蛍光標識はHPLC、CEによる糖鎖の定量を可能にします

糖鎖は強力な発色団を持たないので、HPLCやCEによる分析(蛍光あるいはUV/VIS検出)には標識が必要です。ほとんどの場合、蛍光光度法は、UV/VIS検出よりも優れた感度と選択性を示し、(信頼性の高い分析を妨げる)複雑なバッファーシステムを用いた分離を可能にします。非標識糖鎖はパルスアンペロメトリー検出(PAD)によりHPLCでモニターできますが、移動相、あるいはポストカラムに高pHバッファーを必要とします(糖ヒドロキシ基の脱プロトン化を行うため)。さらに、異なる糖鎖は異なる相対的PAD応答を示すので、PAD検出による信頼性の高い定量は困難です。質量分析法は、非標識糖鎖の検出にも使用できますが、糖鎖やMS機器が異なれば、シグナル応答が変動するという大きな問題があります。蛍光標識は完璧ではありませんが、しばしばPADやMSよりもはるかに信頼できる定量を可能にします。正しく行えば、複雑な混合物中に存在する、構造が異なる多種の糖鎖に対する優れた化学量論的標識が得られます。ほとんどの場合、蛍光トレースの相対ピーク面積は、糖鎖構造の相対モル存在量に対応すると仮定することができます。中性単糖類とシアル酸では、異なる種類が異なる蛍光収率をもつため、正確な定量には検量線が必要です。

蛍光標識はHPLC、CEにおける糖鎖の分離に有効です

ほとんどの蛍光標識は芳香環を持ち、完全な親水性の糖鎖に一定の疎水性を付与します。糖鎖標識結合体の両親媒性の性質は、親水性および疎水性HPLC固定相の両方で複合糖鎖混合物の分離を可能にします。このような直交分離は、糖鎖の分離に必須です。また、標識の他の物理化学的性質は、分析分離の強化に使用することができます。例えばAPTS(8-アミノピレン-1,3,6トリスルホネート)のようなスルホネート基による標識は、CEによる迅速な分離のために、糖鎖に強い負電荷を付与するために使用されます。

糖鎖プロファイリングのための蛍光標識の選択

糖鎖のプロファイリングのために蛍光標識を選択するプロセスは、品質リスクマネジメントプログラムの一部に組み込まれることが理想的です。例えば、単一の標識で標準化を希望する場合、様々な直交分離法による誘導体化糖鎖の分析が可能な標識を選択する必要があります。このような柔軟性は、薬のライフサイクルの多くの段階で重要になります。例えば、臨床的に有害事象が起こった後に、標準的な分離法で正常な糖鎖と共移行する異常な糖鎖を検索して同定する必要が生じた場合や、QC部門で異なる分析プラットフォームを有する別の施設に生産を移管する必要が生じた場合などにおいて、あらゆる選択肢で柔軟に対応する必要性が求められる場合があります。

ベストプラクティスに従って、新しい戦略の早い時期に異なる糖鎖標識と分離法を試み、その糖タンパク質医薬品について決定されたGCQAの最も信頼できる定量を与える組み合わせを選択することが重要です。分析では、緩衝塩などの非糖鎖汚染物質によって引き起こされる定量の歪みや、標識前後の精密検査における糖鎖の選択的喪失を適切にチェックし設計する必要があります。もし余裕があれば、GCQAの定量はICH Q2(R1)ガイドラインに従ってバリデーションを考慮されるとよいかもしれません。ただし、GCQAのリストと優先順位は、医薬品の構造活性相関に関する知識が増加するにつれて、製品開発中に変化する可能性があることを念頭に置く必要があると考えられます(1)

また、薬剤の異なる種類の糖鎖分析に複数の蛍光標識を用いることを考慮される場合もあります。例えば、クローン選択の間、APTS標識糖鎖のCEは、シアル化を伴わないかまたは低いシアル化を伴う糖鎖の迅速なスクリーニングを可能にします。しかし、薬剤が生物学的に重要な高度にシアル化されたものも含む場合、2-AB標識糖の分析がより適している可能性があります(いくつかのシアル酸を用いて糖鎖を分離する、より広範囲の直交HPLC分離に適しているため)。

単糖類およびシアル酸のプロファイリングでは、分析トレースが糖鎖よりはるかに単純であるため、一般に複数の直交分離および標識の必要性はありません。もし異常を調べる必要があれば、各研究室で糖鎖プロファイリング法の範囲を広げる準備する必要があります。ターゲットのの標識および分離方法を選択した後、各タイプの糖プロファイルについて詳細な構造割り付けを行う必要があります。HPLCまたはCEトレースにおける標識糖鎖の同定は、以下の組み合わせにより行うことができます:

  • サンプル糖鎖と十分に特徴付けられた分析標準物質(スタンダード)との比較(標準物質と割り当てられていないピークの共溶出は必ずしも構造が同じであることを意味しないことに注意してください)。
  • 外部蛍光標識ラダースタンダード(2-AB標識グルコースホモポリマーラダーなど)および糖鎖スタンダードのリテンションデータベースを用いた、サンプルピークのリテンションタイムの比較。
  • MS、MSnおよび/またはエキソグリコシダーゼ配列決定による全試料または単離画分の詳細な構造解析の実施(6)

結論

糖鎖の標識および分離法を選択し、標識糖鎖構造を同定するプロセスは簡単ではありません。しかし、医薬品開発の初期段階で徹底的に実施されれば、医薬品の生物学的に重要な品質特性を深く理解し、バイオマニュファクチャリングにおけるスリムで適切な、グリコシル化のためのQC法の開発につながるでしょう。また、必要に応じて分析を広げて異常の調査を行うこともできます。さらに、QbDパラダイムの制御と設計空間を採用する準備が整い、製造の柔軟性と規制負担の軽減が期待できます。

 

表1.バイオ医薬品の糖プロファイリングに用いられている蛍光標識
(AEX = anion exchange, HPAE-FD = high pH anion exchange with fluorescence detection, PGC = porous graphitic carbon)

LUD_glycoprotein_1.jpg

 

LUD_glycoprotein_2.jpg

図1.還元糖鎖の蛍光標識のための還元的アミノ化反応

参考文献

  1. Fernandes DL, A QbD approach to biopharmaceutical glycosylation, in Lyscom N (ed), Quality for Biologics , 2009
  2. Chung CH, Mirakhur B, Chan E, Le QT, Berlin J, Morse M, Murphy BA, Satinover SM, Hosen J, Mauro D, Slebos RJ, Zhou Q, Gold D, Hatley T, Hicklin DJ and Platts-Mills TA, Cetuximab-induced anaphylaxis and IgE specific for galactose-a-1,3galactose, N Engl J Med 358: pp1,109-1,117, 2008
  3. Nguyen DH, Tangvoranuntakul P and Varki A, Effects of natural human antibodies against a nonhuman sialic acid that metabolically incorporates into activated and malignant immune cells, J Immunol 175: pp228-236, 2005
  4. Domann PJ, Pardos-Pardos AC, Fernandes DL, Spencer DI, Radcliffe CM, Royle L, Dwek RA and Rudd PM, Separation-based glycoprofiling approaches using fluorescent labels, Proteomics Suppl 1: pp70-76, 2007
  5. Fernandes DL, Biopharmaceutical sialylation, Eur Biopharm Rev: pp100-104, Spring 2006
  6. Royle L, Radcliffe CM, Dwek RA and Rudd PM, Detailed Structural Analysis of N-Glycans Released From Glycoproteins in SDS-PAGE Gel Bands Using HPLC Combined With Exoglycosidase Array Digestion, Methods in Molecular Biology 347: pp125-144, 2006

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