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技術情報

記事ID : 15517

TALENやCRISPR-Cas9技術とshRNAやsiRNAの違いゲノム編集技術によるノックアウトとRNAi技術によるノックダウンの比較


近年、TALENやCRISPR-Cas9を利用して遺伝子を標的し、永久的変化を起こすゲノム編集技術が目覚ましく進歩し、分子遺伝学を一変させています。実験計画において、これらの新規技術と、より確立された技術である短鎖ヘアピンRNA(shRNA)や短鎖干渉RNA(siRNA)を介してノックダウンを行うRNA干渉(RNAi)技術から、いずれの手法を利用するか選択できるようになりました。本稿では、遺伝子機能断絶におけるこれら2種類の手法の違いと、一方の技術がより適していると思われる状況について探究します。

Cosmo Bio would like to acknowledge and thank the GeneCopoeia, Inc. for providing genome editing and RNAi information presented here.

RNAiを介した遺伝子サイレンシング

高等真核生物において対象遺伝子産物を細胞から枯渇させる場合、RNAiを介するノックダウンが最も一般的な手法です。しかし、通常、RNAiでは遺伝子を完全に遮断することはできません。一般に、短鎖(およそ20〜25塩基)二本鎖RNA分子はヘアピン形状の前駆体(shRNA)から産生させるか、細胞外(exogenously)より導入(siRNAオリゴ)します。shRNA やsiRNAが細胞内に導入されると、Dicerによるプロセシングを経て、一本鎖RNAが標的mRNAと塩基対を形成します(Ketting, 2013)。生物種に応じて、アルゴノート(Argonaute)タンパク質を通じたmRNA崩壊、または翻訳阻害によりRNAi介在性遺伝子サイレンシングが生じます(図.1)。その結果として、遺伝子コードを変化させることなく遺伝子発現の転写後下方制御が生じます(Mittal, 2004)。機能をもつRNAやタンパク質の一部は残余し、低レベルで翻訳されるため、RNAi技術を用いた遺伝子機能抑制は「ノックダウン」と表現されます。すなわち、遺伝子機能は低減するものの完全に除去されることはありません。

RNAi経路の一般的模式。

 

図.1 RNAi経路の一般的模式。Mittel(2004)より引用。

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ゲノム編集を利用した遺伝子ノックアウト

一方、ゲノム編集では遺伝子コードを変更し、通常「ノックアウト」を誘導するか、または遺伝子機能を完全除去します。この過程では、まず染色体上にDNA二本鎖切断(DSB)を生じます(Bogdanove & Voytas, 2011)。近年、高効率でDSB(DNA二本鎖切断)を作製する、TALENおよびCRISPR-Cas9の2種類のツールが開発されています(Bogdanove & Voytas, 2011; Jinek, et al., 2012; Shalem, et al., 2014; Wang, et al., 2014)。これらのいずれのツールも、植物病変形成(TALEN)、あるいは挿入変異原性からのゲノム防御(CRISPR-Cas9)といった細菌システムを利用したものです。TALENは制限エンドヌクレアーゼ Fokl に融合した部位特異的DNA結合タンパク質からなるキメラタンパク質です。一方、CRISPR-Cas9は、部位特異的な20塩基単鎖ガイドRNA(sgRNA,gRNA)を利用してCas9ヌクレアーゼをその標的座位に誘導します。TALENとCRISPR-Cas9のいずれにおいても、ヌクレアーゼが標的DNAの両鎖を切断します。この切断を修復しなくては細胞死となる可能性があるため、真核細胞では主に2種類の機序で修復応答します(図.2)。ひとつは非相同性末端結合(NHEJ)であり、染色体上の2つの遊離末端を再度結合させます。しかし、NHEJは誤りをおかしがちであり、しばしば遺伝子の破壊またはノックアウトにつながる短い挿入や欠失を生じます。ふたつめは相同組換え(HR、HDR)によるDSB(DNA二本鎖切断)修復であり、遺伝子ノックアウトを行う上でさらなる選択肢となり得ます。限定欠損の導入、挿入変異の導入、または単一塩基の置換などのアプリケーションが考えられます。

ゲノム編集ツールにより誘導されたDSB(DNA二本鎖切断)の修復経路

図.2 ゲノム編集ツールにより誘導されたDSB(DNA二本鎖切断)の修復経路

左:非相同性末端結合
右:ドナー鋳型存在下における相同組換え(HDR)

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RNAi技術とゲノム編集技術の比較

それでは、RNAi介在型ノックダウンとゲノム編集介在型ノックアウトではどちらの手法がよいのでしょうか。これは実験目的次第ともいえます(表.1)。実際、ゲノム編集を「ノックダウン」と呼ぶなど、これらの2種類の方略を混同しているケースもまだあり、これはゲノム編集が可能となるまで幾年にもわたり、高等真核生物における遺伝子機能切断の実用的な手法がRNAiであったことによる混乱であると推測されます。つまり、研究者は「ノックダウン」という用語に慣れ親しんでいる、ともいえます。

表.1 遺伝子切断を目的としたRNAi干渉とゲノム編集手法の比較
手法 ノックダウン ノックアウト 遺伝的コード変更 発現レベル変化 クローン単離の必要性
RNAi
(shRNA, siRNA)
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ゲノム編集
(TALEN, CRISPR)
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基本的に、遺伝コードを変化させることが望ましくない場合には、ゲノム編集よりもRNAi介在型ノックダウンの方が好ましいといえます。例えば、遺伝子機能を一時的に低減させたい場合、siRNAを細胞に一過性でトランスフェクションすることができます。数継代後、siRNAは失われ、正常な遺伝子機能が回復します。あるいはshRNAをゲノムに組込み、誘導性プロモーターからこのshRNAを発現させることもできます。この場合、期待する時期または特異的組織において対象遺伝子発現を抑制し、また正常に戻すといったことを繰返し行うことができます。ゲノム編集介在型ノックアウトと異なり、shRNA介在型ノックダウンでは単一クローンを単離する必要がないため、労力がより少なくてすみます。さらに、遺伝子機能を完全に除去すると細胞傷害(harm)を起こす可能性がありますが、部分的抑制であればこの可能性が低くなります。

一方で、真の遺伝的Null対立遺伝子を構築する場合には、ゲノム編集を選択するほうがよいでしょう(Wang, et al., 2013)。さらに、特異的部分変異を導入したり既存の変異を野生型に戻したい場合や、対象遺伝子の内在性座位において融合タグを付加し、遺伝子発現を行いたい場合もあるでしょう。このようなことを目的とする場合には、ゲノム編集手法を利用することとなります。

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参考文献

Bogdanove & Voytas (2011). TAL Effectors: Customizable proteins for DNA targeting. Science 333, 1843.

Jinek, et al. (2012). A programmable dual-RNA–guided DNA endonuclease in adaptive bacterial immunity. Science 337, 816.

Ketting (2011). The many faces of RNAi. Dev. Cell 20, 148.

Mittal (2004). Improving the efficiency of RNA interference in mammals. Nat. Rev. Genet. 5, 355.

Shalem, et al. (2014). Genome-scale CRISPR-Cas9 knockout screening in human cells. Science 343, 84.

Wang, et al. (2013). TALEN-mediated editing of the mouse Y chromosome. Nature Biotech. 31, 530.

Wang, et al. (2014). Genetic screens in human cells using the CRISPR-Cas9 system. Science 343, 80.

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