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技術情報

記事ID : 16189

次世代シーケンシング用語集から各社プラットフォームの比較まで次世代シーケンシング(NGS)とは


DNA(デオキシリボ核酸)は、その構造内に生命を創造し維持する生命システム全てに影響を及ぼす分子装置であるタンパク質やノンコーディングRNAの構築に必要なコードをもつ生命の青写真ともいえるものです。DNA配列を理解することで、研究者がRNAだけでなくタンパク質の構造や機能を解明することが可能となり、疾患の根底にある原因を理解することが可能となってきました。次世代シーケンシング(NGS)は数千から数百万ものDNA分子を同時に配列決定可能な強力な基盤技術です。次世代シーケンシングでは、複数個体を同時に配列決定できるなど高度かつ高速な処理が可能であることから、個の医療、遺伝性疾患、および臨床診断学といった分野に変革をもたらしています。

Cosmo Bio would like to acknowledge and thank the Applied Biological Materials Inc. for providing NGS information presented here.

次世代シーケンシング(NGS)の前身:サンガーシーケンシングのおさらい

サンガーシーケンシングでは高精度のDNA依存性ポリメラーゼを利用し、単一鎖DNA鋳型に対して相補的なコピーを産生します(1, 2, 3)。各反応において、鋳型に相補的なひとつのプライマーがその3'末端よりDNA合成反応を開始します。デオキシヌクレオチドまたは核酸はDNA単量体ですが、これが次々に鋳型依存的に加えられ、伸展しているプライマー末端の3'ヒドロキシルと取り入れられてくる核酸の5'三リン酸塩基との間にリン酸ジエステル結合が形成されます(図.1)(1)

各反応にはそれぞれ各DNA塩基(つまり、A, G, T, およびC)に対応する4種のジデオキシヌクレオチドの混合物が含まれています。これらのジデオキシヌクレオチドはDNA単量体と類似しており伸展鎖に組込まれますが、天然のデオキシヌクレオチドとは以下の2つの点が異なります。

  1. さらなるDNA伸展に必要な3'ヒドロキシル基が欠損しており、DNA分子に組込まれると鎖の産生が停止する。
  2. 各ジデオキシヌクレオチドには独自の蛍光染色が付加されており、DNA配列を自動的に検出できる(3, 4, 5)

反応ごとに多数の異なる鎖長のDNA断片コピーが作製され、この伸展は鋳型分子のヌクレオチド位の何れかにおいて対応するジデオキシヌクレオチドにより終止されます(図.1)。反応混合液をシーケンシング機器にロードする際は、手動で平板ゲル上にロードするか毛細管を用いて自動でロードし、電気泳動を行ってDNA分子を大きさで分類します。DNA配列はジデオキシヌクレオチドがゲルを通過する際にその蛍光発光を読み取ります(図.2)(5)。近年のサンガーシーケンシング機器はキャピラリーを基盤とした自動化電気泳動を利用しており、通常、8〜96シーケンシング反応を同時に分析することができます。

サンガーシーケンシングの概略図

図.1 サンガーシーケンシングの概略図

 

サンガーシーケンシング用の高精度DNAポリメラーゼがご入用の場合には、下表の商品がおすすめです。

品名 メーカー 品番 包装 希望販売価格

PrecisionTM DNA Polymerase (PCR)詳細データ

APB G078 500 UNIT
[100 μl]
¥14,000

次世代シーケンシング(NGS)技術の概要

次世代シーケンシングシステムはこの10年の間に急速に広まった、数百万から数十億もの膨大なシーケンシング反応を同時並行して実行できる技術です。さまざまな技術的特長をもつ機器が各社より開発されており、何れも以下のようないくつかの共通した特長をもっています(図.2)。

  1. サンプル調製
    全ての次世代シーケンシング基盤にはカスタムアダプター配列を利用して増幅またはライゲーションしたライブラリーが必要である。これらのアダプター配列を介してライブラリーがシーケンシングチップへハイブリダイゼーションすると共に、これらがシーケンシングプライマーのユニバーサルプライミング部位となる。
  2. シーケンシング機器
    各ライブラリー断片はライブラリアダプターとハイブリダイズする共有結合済DNAリンカーと共に固体表面(ビーズまたは平らなシリコン素材表面)上で増幅されるが、この増幅により単一ライブラリー断片に由来するDNAのクラスター群が形成され、各クラスターが個々のシーケンシング反応で作用する。各クラスター配列は核酸取り込みの繰返しサイクルにおいて、光または蛍光シグナルの産生を介して視覚的に読み取られる。各機器には独自のユニークなサイクリング条件が搭載されている。例えばIllumina社システムでは、可逆性の蛍光と集結核酸の繰返し組込みサイクルを行った後、シグナル取得および蛍光と終結基除去を行う。
  3. データ出力
    それぞれの機器はシーケンシング実行終了時に生データを出力する。この生データは各クラスターより産生されたDNA配列を集めたものである。本データをさらに解析することで、より意味をもつ結果を導くことができる。
さまざまな次世代シーケンシング基盤間の類似性と差異の概要

図.2 さまざまな次世代シーケンシング基盤間の類似性と差異の概要

次世代シーケンシング(NGS)- 各次世代シーケンシング(NGS)技術の違い

各次世代シーケンシングプラットフォームの主な相違点は、シーケンシング反応にあります。以下に、各技術の違いを簡単にまとめていますが、より詳細な情報については各セクションに記載のリンクより、各社ウェブサイトの解説をご確認ください。

• パイロシーケンシング

パイロシーケンシングでは、核酸取り込み時のピロリン酸放出を介してシーケンシング反応をモニターします。一つのヌクレオチドがシーケンシングチップに付加され、これが鋳型依存的に取り込まれます。この取り込みにより一連の化学反応で使用されたピロリン酸が放出され、光を産生、この光の放出をカメラで検出し、クラスターの該当配列を記録します。次のヌクレオチドが添加される前に、組込まれなかった塩基は全てアピラーゼにより分解されます。シーケンシング反応が完了するまでこのサイクルを継続します(表.1)。

欠点: 試薬が高価であることおよび6つ以上連なる単一塩基ヌクレオチドにおける誤り率が高いこと。

表.1 入手可能なパイロシーケンシングを利用したNGS機器の技術概要
NGSシステム GS Junior GS Junior Plus GS FLX+ システム
GS FLX Titanium XL+ GS FLX Titanium XLR70
リード長 400bp 700bp 700bp
(up to 1,000bp)
450bp
(up to 600bp)
処理量 35Mb 70Mb 700Mb 450Mb
実行あたりのリード数 100,000 ショットガン,
70,000 増副産物
100,000 ショットガン,
70,000 増幅産物
1,000,000 ショットガン 1,000,000 ショットガン,
700,000 増幅産物
精度 99% at 400bp 99% at 700bp 99.997% 99.995%
実行時間 10 時間 18時間 23時間 10時間

* 詳細は、Roche社ウェブサイトをご参照ください。

• 合成によるシーケンシング

合成によるシーケンシングでは、可逆的な蛍光と終止核酸の段階的な取り込みをDNAシーケンシングに利用します。これは、Illumina社の次世代シーケンシングプラットフォームに利用されている手法です。本手法で使用されるヌクレオチドは以下の2つの点が変更されています。

  1. 各ヌクレオチドは特有の発光波長をもつ単一の蛍光分子に可逆的に結合されている。
  2. 各ヌクレオチドはまた可逆的に終結され、1回のサイクルごとに一つのヌクレオチドのみが組込まれるようになっている。

4種全てのヌクレオチドがシーケンシングチップに添加され、ヌクレオチド取り込みの後、残りのDNA塩基は洗い流されます。各クラスターにおいて蛍光シグナルが読み取られ、その後、蛍光分子と終止基の両方が切断されて洗い流され、シーケンシング反応が完了するまでこの工程が繰返されます。このシステムでは、一度に1つのヌクレオチドを取り込ませることでパイロシーケンシングシステムの欠点を克服しています(表.2)。

欠点: シーケンシング反応が進行するに従い、機器によるエラー率が上昇する。蛍光シグナルの取り込みや除去により、バックグラウンドノイズのレベルがより高くなるためである。

表.2 入手可能な合成によるシーケンシングを利用する次世代シーケンシング機器の技術詳細
NGSシステム MiSeq NextSeq 500 HiSeq 2500  HiSeq 3000 HiSeq 4000
実行モード N/A 中出力 高出力 迅速な実行 高出力 N/A N/A
実行ごとのフローセル数 1 1 1 1 or 2 1 or 2 1 1 or 2
出力範囲 0.3-15 Gb 20-39 Gb 30-120 Gb 10-300 Gb 50-1000 Gb 125-750 Gb 125-1500 Gb
実行時間 5-55 hrs 15-26 hrs 12-30 hrs 7-60 hrs <1-6 days <1-3.5 days <1-3.5 days
フローセルごとのリード数 25,000,000 130,000,000 400,000,000 300,000,000 2,000,000,000 2,500,000,000 2,500,000,000
最大リード長 2 x 300bp 2 x 150bp 2 x 150bp 2 x 250bp 2 x 125bp 2 x 150bp 2 x 150bp

* 詳細は、Illumina社ウェブサイトをご参照ください。

• ライゲーションによるシーケンシング

ライゲーションによるシーケンシングはヌクレオチド取り込みにDNAポリメラーゼを利用しないことから、前述の2つの手法とは異なります。この手法では、DNAポリメラーゼの代わりに、お互いに連結する短鎖オリゴヌクレオチドプローブを利用します。これらのヌクレオチドは8塩基(3'から5')からなり、2つのプローブ特異的塩基(この2塩基位は全て異なる全16種の8-merプローブ)と6つの縮重塩基をもち、4種の蛍光染色のうち1つがプローブの5'末端に付加されています。シーケンシング反応はプライマーがアダプター配列に結合し、適切なプローブへハイブリダイゼーションすることで始まります。このプローブのハイブリダイゼーションは2つのプローブ特異的塩基に誘導され、アニール後はDNAライゲースによりプライマー配列へと連結されます。結合していないオリゴヌクレオチドは洗い流されてシグナル検出後に記録され、蛍光シグナルは切断され(最後の3塩基)、その後、次のサイクルが始まります。およそ7回のライゲーションサイクルの後、DNA鎖が変性され、先に使用したプライマーより1塩基ずれた他のシーケンシングプライマーを用いて上記のステップが繰返されます。全部で5つのシーケンシングプライマーが使用されます(表.3)。

欠点: 本手法ではシーケンシングリードが非常に短鎖になる。

表.3 入手可能なライゲーションによるシーケンシングを利用したNGS機器の技術詳細
NGSシステム Genetic Analyzer V2.0
機器処理量 5500W System 5500xl W System
・1 x 50 80 Gb 160 Gb
・1 x 75 120 Gb 240 Gb
    ・2 x 50 MP 160 Gb 320 Gb
     ・50 x 50 PE 160 Gb 320 Gb
精度 99.99% 99.99%
実行時間 7 days 7 days

* 詳細はThermo Fisher SCENTIFIC社の ウェブサイトをご参照ください。

• イオン半導体シーケンシング

イオン半導体シーケンシングでは、シーケンシング反応中の水素イオン放出を利用してクラスター配列を検出します。各クラスターは溶液のpH変化を検出できる半導体トランジスタの直上に配置されます。ヌクレオチド取り込みの際、1つのH+ が溶液中に放出され、半導体に検出されます。シーケンシング反応自体はパイロシーケンシングと同様に進行しますが、費用はその何分の1か節約することができます(表.4)。

欠点: ヌクレオチドの同種重合体伸展に比べ、エラー率が高い。

表.4 利用可能なイオン半導体シーケンシングを利用するNGS機器の技術詳細
NGSシステム Ion Proton System
出力 最大 10 Gb
リード 60-80,000,000 リード
リード長 最大200bp
実行時間 2-4 hrs

詳細は、Thermo Fisher SCENTIFIC社ウェブサイトをご参照ください。

 

次世代シーケンシング(NGS)- 各次世代シーケンシング(NGS)プラットフォームの比較

前述のデータから異なるNGS機器間の相違を理解するのは非常に困難であることがわかります。本章では、ヒト(3,300,000,000塩基)、マウス(2,800,000,000塩基)、シロイヌナズナ(135,000,000塩基)、またはE.coli(4,639,221塩基)ゲノムの配列決定を行うと仮定し、どのように各システムが遂行するか確認することで機器間比較の単純化を試みています(表.5)。シーケンシングデータを利用するには少なくとも30回カバーすることが要求されます。被覆数がこれに満たないものは赤色で示し、これ以上のものは青色で示しました。

表.5 実行ごとに被覆できるゲノム
Roche社 GS Junior GS Junior Plus GS FLX+ System
GS FLX Titanium XL+ GS FLX Titanium XLR70
ヒト 0 0 0 0
マウス 0 0 0 0
シロイヌナズナ 0 1 5 3
大腸菌 8 15 151 97
Illumina社 MiSeq NextSeq 500 HiSeq 2500 HiSeq 3000 HiSeq 4000
ヒト 5 12 36 91 303 227 455
マウス 5 14 43 107 357 268 536
シロイヌナズナ 111 289 889 2,222 7,407 5,556 11,111
大腸菌 3,233 8,407 25,866 64,666 215,553 161,665 323,330
Thermo Fisher
SCENTIFIC社
Genetic Analyzer V2.0
5500W System 5500xl W System
ヒト 48 97
マウス 57 114
シロイヌナズナ 1,185 2,370
大腸菌 34,489 68,977
Thermo Fisher SCENTIFIC社 Ion Proton System
ヒト 3
マウス 4
シロイヌナズナ 74
大腸菌 2,156

 

次世代シーケンシング(NGS)- 役立つ用語集

  • 次世代シーケンシング
    次世代シーケンシング(NGS)は、数百万ものシーケンシング反応が並行して実行され配列決定の処理量が増大しているシーケンシング手法である。
  • リード(読み取り断片)
    NGSシーケンシング反応の出力。リードは単一の中断されていない一連のヌクレオチドであり、鋳型配列を表す。
  • リード長
    各シーケンシングリードの長さ。個々のリードの長さにはバラツキがあるため、この変数は常に平均リード長として表現される。
  • 被覆度
    特定ヌクレオチドが配列決定(シーケンシング)された回数を示す。シーケンシング反応は誤りを犯しがちであり、ランダムエラーが生ずる可能性もある。このことから、各ヌクレオチド配列が正確であることを保証するため、一般に30回被覆することが必要条件とされている。
  • ディープシーケンシング
    被覆度が30回以上のシーケンシングのこと。サンプル中の部分集団のみが特定変異を発現するといった、まれな多型性を確認する場合に利用される。本手法は、結果の射程範囲、複雑度、感度、および精度を改善できる。
  • ペアードエンドシーケンシング
    断片の両端から配列決定を行いつつ、その一対のデータを追跡していく手法。本手法ではシーケンシング反応を断片の一端から開始する。完了した段階で断片を変性し、シーケンシングプライマーは断片の逆側にハイブリダイズされ、再度、断片の配列決定を行う。本手法を用いることで、配列の精度をさらに確証することができ、また全体のリード長を増やすことも可能である。
  • メイトペアードリード
    サンプル調製ステップでは、長鎖DNA断片(〜10kb)をアダプタ配列と共に環状にした後、この環状DNAを分解する。本手法では、一定距離をとって離れていたDNA断片をお互いに連結するため、新規アセンブリ、構造バリアント検出、および複雑なゲノム再編成の同定といったアプリケーションに利用される。
  • アダプター
    断片化されたDNA末端を被せるのに使用される特有配列。アダプタ機能には下記様のものがある。
    1. 固定表面へのハイブリダイゼーションを行う
    2. 増幅産物とシーケンシングプライマーの双方にプライミングする場所を提供
    3. 異なるサンプル群を1回の実行でマルチプレックスする際のバーコードとして機能
  • ライブラリー
    各末端にアダプタが接続されたDNA断片の集合体。シーケンシング実行前にライブラリー調製が必要である。
  • アライメント
    既知の参照ゲノムに対してシーケンスリードをマップすること
  • 参照配列/ゲノム
    シーケンスリードのマップに使用される、完全に配列決定されマップされたゲノムのこと
  • 新規(De Novo)アセンブリ
    シーケンスリードをアセンブリし、参照配列を構築すること
  • 特異性
    各実行において、全塩基に対して意図した標的にマップされた配列の割合
  • 均一性
    標的領域全体の配列被覆度における可変性。全ゲノムシーケンシングや全エキソンシーケンシングを行う場合、結果が非常に均一であることが期待される(出発物質内において1:1比率であるはずのため)。しかし、RNAシーケンシングにおいては、出発物質によって各RNAの発現量が異なるため均一とはならない。
  • 同種重合体
    AAAAやGGGGGGといった、ひと続きの単一ヌクレオチド塩基のこと。

 

次世代シーケンシング(NGS)- 概要動画

参考文献

  1. Sequences, sequences, and sequences. Sanger, F. s.l. : Annu Rev Biochem, 1988, Vol. 57, pp. 1-28.
  2. Nucleotide sequence of bacteriophage phi X174 DNA. Sanger, F, Air, GM and Barrell, BG. 1977, Nature, Vol. 265, pp. 687-695.
  3. DNA Sequencing with chain-terminating inhibitors. Snager, F, Nicklen, S and Coulson, AR. s.l. : Proc NatI Acad Sci USA, Vol. 74, pp. 5463-5467.
  4. Overview of DNA sequencing strategies. Shendure, JA, Porreca, GJ and Church, GM. Chapter 7, s.l. : John Wiley & Sons, 2011.
  5. Energy transfer primers: a new fluoresence labeling paradigm for DNA sequencing and analysis. Ju, J, Glazer, AN and Mathies, RA. 2, s.l. : Nat Med, 1996, pp. 998-999.
  6. 454 Sequencing. [Online] 2015. [Cited: 6 2, 2015.] http://www.454.com/.
  7. illumina. [Online] 2015. [Cited: 6 2, 2015.] http://www.illumina.com/.
  8. SOLiD. Applied Biosystems. [Online] 2015. [Cited: 6 2, 2015.] http://www.appliedbiosystems.com/absite/us/en/home/applications-technologies/solid-next-generation-sequencing.html.
  9. Ion Torrent. Applied Biosystems. [Online] 2015. [Cited: 6 2, 2015.] http://www.lifetechnologies.com/ca/en/home/brands/ion-torrent.html.

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