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CRISPR-Cas9技術を用いてどんな遺伝子でも安全にノックイン可能セーフ・ハーバー部位への目的遺伝子組込み用ゲノム編集ツール 実験検証


培養細胞や実験動物にトランス遺伝子を導入する能力は生物学や医学において非常に重要です。このようなトランス遺伝子の導入アプリケーションには以下のものをはじめ複数存在しています。

  1. 表現型の検出を目的とした対象タンパク質の過剰発現
  2. 局在化追跡を目的としたタンパク質の蛍光マーカータグ付け
  3. 野生型対立遺伝子を用いた変異表現型のレスキュー
  4. マウスなど特定生物種由来タンパク質のヒトなどのオーソロガスな生物種における発現

このようなトランス遺伝子はプラスミドにより一過性発現されるケースが多くあります。しかし、トランス遺伝子をゲノムに組込み、定常的に次世代に伝えることが望ましい事例も多々あります。本稿では、このような組込みによる利点と欠点、マウスやヒトにおいてトランス遺伝子組込みに「セーフ・ハーバー」を利用すること、およびGeneCopoeia(GCP)社が保有するトランス遺伝子を「安全な」ゲノム部位へ組込むことを目的としたヒトAAVS1とマウスRosa26セーフ・ハーバー用ゲノム編集ツールの性能検証について討議します。

商品情報:セーフ・ハーバー部位に希望の遺伝子をノックインするゲノム編集ツール

Cosmo Bio would like to acknowledge and thank the GeneCopoeia, Inc. for providing the information of Genome Editing Tools for Safe Harbor Integration presented here.

トランス遺伝子の危険性

細胞にトランス遺伝子を安定して組込むクラシカルな手法のひとつに、直線化させたDNAをトランスフェクトまたは注入してランダムな非特異的組込みを期待するものがあります。このようなランダム組込みは、遺伝子組み換えにおいて適切な場合もありますが、以下の2つの重大な危険性を含んでいます。

  1. 遺伝子破壊による致死や他の期待しない表現型の導出
  2. 組込み部位における局所的なクロマチン高次構造によるトランス遺伝子の発現抑制

さらに、細胞が複数の組込み体を抱えることもあり、トランス遺伝子自身による効果であるかどうか、解釈がより困難となる可能性もあります。そのため、適切な発現が生ずるよう良性の挿入が行われるゲノム座位が存在することは非常に有用です。

マウスやヒトにおける「セーフ・ハーバー部位」

哺乳動物のトランス遺伝子挿入におけるゲノム上の「安全」部位は、1990年代後半にPhillipe Sorianoおよびその共同研究グループによりはじめて報告されました(Zambrowicz, et al., 1997)。ROSAβgeo26と呼ばれる特定マウス系統では、検証したほぼ全ての組織においてランダムに挿入したトランス遺伝子から、βガラクトシダーゼを一様に高レベルで発現することが見出されています。さらに、トランス遺伝子挿入部位が第6染色体上であることが特定されました。この座位からは1つのタンパク質コード転写物と2つの非コード転写物が発現しますが、挿入配列によって非コード転写物のみが挿入配列により崩壊されます。 挿入配列がホモ接合の子供は、ヘテロ接合の子供に比べてわずかに出生率が低いものの、ホモ接合体は正常に発生するようであり繁殖性です。そのため、これ以後「Rosa26」座位は適応度において明白な有害作用を生じず定常遺伝子発現が可能なトランス遺伝子挿入部位として利用されるようになりました。2010年までには130以上のトランス遺伝子挿入をもつマウス系統が構築されています。

その後、ヒト細胞においてもトランス遺伝子を挿入できる、類似のセーフ・ハーバー部位が報告されました(DeKelver, et al., 2010)。これはアデノ随伴ウイルス(AAV)が通常、第19染色体上のPP1R12Cという特定のゲノム座位に組込まれるとの報告に端を発しています。AAVS1としても知られる本座位へAAVを組み込んだ場合でも、初代培養細胞や不死化細胞、人工多能性幹細胞(iPSC)および胚性幹細胞などをはじめとする種々の細胞に目に見える表現型の変化を生じることはありません。上記の報告では、トランス遺伝子をAAVS1部位へ特異的に挿入した場合、筆者らが使用したどのような生物種においても明らかな有害作用を生じなかったことが報告されています。さらに、天然のPPP1R12Cまたは外来性のプロモーターから発現するように挿入されたトランス遺伝子は、数々の細胞分裂を超えて一定の発現レベルを保つことも確認されています。

セーフ・ハーバー組込み用ゲノム編集ツール

ゲノム編集はゲノムDNAの標的領域に特異的な変化/変異をもたらす強力なアプローチです(Bogdanove & Voytas, 2011; van der Oost, et al., 2013の総説を参照)。近年、植物の病変形成や適応免疫といった細菌のシステムを利用するTALENおよびCRISPR-Cas9の2種類のゲノム編集技術が登場しました。TALENとCRISPR-Cas9の何れの技術も、実質的にゲノム上の如何なる標的配列に対しても二本鎖切断(DSBs)を生ずることのできるキメラのエンドヌクレアーゼを利用して変異誘発を行います。ゲノム編集には、遺伝子ノックアウト、遺伝子タグ付けおよび遺伝的欠陥矯正といった数々のアプリケーションがあります。さらに、ゲノム編集手法ではRosa26やAAVS1セーフ・ハーバー座位をはじめとする如何なる座位にもトランス遺伝子を挿入することができます。TALEN-あるいはCRISPR-Cas9誘導性の二本鎖切断(DSBs)は、ドナーDNA鋳型存在下において相同組換えにより修復されます(図.1)。二本鎖切断(DSBs)の隣接領域と相同配列をもつ組換え「アーム」間に希望する配列を含めることで、トランス遺伝子の「ノックイン」が可能となります。

関連技術情報

相同組換えによるセーフ・ハーバーノックイン手法の一般的概要図

図.1 相同組換えによるセーフ・ハーバーノックイン手法の一般的概要図

 

GeneCopoeia(GCP)社では、CRISPR-Cas9によるセーフ・ハーバーノックイン用のゲノム編集用ツールおよび20,000種以上におよぶORFクローンをご提供しています。以下に、これらのセーフ・ハーバーツールの効率を培養細胞アッセイにより実験的に検証した結果を示します。

Rosa26用には、特定座位に二本鎖切断(DSBs)を産生する3種類のTALENヌクレアーゼと1種類のCRISPR-Cas9ヌクレアーゼを設計しました。次に、マウスNeuro2a細胞にそれぞれのヌクレアーゼと赤色蛍光タンパク質(RFP)とカイアシ類緑色蛍光タンパク質(copGFP)の両方をもつ相同性ドナーコンストラクトをトランスフェクションしました。コントロールは、ドナーコンストラクトのみをトランスフェクションしたものを使用しました。トランス遺伝子はピューロマイシン耐性マーカーをもっているため、トランスフェクションした細胞をピューロマイシン処理することでトランス遺伝子がゲノムに挿入されたクローンを選択することができます。組込みが生じた場合、ピューロマイシン耐性細胞は蛍光顕微鏡観察で緑色かつ赤色として確認することができます。トランス遺伝子組込みはランダムに、あるいはRosa26部位を介して生ずるため、目的接合部位を挟んだ位置に設計されたプライマーを用いてPCRを行い、標的した相同組換えのスクリーニングを行います。トランスフェクションの結果は図.2に示しました。蛍光分析により、ドナープラスミドのみをもつ細胞に比べ、TALENとCRISPR-Cas9の何れにおいても、トランス遺伝子挿入頻度が高レベルに組込みが誘導されることが示唆されました。さらに、回収した細胞からゲノムDNAを抽出し、Rosa26部位を含んだトランス遺伝子接合部位にまたがる位置に設計したプライマーを用いてPCRを行った結果、TALENあるいはCRISPR-Cas9によりトランスフェクションされた細胞のみが本アッセイにおいて陽性を示すことを確認しています(図.2、右)。本検証結果より、GeneCopoeia(GCP)社のセーフ・ハーバーノックイン用のゲノム編集用ツールはマウスのセーフ・ハーバー座位における高レベルでの組換えが可能であることが明らかとなりました。

*ただし、GeneCopoeia(GCP)社ではトランス遺伝子のランダム組込みが生じた細胞に関しては分析を行っていません。

Rosa26部位におけるTALENおよびCRISPR-Cas9介在型トランス遺伝子組込み

図.2 Rosa26部位におけるTALENおよびCRISPR-Cas9介在型トランス遺伝子組込み
左図:Neuro2a細胞にTALENまたはCRISPR-Cas9とドナープラスミドを同時導入、またはドナープラスミドのみを導入(コントロール)。ピューロマイシン処理を12日行った後、緑色および赤色蛍光を評価した。
右図:TALEN, CRISPR-Cas9またはコントロール細胞における接合部PCR結果。

 

GeneCopoeia(GCP)社では、第19染色体上のヒトAAVS1座位における部位特異的トランス遺伝子組込みツールもご提供しています。Rosa26実験と同様のアッセイにおいて、HEK293T細胞にAAVS1 TALENとSOX2またはOCT4といったトランス遺伝子をもつドナープラスミドをトランスフェクションしました。トランス遺伝子はピューロマイシン耐性遺伝子と蛍光マーカーとしてGFPも持ちます。14日間のピューロマイシン選択後、GFP発現細胞を容易に同定することができました(図.3)。ここでも、これらの細胞へのランダムなトランス遺伝子組込みを除外することはしていませんが、5'と3'境界を挟んだプライマーを用いたPCR分析ではTALENとドナーコンストラクトをトランスフェクションした細胞からは、AAVS1部位へのトランス遺伝子組込みが確認できています(データ未提示)。

ヒトAAVS1セーフ・ハーバー用GeneCopoeia 社TALENにより2種類の導入遺伝子に対する部位特異的組込みが促進した

図.3 ヒトAAVS1セーフ・ハーバー用GeneCopoeia 社TALENにより2種類の導入遺伝子に対する部位特異的組込みが促進した。

GFPと位相差画像は何れも1μg/ml ピューロマイシン処理前(左図:一過性トランスフェクション)と14日間にわたる処理後(右図:薬物処理)を示す。

SOX2とOCT4 ORF導入遺伝子がヒトAAVS1セーフ・ハーバー部位に組込まれた細胞を用いたウェスタンブロット解析結果

図.4 SOX2とOCT4 ORF導入遺伝子がヒトAAVS1セーフ・ハーバー部位に組込まれた細胞を用いたウェスタンブロット解析結果。メンブレンフィルターはタンパク質特異的抗体を用いてプローブした。

M: マーカー
C: トランスフェクションを行っていない細胞 Anti-GAPDHを添加コントロールとして使用した。本解析における内在性Sox2とOct4タンパク質レベルは検出限度未満であった。

 

ヒトAAVS1セーフ・ハーバーノックインクローン

ヒトおよびマウス用セーフ・ハーバーノックインゲノム編集ツールの使い勝手をより良くするために、GeneCopoeia(GCP)社では、ヒトAAVS1部位用セーフ・ハーバーノックインORFクローンをご提供しています。GeneCopoeia(GCP)社は、従来トランスクリプトーム全体にわたる発現実験にすぐに利用できる、哺乳類ORFクローンの製造メーカーですが、ヒト セーフ・ハーバー技術用に、AAVS1部位にノックイン可能なドナークローンとして最適化した、18,000種以上ものヒトORFドナークローンを再構築しました(図.5)。

ヒトAAVS1セーフ・ハーバーノックインORFクローン用GeneCopoeia社ドナーベクター

図.5 ヒトAAVS1セーフ・ハーバーノックインORFクローン用GeneCopoeia社ドナーベクター。

"ORF"モジュール(赤色)はセーフ・ハーバーノックイン用に18,000種以上ご用意しているヒトORF配列を示す。

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参考文献

Bogdanove & Voytas (2011). TAL Effectors: Customizable Proteins for DNA Targeting. Science 333, 1843.

DeKelver, et al. (2010). Functional genomics, proteomics, and regulatory DNA analysis in isogenic settings using zinc finger nuclease-driven transgenesis into a safe harbor locus in the human genome. Genome Res 20, 1133.

van der Oost, et al. (2013). New Tool for Genome Surgery. Science 339, 768.

Zambrowicz, et al. (1997). Disruption of overlapping transcripts in the ROSA beta-geo 26 gene trap strain leads to widespread expression of beta-galactosidase in mouse embryos and hematopoietic cells. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 94, 3789.

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