サンタクルズ社では、標的遺伝子ノックアウト用プラスミド、オフターゲット作用を低減するダブルニッカーゼプラスミド、ノックアウトプラスミドとの同時トランスフェクションにご利用頂ける、RFP/ピューロマイシンノックイン用のHDRプラスミドなど、CRISPR-Cas9技術によるゲノム編集ツールをゲノムワイドにご用意しております。さらに、CRISPR-Cas9技術した内在性転写因子を強力に活性化するCRISPR-dCas Activationシステムもゲノムワイドにご提供しております。
背景
CRISPR-Casシステムとは
CRISPR-Casシステムは、古細菌や細菌において外来性遺伝物質の崩壊に利用される適応型免疫防御機序です。これらの微生物では、バクテリオファージ由来の外来性遺伝物質は獲得性であり、CRISPR座位に組み込まれます(1, 2)。スペーサーと呼ばれるこの新規物質は、将来的なバクテリオファージ感染耐性に利用される配列特異的断片を生成します。これらの配列特異的断片は短鎖CRISPR RNAs(crRNAs)として翻訳され、CRISPR座位にコードされたCRISPR関連(Cas)タンパク質のヌクレアーゼ活性を介して相補配列をもつ侵入DNA断片を方向づけるガイドとして機能します(1, 2)。II型CRISPRシステムのCas9ヌクレアーゼはRNA結合ドメイン、αヘリックス認識ローブ(REC)、DNA切断用RuvCとHNHを含むヌクレアーゼローブ、およびプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)相互作用部位を有します(1, 2)。crRNAはRECローブ内の架橋ヘリックスに結合してCas9ヌクレアーゼと複合体を形成し、crRNA骨格をもつ複数の塩橋を形成します(1, 2, 3)。
crRNAがCas9に結合するとCas9ヌクレアーゼの立体構造が変化し、DNA結合用のチャネルが作られます(1, 2, 3)。Cas9/crRNA複合体はDNA上を走査してPAM(5’-NGG)部位を探し(4, 5, 6)、これを認識するとDNAの巻き戻しが誘導され、crRNAがPAM部位に隣接した相補鎖DNAを調べます。Cas9がcrRNAに相補なDNA配列に隣接したPAM部位に結合すると、RECローブ内の架橋ヘリックスにより標的DNAとともにRNA-DNAへテロ二重鎖が形成されます(3, 4, 7)。PAM部位認識には核酸分解性HNHやRuvCドメインの活性化が関与し、これにより標的DNAに二本鎖切断(DSB)が生じてDNA崩壊へと誘導します(1, 2, 5, 8)。もし、crRNAが相補的でない場合、Cas9が放出され他のPAM部位を検索します(7)。DNA内の標的ゲノム鎖切断は非相同末端結合(NHEJ)修復経路により修復されますが、これにより挿入や欠失が導入されエラーを生じます。あるいは、相同性配向型修復(HDR)経路を介して修復されますが、この場合、ゲノム内の特異的部位への特定マーカー組み換えに利用することができます(2, 9, 10)。このCRISPR-Cas9メカニズムは、哺乳動物細胞を含む種々のシステムにおけるゲノム工学に適用可能です。
DSBs導入によるゲノム編集は、DNA配列を認識するメガヌクレアーゼ、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZNF)、またはトランス活性化因子様作動体(TALEN)により遂行されますが、これらの方法には各々の制限があります。メガヌクレアーゼを使用する場合、ヌクレアーゼとDNA間の部位特異的認識を明瞭に示すことが困難であり(2)、ZNFやTALENでは3塩基未満のDNA配列を設計し、認識することが困難であることが判明しています(2)。crRNAs様に作用する単一ガイドRNA(sgRNAs)は簡単にデザインすることができ、Cas9ヌクレアーゼとともに同一ベクター内より発現させることで、特定のDNA / 部位を標的としたゲノム編集を遂行することができます。CRISPR-Cas9システムは短鎖ヘアピンRNAsに比べて感度が高く、スクリーニング目的ではより高い効果が得られます。
- 20μg包装:最大20回のトランスフェクションが可能
- 3種のgRNAをプール:CRISPR-Cas9ノックアウト(KO)プラスミドは、最大のノックアウト効率が得られるようデザインされた、Cas9ヌクレアーゼと標的特異的20塩基ガイドRNA(gRNA)をコードする3種のプラスミドのプール
- 優れたgRNA配列:gRNA配列はGeCKO(v2)ライブラリー由来であり、Cas9タンパク質を配向してゲノムDNA内に部位特異的2本鎖切断(DSB)を誘発する(11)。
- ヒトおよびマウス遺伝子を網羅
- Ready-to-use:トランスフェクションに直ちに利用できる精製済プラスミドDNA (非ウイルスベクター) をご提供
本製品はHDRプラスミドと組み合わせて使用することにより、DSBsが導入された細胞のみを選択可能なRFPあるいはPuroをマーカーとしてノックインすることができます。
希望販売価格(CRISPR-Cas9 ノックアウトプラスミド):80,000円(検索方法はこちら)
CRISPR-Cas9システムを用いたゲノムDNAへのDSB(DNA二本鎖切断)導入は、その効率が非常に高いことが最大の利点です。しかしながら、この効率も数々のオフターゲット作用により濁りを生じ、CRISPR-Cas9編集の特異性を低減する可能性もあります。オフターゲット作用の低減、および標的特異性はダブルニッキング法(ダブルニッカーゼシステム)を利用することで改善することができます。
この場合、Cas9(D10A)ニッカーゼ変異体(Cas9n)をそれぞれコードする一対のプラスミド(下図参照)を利用し、標的特異的ガイドRNA(sgRNAs)によってそれぞれの特異的ゲノム部位を標的します(12)。各Cas9n/sgRNA複合体は、ガイドRNAと相補するDNA鎖に1つだけニックを作る(12)。それぞれのガイドRNA(sgRNAs)ペアは約20塩基程度ずれており、標的DNAの反対鎖に位置する標的配列のみを認識します。Cas9n/sgRNA複合体ペアによって作られた2つのニックはDSB(DNA二本鎖切断)を模倣する状態になります(12)。したがって、一対のガイドRNAを利用することで高レベルの効率を維持しつつ、Cas9媒介型遺伝子編集の特異性を改善することができます(12)。
- 20μg包装:最大20回のトランスフェクションが可能
- D10A変異型Cas9ヌクレアーゼと標的特異的20塩基ガイドRNA(gRNA)をコードした一対のプラスミド
- 同一遺伝子を標的するCRISPR-Cas9ノックアウトプラスミド商品に比べてより特異性が高い標的遺伝子ノックアウトが可能なデザイン
- 一対のgRNA配列は約20塩基ずらして設計、DNA二本鎖切断(DSBs)を模倣したCas9媒介型特異的ゲノムDNAダブルニッキングを生ずる
- 一対のうち片方のプラスミドには選択用にピューロマイシン耐性遺伝子を搭載、他方にはトランスフェクションの目視確認用にGFPマーカーを搭載
- ヒトおよびマウス遺伝子を網羅
- Ready-to-use:トランスフェクションに直ちに利用できる精製済プラスミドDNA (非ウイルスベクター) をご提供
本製品はHDRプラスミドと組み合わせて使用することができません。HDRプラスミドはKOプラスミド(野生型ヌクレアーゼ)用にデザインされています。
希望販売価格(ダブルニッカーゼプラスミド):83,000円(検索方法はこちら)
品名 | メーカー | 品番 | 包装 | 希望販売価格 |
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Control Double Nickase Plasmid | SCB | SC-437281 | 20 UG |
¥24,000 |
HDRプラスミドは、DSBのための特異的DNA修復テンプレートをご提供する製品です。
CRISPR-Cas9 ノックアウト(KO)プラスミドと同時導入すると、HDRプラスミドはCas9誘導性DNA切断が生ずる部位に細胞選択用ピューロマイシン耐性遺伝子を組み込みます。
HDRプラスミドはKOプラスミド(野生型ヌクレアーゼ)用にデザインされており、ダブルニッカーゼプラスミドと組み合わせた使用はできません。
- 20μg包装:最大20回のトランスフェクションが可能
- 標的特異的HDRプラスミドは、対応するCRISPR-Cas9 KOプラスミドにより生じた切断部位に相当する各相同性配向性DNA修復(HDR)テンプレートから構成
- 各HDRテンプレートは、相当するCas9誘導型二本鎖DNA切断部位周辺のゲノムDNAに特異的結合するよう設計された2つの相同性アーム(800bp)を含む
- 各HDRプラスミドは定常型ノックアウト(KO)細胞選択を可能とするピューロマイシン耐性遺伝子を挿入
- 各ピューロマイシン耐性遺伝子には2つのLoxP部位が隣接し、Creベクターを用いた更なる処理が可能
- 各HDRプラスミドはRFPによりトランスフェクションの視認が可能
- Ready-to-use:トランスフェクションに直ちに利用できる精製済プラスミドDNA (非ウイルスベクター) をご提供
希望販売価格(HDRプラスミド):90,000円(検索方法はこちら)
Creベクターは、2つのLoxP部位間の部位特異的DNA組換えを触媒するバクテリオファージp1酵素であるCreリコンビナーゼを発現します。CRISPR-Cas9ノックアウトプラスミドとHDRプラスミドを同時にトランスフェクトした場合、相同性配向型修復(HDR)の際に挿入された選択マーカーを利用して編集されたDNAをもつ細胞を選択することができます。その後、選択細胞にCreベクターをトランスフェクションし、HDRの際に挿入されたピューロマイシン耐性遺伝子といった遺伝物質を切除することができます。
- 20μg包装:最大20回のトランスフェクションが可能
- CRISPR-Cas9 ノックアウト(KO) プラスミドおよびHDR プラスミドによる編集が完了した選択細胞におけるDNA修復としての使用を推奨
- CMVプロモーターによりCreリコンビナーゼを発現
- Ready-to-use:トランスフェクションに直ちに利用できる精製済プラスミドDNA (非ウイルスベクター) をご提供
品名 | メーカー | 品番 | 包装 | 希望販売価格 |
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Cre Vector | SCB | SC-418923 | 20 UG |
¥23,000 |
CRISPR - dCas Activation プラスミド
CRISPR-dCas9 Activation Plasmidは、遺伝子発現を特異的に上方制御するようデザインされた相乗活性化介在物質(SAM)転写活性化システムです。SAMシステムにより、標的遺伝子を高効率で活性化するための転写因子を強力にリクルートします。
- 3種のプラスミドの質量比1:1:1 で構成
-トランス活性化ドメインVP64 に融合した不活性化型Cas9(dCas9)ヌクレアーゼ (D10A とN863A)とブラストサイジン耐性遺伝子をコードするプラスミド
-MS2-p65-HSF1 融合タンパク質とハイグロマイシン耐性遺伝子をコードするプラスミド
-標的特異的20 塩基ノンコーディングRNA 配列とピューロマイシン耐性遺伝子をコードするプラスミド - SAM複合体が内在性転写因子を強力に動員し、標的遺伝子の内在性発現を活性化
- ヒト、マウス遺伝子をゲノムワイドに網羅
- 薬剤耐性遺伝子によりCRISPR/dCas9 活性化プラスミドが安定してトランスフェクションされた細胞を選択可能
- 2種の製品フォーマット:精製済みプラスミドとレンチウイルス粒子
CRISPR/dCas9 活性化プラスミドは、以下の3種のプラスミド の質量比1:1:1 で構成されます。
使用するプラスミド3種類
-
CRISPR-dCas9-VP64 palsmid
トランス活性化ドメインVP64 に融合した不活性化型Cas9(dCas9)ヌクレアーゼ(D10A とN863A)とブラストサイジン耐性遺伝子をコードするプラスミド -
MS2-P65-HSF1 plasmid
MS2-p65-HSF1 融合タンパク質とハイグロマイシン耐性遺伝子をコードするプラスミド -
sgRNA (MS2) plasmid U6
標的特異的20 塩基ノンコーディングRNA 配列とピューロマイシン耐性遺伝子をコードするプラスミド
■ SAM 転写活性化システム
SAM転写活性化システム
SAM複合体が標的遺伝子の上流に位置する特異的部位に結合して転写因子を動員し、標的遺伝子の内在性転写を活性化。
CRISPR - dCas9レンチウイルスActivationシステム
- 3種類のCRISPR/dCas9 活性化プラスミドをパッケージングし、高タイターのCRISPR/dCas9 活性化レンチウイルス粒子を調製して、プール型にてご提供
- 哺乳動物細胞(ヒトまたはマウス)での遺伝子活性化用に、そのままトランス ダクションできるウイルス粒子を200μL(1x 10^6 IFU) ご提供
- トランスフェクションが困難な細胞に
- 遺伝子発現活性化確認用に適切なコントロール抗体もご用意
品名 | メーカー | 品番 | 包装 | 希望販売価格 |
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Control CRISPR Activation Plasmid | SCB | SC-437275 | 20 UG |
¥24,000 |
1. |
サンタクルズ社のWEBサイトへアクセスし、検索ウィンドウに遺伝子名を入力して検索してください。 |
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2. |
画面をスクロールすると、抗体製品の下にCRISPR-Cas9製品が掲載されています。 データシートおよびプロトコールはこちらよりご覧いただけます。 |
3. |
品番、品名、数量を指定し、ご利用の代理店様へご注文ください。 希望販売価格: |
関連製品
品名 | メーカー | 品番 | 包装 | 希望販売価格 |
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Control CRISPR/Cas9 Plasmid | SCB | SC-418922 | 20 UG |
¥24,000 |
UltraCruz(R) Transfection Reagent | SCB | SC-395739 | 0.2 ML |
¥52,000 |
Plasmid Transfection Medium | SCB | SC-108062 | 20 ML |
¥2,000 |
Puromycin dihydrochloride | SCB | SC-108071 | 25 MG |
¥11,000 |
参考文献リスト
- Van der Oost J., et al. 2014. Unraveling the Structural and Mechanistic Basis of CRISPR-Cas Systems. Nat. Rev. Microbiol. (7):479-92. PMID 24909109.
- Hsu, P., et al. 2014. Development and Applications of CRISPR-Cas9 for Genome Editing. Cell. 157(6):1262-78. PMID 24906146.
- Nishimasu, H., et al. 2014. Crystal Structure of Cas9 in Complex with Guide RNA and Target DNA. Cell. 156(5):935-49. PMID 24529477.
- Deltcheva, E., et al. 2011. CRISPR RNA Maturation by Trans-Encoded Small RNA and Host Factor RNASE III. Nature. 471: 602-607. PMID 21455174.
- Jinek, M., et al. 2012. A Programmable Dual-RNA Guided DNA Endonuclease in Adaptive Immunity. Science. 337(6096):816-21. PMID 22745249.
- Deveau, H., et al. 2010. CRISPR/Cas System and its Role in Phage-Bacteria Interaction. Annu. Rev. Microbiol. 64: 475-493. PMID 20528693.
- Sternberger, SH., et al. 2014. DNA Interrogation by the CRISPR RNA-guided Endonuclease Cas9. Nature. 507(7490):62-7. PMID 24476820.
- Gasuinas, G., et al. 2012. Cas9-crRNA Ribonucleoprotein Complex Mediates Specific DNA Cleavage for Adaptive Immunity in Bacteria. Proc. Natl. Acad. Sci. 109(39):E2579-86. PMID 22949671.
- Mali, P., et al. 2013. RNA-Guided Human Genome Engineering via Cas9. Science. 339 (6121): 823-6. PMID 23287722.
- Ran, FA., et al. 2013. Genome engineering using the CRISPR-Cas9 system. Nat. Protoc. (11): 2281-308. doi: 10.1038/nprot.2013.143. PMID 24157548.
- Shalem O., et al. 2014. Genome-scale CRISPR-Cas9 Knockout Screening in Human Cells. 343(6166):84-7. PMID 24336571.
- Ran, F.A., et al. 2013. Double nicking by RNA-guided CRISPR Cas9 for enhanced genome editing specificity. Cell 154: 1380-1389.
商品は「研究用試薬」です。人や動物の医療用・臨床診断用・食品用としては使用しないように、十分ご注意ください。
※ 表示価格について
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