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ゲノム編集技術の基礎知識を余すところなく解説します!CRISPR-Cas9 基本の「き」

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これまで、多くの研究者によって生物ゲノムのいかなる領域をも高い精度で変更、編集できる技術が探索されてきましたが、近年、ついにこの目標が達成されつつあります。CRISPR-Cas9システム(Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats CRISPR-AssociatedProteins 9)の発見により、いかなる遺伝子も、簡単に、迅速に、かつ高い効果でノックアウト、あるいはノックインすることが可能となっています。

RNA先導型CRISPR-Cas9ゲノム編集システムは、その簡便さから多様な基盤に適用できるだけでなく、労力を要するZFN(ジンクフィンガーヌクレアーゼ)やTALENといった他のゲノム編集手法の代替となる可能性を秘めています。

Cosmo Bio would like to acknowledge and thank the Applied Biological Materials Inc. for providing CRISPR information presented here.

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背景

CRISPR-Cas9 - 細菌と古細菌における免疫システム

CRISPR-Cas9 は、本来、外来性ウイルスやプラスミドへの獲得免疫を与える微生物の適応免疫システムとして、細菌や古細菌において発見されたものです(1)。CRISPR座位は、配列決定された細菌の40%、および配列決定された古細菌の90%にみられ、特定細菌では1ヶ所以上にその座位が存在する可能性があります(2)。侵入した外来性DNAは、Cas9ヌクレアーゼにより切断された後、捕捉され、保存された反復配列により挟まれたスペーサー配列形態をとってCRISPR座位に取り込まれます(図1-a)。生じたスペーサーは、短鎖CRISPR RNA(crRNA)を産生する鋳型として機能します。このcrRNAはトランス活性化型crRNA(tracrRNA)と共に複合体を形成してガイド鎖として機能し、Cas9ヌクレアーゼを相補的な侵入DNAへと配向します(3)。DNAに結合したCas9タンパク質は、”crRNA相補鎖" と反対鎖をそれぞれNHNおよびRuvC1様ヌクレアーゼドメインを介して切断します(図1-b)(3)。

適応免疫システムとしてのCRISPR座位とその利用

図.1 適応免疫システムとしてのCRISPR座位とその利用

a)侵入DNAがCAS遺伝子産物により切断され、スペーサー配列としてCRISPR座位に取り込まれる。保存された反復配列により異なるスペーサー配列が分離されている。
b)同一の侵入DNAが細胞内で検出された場合、スペーサーDNAがcrRNA形態をとって発現する。これらのcrRNAはtracrRNAと複合体を形成し、Casエンドヌクレアーゼを外来性DNAへと先導してDNA崩壊を誘導する。

CRISPRの発見以来、45種の異なるCasタンパク質ファミリーが論文報告されており、crRNA合成、新規スペーサー配列取り込み、または侵入DNA切断においてそれぞれ異なる役割を担うことが知られています(4)。CRISPR-Casシステムは、一般にCasタンパク質配列や構造によってI種、II種、III種の3種に分類することができます(5)。今日、ゲノム編集用に通常使用されるCRISPR-Cas9システムは、化膿レンサ球菌(化膿性連鎖球菌)に由来する第II種CRISPR-Casシステムです。

Applied Biological Materials社のCRISPR-Cas9システムS.pyogenesに由来する第II型CRISPRシステムです。

動画で解説 すぐ分かるCRISPR-Cas9システム

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CRISPR-Cas9 - ゲノム編集(工学)ツール

現代のシステムにおいて、CRISPR-Cas9 技術を利用した標的ゲノム編集は、1)エンドヌクレアーゼと、2)短鎖ガイドRNAといった2つの要素から構成されます(図.2)。エンドヌクレアーゼは、化膿レンサ球菌(化膿性連鎖球菌)由来の細菌性Cas9ヌクレアーゼタンパク質です。Cas9ヌクレアーゼは2つのDNA切断ドメイン(RuvC1とHNH様ヌクレアーゼドメイン)を保有し、これが二本鎖のDNAを切断して二本鎖切断(DSB)を誘導します(4)。gRNA(ガイドRNA、sgRNA)は設計された単鎖キメラRNAであり、細菌性tracrRNAの足場機能と細菌性crRNAの特異性を併せ持っています(6)。gRNA(ガイドRNA、sgRNA)の5'末端側の最後の20塩基はホーミング装置として働き、プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)の直前に位置する特異的DNA標的部位へRNA-DNA塩基対形成を介してCas9/gRNA複合体を動員します。PAM配列は、生物系統やCRISPR-Cas9タンパク質の種によって異なり、S. pyogenes Cas9に対応する配列は5'-NGGです(プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)の項参照)。そのため、現在利用可能なCRISPR-Cas9システムは、いかなる5'-N20-NGG DNA配列へも配向し、精度の高い二本鎖切断を産生することができます(7)。二本鎖切断(DSB)は、その後、非相同性末端結合(NHEJ)と相同組換え型修復(HDR)という、ほぼ全ての細胞種や生物種に存在する2種の修復機能のいずれかによって修復を受けます。

gRNAの末端20塩基がホーミング装置として機能し、Cas9エンドヌクレアーゼを適切な標的配列へと動員する

図.2 gRNAの末端20塩基がホーミング装置として機能し、Cas9エンドヌクレアーゼを適切な標的配列へと動員する。その後、Cas9の2つの切断ドメインによりPAM配列の3〜4塩基上流に二本鎖切断が作られる。DSBはその後、誤りを生じがちな非相同性末端結合経路または鋳型依存性の相同配向型修復により修復される。

非相同性末端結合(NHEJ)修復経路

NHEJ(非相同性末端結合)修復経路は、適切な修復用鋳型が存在しない場合に、二本鎖切断(DSB)修復に利用される修復機構ですが、その修復において誤りを生じやすいことが知られています。NHEJ(非相同性末端結合)経路では二本鎖切断(DSB)の切断末端同士を連結させようとします。しかし、この過程でしばしば二本鎖切断(DSB)部位に挿入欠損(InDel)変異が生じるため、フレームシフトや未成熟終止コドンを誘発し、標的遺伝子のタンパク質読み取り枠を永久的に崩壊させることとなります(図.3)。NHEJ(非相同性末端結合)によるInDelの結果は、非常にランダムであるものの、gRNA(ガイドRNA、sgRNA)を対象遺伝子のN末端近辺に標的させることで遺伝子崩壊の可能性を最大限に引き出すことができ、一部の機能を保持した遺伝子産物を産生しないフレームシフト変異を生ずることが可能となります。NHEJ(非相同性末端結合)修復経路を利用する場合は、標的遺伝子の第1または第2エキソンよりgRNA(ガイドRNA、sgRNA)をデザインし、イントロン領域は避けることが得策です。

非相同性末端結合(NHEJ)修復機構では、相同性鋳型を使用することなくDSB(DNA二本鎖切断)の末端同士を連結させようとする

図.3 非相同性末端結合(NHEJ)修復機構では、相同性鋳型を使用することなくDSB(DNA二本鎖切断)の末端同士を連結させようとする。本過程は数塩基の欠失や追加が回避不能であることから誤りを生じがちである。この結果、NHEJによりInDel変異が生じ、タンパク質読み取り枠崩壊または未成熟終止コドン導入が生ずる。

Cas9ヌクレアーゼを利用した相同組換え(配向)型修復(HDR)

NHEJ(非相同性末端結合)に加え、細胞は相同組換え(配向)型修復(HDR)として知られる、より精度の高い修復機構を利用することができます。本修復機構では、ゲノムDNAに特異的塩基修正を導入することが可能です(8)。DNA編集を実施したい領域に隣接する上流、および下流の配列と非常に相同性の高い配列をもつDNA修復用鋳型を、適切なgRNA(ガイドRNA、sgRNA)やCas9ヌクレアーゼと共に細胞に導入します。この適切な鋳型存在下では、より誤りの少ないHDR(相同組換え型)機構によって、Cas9誘導性DSB(DNA二本鎖切断)部位に、組換えを介した「期待する変更」を導入することができます(図.4)。修復用鋳型をデザインする場合、標的配列の直後にPAM配列が存在しないことを確認するか、PAM配列を除去または変異させる必要があります。これは利用するCRISPR-Cas9システムによる修復用鋳型の崩壊を避けるためです。

二本鎖切断(DSB)に直近の上流と下流の相同性腕をもつ適切な修復用鋳型存在下では、組換えに基づく相同配向型修復機構が機能する

図.4 二本鎖切断(DSB)に直近の上流と下流の相同性腕をもつ適切な修復用鋳型存在下では、組換えに基づく相同配向型修復機構が機能する。この方法では、挿入または欠損といった精密な変化をゲノム上のいかなる箇所でも行うことが可能となる。

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CRISPR-Cas9 - プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)

CRISPR-Cas9システムはgRNA(ガイドRNA、sgRNA)デザインに応じて、いかなるゲノム領域をも標的可能であるものの、本システムの特異性は、標的配列直下に位置するプロトスペーサー隣接配列(PAM)に依存します(図.5)(3)。細菌や古細菌の免疫システムのように、PAM認識配列によりCas9のヌクレアーゼドメインが活性化され、自身と他との区別手段として機能します(例:CRISPR座位が標的されないよう防御)(7)。

CRISPR-Cas9を利用したゲノム編集が成功するか否かはPAM配列とgRNA配列に依存する

図.5 CRISPR-Cas9を利用したゲノム編集が成功するか否かはPAM配列とgRNA配列に依存する。PAM配列が直後に続く"標的配列"のみがゲノム編集の標的となる。

PAM認識配列は、Cas9ヌクレアーゼが由来する細菌種や型によって異なります。最も一般的なII型CRISPRシステムではS.pyogenes 由来のCas9ヌクレアーゼが使用されます。このヌクレアーゼの場合、gRNA配列直後の3'末端に存在する5’-NGGを認識します。このほかに、他のPAM配列を認識するものも知られています(表1)。

表.1 異なる菌種や亜型のCas9ヌクレアーゼが認識するPAM配列
菌種 亜型 PAM配列
S. pyogenes II 5'-NGG
S. aureus II-A 5'-NNGRRT
S. solfataricus I-A1 5'-CCN
S. solfataricus I-A2 5'-TCN
H. walsbyi I-B 5'-TTC
E. coli I-E 5'-AWG
E. coli I-F 5'-CC
P. aeruginosa I-F 5'-CC
S. thermophilus II-A 5'-NNAGAA
S. agalactiae II-A 5'-NGG
F. novicida V-A TTTN-'3
Acidaminococcus sp. V-A TTTN-'3
引用元:Protospacer Recognition Motifs - Mixed Identities and Functional Diversity. 5, s.l. : RNA Biology, May 2013, Vol. 10, pp. 891-899.

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CRISPR Cas9 - オフターゲット作用(変異)

CRISPR-Cas9をゲノム編集ツールとして使用する場合に考慮すべき重要事項として、オフターゲット作用による切断があります。

オフターゲット作用により本来期待していない部位に挿入欠損変異が生じ、得られた表現型が損なわれる可能性もあります。CRISPR-Cas9システムの特異性を検証する研究が多々行われていますが、一般に、gRNA(ガイドRNA、sgRNA)の20塩基対標的領域の5'末端付近のミスマッチは許容的であることが示されています(6)(9)(10)(11)(12)。しかし、CRISPR-Cas9システムにおいて、これらのミスマッチがオフターゲット作用に及ぼす影響を予測することは困難です。gRNA(ガイドRNA、sgRNA)の標的領域において、5'末端にミスマッチが存在しても許容性を示さないとの実証例や、標的領域の3'末端のミスマッチは許容性を示すとの報告もあります(13)。

以上より、CRISPR-Cas9システムにより生ずるオフターゲット作用の頻度は変動的であり、予測は困難です(7)。これらのオフターゲット作用を最小限に抑える手法もいくつか存在します。対象遺伝子に対するgRNA配列(ガイドRNA、sgRNA)デザインによって、オフターゲット作用を最小限に抑えることも可能です。

その他、一般的に用いられる手法としてCas9エンドヌクレアーゼのバリアント型であるCas9ニッカーゼを利用する方法があります。Cas9ニッカーゼには変異が導入されており、野生型Cas9(Cas9ニッカーゼ)の切断ドメインのひとつが不活化されています。また、gRNA(ガイドRNA、sgRNA)の20塩基標的配列をより短鎖にする方法もあります。この切断型gRNA(tru-gRNAs)は、標的部位へのCas9ヌクレアーゼ誘導機能において全長gRNAと同等の効果をもつことが示されています。Tru-gRNAはオフターゲット配列に対してより低い変異効果を示すことから、1つか2つのミスマッチに対してより高感度になります(14)。

Applied Biological Materials社のゲノムワイドsgRNAライブラリ—は、オフターゲット作用効果が最小限に抑えられるよう慎重にデザインしてあります。

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CRISPR Cas9 - Cas9 ニッカーゼと二重変異株

現在、Cas9ニッカーゼとCas9二重変異体といった、2種類の変異を導入したシステムが一般的に利用されており、それぞれ独自の利点とアプリケーションがあります。

Cas9ニッカーゼ

Cas9ニッカーゼは、現行のCRISPR-Cas9 技術で懸念される、野生型Cas9ヌクレアーゼ活性によるオフターゲット作用を改善する目的で開発されました。Cas9ニッカーゼは、野生型Cas9の変異体であり、RuvC1またはHNH様ヌクレアーゼドメインに、それぞれD10AあるいはH840Aの変異を導入したものです(4)。この変異体では、標的部位における二本鎖切断ではなく、単一鎖においてニックを生じます(図.6)。通常、単一鎖切断またはニックは、相同組換え(配向)型(HDR)修復経路により、無傷の相補DNA鎖を鋳型として直ちに修復されるため、Cas9ニッカーゼによってオフターゲット作用を大幅に低減することができます。

ニッカーゼ改変型Cas9は、野生型Cas9ヌクレアーゼの変異体であり、野生型の切断ドメインのいずれかが無効にされている

図.6 Cas9ニッカーゼは、野生型Cas9ヌクレアーゼの変異体であり、野生型の切断ドメインのいずれかが無効にされている。Cas9ニッカーゼを利用することで生ずるDNAニックは挿入欠損変異を引き起こさないため、野生型Cas9によるオフターゲット作用が最小限に抑えられる。

ゲノム編集にCas9ニッカーゼを利用する場合、1種類ではなく2種類のgRNA(ガイドRNA、sgRNA)が必要となります。Cas9ニッカーゼにより、2本の側鎖に切れ目を入れてDSB(DNA二本鎖切断)を作製するため、この2種類のgRNA(ガイドRNA、sgRNA)は2本のDNA鎖の各鎖よりデザインし、かつ、近接している必要があります(7)。この一対のCas9ニッカーゼを利用する修正では、2種類のgRNA(ガイドRNA、sgRNA)が同時に機能してDSB(DNA二本鎖切断)を産生する必要があるため、オフターゲット作用を低減します(図.7)。DSB(DNA二本鎖切断)が作製されると、NHEJ(非相同性末端結合)またはHDR(相同組換え型)修復経路の何れかが活性化され、ゲノム編集工程が完了します。

一対のニッカーゼ改変型Cas9活性を介して、2種類のgRNAが対象配列に配向された場合にのみ二本鎖切断が生ずる

図.7 一対のCas9ニッカーゼ活性を介して、2種類のgRNAが対象配列に配向された場合にのみ二本鎖切断が生ずる。DNAニックが1ヶ所に生じた場合、HDRによる相補鎖DNAを利用した修復が直ちに行われるため、オフターゲット作用が低減する

Cas9ニッカーゼは、相同組換えを利用したヌクレオチド修正にも利用することも可能です。希望する修正を含んだ修復用鋳型DNAをgRNA(ガイドRNA、sgRNA)やCas9ニッカーゼと共に導入します。表.2に野生型Cas9ヌクレアーゼやCas9ニッカーゼの推奨するアプリケーションを要約しました。

表.2 遺伝子破壊および特異的遺伝子修正におけるCas9ニッカーゼおよびヌクレアーゼの用法
 gRNA 必要量 遺伝子破壊
(NHEJ)
特異的
遺伝子修正
(HDR)
野生型Cas9ヌクレアーゼ 標的ごとに1種類のgRNA ***** ****
Cas9ニッカーゼ 標的ごとに1種類のgRNA ** **
Cas9ニッカーゼ 標的ごとに2種類のgRNA ***** ****

引用元:CRISPR-Cas system for editing, regulation and targeting genomes. Sander, Jeffry D and Joung, J Keith. 4, s.l. : Nature Biotechnology, March 2, 2014, Vol. 32

Cas9二重変異体(dCas)

Cas9二重変異体またはNull変異体は、野生型Cas9がもつ2つの切断ドメインのいずれにも変異が導入されています。このようなCas9Null変異体は、永久的な遺伝子破壊が得られる野生型Cas9ヌクレアーゼやCas9ニッカーゼと異なり、gRNA(ガイドRNA、sgRNA)とゲノムDNAの塩基対形成を介してゲノムDNAに結合する能力は保有しているものの、ゲノム修正は行いません。Cas9二重変異体を他のエフェクタータンパク質と融合させることで、CRISPR-Cas9システムを遺伝子制御、ゲノムイメージング、クロマチンまたはDNA修正、およびクロマチン免疫沈降へと応用・発展させることができます(図.8)(15)(16)(17)(18)(19)。

サンタクルズ社のCRISPR-dCas Activation システムは、このようなdCasを利用して内在性の転写因子を強力に活性化する商品です。

Cas9Null変異体(dCas)は、2つのDNA切断ドメインを欠失しつつ、gRNA : DNA相互関係を介するゲノム座位標的能力を保持する

図.8 Cas9Null変異体(dCas)は、2つのDNA切断ドメインを欠失しつつ、gRNA : DNA相互関係を介するゲノム座位標的能力を保持する。Cas9Null変異体にエフェクタードメインを融合させることで、遺伝子発現活性化(例:V986またはNF-kB)や遺伝子発現抑制(例:KRBAドメイン)、ゲノム座位の可視化(例:EGFP)、クロマチンリモデリングの実施(例:TETタンパク質)、およびクロマチン免疫沈降の簡易化(例:抗体エピトープタグを介する)が可能となる

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CRISPR Cas9 - spCas9, saCas9, Cpf1 ヌクレアーゼ

spCas9はサイズが大きく、GリッチなPAM配列認識のため使用上に制限がありましたが、それに対処するべく別の候補としてCpf1 や saCas9 が研究されています。これらのヌクレアーゼにはゲノム編集の新しい可能性を開くユニークな利点があります (表3参照)。

表3. spCas9、saCas9、Cpf1 ヌクレアーゼの比較
 spCas9saCas9Cpf1
遺伝子長 ~4.1 kb ~3.3 kb ~3.8 kb
開裂タイプ Blunt ends Blunt ends 5' overhangs
繰り返し開裂 No No Yes
開裂部位 認識配列内 認識配列内 認識配列の後ろ
PAM配列 5’-NGG-3’ 5’-NNGRRT-3’ 5’-TTN-3’ or 5’-TTTN-3’
RNA要求性 tracrRNA + crRNA tracrRNA + crRNA 5crRNA

Cpf1 ヌクレアーゼ

新しいCRISPRヌクレアーゼCpf1は、2015年後半にMITのFengZhangのグループによって発見されました。16種類のCpf1タンパク質のうち、哺乳類細胞での特異的なゲノム編集ツールとして最も可能性が高いのは、asCpf1 と lb2Cpf1 の 2種類であることが分かりました (20)。これらのヌクレアーゼは、ヒト細胞における標的切断効率が一般的に使用されている spCas9 と同等であることが分かっています (21)。
Cpf1はTリッチなPAM部位を認識するため、Cas9 の GリッチPAM要件性と比較して標的の幅が著しく拡大します。Cas9 はGリッチな領域を標的するには好ましいヌクレアーゼですが、Cpf1 はTリッチな領域を標的にする場合に使用できます。哺乳類細胞では、Cpf1は足場/マトリックス結合領域やセントロメアDNAなどの難しいDNA範囲を標的にすることができます (22)。Cpf1を使用すると、マラリアの原因となる熱帯熱マラリア原虫など、ATが豊富なドメインが優勢な細菌ゲノムの探索も可能になります。同様に、Cpf1は、Corynebacterium glutamicum およびシアノバクテリアのいくつかの種で見られるように、Cas9の発現が有毒である場合に Cas9 の有用な代替物となる可能性があります (23) (24)。

Cpf1は、動作するためにより短いガイドRNAを必要とします。Cas9 は crRNA を処理するために tracrRNA を必要としますが、Cpf1はそれ自体で pre-crRNAを処理できます (25)。これはバイオテクノロジーにとって特に興味深いものです。Cas9で使用される約100 nt の tracrRNA / crRNAハイブリッドと比較して、Cpf1は約42 nt の crRNAのみで標的にできるからです。これにより、操作された sgRNA のサイズが半分以上縮小されると同時に、合成や (必要に応じて) 化学修飾に関連する方法とコストが簡素化されます (26)。この自己編集機能により、Cpf1はより多くの sgRNA が1つのベクターに収まる可能性があるため、マルチプレックスゲノム編集に最適です (27)。

もう1つの顕著な違いは、Cas9 は切断後に平滑末端を生成するのに対し、Cpf1は方向性クローニングに使用できる5' オーバーハングの付着末端を残すことです。制限酵素などによる付着末端の生成では、Cpf1よりも認識配列が短いため、特異性が低くなります。Cpf1のこの特性は、in vitro で非常に特異的な DNAアセンブリを実行するために利用されています (28)。この方法を in vivo で使用すると、神経などの非分裂細胞にDNAノックインが可能です。この場合、HDRを介したゲノム編集は特に困難です。

Cpf1は、PAM部位から18〜23 bp下流のDNAを切断し、二本鎖DNA切断のNHEJ修復後の認識配列の破壊を引き起こしません。 その結果、Cpf1は複数回のDNA切断を可能にし、目的のゲノム編集が起こる機会が増加します。対照的に、Cas9 は PAM部位の上流でわずか3 bpを切断し (29)、NHEJ経路により、結果として認識配列を破壊する indel変異がおこり、それ以上の切断を防ぎます。理論的には、DNA切断を何度も繰り返すと、標的遺伝子のサイレンシングが増加し、ノックイン実験の場合には、相同性による修復が起こる可能性が高くなります。

Cpf1を介したゲノム編集に関する最近の研究によると、人工多能性幹細胞およびマウスにおいて筋ジストロフィー遺伝子の変異を修正できることが報告されています。これにより、遺伝子発現が回復し、マウスの症状が矯正されています (30)。他には、タンパク質-sgRNA複合体で、大豆やタバコ植物の遺伝子を変異させるためにも使用されています(31)。

 

saCas9 ヌクレアーゼ

S. pyogenes Cas9(spCas9)は最も一般的に使用されるCRISPRヌクレアーゼですが、最近注目されているのは、黄色ブドウ球菌(saCas9)から分離された小型Cas9ヌクレアーゼです。この小さなヌクレアーゼは、生物におけるCRISPRベースの遺伝子編集に携わる生物医学研究業界を変える大きな可能性を秘めています。saCas9 と spCas9は、同等の効率で in vivoで真核生物のDNAを切断することができます(32)。 ただし、saCas9にはいくつかの特性があり、特定のアプリケーションでより便利に使用できます。

saCas9 は spCas9 よりも約1 kb 小さいため、小容量のアデノ随伴ウイルス(AAV)に効果的にパッケージ化され、調節エレメント、crRNA、および tracrRNA用のスペースが残ります。1つのコンストラクト(オールインワンベクターと呼ばれる)にCas9 と sgRNA を含めることにより、Cas9の発現と sgRNA のターゲティングを1つのトランスフェクション/形質導入ステップで行うことができます。AAVは、免疫原性が低く、特定の組織タイプに選択的に感染する能力があるため、in vivo 研究に適した遺伝子デリバリー方法です。

また、saCas9は、spCas9とは異なるターゲティング機能を備えているため、ゲノム編集の新しい可能性を開きます。spCas9 は 5'-NGG-3 ' の PAM配列を認識し、saCas9 は 5'-NNGRRT-3'を認識します。使用できるPAM配列の種類が多いということは、ゲノム編集に使用できる遺伝子座の数が増えることを意味します。HDRは、認識配列が編集する領域に非常に近接している場合に最も効果的であるため、相同性修復を利用した正確な遺伝子編集が必要な場合に特に有効です。

saCas9 が認識する長いPAM配列の欠点の1つは、この配列が spCas9 が認識するPAM配列よりもゲノム内で発生する頻度が低く、その潜在的な有用性が制限されることです。ただし、saCas9 が認識する長いPAM配列は、その特異性が高いため、オフターゲット切断の防止につながります。

MITのZhangラボでは、2015年に saCas9 のパフォーマンスをin vivo で試験しました。この研究では、saCas9 を運ぶ AAV をマウスに注射し、家族性高コレステロール血症に関連する PCSK9遺伝子を破壊しました。これにより、1週間後に肝臓組織で >40 % の遺伝子改変が起こり、注射後 4週間で毒性の兆候は見られませんでした(33)。近年の他の研究では、分子進化を使用して開発された緩和されたPAM認識特異性を持つバリアントsaCas9があります。このバリアントは、その小さなサイズがもたらす利点を維持しながら、野生型saCas9よりも広範囲の潜在的な編集ターゲットを可能にします(34)。

 

一部の研究者が spCas9 より saCas9 を好むのはなぜか? APB社のインフォグラフィックは、以下のように要約しています。

  1. saCas9 は spCas9 よりもコンパクトにもかかわらず同等の遺伝子編集能力を備えている
  2. saCas9 は spCas9 とは異なるゲノム部位を標的とする:異なるPAM配列を持つため、spCas9 を補完するツールになっています。
  3. saCas9 はオフターゲット切断のリスクが減少:PAM配列が長く、ゲノム内でまれであるため、saCas9はターゲットDNAとの非特異的相互作用のリスクが低くなります。
  4. saCas9 は in vitro で spCas9よりも効率的:spCas9と比較して、saCas9は DNA切断に必要な酵素と時間が少なくて済みます。

APB_CRISPR-Cas9-introducution_9.jpg
図9. S. pyogenes Cas9(spCas9)はCRISPR遺伝子編集でよく知られているヌクレアーゼですが、黄色ブドウ球菌(saCas9)からミニチュアCas9ヌクレアーゼが追加されたことで、多くの研究者が in vivo で遺伝子編集機能を拡張できる可能性に期待を寄せています。spCas9と同様に、saCas9 は二本鎖DNAを切断することができますが、spCas9とは異なり、saCas9の特色であるサイズ、PAMシーケンスなどにより、spCas9よりも優位性があります。

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CRISPR-Cas9 以外のタンパク質を利用したゲノム編集ツール

一般に、2種類のタンパク質を利用したゲノムツールが利用されています。

  1. ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)
  2. 転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)

表.3に、これら2種類のタンパク質を基盤とする手法とRNAを基盤とするCRISPR-Cas9システムとの比較を示しました(35

表.3 現行のゲノム編集技術比較
 ZFNs TALENs CRISPR Cas9
DNA結合ドメイン Cys2-His2 DNA
結合タンパク質 
保存されたアミノ酸
反復モチーフ 
単鎖gRNA
DNA切断ドメイン Fokl制限酵素 Fokl制限酵素 Cas9エンドヌクレアーゼ
ガイド機序 タンパク質 タンパク質 RNA
デザインの容易性 ★★★ ★★★★★
オフターゲット効果の低減 ★★★★★ ★★★★★ ★★★
マルチプレックスの可能性 ★★ ★★ ★★★★★

引用元:CRISPR/Cas9 for genome editing: progress, implications and challenges. Zhang, Feng, Wen, Yan and Guo, Xiong. 1, s.l. : Human Molecular Genetics, March 17, 2014, Vol. 23.; CRISPR-Cas system for editing, regulation and targeting genomes. Sander, Jeffry D and Joung, J Keith. 4, s.l. : Nature Biotechnology, March 2, 2014, Vol. 32.; and ZFN, TALEN, and CRISPR/Cas-based methods for genome engineering. Gaj, Thomas, Gersbach, Charles A and Barbas III, Carlos F. 7, s.l. : Cell, July 2013, Vol. 31, pp. 397-406.

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CRISPR-Cas9 - 遺伝子治療の可能性

CRISPR-Cas9は、2012年にまずヒト培養細胞においてゲノム編集ツールとして機能することが示されました(36)。それ以降、パン酵母(37)、植物 (38)、ゼブラフィッシュ(39)、ショウジョウバエ(40)、線形動物(41)、マウス(42)を始めとする広範な生物種において利用されています。CRISPR-Cas9は遺伝子疾患やウイルス感染治療を目的とする治療薬となりうる可能性を秘めています。ある研究グループは、gRNA(ガイドRNA、sgRNA)を用いてHIV-1ゲノムの長鎖末端反復プロモーターを標的し、感染ヒト細胞における顕著な発現抑制を行っています(43)。CRISPR-Cas9システムを利用して、この改良を行う研究が盛んに行われていることから、実行可能な遺伝子治療薬が完成する日も遠くないかもしれません。実際、Editas MedicineやCRISPR Therapeuticsなど、CRISPR-Cas9システムを用いた遺伝子治療薬開発を目指している企業もあります。

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CRISPR-Cas9 - Applied Biological Materials社の実験例

CRISPR-Cas9の概念を実証することを目的とし、緑色蛍光タンパク質(GFP)に対するgRNA(ガイドRNA、sgRNA)をデザインし、GFP安定発現ヒト腎臓293細胞株のレポーター遺伝子を標的しました。GFPを標的するgRNA(ガイドRNA、sgRNA)と野生型Cas9ヌクレアーゼを別個のレンチウイルスベクターにクローンし、組換え用レンチウイルスにパッケージングしました。gRNA(ガイドRNA、sgRNA)はU6レポーターに、野生型Cas9ヌクレアーゼ遺伝子はEF1αレポーターにドライブされ、組換えレンチウイルスベクターはピューロマイシンを選択マーカーとして持ちます。GFP陽性293細胞にCas9レンチウイルスとGFP-sgRNAレンチウイルスをMOI = 10において同時にトランスダクションしました。ウイルス感染後、GFPシグナルを2週間にわたり観察しました。15日目において、GFP-sgRNAレンチウイルスとCas9ヌクレアーゼレンチウイルスを同時にトランスダクションした細胞では、GFPシグナルの90%以上におよぶ減少が見られました。GFP-sgRNAまたはCas9ヌクレアーゼレンチウイルスのみを導入した細胞ではこの影響が見られませんでした(図.10)。 本実験検証の詳細はこちらをご参照ください。

HEK293細胞株におけるCRISPR-Cas9システムを用いたGFPレポーター遺伝子ノックアウト

図.10 HEK293細胞株におけるCRISPR-Cas9システムを用いたGFPレポーター遺伝子ノックアウト

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参考文献
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