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高露 雄太 先生 九州大学大学院 薬学研究院 薬理学分野 |
DRAQ5™を用いた効率的な細胞単離方法
ユーザーレポート
Products
- DRAQ5™ 細胞膜透過性 近赤外蛍光核染色試薬 (品番:DR50050)
メーカー:BioStatus Limited メーカー略号:BSU


■ DRAQ5™ 細胞膜透過性 近赤外蛍光核染色試薬
DRAQ5™は、二本鎖DNAに高親和性がある細胞膜透過性の核染色試薬です。近赤外蛍光試薬で、一般的に用いられる蛍光色素(GFPやFITCなど)と組み合わせてお使いいただけます。
実験内容
近年、げっ歯類からヒトにいたるまで、全身の様々な組織を用いたバルクRNA-seq解析やシングルセルRNA-seq解析が行われており、各組織を構成する細胞集団の遺伝子発現解析、さらには病態時における網羅的な遺伝子発現変化の解析が可能となっている。
通常、蛍光活性化セルソーティング(FACS)を利用して組織から細胞を単離する際、前方散乱光(FSC)や側方散乱光(SSC)の特性に基づき細胞集団を区別する。さらに特定の細胞を単離したい場合は、目的細胞に蛍光タンパク質を発現させた動物を利用する、あるいは目的細胞に特異的に発現する分子を認識可能な蛍光標識抗体を用いて細胞の回収を行う。
我々は、マウス脊髄組織を用いて、グリア細胞の一種であるアストロサイトの選択的かつ効率的な単離法の確立を試みた。脊髄組織を冷却下で酵素処理後、アストロサイトに優位に発現することが知られている、ATPase Na+/K+-transporting subunit beta 2 (ATP1B2)を認識するastrocyte cell surface antigen-2 (ACSA-2)抗体を用いて、細胞の単離を試みた。ダブレット除去後、死細胞標識試薬である7-AADを用いて生細胞を選択し(図1A)、ACSA-2抗体由来のシグナルを解析したところ、非常に幅広いACSA-2陽性分画が観察され、陰性分画との境界も不明瞭であった(図1B)。
ACSA-2抗体は細胞膜表面に発現するATP1B2を認識することから、アストロサイトの細胞体のみならず、酵素処理に伴う突起断片を認識する可能性を考えた。そこで、核を含む細胞体のみを単離する目的で細胞膜透過性の核染色試薬であるDRAQ5™を用いることにした。7-AAD陰性かつDRAQ5陽性の細胞集団をゲーティング後、ACSA-2抗体由来のシグナルを解析したところ、ACSA-2強陽性分画が観察された(図1C)。同集団をセルソーターにより回収し、各種遺伝子発現解析を行い、アストロサイトが高純度に単離されていることを確認した1)。
DRAQ5™は、組織分散処理後の溶液から細胞を単離する際に、死細胞標識試薬と共に用いることで、標的細胞の純度を高めることが可能なツールであると言える。今後、バルクRNA-seq解析やシングルセルRNA-seq解析などのサンプル作製の際に、より効率的かつ高純度に細胞を回収する目的で利用されることが考えられ、中枢神経系のみならず幅広い研究領域への適用が期待される。
参考文献
- Iwasaki R, Kohro Y, Tsuda M. A method for selective and efficient isolation of gray matter astrocytes from the spinal cord of adult mice. Mol Brain, 17, 25 (2024).