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記事ID : 45433

抗体標識キットFlexAbleを用いた多重免疫染色

ユーザーレポート

著者 一ノ瀬 聡太郎先生

一ノ瀬 聡太郎 先生
Sotaro Ichinose

群馬大学大学院 医学系研究科 機能形態学 外部リンク

Products

  • FlexAble CoraLite® 488 Antibody Labeling Kit for Rabbit IgG(品番:KFA001)
  • FlexAble CoraLite® Plus 555 Antibody Labeling Kit for Rabbit IgG(品番:KFA002)
  • FlexAble CoraLite® Plus 647 Antibody Labeling Kit for Rabbit IgG(品番:KFA003)

メーカー:Proteintech Group, Inc. メーカー略号:PGI

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FlexAble(フレクサブル)抗体標識キット

「高親和性リンカー」を用いた新しい抗体標識キット

FlexAble(フレクサブル)抗体標識キット
  • 抗体濃度やバッファー組成に関係なく標識可能
  • 所要時間はわずか10分!迅速かつ簡便な2ステッププロトコール
  • 最低0.5 µgの抗体から標識可能、バッファーの置換操作不要でロスは最小限
  • 専用装置不要

「FlexAble(フレクサブル)」は、「高親和性リンカー」を使用するタイプの新しい抗体標識キットです。様々なバッファー条件下で蛍光色素/ビオチン/HRP酵素を抗体に結合させることができます。

実験内容

はじめに

筆者らは脳の発生や疾患を、タンパク質局在を顕微鏡で観察することにより解き明かすことを目標としている。脳の中心的細胞であるニューロンはシナプスにおいて相互に接続され、シナプス受容体を介して情報を交換することで様々な生理機能を果たす。シナプスには大きく分けて興奮性と抑制性の2種類が存在するため、この2種類のシナプスマーカーとともに、興味のあるタンパク質も同時に可視化していくことが解析の重要点になる。

免疫染色法により複数のタンパク質を同時に可視化する際の問題点

複数のタンパク質の局在を同時に観察したいときの代表的な手法として免疫染色が挙げられる。抗原認識の正確性が担保された市販抗体を入手できれば、慣例的なプロトコルにて簡単にタンパク質を可視化でき、また、市販抗体が存在しない場合でも、近年では外注で抗体を簡単に安価で作成することもできる。

しかし、複数タンパク質の同時可視化で問題となるのが宿主動物種の重複で、多くの場合、抗体の宿主動物はマウスまたはウサギである。複数タンパク質に対する抗体(1次抗体)の宿主が同じ場合、蛍光等で標識された2次抗体を用いて、それぞれのタンパク質を染め分けることができない。そこで抗原抗体反応前に、1次抗体に対して標識を行う必要があり、筆者らは従来、共有結合性の標識キットを用いてきた。キット内容にも依存するが、1)カラムワークなどの手間、時間、経験を要する、2)標識アミノ酸の場所によっては抗原認識が低下するおそれがある、3)それなりの量(例えば10 µg)が必要、といったデメリットが存在する。スクリーニング目的で20 µL入りのウサギ抗体を数種類購入し、抗原認識低下のリスクを抱えながら、標識キットの必要最低量ぎりぎりである購入全量を標識するも、期待通りに染まらなかったという経験もあり、それ以降、同宿主動物種の1次抗体を用いた多重免疫染色を躊躇することも多かった。

FlexAbleを用いたタンパク質局在スクリーニング時の利点および留意点

今回使用したプロテインテックのFlexAbleは技術的にも心理的にも、同宿主動物種1次抗体を用いた多重免疫染色のハードルを大きく引き下げた。まず、先述した共有結合性抗体標識のデメリットを3点ともカバーできている点が心強い。1次抗体と試薬をチューブの中で混ぜていくだけと簡便であり、各ステップの反応時間も5分と短い。また、相互作用部位が確定しているため、抗原認識低下のリスクも低い。さらに、0.5 µgから反応可能で、小容量抗体を購入したとしても、他の用途のために未標識抗体を残しておくこともでき安心だ。このような特徴は、多くのタンパク質局在をスクリーニングしながら同時に観察したい筆者らにとって最適である。非共有結合性であるために、標識後の1次抗体反応時のFlexLinker注1同士の交差反応も危惧していたが、筆者らの抗体濃度、反応時間であればほとんど無視可能で、検出シグナルは正確であると考えられる。ただし、得られるシグナルは慣例的な免疫染色よりも弱くなる傾向があるので、レーザー強度などで検出力を上げる工夫が必要となることが多いようだ。これらの特徴を踏まえ、今後もプロテインテックのFlexAbleを用いることで研究拡大が大いに期待できるため、当面お世話になる予定である。

図1 FlexAbleを用いた自作抗体の抗原認識確認

図1 FlexAbleを用いた自作抗体の抗原認識確認。
(A)抗原抗体反応部位の概要。シナプスに局在する細胞接着タンパク質の1つTeneurin-2はII型膜貫通タンパク質であるが、有用な市販抗体が存在しなかったため、細胞内ドメインをエピトープとしたペプチド抗体(Int)を作成した。同時並行して、細胞外ドメインC末端に3×HAをノックインしたマウスを金子涼輔先生(大阪大学大学院生命機能研究科)との共同研究にて作成した。(B)自作抗体の抗原認識を確認するための培養ニューロン樹状突起染色像。3×HAノックインマウス胎児由来の海馬初代培養ニューロンに対し、FlexAble CoraLite® Plus注2 555 Kit(品番:KFA002、標識対象:Rabbit IgG) で標識したウサギ抗HA抗体(メーカー:CST社、品番:3724、抗体タイプ:Rabbit mAb(IgG))、FlexAble CoraLite®注3 488 Kit(品番:KFA001、標識対象:Rabbit IgG)で標識したウサギ抗Teneurin-2抗体(自作、#Int)を用いて免疫染色した。多くの共染色部位が見られるため、自作抗体は確かにTeneurin-2を認識していると考えられる。IntとHAの染色像が完全に一致しないのは、タンパク質間相互作用などで抗原部位がマスクされることがあるためであると考察しており、このメカニズムを今後追究していく予定である。矢頭は典型的な共染色位置を示している。撮影は63×/1.4 Plan Apochromat対物レンズを備えたZeiss社LSM 880共焦点顕微鏡を用いた。

図2 FlexAbleを用いた興奮性シナプスと抑制性シナプスの染め分け像

図2 FlexAbleを用いた興奮性シナプスと抑制性シナプスの染め分け像。
15週齢のB6J雄マウス海馬組織切片をFlexAble CoraLite® Plus 647 Kit(品番:KFA003、標識対象:Rabbit IgG)で標識したウサギ抗PSD-95抗体(メーカー:CST社、品番:3450、抗体タイプ:Rabbit mAb(IgG))、FlexAble CoraLite® Plus 555 Kit(品番:KFA002、標識対象:Rabbit IgG)で標識したウサギ抗Neuroligin-2抗体(メーカー:Synaptic Systems社、品番:129 203、抗体タイプ:Rabbit pAb(IgG))、FlexAble CoraLite® 488 Kit(品番:KFA001、標識対象:Rabbit IgG)で標識したウサギ抗GABAA受容体γ2サブユニット抗体(メーカー:Synaptic Systems社、品番:224 003、抗体タイプ:Rabbit pAb(IgG))で免疫染色し、切片封入時にHoechst染色を行った。共に抑制性シナプスマーカーであるNeuroligin-2とGABAA受容体γ2サブユニットの共局在が観察される一方で、抑制性シナプスマーカーのGABAA受容体γ2サブユニットと興奮性シナプスマーカーのPSD-95は共局在しない。したがって、抗体標識後、組織切片で1次抗体を反応させるステップにおいて、FlexLinker同士の交差反応は生じないと考えられる。矢印は典型的な抑制性シナプスの位置、矢頭は典型的な興奮性シナプスの位置を示している。撮影は63×/1.4 Plan Apochromat対物レンズを備えたZeiss社LSM 880共焦点顕微鏡を用いた。

注1 FlexLinker
FlexLinker(フレックスリンカー)は、蛍光色素/ビオチン/HRP酵素のいずれかが結合した小分子のポリペプチド鎖であり、「FlexAble抗体標識キット」の構成品の1つとして含まれます。FlexLinkerは、ウサギやマウス等の各宿主動物種で産生された1次抗体のFc領域に対して種特異的かつ高い親和性で結合し、部位特異的な抗体標識を可能にします。

注2 CoraLite® Plus
CoraLite® Plus(コーラライトプラス)は、独自の親水性技術である「SuperHydrophilic™ dPEG® 外部リンク」を利用して開発された先進的蛍光色素です。蛍光イメージング、フローサイトメトリー、蛍光ウェスタンブロット等の蛍光観察アプリケーションにおいて、優れた明るさと高い光安定性を発揮します。

注3 CoraLite®
CoraLite®(コーラライト)は、CoraLite® Plusよりも前に開発された従来型の蛍光色素です。2022年9月に従来型の蛍光色素を標識する「FlexAble CoraLite® 488 Antibody Labeling Kit(品番:KFA001)」として販売開始された製品は、現在までに改良型であるCoraLite® Plus蛍光色素を標識する「FlexAble CoraLite® Plus 488 Antibody Labeling Kit(品番:KFA001)」へ全て移行しています。なお該当製品における品番変更はありません。


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