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記事ID : 33911

細菌のミトコンドリア型呼吸酵素により発生する活性酸素種 (ROS) を検出

ユーザーレポート

新井 博之 先生
Hiroyuki Arai

東京大学大学院 農学生命科学研究科

Products

メーカー:Cell Biolabs, Inc. メーカー略号:CBL

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OxiSelect™ Intracellular ROS 測定アッセイ(緑色蛍光)

細胞中のヒドロキシル、ペルオキシルもしくは他の活性酸素種(ROS)を測定する細胞ベースのアッセイ

  • 1時間以内の迅速プロトコール
  • 高感度(10 pM)
  • 様々なタイプの活性酸素種(ROS)を測定可能

実験内容

酸化ストレスの主な原因物質である活性酸素種 (ROS) は、スーパーオキシド、過酸化水素、ヒドロキシラジカルなど、酸素分子 (O2) に由来する反応性の高い化合物である。これらはDNA、タンパク質、脂質などの生体分子を酸化することで細胞傷害を引き起こし、さまざまな疾患の原因となる。一方で、ROS には生体内での情報伝達のシグナル物質としての役割や、マクロファージなどの免疫機能の一部として細菌などを攻撃する役割があることも知られている。真核生物では ROS は主にミトコンドリアにおいて好気呼吸の副産物として生成する。好気呼吸では酸素を利用して生育に必要なエネルギー (ATP) を生産するが、このときに酸素から水への還元反応を触媒する呼吸鎖の末端酸化酵素(複合体IV)がシトクロムc酸化酵素である。バクテリアでもミトコンドリアと類似のシトクロムc酸化酵素を使って好気呼吸を行っているものが多く存在する。バクテリアにおけるミトコンドリア型呼吸酵素は、真核生物の呼吸酵素の直接的起源であることから、このタイプの酵素が効率的に機能する細胞環境を知ることは、ミトコンドリアの進化を考察する上で重要である。ミトコンドリア型酵素はエネルギー生産効率が良いが、酸素に対する親和性が低く低酸素条件では機能しないという特徴がある。低酸素環境で生育するバクテリアでは、cbb3型シトクロムc酸化酵素やbd型キノール酸化酵素といった、酸素に対する親和性の高い、原核生物に特有の呼吸酵素を酸素濃度に応じて使い分けている。

緑膿菌は環境常在性のグラム陰性細菌で、日和見感染症や院内感染の原因菌として知られている。この菌は複数の好気呼吸酵素と、嫌気呼吸(脱窒)の酵素を持っており、環境変化に応じてこれらを使い分けることで様々な環境に適応して生育することができる(図1)。緑膿菌では特に、高酸素条件でもcbb3型酵素を主に利用しており、さらに低酸素条件では性質の異なる複数のcbb3型酵素のアイソフォームを生産し、感染病巣などの微好気環境に高度に適応しているという特徴がある(1)。本菌のミトコンドリア型酵素 (caa3) は栄養飢餓条件でのみ誘導発現し、単独で機能させた場合は他の酵素の場合よりも生育が悪く、高発現させると生育を阻害する。これは、caa3型酵素はエネルギー生産効率が良いが、通常の培養条件で発現すると細胞内のエネルギーバランスや酸化還元バランスが崩れて酸化ストレスを生じるためと予想された。そこで我々は、細胞内ROSを「OxiSelect™ Intracellular ROS測定アッセイ(緑色蛍光)」を使って測定してみた(図2)。これは細胞浸透性蛍光プローブ DCFH-DA を用いて細胞内の ROS を特異的に蛍光検出するキットで、主に真核細胞を用いた研究に用いられてきたが、原核生物の緑膿菌においても有効であった。結果として、caa3をコードするcox遺伝子をプラスミドで発現させた場合に ROS の上昇が観察された。細胞膜の酸化還元状態をセンシングする転写調節因子 RoxSR の遺伝子欠損株では、cox遺伝子発現による生育阻害が緩和されるが、この変異株では ROS の上昇が認められなかった。これらの結果から、caa3型酵素発現による緑膿菌の生育阻害は、ROS の発生による酸化ストレスが原因であることが明らかになった(2)。緑膿菌はcbb3型酵素を主要に働かせることで低濃度の酸素をスカベンジし、酸化ストレスを生じないようにしていると予想される。緑膿菌などの病原菌における酸化ストレスの制御機構を解明することは、感染症治療の観点からも重要であり、今後さらなる研究の展開が必要と考えている。

緑膿菌における複数の呼吸鎖末端酸化酵素

図1. 緑膿菌における複数の呼吸鎖末端酸化酵素
緑膿菌は好気呼吸において酸素を水に還元する 4種類の末端酸化酵素を持つ。このうち、酸素高親和性の cbb3型酵素には 4タイプで合計 16種のアイソフォームがあり、生育環境によって使い分けされている。また、嫌気呼吸(脱窒)により酸素非存在時にも生育可能である。

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図2. 細胞浸透性蛍光プローブDCFH-DA を用いた細胞内 ROS の検出
緑膿菌を LB培地で 3時間好気培養した後に DCFH-DA と混合、洗浄後、DCF の蛍光強度から細胞内 ROS 量の比較を行った。野生株に cox遺伝子をプラスミドで発現した場合に ROS 量が有意に増加したが、roxSR破壊株では増加は認められなかった。

参考文献

  • 1. Hirai T. et al.: PNAS, 113: 12815, 2016

製品使用文献

  • 2. Osamura T. et al.: PLoS ONE, 12: e0177957, 2017

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