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山下 慧 先生(写真) 道上 達男 先生 東京大学 大学院総合文化研究科 広域科学専攻 生命環境科学系 |
SiR-Actin キットを用いたアクトミオシンと第3のタンパク質の三重染色
ユーザーレポート
Product
- SiR-Actin Kit (品番:CY-SC001)
メーカー:Cytoskeleton, Inc. メーカー略号:CYT


■ SiR-Actin Kit
生細胞内の F-アクチン(SiR-Actin)を染色する細胞透過性化合物

- 細胞透過性
- 光安定的
- 超解像度
- 遠赤フルオロフォア
- 蛍光性
- 非細胞傷害性
λabs | 652 nm | ![]() |
---|---|---|
λEm | 674 nm | |
ε652 nm | 1.0·105 mol-1·cm-1 | |
MW | 1241.6 g/mol | |
MF | C71H88N8O10Si |
製品使用文献
Satoshi Yamashita, Takashi Tsuboi, Nanako Ishinabe, Tetsuya Kitaguchi and Tatsuo MichiueWide and high resolution tension measurement using FRET in embryo. Scientific Reports 6, Article number: 28535 (2016)
実験内容
アクチンフィラメントは細胞骨格系の基本的な構成要素として古くから研究されてきた。アクチンフィラメントは細胞運動をはじめ、筋繊維の構成や細胞の変形、細胞再配列、メカノセンシングなど様々な過程に深く関わっており、その動態や制御機構は未だに分子細胞生物学、発生生物学のホットトピックスの一つである。近年の超解像度顕微鏡やディスク共焦点顕微鏡などのイメージング技術、FRET張力センサーなどの分子ツールの発達は細胞内の微細構造やその力学的な性質に関する研究を大きく推し進め、アクチンフィラメントとそれに相互作用する他のタンパク質についても興味深い発見が多く報告されている。
我々の研究室では、アフリカツメガエルの胚を用いて初期発生における神経-表皮境界決定機構や、原腸陥入、神経管閉鎖などの形態形成の研究を行っている。特に、形態形成においては細胞が仮足のような構造を形成して互い違いに移動する収斂伸長や上皮細胞でアクトミオシンの網目構造が頂端面を収縮させるアピカルコンストリクションの他に、Lecuit らのショウジョウバエを用いた研究に端を発するここ十数年の研究で、細胞が互いの間の細胞間接着を再モデリングし、細胞を再配列することによって駆動する上皮組織の収縮-伸長においてもアクトミオシンが中心的な役割を担っていることが報告されてきた。我々も、原腸胚期から神経胚期にかけて外胚葉上皮でアクチンフィラメントの挙動を観察しようと、モエシン(moesin)のアクチン結合部位にEGFPを繋げたコンストラクトを導入した。モエシンはアクチンフィラメントを細胞膜につなぎとめるアンカリングタンパク質として知られており、その結合部位はアクチンフィラメントを染色するのによく利用されている。しかし、予想外にアフリカツメガエルの外胚葉上皮ではフィラメント様の染色パターンは観察されず、またファロイジンを用いて染色したパターンとも明らかに異なる、アクチンフィラメントを染色したというには疑わしい結果が出てきてしまった。しかしながら一方で、そのアクチン結合部位はミオシンに mCherry をつなげたコンストラクトとはよく共局在し、また全長のモエシンに EGFP をつなげたコンストラクトを導入した際には、神経板の細胞の後端側でシグナルが消失し、その近傍の細胞間接着が再モデリングを起こして収縮するのが観察された。そこでモエシン自体に興味が湧き、アフリカツメガエル胚の神経板におけるアクチンフィラメント、ミオシン、モエシンの相互作用を研究してみたくなった。
前述のファロイジンなどのように、アクチンフィラメントに結合する化学物質はいくつか知られており、それらに蛍光分子をつなげたものがアクチンフィラメントの染色用に提供されている。また、ミオシンやモエシンの他にも、アクチンフィラメントやその他の細胞骨格系、細胞接着複合体を構成するタンパク質、それらと相互作用するタンパク質に関しても蛍光タンパク質をつなげたコンストラクトが世界中の研究室で作成され、直接、または Addgene などを通じて間接的に提供されている。それらの蛍光分子の蛍光スペクトルは、多くが EGFP や mCherry、またはそれに近いものであるが、そのため三重染色ができない。その点で、CytoSkeleton社 Spirochrome プローブ (SiR-Actin) は遠赤色光の励起/蛍光スペクトルを持ち、かつ細胞透過性により染色が簡単なため三重染色も容易である(図1)。また、このことは上述したようなアクトミオシンと他のタンパク質との相互作用の観察の他にも、FRET張力センサーとの併用などについても言える。以上の点から、SiR-Actin キットはアクチンフィラメントが関わる研究にとって非常に強力なツールになると期待される。

図1. SiR-Actin キットを用いたアフリカツメガエル胚外胚葉上皮のアクチンフィラメント(左)、モエシン(中)、ミオシン(右)の三重染色画像。