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技術情報

記事ID : 17908

PBL Assay Science(PBL)社 インターフェロンとSARS-CoV-2 入門


はじめに

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によるパンデミックは、1年以上前に発生して以来、世界中で何百万人に影響を与えています。他のコロナウイルスと同様に、COVID-19の原因病原体であるSARS-CoV-2は、感染力が高く、軽度から重度の呼吸器症状を含む広範囲の疾患を引き起こします。高リスク集団では死亡率が高いことに加えて、COVID-19は、年齢や基礎的な健康因子(長期COVIDまたは慢性COVID症候群)に関係なく、全症例の推定10%において長期的な病的状態を引き起こすと考えられています1。この疾患に関しては、現代史において他のどの疾患よりも著しく短い期間で、多くの論文が発表されましたが多くは不明のままです。それらの研究の大部分は、免疫応答の調節不全、特にI型インターフェロン(IFN)が疾患の進行にどのように寄与するかに焦点が当てられています。自然免疫系の役割を理解するために、重症疾患の素因となる遺伝的危険因子を最近探索したところ、ヒトの先天性I型IFN異常が、男性の重度COVID-19症例の12.5%以上、女性の2.6%の根底にある可能性があることが明らかになりました2

COVID-19の感染とサイトカイン

宿主が、それまで適応免疫応答が確立されていなかった新規ウイルスに提示された場合、自然免疫応答の成功は極めて重要です。自然免疫の中心は、重要な抗ウイルス作用と免疫調節作用を媒介するI型IFNの機能です。パンデミックの初期には、不適切なI型IFN反応がCOVID-19の病態の多くの根底にある可能性があることが明らかになりました。初期のI型IFN反応が不十分であると、一部の患者でその後のサイトカインストームを引き起こすと考えられています。多くのウイルス感染がサイトカインストームを引き起こす可能性がある一方で、それぞれの病原体が異なるサイトカイン環境を産生することが認識されつつあります。SARS-CoV-2に感染すると、疾患後期にIL-6、IL-1b、IP-10、TNF、IFN-γ、MIP1αおよびβ、VEGFが著しく増加します。これらのうち、IL-6レベルの上昇は生存期間の短縮を予測することが明らかにされており、この経路を阻害する治療法もあります3。さらに、これらのサイトカインによって駆動される単球、マクロファージ、およびNK細胞の活性化による炎症亢進が、重度のCOVID-19の病因の大部分であると仮定されています4

COVID-19感染による3つのフェーズとサイトカインIFN

COVID-19感染は3つの独特なフェーズ(段階)に分けられます。第1段階は、ウイルスが活発に排出されるウイルス応答期ですが、臨床症状がみられないこともあります。症状が認められる患者では、第2段階は呼吸器疾患が起こり、第3段階は最も重症な患者にのみ、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)と多臓器不全が起こります5。COVID-19の多段階的な性質を考慮すると、適切な治療のタイミングが最も重要です。それぞれの段階は異なる生理学的過程を示すため、ある段階に対する適切な治療は別の段階では効果が得られない可能性があります。したがって、臨床試験中のIFN応答のモニタリングは重要と考えられます。初期の抗ウイルス治療試験の多くは、後期患者を対象に実施されましたが、成功が限定的であり、患者の健康に有害な影響を及ぼし、時間と資源が無駄になる可能性がありました。発症早期に対する試みが重要であることが回復期の血清で観察され、診断から72時間以内に投与された場合により有益である可能性があります9。 さらに、IFNレベルのモニタリングは、どの患者が重症疾患を発症するかを予測する上で中心的な役割を果たす可能性があり、早期の介入を検討するべきと考えられます。

IFNによるCOVID-19の治療研究

現在、COVID-19に利用できる治療法はほとんどありません。完全に承認されたEUA(緊急使用許可)の治療法には、デキサメタゾン、レムデシビル、α-IL-6R抗体、バムラニビマブなどの抗スパイクタンパク質モノクローナル抗体および回復期血漿があります。さらに、I型IFNも治療選択肢として用いられており、やや限定的な成功しか収めていないことから、早期に投与する必要があると考えられています。いくつかの初期の研究は、入院患者におけるIFN治療の肯定的な結果を示唆しています。 ただし、多くの初期のCOVID-19研究と同様に、これらの研究の選択基準により、併存疾患が少ない若い研究対象母集団が生じ、結果が歪められた可能性があることに注意する必要があります 6,7。IFNの吸入投与に関するより最近の研究では、肺に直接大量のIFNを送達することができるため、このアプローチは呼吸器感染症の治療に注射よりも優れている可能性があることが示唆されています。その結果、局所的な抗ウイルス反応が増強され、IFNの全身曝露による多くの有害な副作用が回避されます8。今後の治験では、患者の病状を監視して患者をサブグループに分類し、適切な時期に適切な治療を行うことが重要になります。

腸上皮細胞とIFNによるCOVID-19感染制御

消化器症状はCOVID-19の発症時に一般的であり、ウイルス受容体であるACE2は腸の上皮細胞で呼吸細胞よりも高いレベルで発現すると報告されていますが、腸でのSARS-CoV-2の感染と複製については議論の余地があります10。しかし、小腸や大腸の内皮細胞でのウイルス増殖が確認されています11。初代ヒト腸上皮細胞(hIEC)は、SARS-CoV-2の感染に応答して、III型IFNを産生し、このサイトカインがhIECの感染を制御することが示唆されています12。I型およびIII型IFNはいずれも初代hIECにおいてウイルス複製を阻害することがわかりましたが、これらの細胞のSARS-CoV-2感染時に誘導されるのはIII型IFNのみであることがわかりました。このことから、腸管ではIII型IFNが優勢な作用因子であることが示唆されました。さらに、SARS-CoV-2の蔓延に対抗するためには、ふん便経口ルートを介した伝播を無視するべきではなく、COVID-19の治療には、I型IFNよりも副作用が少ないIFN-ラムダを考慮すべきと考えられます。

SARS-CoV-2によるIFNの阻害

COVID-19の治療で大きな問題となるのは、それぞれの患者が最終的にどのような病態に陥るかを見極めることです。SARS-CoV-2ウイルス自体の調査と関連ウイルスに関する初期の研究により、これらのウイルスがIFNを阻害するために利用するいくつかの機序が明らかになりました。SARS-CoV-2は、複製に関与する16種類の非構造タンパク質(nsp-16)、4種類の構造タンパク質(スパイク、エンベロープ、膜、ヌクレオカプシド)、および宿主応答を調節するための8種類のアクセサリータンパク質(ORF3a、ORF3b、ORF6、ORF7a ORF7b、ORF8、ORF9b、ORF10)をコードする30kbのポジティブセンス一本鎖RNAウイルスです。特に、アクセサリータンパク質は、宿主免疫応答の変動の根底にある作用機序に関する手がかりを得るために精力的に研究されてきました。正確な機序を明らかにするための逆遺伝学的アプローチを利用したさらなる研究が必要ですが、予備的な結果から、IFN産生に至る経路の複数の段階においてウイルスにより制御された阻害、ならびにIFNシグナル伝達の下流の作用の阻害が存在する可能性が示唆されています。SARS-CoV-2によるI型IFN阻害の最も興味深い作用機序の1つは、Nsp1(宿主遮断因子)によるmRNA翻訳の阻害です。Nsp1は、リボソーム上に存在し、すべてのタンパク質翻訳を効果的に阻害し、それによってインターフェロン応答遺伝子(ISG)の発現を阻害します13。さらに、Nsp3はプロテアーゼまたは脱ユビキチン化酵素として機能し、IFNおよびNsp6を阻害する可能性があり、Nsp13はTBK1の下流にあるIRF3の活性化を阻害することによりIFNの産生を阻害すると考えられています。N、M、ORF6、ORF7aおよびORF7b、ORF8、ORF9bを含むコロナウイルスの構造タンパク質およびアクセサリータンパク質は、いずれもin vitroにて、この経路を阻害する作用を示しています14。これらのウイルスタンパク質のそれぞれの重要性を明らかにし、その作用機序を明らかにするには、さらに研究を重ねる必要があります。逆遺伝学的アプローチおよびレポーターウイルスにより、ウイルス突然変異体のスケーラブル(拡張性のある)かつ迅速な分析および潜在的な治療法を可能にすると考えられます。

IFN産生量や抗体量のモニタリングの意義

COVID-19によって引き起こされる疾患の異なる程度を説明する因子の探索において、I型IFNの先天性異常がBastard氏らによって調査されました。同博士らの研究で、IFNに対するIgG自己抗体が認められたのは、重度のCOVID-19患者で10.2%、対照者ではわずか0.33%でした。注目すべきことに、これらの患者の94%は男性であり、これは女性と比較して年配の男性の重篤な疾患のリスクの増加を説明している可能性があります。さらに、これらの患者におけるIFN中和抗体の存在は疾患発症に先行していたと考えられており、X連鎖形質である可能性があります。これらの抗体はインターフェロンα2および/またはインターフェロンωに対するものであったため、インターフェロンβの投与は、疾患経過の早期に実施すれば、実行可能な治療アプローチとなる可能性があります。急性感染時にこれらの抗体や感染時のインターフェロン産生についてスクリーニングすることにより、重症の危険性がある患者を特定できると考えられます2

終わりに

SARS-CoV-2感染および治療に関連する病理学の理解を深めるために大きな進歩がみられている一方で、未だ明らかにされていない部分が多く存在します。ウイルス複製を強力に阻害する能力が発見された最初のサイトカインとして、IFNの機能はこの新規コロナウイルス疾患の病理学の中心となる可能性があります。IFNの役割、その治療への応用の可能性、重症疾患に対する先天的な遺伝的素因をさらに分析することにより、COVID-19の多段階的な性質と、この感染症や他の感染症に対するヒトの応答における幅広い変動をさらに理解できる可能性があります。

参考文献

  1. Greenhalgh T, et al. "Management of post-acute covid-19 in primary care", BMJ., 2020, doi:10.1136/bmj.m3026
  2. Bastard P, et al. "Autoantibodies against type I IFNs in patients with life-threatening COVID-19", Science, 2020, doi:10.1126/science.abd4585
  3. Fajgenbaum DC., June CH., "Cytokine Storm", N. Engl J Med, 2020. doi:10.1056NEJMra2026131
  4. Rodrigues PRS, et al. "Innate immunology in COVID-19 -- a living review. Part II: dysregulated inflammation drives immunopathology", Oxford Open Immunol., 2020, doi:10.1093/oxfimm/iqaa005
  5. Haznedaroglu IC, "Immunogenomic phases of COVID-19 and appropriate clinical management", The Lancet Microbe, 2020, doi:10.1016/s2666-5247(20)30165-8
  6. Zhou Q, et al. "Interferon-α2b Treatment for COVID-19", Front Immunol., 2020, doi:10.3389/fimmu.2020.01061
  7. Pereda R, et al. "Therapeutic effectiveness of interferon-α2b against COVID-19. The Cuban experience", J interf Cytokine Res., 2020, doi:10.1089/jir.2020.0124
  8. Monk PD, et al. "Safety and efficacy of inhaled nebulised interferon beta-1a (SNG001) for treatment of SARS-COV-2 infection: a randomised, double-blind, placebo-controlled, phase 2 trial", Lancet Respir Med., 2020, doi:10.1016/s2213-2600(20)30511-7
  9. NIH. No Title. https://www.covid19treatmentguidelines.nih.gov/immune-based-therapy/blood-derived-products/convalescent-plasma/
  10. Xu H, et al. "High expression of ACE2 receptor of 2019-nCoV on the epithelial cells of oral mucosa", int J Oral Sci, 2020, doi:10.1038/s41368-020-0074-x
  11. Xiao F, et al. "Evidence for Gastrointestinal Infection of SARS-CoV-2" Gastroenterology, 2020, doi:10.1053/j.gastro.2020.02.055
  12. Stanifer ML, et al. "Critical Role of Type III Interferon in Controlling SARS-CoV-2 Infection in Human Intestinal Epithelial Cells", Cell Rep., 2020, doi:10.1016/j.celrep.2020.107863
  13. Schubert K, et al. "SARS-CoV-2 Nsp1 binds the ribosomal mRNA channel to inhibit translation", Nat Struct Mol Biol., 2020, doi:10.1038/s41594-020-0511-8
  14. Xia H, Shi P-Y, "Antagonism of Type I Interferon by Severe Acute Respiratory Syndrome Coronavirus 2", J Interf Cytokine Res., 2020, doi:10.1089/jir.2020.0214

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