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記事ID : 38893

RNAscope™を用いたin situ hybridization法による脳内ストレスホルモンmRNA発現検出

ユーザーレポート

藤井靖之様

藤井 靖之
Yasuyuki Fujii

芝浦工業大学 食品栄養学研究室

Products

メーカー:Advanced Cell Diagnostics, a brand of Bio-Techne Corporation メーカー略号:ADC

こちらをつかってみました!Biological Industries Ltd.

RNAscope™ Duplex(二重染色)発色アッセイ

2種類のターゲットを同時に検出可能です。赤色 (Fast Red) / 緑色 (HRP-Green) 二重染色用のキットをご用意しています。

実験内容

 近年、食品の機能性研究において植物性食品に含まれるポリフェノールが大きなターゲットになっている。ポリフェノールは、ベンゼン環に複数の水酸基が結合した化合物の総称であり、食品の渋味や苦味の成分であるとともに、メタボリックシンドロームのリスクファクターである高血圧・血糖異常・脂質異常を改善する作用が示されている1)。しかしながら、ポリフェノールは消化管から給されず、その生体利用能は極めて低いことから、作用機序は明らかにされていない。

 我々の最近の研究で、ポリフェノールの一種であるflavan 3-ols(カテキンとその重合物の画分)を摂取した後に、交感神経活動が亢進することが明らかとなった2)。一般に交感神経活動の亢進はストレス負荷時に認められることから、flavan 3-olsの強い渋味がストレッサーになっているのではないかと考えられた。そこでflavan 3-ols摂取後の視床下部における神経活動マーカーやストレスホルモンのmRNA発現をin situ hybridization法で検証することとした。

 Flavan 3-olsをC57BL/6J雄性マウスに経口投与後、麻酔条件下でリン酸緩衝食塩水と4%パラホルムアルデヒドで還流固定し、視床下部室傍核におけるコロナルパラフィン切片(厚さ:8µm)を作成した。切片をキシレンで脱パラフィン、エタノールで脱水後、RNAscope™ 2.5 HD Duplex Reagent Kitを用い、神経活動マーカーであるc-fosと脳内ストレスホルモンの1つであるCRH (corticotropin releasing hormone) mRNA発現を観察した。また、血漿中CORT濃度をELISA法で測定した。その結果、c-fos mRNA (Green)はflavan 3-ols 10, 50mg/kg投与15分後に顕著なシグナルの増加が認められた。一方で、CRH mRNA (Red)はflavan 3-ols 10mg/kg投与群では投与240分後に、50mg/kg投与群では60分後に標識細胞数が有意に増加した。(図1)。また、血中ストレスホルモンであるCORTは投与240分後に有意に上昇した。これらの結果からflavan 3-olsの摂食刺激はストレッサーとして生体に作用すること、その結果一連のストレス応答反応として交感神経を興奮させ、循環刺激やエネルギー代謝亢進を引き起こすことが示唆された3)。また、投与量(ストレス)の増加によって応答時間が異なることも明らかとなった。 このように本実験では、ISH法を用いて目的遺伝子の発現局在部位を細胞レベルで視覚的に提示することによって、渋味感覚の中枢における応答を初めて解明するに至った。また血中ストレスホルモンと組み合わせて評価したことで、flavan 3-olsのストレス応答反応誘導作用を確認することができた。

図1
図1. 視床下部室傍核におけるc-fos (green)とCRH (red) mRNAの発現
出典: Fujii, Y. et al. Single oral administration of flavan 3-ols induces stress responses monitored with stress hormone elevations in the plasma and paraventricular nucleus. Neurosci. Lett. 682, 106-111 (2018).

 従来in situ hybridization法には放射性同位体を用いたRI法がよく用いられてきたが、設備面や技術面が高いハードルとなっていた。一方、RNAscope™は目薬状のAmpを順次切片に滴下して染色するだけであり、操作が容易であるだけでなく再現性が高いキットである。またこれまでに我々は、半年前に作成した未固定凍結切片においてもmRNAを明瞭に検出できることや、RNAscope™ Multiplex Fluorescent Regent kit V2による5色多重染色法(dapiを含む)を用いることによって、いくつかの神経伝達物質の産生細胞を同時に特定できることを確認している。これらのことから、RNAscope™は、標本が半永久的に保存可能である組織化学の利点を最大限に発揮できる有用なツールであると考えられる。

参考文献

  1. Osakabe, N. & Terao, J. Possible mechanisms of postprandial physiological alterations following flavan 3-ol ingestion. Nutr. Rev. 76, 174-186 (2018).
  2. Nakagawa, Y. et al. Comparison of the sympathetic stimulatory abilities of B-type procyanidins based on induction of uncoupling protein-1 in brown adipose tissue (BAT) and increased plasma catecholamine (CA) in mice. PLoS One 13, e0201203 (2018).
  3. Fujii, Y. et al. Single oral administration of flavan 3-ols induces stress responses monitored with stress hormone elevations in the plasma and paraventricular nucleus. Neurosci. Lett. 682, 106-111 (2018).

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