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関 真秀 先生 東京大学大学院新領域創成科学研究科 |
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渡邊 巧太 先生 東京大学大学院新領域創成科学研究科 |
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鈴木 穣 先生 東京大学大学院新領域創成科学研究科 |
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鈴木 穣 先生 東京大学大学院新領域創成科学研究科 |
メーカー:Lexogen GmbH
トランスクリプトームレベルでの発現定量には、次世代シークエンサーを用いてcDNA断片をシークエンスするRNA-Seqが一般的に用いられている。しかし、RNA-Seqで計測されるRNA量は分解と合成速度の総和であるため、遺伝子発現がどのように調節されるのかを正確に理解するためには、分解と合成をそれぞれについて計測することが非常に重要である。RNA分解と合成の測定には、主に、核酸アナログによるRNA標識を利用した方法が用いられている。RNA分解速度は、細胞内の標識RNAの減少を経時的に計測することで測定することができる。また、RNA合成速度は、核酸アナログを含む溶液中でRNA合成を行わせて標識された新生RNAを測定することで計測できる。これらの方法では、主に標識されたRNAを免疫沈降などの方法で分離するため、精製時のバイアスが存在することや標準化が難しいことなどのいくつかの問題点が存在していた。SLAMseq (thiol(SH)-linked alkylation for the metabolic sequencing of RNA)は、Uの核酸アナログである4sU (4-thiouridine)でRNAを標識し、化学的に4sUをCに変換することで標識RNAと非標識RNAを同時に検出できる方法である[1]。そのため、標識RNAの精製を必要とせず、簡便かつ正確にRNAの分解や合成速度が測定できる。
Lexogen社のQuantSeq 3' mRNA-Seq Library Prep Kitは、mRNAの3’側に特異的なシークエンスライブラリーを調製する試薬である。一般的なmRNA-Seqでは、1分子のmRNAから断片化された複数分子のRNAから複数分子のcDNAが合成されるのに対して、QuantSeqでは、1分子のmRNA分子から1本のcDNAが合成される。そのため、QuantSeqでは発現量測定のために必要なリード数を低減することができる。SLAMseqの感度を上げるためには、標識RNAと非標識RNAに由来するmRNA分子数の情報を多く得ることが重要である。同じリード数でもより多くのmRNA分子を測定できるQuantSeqは、SLAMseqに適していると考えられる。実際、これまで発表された論文でも、SLAMseqにQuantSeqが用いられている[1,2]。
今回、大腸がん細胞株DLD1細胞において、SLAMseq Metabolic RNA-Seq Kit Catabolic Kinetics Module (Lexogen社 品番:062.24) を用いてSLAMseqによるRNA分解の測定を試みた。4sU除去後のt=0-12 時間の間の11時点について、細胞のサンプリングを行った。4sUの変換後のRNAをQuantSeq 3' mRNA-Seq Library Prep Kit (Lexogen社 品番:015.96) を使用してシークエンスライブラリーを調製し、HiSeq2500(Illumina)を用いてシークエンスを行った。ポリAとアダプター配列のトリミングを行った後、SLAMseqのための解析パイプラインであるSLAMdunkにより、マッピング、及び、標識RNAの発現量を算出した(図1)。IGVを用いて、t=0と12hの2時点のデータのマッピング結果を可視化した[3]。t=0と比較して、時間が経過によりUからCへの塩基置換の頻度が低下していることが確認できた。最小二乗法を用いて、各遺伝子の標識RNA量の変化を指数関数にフィッティングを行った(図2)。フィッティングされた曲線と実データとの決定係数R2が0.7以上で12,268遺伝子について半減期の推定が可能であった(図3)。mRNAの半減期は12h以上の幅で広く分布しており、分解速度の多様性が存在することが確認できた。
以上のことから、mRNA発現制御を明らかにするためには、RNAの分解と合成速度を計測することが重要であり、SLAMseq Metabolic RNA-Seq KitとQuantSeq 3' mRNA-Seq Library Prep Kitは、それらの速度を簡便かつ網羅的に観測するための有用な試薬であると考えられる。
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