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技術情報

記事ID : 15441

ゲノム編集技術をハイスループットノックアウトアプリケーションへ利用CRISPR-Cas9 sgRNAライブラリーを利用したゲノムワイド機能解析アプローチ


近年の研究により、機能ゲノム学のルネッサンスともいえる数々の生物のゲノム配列が明らかになりつつあり、最近では特にヒトゲノムの全長配列といった豊富なDNA配列情報を利用し、ゲノムにコードされた遺伝子について、本来の役割を明らかにする研究がすすめられています。さらに、生化学的ネットワークや情報伝達経路がより理解され、疾患治療の改善へと繋がることが期待されています。

機能ゲノム学の主なアプローチとして、遺伝子を「ノックダウン(低減)」または「ノックアウト(完全除去)」して遺伝子機能を切断する方法がありますが、2012年以降、数々の研究者が機能ゲノム研究にCRISPR-Cas9技術を利用しはじめています。CRISPR-Cas9は、シンプルなRNA誘導型のメカニズムであるため、遺伝子ノックアウト、インフレーム融合タグ付け、変異誘発性、およびトランス遺伝子ノックインといった多くのアプリケーションに対して迅速、簡便かつ比較的低価格で利用することが可能です。近年、いくつかのグループが大規模なCRISPR-Cas9 sgRNAライブラリーを開発し、CRISPR-Cas9技術をハイスループット ノックアウト アプリケーションに利用しています。

GeneCopoeia(GCP)社Applied Biological Materials(APB)社では、より小規模で伝達経路や遺伝子群に焦点をあてたCRISPR-Cas9 sgRNAライブラリーやご自身で選択した遺伝子に対するカスタムメイドのsgRNAライブラリーを数々発売しています。これらは、全ゲノムを対象としたライブラリーに比べて、いくつかの利点があります。本稿では、CRISPR-Cas9 sgRNAライブラリーの特長、アプリケーションや使用方法、小規模で伝達経路や遺伝子群に焦点をあてたCRISPR-Cas9 sgRNAライブラリーの利点といったことに関して討議します。

Cosmo Bio would like to acknowledge and thank the GeneCopoeia, Inc. for providing the information of CRISPR-Cas9 technology for the genome-wide screening presented here.

CRISPR-Cas9 システム

図.1 CRISPR-Cas9により誘導されたDSB(DNA二本鎖切断)の修復経路
左:NHEJ(非相同性末端結合) 右:ドナーコンストラクト存在下におけるHR(相同組換え)

CRISPR-Cas9 sgRNAとは

CRISPR-Cas9 sgRNAライブラリーは、数百から数千のプラスミド(あるいはウイルス粒子)コレクションであり、各プラスミドから特定の染色体標的部位に特異的な一本鎖ガイドRNA(sgRNA、gRNA)が発現し、これが化膿レンサ球菌(化膿性連鎖球菌、Streptococcus pyogenes)由来のCas9ヌクレアーゼ存在下で、染色体上にDNAニ本鎖切断(DSBs)を生じます(図.1)。DSBは、相同性ドナーコンストラクト存在下での相同組換え(HR)、あるいは非相同性末端結合(NHEJ)のいずれかによる修復を受け、ここにエラーが生じることによって、変異体をノックアウトへと導きます。

CRISPR-Cas9 sgRNAライブラリーの利用により、哺乳動物細胞を利用して数々の遺伝子を同時にノックアウトすることができるため、薬物標的同定、薬物標的検証、表現型変化、またはレポーターアッセイなどの様々なアプリケーションにおいて注目されています。従来、これらのアプリケーションにはRNA干渉(RNAi)が利用されていました。例えば、Sethi(2012)らは、6,000種の「新薬候補」遺伝子を標的とするshRNAライブラリーを用いて卵巣がん細胞における標的候補の同定を報告しており、CooperとBrockdorff(2013)は、shRNAライブラリーを利用してGata6-neoプロモータレポーターを活性化させる因子を同定しています。Cellecta社からは、レンチウイルスおよび次世代シーケンス技術を利用したゲノムワイドshRNA ライブラリーが販売されています。Zhang(2014)らは、蛍光標識細胞分取法(FACS)を利用して、細胞表面マーカーであるPSA-NCAMを発現する細胞を単離し、ヒト胚性幹細胞(hESCs)において発現することを示しました。

shRNAライブラリーはハイスループットでの機能欠失型スクリーニングには有用であるものの、CRISPR-Cas9技術と比べるとRNAi技術には「不足している」といえるポイントがいくつかあります。

  1. RNAiは、遺伝子発現レベルの低下(ノックダウン)を生ずる。したがって、残った遺伝子発現による偽陰性を見落とす可能性がある。
  2. RNAiは、細胞質性RNAに対してのみ機能する。長鎖のノンコーディングRNAなど、核内RNAはサイレンシングできない。

一方、CRISPR-Cas9技術は、遺伝子コードを永久的に変更します。したがって、CRISPR-Cas9では、転写産物が核内や細胞質内に局在化したとしても遺伝子の全ての対立遺伝子を完全にノックアウトすることが可能といえます。

CRISPR-Cas sgRNAライブラリーの使い方

sgRNAライブラリーの使い方は非常にシンプルです。ただし、sgRNAライブラリーを有効利用するためには「読み取り情報(観察できる表現型やアッセイ)」の存在が重要となります(図.2)。sgRNAライブラリーの各プラスミドをDNAのままで細胞にトランスフェクションすることも可能ではありますが、一般的にはレンチウイルス粒子にパッケージングしたものをプールして使用します。GCP社のライブラリークローンには、sgRNA標的部位が含まれるものの、必須であるCas9は含まれていません。そのため、使用する細胞にsgRNAとCas9とを同時にトランスフェクションまたは同時感染させる必要があります。レンチウイルス粒子を用いたトランスダクションを行う場合、Cas9はサイズが大きくウイルスタイターを上げることが困難であるため、はじめにCas9安定発現細胞株を樹立することが推奨されます。また、sgRNA発現レンチウイルス粒子のみを使用することでトランスダクション効率がより高くなります。細胞にDNAをトランスフェクションする場合、あるいはプールしたレンチウイルス粒子を感染させる場合のいずれにおいても、引き続き興味のある応答をもとにスクリーニングを行うことになります。スクリーニング結果の読み出し方法の一例として以下のようなケースがあげられます。

  1. 細胞死:致死性のノックアウトとなった細胞は生存細胞プール内で少数派となる。
  2. 薬剤耐性:興味対象の薬剤に対して耐性を示す細胞は薬剤処理後にプール内で大きな比率を示す。
  3. レポーターアッセイ:GFPなどの蛍光レポーター発現能を欠損した細胞はFACS処理後に少数派となる。

結果の読み出しを行った後、DNAシーケンシングを行い、どのsgRNAがプール内で過小または過大に存在するかを同定します。大規模な全ゲノムスケールのライブラリーを利用する場合には、候補遺伝子を標的するsgRNAの同定に次世代シーケンシングを利用する必要があります。

CRISPR-Cas9 sgRNAライブラリーを用いた基本的な実験の流れ。

図.2 CRISPR-Cas9 sgRNAライブラリーを用いた基本的な実験の流れ。

A. プール型スクリーニング:細胞を各sgRNAライブラリープールを感染。感染プールを目的とする読み取り情報や表現型でスクリーニング。プールされた細胞は、サンガーシーケンシング法により個々のsgRNA配列を決定するか、次世代シーケンシングを行い、過剰あるいは過小に存在するsgRNA探索を行う。

B. GeneCopoeia社 Genome-CRISP™ CRISPR sgRNAライブラリーは、プール型または各sgRNAを個別でご提供している。ご希望に応じて各sgRNAを発現するレンチウイルス粒子を細胞に感染することも可能。プレートまたはウェルは目的とする読み取り情報や表現型でスクリーニング。目的とする表現型に対応する各sgRNA配列は既知であり、シーケンシングの必要がない。

CRISPR sgRNAライブラリー開発

遺伝子機能除去(loss of function)においては、RNAiと比較してCRISPR-Cas9技術が優位であるとの観点から、いくつかの研究グループにより大規模CRISPR sgRNAライブラリーが構築されました。例えば、Wang(2014)らは、7,300種の遺伝子を標的とするsgRNA発現レンチウイルス粒子のプールを構築し、Cas9ヌクレアーゼを安定発現する一倍体細胞株に感染させました。6-チオグアノシン耐性をもつ導入細胞のスクリーニングを行った結果、ミスマッチ修復経路に関与する遺伝子を標的とするsgRNA群が多数みられ、他のDNA修復経路ではこれがみられないことを見いだしています。同様に、MITのFeng Zhangのグループは、約18,000種の遺伝子を標的するsgRNAレンチウイルスライブラリーを使用してベムラフェニブに感受性または耐性なメラノーマや幹細胞を同定しました(Shalemら、2014)。Zhangラボでは、いくつかの改良を加えた、より多くのヒトおよびマウス遺伝子を標的する第2世代ライブラリーを構築し、この初期研究をさらに追求しています(Sanjanaら、2014)。

 

GeneCopoeia社 Genome-CRISP™ CRISPR sgRNAライブラリー

GeneCopoeia社では、より小さい遺伝子群や経路を標的とした構築済みCRISPR-Cas9 sgRNAライブラリーシリーズをご提供しています(表1)。商品の詳細はこちらをご覧ください。

表.1 GeneCopoeia Genome-CRISP™ 構築済みヒトCRISPR-Cas9 sgRNAライブラリー
品番 ライブラリー名 sgRNA数 標的遺伝子数
L01-LS03 天然キナーゼ& ユビキチンライゲース 475 239
L02-LS03 核内ホルモン受容体 236 118
L03-LS03 腫瘍転移遺伝子 114 57
L04-LS03 癌遺伝子 576 288
L05-LS03 腫瘍抑制遺伝子 462 231
L06-LS03 タンパク質キナーゼ 1316 658
L07-LS03 50種の経路における主要遺伝子 278 139

* 各ライブラリーは、バクテリアストック、トランスフェクションにそのまま使用できる精製済プラスミドDNA、またはレンチウイルス粒子のいずれかの形態をプールした状態でご提供しています。

 

GCP社ライブラリーのsgRNAは、非常に多用途なベクター骨格(図.3)にクローンされており、直接細胞にトランスフェクション、あるいはレンチウイルス粒子へとパッケージング、またin vitro転写にもご使用いただけます。 他のCRISPR sgRNAライブラリーは、配列プール後にライブラリー構築を行っているのに対し、GCP社のライラリーは各sgRNAを個別構築、配列検証し、E.coliで培養した後にプールしています。そのため、以下のような利点があります。

  • 各sgRNAを個別に構築してあるため、プール型ライブラリーまたはコレクションを選択可能
  • 配列検証済みのため、各sgRNAの品質が高い
  • 各sgRNAを個別に構築して培養しているため、プール内のレプリゼンテーションを最良のものにすることができる
  • ライブラリー規模が比較的小さいため、結果解析に要する労力や時間を低減することが可能、サンガー法または次世代シーケンシングを用いてライブラリー候補スクリーニングが可能

新規の遺伝子群を標的とするカスタムCRISPR sgRNAライブラリーもご提供しています。 より詳細な情報は、以下のWEBページをご参照ください。

GeneCopoeia Genome-CRISPTM CRISPR sgRNAライブラリーに使用している個々のsgRNAをコードするプラスミド骨格

図.3  GeneCopoeia Genome-CRISP™ CRISPR sgRNAライブラリーに使用している個々のsgRNAをコードするプラスミド骨格

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参考文献

Cooper & Brockdorff (2013). Genome-wide shRNA screening to identify factors mediating Gata6 repression in mouse embryonic stem cells. Development 140, 4110.

Sethi, et al., (2012). An RNA interference lethality screen of the human druggable genome to identify molecular vulnerabilities in epithelial ovarian cancer. PLoSONE 7.

Shalem, et al. (2014). Genome-scale CRISPR-Cas9 knockout screening in human cells. Science 343, 84.

Sanjana, et al. (2014). Improved vectors and genome-wide libraries for CRISPR screening. Nature Methods 11, 783.

Wang, et al. (2014). Genetic screens in human cells using the CRISPR-Cas9 system. Science 343, 80.

Zhang, et al. (2014). Functional genomic screen of human stem cell differentiation reveals pathways involved in neurodevelopment and neurodegeneration. Proc Natl Acad Sci U S A 110, 12361

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