■ アクチン
アクチンは、単量体状態(訳注:G-アクチン)から線維状アクチン(F-アクチン)へとダイナミックに重合する特有の能力をもっています。F-アクチンとアクチン結合タンパクなどの調節タンパク質との相互作用によって、アクチンフィラメントが急速に集合もしくは解離し、アクチン束や細胞骨格ネットワークに組織化されます。これらの高次構造は、細胞内輸送、細胞質分裂、細胞運動性、極性と細胞形状、遺伝子制御、および情報伝達などの多数の細胞プロセスにおいて非常に重要な機械的かつ構造的支持となります。アクチンは多様な生物学的プロセスに必須であることから、これらのアクチン構造を可視化するツール(アクチン特異的抗体やファロイジン染色)は研究に不可欠です。
■ 線維状アクチン(F-アクチン)の検出
細胞骨格の構造や機能の特性を明らかにするために、しばしばF-アクチン染色が行われます。アクチン細胞骨格は生細胞において非常に動的かつ不安的な構造であることから、通常、アクチン標識を行う前に氷冷メタノールやパラホルムアルデヒドでの固定が必要となります。固定細胞におけるアクチン構造は、アクチン抗体、蛍光ファロイジン、または電子顕微鏡により可視化できます。抗体は単量体と多量体(線維状またはF-アクチン)の両方を認識するため、F-アクチンのみに結合するプローブに比べてバックグラウンドが高くなる傾向にあります。正しく設計された蛍光ファロイジンは、F-アクチンの天然四次構造にのみ結合するため、バックグラウンドが低く抑えられます。
■ ファロイジン
ファロイジンは、ファロトキシンファミリーの主な代表物であり、毒性のタマゴテングダケであるAmanita phalloidesより単離された二環性のヘプタペプチドで、単量体G-アクチンに比べF-アクチンサブユニット間の溝に対して高い結合親和性があります。アクチン抗体に比べてファロイジンの非特異的結合は無視できる程度のため、細胞イメージングを行う際に最小限のバックグラウンドで高いコントラストが得られます。ファロイジンは、一旦F-アクチンに結合すると単量体と線維の平衡状態を線維へと移行させ、ATP加水分解を阻害します。この相互作用がサブユニットの解離を防ぐことでアクチン線維を安定化させ、臨海濃度を低下させることでアクチン重合を促進します。これらの特性により、F-アクチンや細胞骨格ネットワークの可視化において、ファロイジンは有用な染色方法です。

図2. phalloidin(品番:5301)の化学構造式
■ ファロイジンの特性
ファロイジンは水溶性であり、ナノモル濃度で使用した場合はF-アクチンを選択的に染色できます。一部のアクチンに対する抗体とは異なり、ファロイジンは単量体に比べてアクチン線維により堅固に結合できる能力をもつことから、非特異的染色やバックグラウンドノイズが低減し、染色領域と非染色領域間で高いコントラストが得られます。抗体と比べてファロイジン誘導体は小さく(< 2 kDa)、ファロイジンが線維に結合しても線維の機能特性を妨げません。また、サイズが小さいためより高密度にF-アクチンをラベリングでき、より高い解像度で画像処理を行う際に詳細に染色ができます。さらに、アクチンは進化的に保存されているため、ファロイジンの結合特性を広範な動植物細胞の染色に利用できる可能性があります。