アクチン染色とは、生細胞および固定細胞における細胞骨格の構造と機能を見るために使用される手法です。アクチン骨格は、生細胞では非常に動的で不安定な構造ですが、染色前に冷却メタノールまたはパラホルムアルデヒドで固定することが可能です。
特集:ファロイジン‐アクチン染色(Phalloidin / Actin)とは
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アクチン染色とファロイジン(Phalloidin)とは
■ファロイジン(Phalloidin)とは
ファロイジン(Phalloidin)とは、タマゴテングタケ(Amanita phalloides)の毒成分として単離された7つのアミノ酸からなるペプチドです。重合アクチン(F-actin)に対し、特異的な高い結合力(Kd値 20nM)を示します。また、アクチン重合の臨界濃度を1μg/ml以下に低下させることでも知られ、重合促進剤としても働きます。さらには、ファロイジン(Phalloidin)を緑色蛍光色素で標識することによって培養細胞や組織切片のアクチンフィラメント染色が可能となります[下記文献参照]。
参考文献:
Wulf, E. et al. (1979). Fluorescent phallotoxin, a tool for the visualization of cellular actin. Proc Natl Acad Sci USA. 76(9):4498- 4502.[PMID:291981]
■蛍光ファロイジン(Fluorescent Phalloidin)
F-アクチンサブユニット間の"溝"に結合したファロイジン[10](F-アクチン:橙,緑,赤 ファロイジン:青 ローダミン:赤)
蛍光ファロイジン(fluorescent phalloidin)は、その構成によって染色特性が大きく異なります。 例えば、正または負に帯電する蛍光色素は、イオン性の相互作用を介してアクチン以外のタンパク質と非特異的に結合する場合があり、高いバックグラウンドを生む原因になります。Cytoskeleton(サイトスケルトン/CYT)社"Acti-stain™ "シリーズの色素は、非イオン性のためバックグラウンドが低く、染色後の洗浄操作なしで使用することができます。
低バックグラウンドと高輝度化を実現するための課題は、色素とファロイジン(Phalloidin)の近接[4]または色素とアクチン[5]の近接によって起こるクエンチング(消光)の量です。CYT社では、様々な色素とリンカーの組み合わせについてスクリーニングを行い、元の蛍光色素と同等の輝度を維持した最適な組み合わせをみつけることに成功しました。
■ ファロイジンを標識する蛍光色素について
蛍光色素の輝度は、上述のクエンチングの他に環境的な因子によっても制御されます。また、色素の回転性による影響も考慮され、色素が自由に動く状態の場合、エネルギーが熱として消散されるため蛍光が減少します。量子収量により判定される色素の回転性は、より明るい色素の開発を可能にします。 蛍光ファロイジンの輝度は、F-アクチンとの親和性によっても影響を受けます。非標識のファロイジンが約36 nMのKd値を示す一方、標識されたファロイジンは、50 nMから20μMという値の異なるKd値を示します[4]。Kd値が低いほど高い親和性を示し、より明るい染色結果をもたらします。Acti-stain™ 色素は、 50 nMから100 nMのKd値を示し、明るい蛍光シグナルを生成します。
蛍光色素は、顕微鏡の強い光源によって不活性化される場合があります。この現象は、DABCOなどの退色防止剤の使用やイオン化プロトンを除去した色素によって低減することができます。Acti-stain™ を含む最近の多くの色素では、容易にイオン化しないフッ素でイオン化プロトンを置き換えているため、従来のフルオレセインのようには退色しません[6]。以上のように、蛍光ファロイジンのシグナル安定性は、”退色性”と”F-アクチンに対する親和性”という2つの特性に影響されます。F-アクチンに対する親和性による影響は、低親和性のクマリン標識ファロイジン[4]で観察され、顕微鏡観察前の段階で遊離してしまう場合があります。
固定細胞のアクチン染色
■アクチン染色手法(固定細胞)
固定細胞におけるアクチン構造は、アクチン抗体[1],蛍光ファロイジン[2],電子顕微鏡[3]によって可視化することができます。抗体は、単量体と重合体(F-アクチン)の両方を認識するため、F-アクチンのみを染色するプローブと比較してバックグラウンドが高くなる傾向にあります。また、ファロイジン結合の固定条件検討を行う場合、タンパク質の四次構造を保持するパラホルムアルデヒドを固定液として使用する必要があります。メタノールはタンパク質の高次構造を崩壊させるため、ファロイジンによるアクチン染色には適しません。
■酵母細胞
酵母細胞は、異なるアクチンタンパク質を含みますが、Acti-stain™ 488などのいくつかの蛍光ファロイジンとは結合します。
■固定細胞アクチン染色製品
- Acti-stain™ 488 (very stable green fluorescence, fixed cell stain)
- Acti-stain™ 535 (red fluorescence, fixed cell stain)
- Acti-stain™ 555 (very stable red fluorescence, fixed cell stain)
- Acti-stain™ 670 (far-red fluorescence, fixed cell stain)
- F-actin Visualization Biochem Kit™ (rhodamine) Actin antibody (rabbit polyclonal)
生細胞のアクチン染色
■アクチン染色手法(生細胞)
(ローダミン標識アクチン使用)
生細胞のアクチン構造は、蛍光アクチンの導入やGFP発現アクチン、アクチン結合タンパク質サブドメインの蛍光標識によって可視化できます。蛍光アクチンは、アクチン構造の最も正確なレポーターですが、マイクロインジェクションやタンパク質トランスフェクション試薬 によって細胞内に導入することが困難な場合があります。
GFP-アクチンDNAベクターは、容易に細胞内にトランスフェクション可能ですが、一部の細胞(例えば初代培養細胞)ではトランスフェクションが困難な場合があり、ウイルス粒子等のベクターを導入することによって改善できます。 GFP-アクチンは、正常な細胞骨格動態に干渉することが知られていて、 1細胞あたりの核数とミオシンの処理能力に異常をもたらします[7]。F-アクチン結合タンパク質タグは、生細胞でF-アクチンを標識するのに有用ですが [8,9] 、シグナルを得るためにはやはりGFPタグを必要とします。
■生細胞超解像イメージング用の新規プローブ
近年、生細胞内の微小管(SiR-Tubulin)またはF-アクチン(SiR-Actin)を染色する、細胞透過性の生細胞イメージングプローブが Nature Methods で紹介されました。本プローブの詳細はこちらをご覧ください。
■生細胞アクチン染色製品
技術情報 [ファロイジン‐アクチン染色プロトコール]
Cytoskeleton(CYT)社ファロイジン‐アクチン染色プロトコール
Cytoskeleton(サイトスケルトン/CYT)社 蛍光ファロイジンおよびアクチンタンパク質は、下記アプリケーションにご使用頂けます。
- 目次
- 1. 細胞の固定およびアクチン染色(蛍光ファロイジン,Dapi,抗体を使用)
- 2. in vitro でのF-アクチン標識(in vitro actin motility assays)
- 3. 蛍光アクチンタンパク質の生細胞への導入(Microinjection)
サイトスケルトンニュース(CYTOSKELETON NEWS)
サイトスケルトン社では、シグナル伝達や細胞骨格研究および薬剤スクリーニングのための試薬やキットを幅広くご用意しています。 微小管、チューブリン、モータータンパク質、低分子Gプロテインエフェクター、GAP、GEPなどの、各製品やサービスに関連した情報をCYTOSKELETON NEWSでご紹介していますので、ぜひご参照ください。
- Lazarides E, and Weber K. (1974). Actin antibody: The specific visualization of actin filaments in non-muscle cells. PNAS USA 71, 2268-2272.[PMID:4210210]
- Wulf F, Deboben A, Bautz FA, Fualstich H, and Wieland TH. 1979. Fluorescent phallotoxin, a tool for the visualization of cellular actin. PNAS USA71, 4498-4502.[PMID:291981]
- Weber K, Rathke PC, & Osborn M. (1978). Cytoplasmic microtubular images in glutaraldehyde-fixed tissue culture cells by electron microscopy and by immunofluorescence microscopy. PNAS USA75, 1820-1824.[PMID:417343]
- Small JV, Zobeley S, Rinnerthaler G. and Faulstich H. 1988. Coumarin-phalloidin: a new actin probe permitting triple immunofluorescence microscopy of the cytoskeleton. Journal of cell Science, 89, 21-24.[PMID:2458368]
- Lefevre C, Kang HC, Haugland RP, Malekzadeh N, Arttamangkui S. and Haugland R. 1996. Texas Red-X and Rhodamine Red-X, new derivatives of sulforhodamine 101 and Lissamine rhodamine B with improved labeling and fluorescent properties. Bioconjugate Chem., 7, 482-489.[PMID:8853462]
- Sun W-C, Gee KR, Klaubert GH, and Haughland R. (1997). Synthesis of fluorinated fluoresceins. J. Org. Chem. 62, 6469-6475.
- Westphal. M, Jungbluth A, Heidecker M, Mühlbauer B, Heizer C, Schwartz J-M, Marriott G, and Gerisch G. 1997. Microfilament dynamics during cell movement and chemotaxis monitored using a GFP–actin fusion protein. Current Biology 1997, 7,176–183.[PMID:9276758]
- Riedl J, Crevenna AH, Kessenbrock K, Haochen Yu J, Neukirchen D, Bista M, Bradke F, Jenne D, Holak TA, Werb Z, Sixt M. and Wedlich-Soldner R. 2008. Lifeact: a versatile marker to visualize F-actin. Nature Methods, 5(7), 605-611.[PMID:18536722]
- Pang KM, Lee E, and Knecht D. (1998). Use of a fusion protein between GFP and an actin-binding domain to visualize transient filamentous-actins tructures. Current Biology, 8, 405-408.[PMID:9545201]
- Oda T, Namba K, and Maeda Y. (2005). Position and Orientation of Phalloidin in F-Actin Determined by X-Ray Fiber Diffraction Analysis. Biophys. J, 88, 2727–2736.[PMID:15653738]
- Bénédetti H1, Raths S, Crausaz F, Riezman H.(1994). The END3 gene encodes a protein that is required for the internalization step of endocytosis and for actin cytoskeleton organization in yeast. Mol Biol Cell. 1994 Sep;5(9):1023-37.[PMID:7841519]
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商品は「研究用試薬」です。人や動物の医療用・臨床診断用・食品用としては使用しないように、十分ご注意ください。
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