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研究用

コスモ・バイオでやってみました! BioChain社の組織切片でRNAscopeを実施

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RNAscope™は組織内でのRNAの発現位置の特定やその量の測定を行うことができる技術です。
RNAscope™は非常に高感度かつターゲット特異的であるため、従来のISH法では検出できなかった低発現のターゲットも、RNAscope™を使用すれば検出できる可能性があります。また、ウイルスやベクターの検出にも利用することができます。

概要

RNAscope™は非常に有用な技術で、これまでに(2024年現在)9,600報以上の論文で使用された実績もありますが、以下の理由で使用を躊躇/断念されるお客様がいらっしゃいます。

  • RNAscope™に興味があるがRNA in situ hybridization (ISH)の経験が無く、使えるか不安。
  • RNAscope™を組織でも行ってみたいが、組織切片を用意できない。

それらのお客様の不安や需要に応えるため、コスモ・バイオで実際に以下の検証を行いました。

① 組織切片でのISHが未経験でも実験を行うことができるのか
② Biochain社の組織切片がRNAscope™で使用できる品質かどうか
③ がん組織と正常組織での癌遺伝子の発現比較を行うことができるか
④ RNAscope™(ISH)と抗体染色(IHC)の共染色ができるか

使用製品

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結果

① 組織切片でのISHが未経験でも実験を行うことができるのか

実験者は、組織切片でのIn Situ Hybridization(ISH)や抗体染色は未経験でしたが、プロトコル通りに実験を進め、1回目の試験でこの後お見せするデータを取得することができました。初めてRNAscope™を行う場合の注意事項は後述します。

② Biochain社の組織切片がRNAscope™で使用できる品質かどうか

Biochain社の組織切片は、適用にRNAscope™(またはISH)の記載があり、RNAscope™で使用可能であることが明記されています。

実際に、RNAscope™染色が行えるか検証するため、Biochain社のFFPE組織切片2種(T2235086-2, T2234086)に対して、ポジティブコントロールプローブ(PPIB, 313901)とネガティブコントロールプローブ(DapB 310043)でRNAscope™を行いました。

その結果、Biochain社の2種類のFFPE組織切片でポジティブコントロールでは陽性、ネガティブコントロールでは陰性となり、RNAscope™で問題なく使えることが確認できました。

Biochain社のFFPE組織切片でRNAscope™を実施した際に撮影した写真

図1:Biochain社のFFPE組織切片でRNAscope™を実施

③ がん組織と正常組織での癌遺伝子の発現比較を行うことができるか
④ RNAscope™(ISH)と抗体染色(IHC)の共染色ができるか

研究で実際に行われる実験を想定して、がん組織と正常組織での遺伝子発現の比較を行いました。Biochain社のヒト乳がん組織切片(T2235086-2)とヒト正常乳房組織切片(T2234086)に対して、乳がんマーカーであるHER2の遺伝子特異的プローブでRNAscope™を実施しました。

その結果、ヒト正常乳房組織に比べてヒト乳がん組織でよりHER2遺伝子の発現が増加していることを確認することができました。また、Proteintech社のCK19抗体(10712-1-AP)とRNAscope™の共染色を実施し、問題なく染色像が得られることも確認できました。CK19は上皮マーカーですが、HER2の発現はCK19陽性細胞で確認できることから、正常上皮または上皮由来がん細胞でHER2が発現していることを確認できました。また、ヒト乳がん組織におけるHER2の発現について、画像右上部がその他の部分に比べてHER2の発現が高い(ドット数及びドットのクラスター化率が高い)ことから、組織内でもHER2発現の偏りがあることを確認できました。

ヒト乳がん組織とヒト正常乳房組織におけるHER2遺伝子の発現比較をする際に撮影した写真

図2: ヒト乳がん組織とヒト正常乳房組織におけるHER2遺伝子の発現比較
DAPI:核染色剤, CK19:上皮マーカー

実験手順

実験はプロトコルに従って行いました。

  1. RNAscope™ RED 共染色マニュアル、P2 “Prepare Slide”からP3 “Apply Protease”まで※1を実施。
  2. RNAscope™ RED クイックガイド、”ハイブリダイゼーション”から”発色”までのステップを実施。
  3. RNAscope™ RED 共染色マニュアル、P3 “Tissue Blocking”から P3 ”Secondary Antibody Stainingの2までを実施。
  4. RNAscope™ Multiplex 共染色マニュアル、P5 “Mount the Slides”を実施※2

※1:RNAscope™ Target Retrieval ReagentsとRNAscope™ Protease Plusでの処理時間については組織により推奨の処理時間が異なりますので、RNAscope™ RED (FFPE組織) 前処理マニュアルのP17 Appendix Aをご確認ください。

※2 RNAscope™ REDキットにはDAPIは含まれませんので市販のものをご用意ください。

参照したプロトコル

クイックガイドで不明な点がある場合は、RNAscope™ RED (FFPE組織) 前処理マニュアルRNAscope™ RED マニュアルをご確認ください。

実験時の注意事項

初めてRNAscope™実験を行う際に、ミスしやすいポイントや注意が必要な点について以下にまとめます。

組織の剥離について

使用する組織の種類や組織切片の形状によっては、処理中に組織が剥離しやすくなることがあります。今回の実験では、ヒト正常乳房の組織切片が一部飛び出した形状をしており(図3)、発色反応までの途中段階で飛び出した部分がめくれ上がってきました。この組織切片のめくれ上がる問題は、Washの操作(組織スライドをWash bufferに出し入れする)を行う際、組織に負荷がかからないように動作をゆっくりと行うことで改善しました。

組織切片の剥離について撮影した写真

図3:組織切片の剥離について

もし、Wash操作に注意しても組織スライドが剥離する場合は、脱パラフィン処理後またはTarget retrieval処理後、あるいはその両方の処理後に、60℃で30分間のベイキングを行うことで、組織スライドの剥離を防ぐ効果が期待できます。※FFPE組織切片の場合です。

Target Retrieval Reagents処理について

Target Retrieval Reagents処理は98-102℃の間で行う必要があります。 高温での維持/安定が難しいため、実際に上手くいった際の操作手順を記載いたします。

【手順】

  1. ホットプレートの電源を入れて温めておく。
  2. ビーカーにTarget Retrieval Reagentsを入れて電子レンジで沸騰直前まで温める。
  3. 電子レンジから取り出して、組織スライドをセットしたスライド染色用バスケット(ラック)をビーカーに入れて、ホットプレートの上に乗せる。
    ※ビーカーをむき出しで温めても98-102℃まで温度が上がらなかったため、アルミホイルで側面と上部を覆って熱が逃げないようにしながらホットプレートで温めました。
  4. 温度計で98-102℃に到達したことを確認出来てから、15分(サンプルにより変更)の測定を開始する。
    ※100℃前後になると、沸騰直前のようにポコポコと泡が常に発生する状態になります。

実際の操作はこちらの前処理 (Target Retrieval)をご確認下さい。

Hydrophobic Barrier Pen(310018)について

指定の撥水ペン以外では40℃でのハイブリダイズの際にバリアが崩れる可能性があるため、Hydrophobic Barrier Pen(310018)のご使用を推奨しております。

撥水ペンで組織の周りを囲うときは、組織切片に液体が接触しないよう注意してください。撥水ペンはペン先を押し付けると液体が出てくる仕組みですが、勢いよく液滴の状態で出てくるため、別のガラススライドで出る量をよく確認してからご使用いただくことをお勧めします。

また、以下の図4の上部のようにしっかりと撥水ペンで囲えていると液体が漏れ出ることがありません。下部のように撥水ペンでの塗り込みが甘いと、液体が漏れ出てしまいますので、何度か重ね塗りしていただくことをお勧めいたします。

Hydrophobic Barrier Pen使用例の写真

図4:Hydrophobic Barrier Pen使用例

シグナル増幅から発色までのステップ

プローブと“AMP1”から”AMP4”までは40℃で反応ですが、”AMP5”からは室温反応に変わるのでご注意ください。

“AMP1”から”発色反応(Fast Red)”までの反応で使用する試薬は4℃で保管しますが、使用時には室温に戻し良く混合してからご使用下さい。冷蔵庫から出してすぐは沈殿が見えることがあります。

また、”AMP1”から”発色反応(Fast Red)”までの操作は、試薬の反応とWashを繰り返しますが、反応液を加える前にできる限りWash bufferを取り除いてください。図5のように組織切片には触れないようにキムワイプの先で液体を吸い取ります。ただし、組織切片を乾燥させないよう迅速に行う必要があります。

Wash bufferを取り除く様子を撮影した写真

図5:Wash bufferを取り除く様子

まとめ

RNAscope™は操作が簡単で、In Situ Hybridization(ISH)未経験者でも行うことができます。また、Biochain社の組織切片はRNAscope™で使用できる品質であり、組織切片をお持ちでないお客様にも安心してご使用いただけます。

Biochain社では、凍結組織切片とFFPE組織切片の両方をご用意しており、どちらもRNAscope™でご使用いただけます。また、正常組織、腫瘍組織、疾患ドナー(アルツハイマー病、肝硬変など)、およびそれらのパネルやアレイなど、バリエーション豊富な組織をご提供しております。

また、特徴的な製品として、10X Visium Digital Spatial Gene Expressionの空間トランスクリプトーム実施済みの組織切片も販売しております(関連製品はこちら)。

今回の実験では、ヒト乳房腫瘍組織において、HER2の発現に組織内で偏りがあることが確認されました。空間トランスクリプトームが実施された組織切片では、図6のように遺伝子発現パターンに基づくクラスタリングが可能です。このクラスタリング結果とHER2の発現偏差を比較することで、HER2高発現群と低発現群の遺伝子発現パターンを特定できる可能性があります。

空間トランスクリプトーム済みヒト乳房腫瘍組織切片(T2235086-SV)のクラスタリングの結果を示した画像

図6:空間トランスクリプトーム済みヒト乳房腫瘍組織切片(T2235086-SV)のクラスタリングの結果

商品は「研究用試薬」です。人や動物の医療用・臨床診断用・食品用としては使用しないように、十分ご注意ください。

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