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技術情報

記事ID : 36997

Mabtech(MAB)社 COVID-19 研究ツール(T細胞・メモリーB細胞について)


抗体力価とT細胞応答との逆相関性

免疫応答は、自然免疫細胞と適応(応答)免疫細胞の複雑な相互作用によって調整が行われています。重要なのは、抗体/B細胞応答だけでは全体像が見えてこないということです。

現在、抗体力価のSARS-CoV-2に対する防御免疫の指標となる可能性に関して議論が交わされています(※2020年4月末、WHO WEBサイト情報より)。ヘルパーT細胞や細胞傷害性T細胞によって誘導される細胞内免疫は、防御免疫の発展に重要な役割を果たすため、T細胞の免疫観察を忘れてはなりません。

Mabtech社では、小規模の試験的な研究として、FluoroSpotによる COVID-19回復期患者 7名の分析を行いました。FluoroSpotはウイルスペプチドによる再刺激の直後にサイトカインの分泌を高感度に分析することができ、例えばフローサイトメトリーよりも数百倍高感度です。ここでは、ウイルス感染に対するT細胞応答の包括的な評価をするために、IFN-γに加えてIL-2も分析しました(Chauvat et al, Hum Vaccin Immunother, 2014)。

SARS-CoV-2 スパイクRBD IgG を分析

図1
PCRにてSARS-CoV-2が確認されていた7名の患者から、軽度〜中程度のCOVID-19疾患から回復した後に、採血を行った。SARS-CoV-2 peptide pool (スパイクタンパク質のS1、S2ドメインとヌクレオカプシドタンパク質を11アミノ酸カバーする15 mer オーバーラッピングペプチド;JPT Peptides社)またはポジティブコントロールのT細胞特異的ペプチドプール(CMV, CEF extended, CEFTA; Mabtech社)を用いて、抽出したPBMCを刺激した。T細胞応答は、Mabtech社 FluoroSpot/ELSpotリーダーIRISにてIFN-γ/IL-2 FluoroSpot assay (250,000 cells/well)の分析行った。加えて、Mabtech社にて開発したELISAを用いて SARS-CoV-2 スパイクRBD IgG を分析した。

結果

COVID-19回復期の全ての患者が、SARS-CoV-2 peptideによる刺激後にTh1 応答に陽性を示しました。内6名はSARS-CoV-2特異的なIgG量の増加が見られましたが、残りの1名(C7)においては、ELISAアッセイの閾値より低いIgG発現量でした。興味深いことに、抗体試験のみで評価されていた場合にCOVID-19に対して陰性となったであろう患者(C7)が最も強いIFN-γ/IL-2応答を示しました。

結論

本研究では、抗体力価とT細胞応答は逆相関しているように見受けられた。最も低い抗体応答を持つC4, C5, C7の3名の回復期患者が最も高いT細胞応答を示し、FluoroSpotアッセイによってIFN-γ/IL-2分泌細胞が最も多く検出された。この結果が有意な相関関係であることは、現在の限られた研究から結論づけることはできず、疾患の重度との相関性に関するデータも不足しています。しかしながら、今回のデータはCOVID-19の疾患時のT細胞とB細胞との相互作用の可能性を提起します。

最近発表された文献(Immunity, 2020)では、中和抗体の力価とウイルス特異的なT細胞の数の正の相関性が示されており、Mabtech社の見解とは暫定的に反対の見解です。これは、コホートや疾患重度の違いによって説明できます。しかしながらこの文献でも、抗体量では検出不可能な回復期患者の一人が、ウイルスに対するT細胞応答を示すことが Mabtech社 INF-γELISpotによって明らかになりました。

前述の通り、Mabtech社の示す結果は予備データです。現在、COVID-19患者に対する本アッセイの診断および予後値を評価するために、例えば Cecil Czerkinsky (INSERM, CNRS, Université de la Côte d'Azur) との共同によって、同様の研究がより大規模に進められています。

(逆)抗原特異的 IgG FluoroSpot を用いた SARS-CoV-2 に対するメモリーB細胞の検出

2020年現在、 SARS-CoV-2 特異的抗体の測定需要が高まっており、いくつかの異なる ELISAベース試験が既に開始、または/もしくは評価されています。しかしながら、形質細胞による抗原特異的 IgGの活発な分泌は時間経過とともに減少し、その一方で、メモリーB細胞は循環し続けますが、抗体は分泌されません。そのため、潜在的なSARS-CoV-2の特異性は、一般的な血清学的試験では検出されません。

本研究は、逆抗原特異的な FluoroSpotがヒトB細胞のメモリー応答試験に有効な方法となることを示し、これは長期免疫研究においても興味深い補足となる可能性があります。

アッセイ原理

アッセイ原理
図 2

循環するB細胞は通常抗体を分泌しません。抗体を分泌する形質細胞は、抗原暴露から6~9日後に血液検体で検出されますが、短期間で骨髄へと移動するため循環血液中では検出されなくなります。したがって、通常 血液検体で検出されるのは、以前の免疫によるメモリーB細胞です。メモリーB細胞は、洗浄してFluoroSpotやELISpotプレートへと移す前に、例えば異なるチューブまたはプレート内でのR848 + IL-2を用いたポリクローナル刺激を予め行う必要があります。刺激後、メモリーB細胞は抗体を分泌する形質細胞へと増殖し、抗原特異的に検出可能となります。

逆抗原特異的なFluoroSpot アッセイは、メモリー細胞の研究に効果的な実験法です。ここでの「逆」とは、抗原を固定する代わりとしてプレート上に抗IgG モノクローナル抗体を固定することを指します。細胞を予め刺激して洗浄した後 、18時間プレート内でインキュベートします。このインキュベーションの間に分泌された全てのIgGが、特異性に関わらず抗 IgG抗体によって捕捉され、洗浄を行った後にタグ付きの目的抗原を検出試薬として添加します。そしてこの検出試薬を、フルオロフォアが標識された抗タグ試薬によって検出します。

本研究では、スパイクタンパク質の S1 ドメインの一つであるレセプター結合ドメイン(RBD)への反応性を持つ IgG分泌 B細胞を検出します。FluoroSpot のマルチプレックス能により、いくつかの異なるSARS-CoV-2 抗原に対するメモリー細胞を同時に測定することが可能です。

RBD抗原の検出

SARS-CoV-2 スパイクタンパク質と Nタンパク質(N)は、COVID-19 回復期患者で抗体とT細胞応答を誘導することが記述されています。スパイクタンパク質は N末端ドメイン S1と C末端ドメイン S2 に分かれており、S1ドメインは S2と比べてその他のコロナウイルスとのホモロジーが低く、レセプター結合ドメイン(RBD)を含みます。

本研究では、抗ヒトIgG (MT91/145)(品番:3850-3-1000) のキャプチャー抗体をFluoroSpotプレートに固定しました。RBD特異的な IgGの検出のために、C末端に Twin-Srep-tag® を持つRBDを使用し、550 フルオロフォアコンジュゲートStrep-Tactin® XT* によって検出しました。リジンのビオチン化は免疫原性エピトープを妨害する可能性があるため、ここでは従来のビオチン標識法ではなく、RBDタンパク質と共に Twin-Strep-tag®を組み換え発現する方法が選ばれました。

RDB抗原の検出
図3

結果

RBD 反応性メモリーB細胞の数は抗体力価と相関し、ELISA実験ではメモリーB細胞を多く持つ患者が高い抗体力価を有していました。

各B細胞から分泌される抗原特異的IgG量 および/またはアフィニティーの測定の相対的スポット量 (RSV) も、ELISAの結果と相関していました。注目すべき点は、C1 および C2では同数程度であったメモリーB細胞が、C1 では5倍のRSV値を示し、ターゲットに対して高い親和性を持つ抗体であると示唆されたことです。

興味深いことに、ELISAアッセイで陰性を示し、強いT細胞応答を示したC7 (上記セクション参照)では、RBDに対するメモリーB細胞は検出されないことが示されました。したがって、RBD特異的なIgGを分泌するB細胞が検出されなかったC7 の特有の陰性結果をMabtech社ELISAキットにて検証しました。

ELISAアッセイの結果では、PCRにてCOVID-19陽性確認済の患者C7が、RBD特異的なIgGを分泌するB細胞を検出されていないにも関わらず、ウイルスを撃退したことを示します。C7が別の免疫システムによって防御免疫を働かせたことは明らかです。

RBD特異的なB細胞の数と抗体力価との相関性

図4 RBD特異的なB細胞の数と抗体力価との相関性
PCRにてSARS-CoV-2が確認されていた7名の患者から、軽度〜中程度のCOVID-19疾患から回復した後に、採血を行った。精製PBMC をR848 および recIL-2 にて96時間刺激した。予め刺激を与えた後、抗IgG FluoroSpot プレート上で 250,000 cells/well の細胞を18時間インキュベートした。RBD特異的IgGをRBD-550コンジュゲートを用いて検出した(原理の項目参照) 。分析にはMabtech社 IRIS™ を用いた。スポット形成単位(SFU)として測定されるIgG分泌細胞の数が上部のグラフに示され、各スポットの相対量が中央のグラフで示されている。加えて、Mabtech社にて開発されたELISAにてRBD特異的なIgGを分析した。

結論

今回示されたメモリーB細胞のデータは、T細胞のデータと同様にワクチン開発に役立つと考えられ、抗体力価だけが免疫付与の成功を判断する決定要因ではない可能性があります。T細胞と抗体親和性はワクチン候補の効果を理解する点において非常に重要です。加えて、B細胞FluoroSpotは抗体量が減少し始めた場合にも、SARS-CoV-2特異的メモリー細胞の定量が可能です。例えばマラリアの場合、抗体量は1次感染後1年で検出限界を下回りますが、メモリーB細胞量は一定であることが示されています(Jahnmatz et al 2020, manuscript submitted)。抗体力価が確認されない場合でも SARS-CoV-2の反応性を検出できる可能性は、COVID-19の長期免疫を理解する上で非常に重要となるでしょう。

*この製品に含まれている Strep-Tactin® XT タンパク質は、IBA GmbH社により製造されており、研究用および商用としてのご利用のために提供されます。しかしながら、商用での使用の場合には、Twin-Strep-tagの商用利用ライセンスを所有する企業に限られています。商用利用のライセンスに関する情報は、IBA GmbH社へのお問い合わせが必要となります。

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